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[インデックス 14752] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のリンカ(cmd/ld)内のstrnput関数におけるValgrindの警告を修正するものです。具体的には、文字列の処理ループの条件式を修正することで、メモリの不正アクセスを防ぎ、Valgrindによる警告を解消しています。

コミット

commit 6535eb3a6d318fa420b4ae471ac7af4ae9791701
Author: Dave Cheney <dave@cheney.net>
Date:   Fri Dec 28 15:32:24 2012 +1100

    cmd/ld: fix valgrind warning in strnput
    
    Fixes #4592.
    
    Thanks to minux for the suggestion.
    
    R=minux.ma, iant
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7017048

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/6535eb3a6d318fa420b4ae471ac7af4ae9791701

元コミット内容

cmd/ld: fix valgrind warning in strnput

Fixes #4592.

Thanks to minux for the suggestion.

R=minux.ma, iant
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7017048

変更の背景

このコミットは、Go言語のツールチェインの一部であるリンカ(cmd/ld)において、strnputという関数がValgrindというメモリデバッグツールによって警告を発していた問題を修正するために行われました。

Valgrindは、プログラムの実行中にメモリ関連のエラー(例: 未初期化メモリの使用、境界外アクセス、メモリリークなど)を検出するための非常に強力なツールです。Valgrindが警告を発するということは、プログラムが潜在的に未定義の動作を引き起こす可能性のあるメモリ操作を行っていることを意味します。

strnput関数は、おそらく指定された長さnまで文字列sを処理し、各文字をcput関数(おそらく文字を出力する低レベル関数)に渡す役割を担っていたと考えられます。元のコードのループ条件for(; *s && n > 0; s++)は、*s(現在の文字がヌル終端文字でないか)とn > 0(残りの文字数があるか)の両方をチェックしていました。しかし、この条件の評価順序によっては、nが0になった後も*sの評価が試みられ、その結果、文字列の境界を越えてメモリを読み取ろうとする可能性がありました。これは、特にsが指すメモリが有効な文字列の終端に達しているにもかかわらず、nが先に0になった場合に問題となります。

Valgrindはこのような境界外アクセスを検出し、警告として報告します。この警告は、直接的なクラッシュには繋がらなくても、プログラムの堅牢性を損なう可能性があり、将来的なバグの原因となるため、修正が必要とされました。この修正は、Go言語のIssue 4592として報告されており、その解決策として提案されたものです。

前提知識の解説

Valgrind

Valgrindは、主にLinux上で動作するオープンソースのインストゥルメンテーションフレームワークです。プログラムの実行時に動的にコードを解析し、メモリ管理やスレッド関連のバグを検出します。最もよく知られているツールはMemcheckで、以下のようなメモリ関連のエラーを検出できます。

  • 未初期化メモリの使用: 変数が初期化される前にその値が読み取られた場合。
  • 不正なリード/ライト: 配列の境界外アクセスや、解放済みメモリへのアクセスなど。
  • メモリリーク: 割り当てられたメモリが解放されずに失われる場合。
  • 不正なfree()/delete(): 同じメモリを複数回解放したり、mallocで割り当てられていないメモリを解放したりする場合。

Valgrindは、開発者がCやC++などの言語で書かれたプログラムのメモリ安全性を確保するために不可欠なツールです。

C言語における文字列とヌル終端

C言語では、文字列は文字の配列として扱われ、その終端には必ず**ヌル終文字(\0)**が配置されます。これは、文字列の長さを明示的に保持するのではなく、ヌル終端文字によって文字列の終わりを示すという慣習です。

例えば、char s[] = "hello";という文字列は、メモリ上では'h', 'e', 'l', 'l', 'o', '\0'のように格納されます。文字列を処理する関数(例: strlen, strcpy)は、このヌル終端文字を見つけることで文字列の終わりを判断します。

ポインタとポインタ演算

C言語では、ポインタはメモリ上のアドレスを指す変数です。char *sは、文字型へのポインタを宣言しています。ポインタに++演算子を適用すると、ポインタは次の要素のアドレスを指すように移動します。例えば、s++sが指すアドレスを1バイト(charのサイズ)進めます。

ループ条件の評価順序

C言語の論理AND演算子&&は、**短絡評価(short-circuit evaluation)**を行います。これは、左側のオペランドがfalseと評価された場合、右側のオペランドは評価されないという特性です。同様に、論理OR演算子||も短絡評価を行い、左側がtrueと評価された場合、右側は評価されません。

このコミットの文脈では、for(; *s && n > 0; s++)という条件式において、*sn > 0の評価順序が重要になります。元のコードでは*sが先に評価され、その後にn > 0が評価されます。

技術的詳細

このコミットの核心は、strnput関数のforループの条件式の変更にあります。

変更前:

for(; *s && n > 0; s++) {
    cput(*s);
    n--;
}

変更後:

for(; n > 0 && *s; s++) {
    cput(*s);
    n--;
}

この変更は、論理AND演算子&&の短絡評価の特性を利用して、潜在的なメモリ境界外アクセスを防ぐものです。

変更前の問題点:

元の条件式*s && n > 0では、*sが先に評価されます。

  • もしn0になったとしても、*sがまだ\0(ヌル終端文字)でない限り、ループは続行しようとします。
  • 特に問題となるのは、n0になった直後、つまり処理すべき文字数がなくなったにもかかわらず、*sの評価が試みられるケースです。このとき、sが指すアドレスが有効な文字列の範囲外である場合(例えば、文字列の末尾のヌル終端文字のさらに先を指している場合)、*sの評価は未定義の動作を引き起こし、Valgrindによって「不正なリード」として検出されます。これは、strnputnで指定された最大長までしか読み込まないはずなのに、その制限を超えてメモリを読み取ろうとするためです。

変更後の解決策:

変更後の条件式n > 0 && *sでは、n > 0が先に評価されます。

  • もしn0になった場合、n > 0falseと評価されます。
  • 論理AND演算子&&の短絡評価の特性により、右側のオペランドである*s評価されません
  • これにより、n0になった時点でループは確実に終了し、sが指すアドレスが文字列の有効な範囲外である場合に*sを評価しようとすることがなくなります。結果として、Valgrindが検出していた不正なリードの警告が解消されます。

この修正は、一見すると小さな変更ですが、C言語におけるポインタ操作とループ条件の評価順序の重要性、そしてメモリ安全性を確保するための厳密なプログラミングの必要性を示しています。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/ld/data.c
+++ b/src/cmd/ld/data.c
@@ -580,7 +580,7 @@ datblk(int32 addr, int32 size)
 void
 strnput(char *s, int n)
 {
-	for(; *s && n > 0; s++) {
+	for(; n > 0 && *s; s++) {
 		cput(*s);
 		n--;
 	}

コアとなるコードの解説

strnput関数は、おそらくGo言語のリンカ内部で、特定の文字列を処理し、その文字をcputという関数(おそらく低レベルな出力関数)に渡すために使用されています。この関数は、C言語の標準ライブラリにあるstrncpyのように、最大n文字までを処理するという意図があります。

変更前のコード:

for(; *s && n > 0; s++) {
    cput(*s);
    n--;
}

このforループは、初期化式と更新式が省略されており、条件式のみが記述されています。

  • *s: ポインタsが指す文字がヌル終端文字(\0)でない限りtrueとなります。
  • n > 0: 処理すべき文字数が残っている限りtrueとなります。

問題は、*sが先に評価される点です。例えば、n1で、sが文字列の最後の文字を指しているとします。ループ内でcput(*s)が実行され、n0になります。次のイテレーションで条件式が評価される際、n > 0falseとなりますが、その前に*sが評価されます。もしsが既に文字列の境界を越えた無効なメモリ領域を指している場合、*sの評価は不正なメモリリードを引き起こし、Valgrindがこれを検出します。

変更後のコード:

for(; n > 0 && *s; s++) {
    cput(*s);
    n--;
}

この変更では、条件式のn > 0*sの順序が入れ替わっています。

  • n > 0: 処理すべき文字数が残っているかを最初にチェックします。
  • *s: n > 0trueの場合にのみ評価されます。

この順序変更により、n0になった時点でn > 0falseと評価され、論理AND演算子&&の短絡評価の特性により、*sは評価されなくなります。これにより、nで指定された文字数を超えて文字列の境界外のメモリにアクセスしようとする試みが完全に排除され、Valgrindの警告が解消されます。

この修正は、C言語におけるポインタと配列の操作において、境界条件のチェックがいかに重要であるかを示す典型的な例です。

関連リンク

参考にした情報源リンク

I have generated the detailed commit explanation in Markdown format, following all the specified instructions and chapter outlines. I have included explanations for Valgrind, C string handling, pointer arithmetic, and short-circuit evaluation, as well as a detailed analysis of the code change and its impact. I have also provided relevant links.