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[インデックス 14763] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のランタイムにおけるエラーメッセージの表示方法に関する変更です。具体的には、runtime·throw関数が生成するエラーメッセージにおいて、「throw」という表現を「fatal error」に変更しています。これは、Goランタイムの内部的な、回復不能なエラーを示すメッセージの明確性を向上させるための変更です。

コミット

commit a22389ec38dd57df86236feee47404c5b01ce191
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Sat Dec 29 21:48:25 2012 -0500

    runtime: say 'fatal error' instead of 'throw'
    
    Fixes #4597.
    
    R=ken2
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7032043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/a22389ec38dd57df86236feee47404c5b01ce191

元コミット内容

Goランタイムのruntime·throw関数が出力するエラーメッセージを「throw: %s」から「fatal error: %s」に変更します。これにより、ユーザーが目にするエラーメッセージが、そのエラーの性質(回復不能な致命的エラーであること)をより正確に伝えるようになります。

変更の背景

Go言語には、プログラムの異常終了を扱うためのメカニズムとしてpanicrecoverがあります。しかし、ランタイム内部には、panicでは捕捉できない、より深刻な「回復不能なエラー」が存在します。これらのエラーは、Goランタイム自体のバグ、内部データ構造の破損、メモリ不足など、プログラムの続行が不可能な状況を示します。

以前は、このような回復不能なエラーが発生した際に「throw: ...」というメッセージが表示されていました。しかし、「throw」という言葉は、他のプログラミング言語における例外処理(try-catchなど)の文脈で使われることが多く、Goのpanicと混同される可能性がありました。Goのpanicrecoverによって捕捉・回復が可能であるのに対し、runtime·throwによって引き起こされるエラーは回復不可能です。

このコミットは、ユーザーがエラーメッセージを見たときに、それがpanicとは異なる、より深刻で回復不能な「致命的なエラー」であることを明確に理解できるようにするために行われました。コミットメッセージにある「Fixes #4597」は、この変更が特定の課題(おそらく内部的なバグトラッカーの課題)を解決するものであることを示唆しています。

前提知識の解説

Go言語におけるエラーハンドリングとパニック

Go言語では、エラーハンドリングは通常、関数の戻り値としてerror型を返すことで行われます。これにより、呼び出し元がエラーを適切に処理する責任を負います。

しかし、Goには「パニック(panic)」というメカニズムも存在します。パニックは、プログラムが回復不可能な状態に陥ったことを示すために使用されます。例えば、配列の範囲外アクセスやnilポインタのデリファレンスなどがパニックを引き起こします。パニックはdefer文とrecover関数を組み合わせることで捕捉し、プログラムの異常終了を防ぐことができます。

runtime.throw()panicの違い

Goのランタイムには、runtime.throw()という内部関数が存在します。これは、Go言語のユーザーが直接呼び出すことはできません。runtime.throw()は、Goランタイム自体が検出した、回復不能な致命的エラーが発生した場合に呼び出されます。

panicruntime.throw()の主な違いは以下の通りです。

  • panic: Go言語の組み込み関数であり、recoverによって捕捉・回復が可能。主にアプリケーションレベルの予期せぬエラーや、プログラムの続行が困難な状況を示すために使用される。
  • runtime.throw(): Goランタイムの内部関数であり、recoverでは捕捉できない。Goランタイム自体の深刻な問題(例: メモリ不足、内部データ構造の破損、ランタイムのバグ)が発生した場合に呼び出され、プログラムは即座に終了する。

つまり、runtime.throw()は、Goプログラムがもはや正常に動作し続けることができない、より低レベルで深刻な問題を示します。

技術的詳細

このコミットは、Goランタイムのsrc/pkg/runtime/panic.cファイル内のruntime·throw関数の実装を変更しています。

runtime·throw関数は、致命的なエラーが発生した際に呼び出されるC言語で記述された関数です。この関数は、エラーメッセージを標準出力に表示し、その後プログラムを終了させます。

変更前は、エラーメッセージのフォーマット文字列が「throw: %s\n」となっていました。これは、runtime·printf関数によって出力されます。

// 変更前
runtime·printf("throw: %s\n", s);

このコミットでは、このフォーマット文字列を「fatal error: %s\n」に変更しています。

// 変更後
runtime·printf("fatal error: %s\n", s);

この変更は、出力される文字列リテラルのみを変更するものであり、runtime·throw関数の動作ロジック自体には影響を与えません。しかし、ユーザーが目にするエラーメッセージの文言が変わることで、そのエラーの性質に関する認識が大きく変わります。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/pkg/runtime/panic.cファイル内のruntime·throw関数にあります。

--- a/src/pkg/runtime/panic.c
+++ b/src/pkg/runtime/panic.c
@@ -455,7 +455,7 @@ void
 runtime·throw(int8 *s)
 {
 	runtime·startpanic();
-	runtime·printf("throw: %s\n", s);
+	runtime·printf("fatal error: %s\n", s);
 	runtime·dopanic(0);
 	*(int32*)0 = 0;	// not reached
 	runtime·exit(1);	// even more not reached

コアとなるコードの解説

runtime·throw関数は、Goランタイムが回復不能なエラーを検出した際に実行される一連の処理をカプセル化しています。

  1. runtime·startpanic();: パニック処理の開始をマークします。これは、ランタイムがパニック状態に入ったことを内部的に記録するためのものです。
  2. runtime·printf("fatal error: %s\n", s);: ここが今回の変更点です。引数sで渡されたエラー文字列を、「fatal error: 」というプレフィックスを付けて標準出力に表示します。これにより、ユーザーはエラーが致命的であることを即座に認識できます。
  3. runtime·dopanic(0);: 実際のパニック処理を実行します。この関数は、スタックトレースの出力など、プログラム終了前のクリーンアップ処理を行います。引数の0は、このパニックがrecoverによって捕捉されないことを示唆しています。
  4. *(int32*)0 = 0;: これは意図的にnilポインタをデリファレンスすることで、セグメンテーション違反を引き起こし、プログラムを強制終了させるためのコードです。コメントにある「// not reached」は、通常この行には到達しないことを示しており、これは最終的なフォールバックメカニズムとして機能します。
  5. runtime·exit(1);: プログラムを終了コード1で終了させます。コメントにある「// even more not reached」は、上記のnilポインタデリファレンスによって既にプログラムが終了しているため、この行も通常は到達しないことを示しています。

このコミットの変更は、2行目のruntime·printfのフォーマット文字列のみであり、エラーメッセージの表現をより適切にするためのものです。

関連リンク

参考にした情報源リンク