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[インデックス 14771] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の公式ドキュメントにデータ競合検出器(Race Detector)に関する新しいマニュアルを追加し、既存のドキュメントページからそのマニュアルへのリンクを更新するものです。具体的には、doc/articles/race_detector.htmlという新しいHTMLファイルが追加され、doc/docs.htmldoc/go1.1.htmlが更新され、新しいマニュアルへの参照が追加されています。

コミット

doc: add race detector manual

R=minux.ma, franciscossouza, rsc, adg, adg CC=golang-dev https://golang.org/cl/6948043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/b2e9ca7f2ee9a93b01edaf5d42c94e6a6e848124

元コミット内容

commit b2e9ca7f2ee9a93b01edaf5d42c94e6a6e848124
Author: Dmitriy Vyukov <dvyukov@google.com>
Date:   Wed Jan 2 16:38:47 2013 +0400

    doc: add race detector manual
    
    R=minux.ma, franciscossouza, rsc, adg, adg
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6948043

変更の背景

Go言語は並行処理を言語レベルでサポートしており、ゴルーチン(goroutine)とチャネル(channel)といった強力なプリミティブを提供しています。これにより、並行プログラムの記述は容易になりますが、同時にデータ競合(data race)という、並行処理特有のバグのリスクも高まります。データ競合は、複数のゴルーチンが同時に同じメモリ領域にアクセスし、少なくとも1つのアクセスが書き込みである場合に発生し、プログラムのクラッシュ、予期せぬ動作、メモリ破損など、デバッグが非常に困難な問題を引き起こす可能性があります。

Go 1.1では、このようなデータ競合を検出するための組み込みのデータ競合検出器が導入されました。このコミットは、そのデータ競合検出器の利用方法、レポート形式、オプション、および一般的なデータ競合のパターンと修正方法を詳細に解説する公式ドキュメントを追加することを目的としています。これにより、Go開発者が並行プログラムの品質と信頼性を向上させるための重要なツールを効果的に活用できるようになります。

前提知識の解説

データ競合 (Data Race)

データ競合は、並行プログラミングにおける最も危険でデバッグが難しいバグの一つです。以下の3つの条件がすべて満たされたときに発生します。

  1. 複数の並行実行体: 2つ以上のゴルーチン(またはスレッド)が同時に実行されている。
  2. 共有メモリへのアクセス: これらのゴルーチンが同じメモリ位置(変数)にアクセスしている。
  3. 少なくとも1つの書き込み: アクセスのうち少なくとも1つが書き込み操作である。

データ競合が発生すると、プログラムの実行結果が非決定論的になり、再現が困難なバグにつながります。

Goメモリモデル (The Go Memory Model)

Go言語には、並行プログラムにおけるメモリ操作の順序と可視性を定義する「Goメモリモデル」が存在します。これは、データ競合を避けるためのルールと、同期プリミティブ(チャネル、ミューテックスなど)がどのようにメモリの可視性を保証するかを規定しています。データ競合が発生するプログラムは、Goメモリモデルの保証外となり、予測不能な動作を引き起こす可能性があります。

ゴルーチン (Goroutine)

Go言語における軽量な並行実行単位です。OSのスレッドよりもはるかに軽量で、数千、数万のゴルーチンを同時に実行することが可能です。

チャネル (Channel)

ゴルーチン間で値を安全に送受信するための通信メカニズムです。チャネルを通じた通信は、Goメモリモデルによって同期が保証されており、データ競合を避けるための主要な手段の一つです。

ミューテックス (Mutex)

syncパッケージで提供される排他制御のプリミティブです。sync.MutexLock()Unlock()メソッドを使用することで、共有リソースへのアクセスを一度に一つのゴルーチンに制限し、データ競合を防ぐことができます。

アトミック操作 (Atomic Operations)

sync/atomicパッケージで提供される、プリミティブ型(int32, int64など)の変数に対するアトミックな操作(読み込み、書き込み、交換、加算など)です。これらの操作は、CPUレベルで不可分に実行されることが保証されており、ロックを使用せずに特定のデータ競合を避けるために使用できます。

技術的詳細

Goのデータ競合検出器は、Go 1.1で導入された組み込みツールであり、goコマンドに-raceフラグを追加するだけで有効にできます。

検出器の有効化

  • go test -race mypkg: パッケージのテスト時に競合検出を有効にする。
  • go run -race mysrc.go: ソースファイルの実行時に競合検出を有効にする。
  • go build -race mycmd: コマンドのビルド時に競合検出を有効にする。
  • go install -race mypkg: パッケージのインストール時に競合検出を有効にする。

レポート形式

データ競合が検出されると、検出器は詳細なレポートを出力します。このレポートには以下の情報が含まれます。

  • WARNING: DATA RACE: 競合が検出されたことを示す警告。
  • Read by goroutine X: 読み込みアクセスを行ったゴルーチンのスタックトレース。
  • Previous write by goroutine Y: 競合する書き込みアクセスを行ったゴルーチンのスタックトレース。
  • Goroutine X (running) created at: 読み込みアクセスを行ったゴルーチンが作成された場所のスタックトレース。
  • Goroutine Y (running) created at: 書き込みアクセスを行ったゴルーチンが作成された場所のスタックトレース。

これにより、開発者は競合が発生したコードの場所だけでなく、関連するゴルーチンがどこで生成されたかまで追跡し、問題の根本原因を特定できます。

GORACE 環境変数

GORACE環境変数を使用することで、競合検出器の動作を細かく設定できます。フォーマットは GORACE="option1=val1 option2=val2" です。

  • log_path (デフォルト: stderr): レポートの出力先を指定します。stdoutstderr、またはファイルパスを指定できます。ファイルパスを指定した場合、log_path.pidという形式でファイルが作成されます。
  • exitcode (デフォルト: 66): 競合検出後にプログラムが終了する際の終了ステータスコードを指定します。
  • strip_path_prefix (デフォルト: ""): レポートに表示されるファイルパスから指定されたプレフィックスを削除し、レポートを簡潔にします。
  • history_size (デフォルト: 1): ゴルーチンごとのメモリアクセス履歴のサイズを制御します。32K * 2**history_size要素となります。この値を増やすと、「failed to restore the stack」エラーを回避できる場合がありますが、メモリ使用量が増加します。

テストの除外

-raceフラグでビルドすると、raceというビルドタグが定義されます。これを利用して、特定のコードやテストを競合検出器の対象から除外することができます。例えば、// +build !raceというビルド制約をファイルの先頭に追加することで、そのファイルが-raceフラグ付きでビルドされる際にはコンパイルされなくなります。これは、意図的にデータ競合を含むテストや、競合検出器の下でタイムアウトしたり実行時間が長くなったりするテストに対して有用です。

実行時のオーバーヘッド

データ競合検出器は、プログラムの実行時にメモリアクセスを監視するため、ある程度のオーバーヘッドが発生します。

  • メモリ使用量: 通常、5〜10倍に増加する可能性があります。
  • 実行時間: 通常、2〜20倍に増加する可能性があります。

このオーバーヘッドのため、本番環境での常時有効化は推奨されず、開発・テスト段階での利用が一般的です。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットでは、以下の3つのファイルが変更されています。

  1. doc/articles/race_detector.html (新規追加)

    • このファイルは、Goデータ競合検出器に関する包括的なマニュアルの本体です。
    • HTML形式で記述されており、検出器の導入、使用方法、レポート形式、GORACE環境変数によるオプション設定、テストからの除外方法、一般的なデータ競合のパターンと修正例、サポートされるシステム、実行時のオーバーヘッドについて詳細に説明しています。
    • 特に、ループカウンタの競合、意図せず共有された変数、保護されていないグローバル変数、プリミティブ型の保護されていない変数といった具体的なコード例を挙げて、データ競合の発生メカニズムとsync.WaitGroupsync.Mutexsync/atomicパッケージを用いた修正方法を示しています。
  2. doc/docs.html (1行追加)

    • Go言語の主要なドキュメントへのリンクをまとめたページです。
    • 既存の「Profiling Go Programs」の項目に続いて、新しく追加されたデータ競合検出器のマニュアルへのリンクが追加されています。
      <li><a href="/doc/articles/race_detector.html">Data Race Detector</a> - testing Go programs for race conditions.</li>
      
  3. doc/go1.1.html (6行追加)

    • Go 1.1のリリースノートまたは変更点の概要をまとめたページです。
    • Go 1.1の新機能として、データ競合検出器が組み込まれたことが言及され、そのマニュアルへのリンクが追加されています。
      <h3 id="race">Data race detector</h3>
      <p>
      The implementation now includes a built-in <a href="/doc/articles/race_detector.html">data race detector</a>.
      </p>
      

コアとなるコードの解説

このコミットの核となるのは、doc/articles/race_detector.htmlファイルです。このファイルは、Go言語のデータ競合検出器の利用に関する包括的なガイドとして機能します。

  • 導入 (Introduction): データ競合の定義と、それが並行システムで引き起こす問題について説明しています。Goメモリモデルへの参照も含まれています。
  • 使用方法 (Usage): go test -racego run -racego build -racego install -raceといった、-raceフラグを使った検出器の有効化方法を具体的に示しています。
  • レポート形式 (Report Format): 検出器がデータ競合を検出した際に生成するレポートの構造と内容を解説しています。競合するアクセスを行ったゴルーチンのスタックトレースと、それらのゴルーチンが作成された場所のスタックトレースが含まれることが強調されています。
  • オプション (Options): GORACE環境変数を通じて設定できる各種オプション(log_path, exitcode, strip_path_prefix, history_size)について説明しています。これにより、ユーザーは検出器の動作をカスタマイズできます。
  • テストの除外 (Excluding Tests): +build !raceビルドタグを使用して、特定のコードやテストを競合検出器の対象から除外する方法を説明しています。これは、検出器の下で問題が発生するテストや、意図的に競合を含むテストケースを扱う際に役立ちます。
  • 使用のヒント (How To Use): 検出器が実行時に発生する競合のみを検出するため、テストカバレッジが不完全な場合は、実際のワークロードで-raceフラグ付きでビルドされたバイナリを実行することが推奨されています。
  • 典型的なデータ競合 (Typical Data Races):
    • ループカウンタの競合: forループ内でゴルーチンを起動する際に、ループ変数が共有されてしまう一般的なパターンと、その修正方法(変数のローカルコピーを作成する)を示しています。
    • 意図せず共有された変数: 複数のゴルーチンが同じエラー変数などを共有してしまうケースと、:=演算子を使って新しいローカル変数を導入することで解決する方法を説明しています。
    • 保護されていないグローバル変数: mapのような並行アクセスに対して安全でないデータ構造をグローバルに共有する際の競合と、sync.Mutexを使った排他制御による保護方法を示しています。
    • プリミティブ型の保護されていない変数: bool, int, int64のようなプリミティブ型でもデータ競合が発生しうることを示し、sync/atomicパッケージを使ったアトミック操作による安全なアクセス方法を説明しています。
  • サポートされるシステム (Supported Systems): 検出器がサポートするOSとアーキテクチャ(darwin/amd64, linux/amd64, windows/amd64)を明記しています。
  • 実行時のオーバーヘッド (Runtime Overheads): 検出器の利用に伴うメモリ使用量と実行時間の増加について言及し、そのコストを開発者に伝えています。

このマニュアルは、Go開発者がデータ競合の概念を理解し、Goの組み込みツールを使ってそれらを効果的に特定・修正するための実践的な知識を提供します。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント(コミット内容に含まれるHTMLファイルの内容)
  • Go言語のデータ競合検出器に関する一般的な知識
  • Goメモリモデルに関する情報

[インデックス 14771] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の公式ドキュメントにデータ競合検出器(Race Detector)に関する新しいマニュアルを追加し、既存のドキュメントページからそのマニュアルへのリンクを更新するものです。具体的には、doc/articles/race_detector.htmlという新しいHTMLファイルが追加され、doc/docs.htmldoc/go1.1.htmlが更新され、新しいマニュアルへの参照が追加されています。

コミット

doc: add race detector manual

R=minux.ma, franciscossouza, rsc, adg, adg CC=golang-dev https://golang.org/cl/6948043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/b2e9ca7f2ee9a93b01edaf5d42c94e6a6e848124

元コミット内容

commit b2e9ca7f2ee9a93b01edaf5d42c94e6a6e848124
Author: Dmitriy Vyukov <dvyukov@google.com>
Date:   Wed Jan 2 16:38:47 2013 +0400

    doc: add race detector manual
    
    R=minux.ma, franciscossouza, rsc, adg, adg
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6948043

変更の背景

Go言語は並行処理を言語レベルでサポートしており、ゴルーチン(goroutine)とチャネル(channel)といった強力なプリミティブを提供しています。これにより、並行プログラムの記述は容易になりますが、同時にデータ競合(data race)という、並行処理特有のバグのリスクも高まります。データ競合は、複数のゴルーチンが同時に同じメモリ領域にアクセスし、少なくとも1つのアクセスが書き込みである場合に発生し、プログラムのクラッシュ、予期せぬ動作、メモリ破損など、デバッグが非常に困難な問題を引き起こす可能性があります。

Go 1.1では、このようなデータ競合を検出するための組み込みのデータ競合検出器が導入されました。このコミットは、そのデータ競合検出器の利用方法、レポート形式、オプション、および一般的なデータ競合のパターンと修正方法を詳細に解説する公式ドキュメントを追加することを目的としています。これにより、Go開発者が並行プログラムの品質と信頼性を向上させるための重要なツールを効果的に活用できるようになります。

前提知識の解説

データ競合 (Data Race)

データ競合は、並行プログラミングにおける最も危険でデバッグが難しいバグの一つです。以下の3つの条件がすべて満たされたときに発生します。

  1. 複数の並行実行体: 2つ以上のゴルーチン(またはスレッド)が同時に実行されている。
  2. 共有メモリへのアクセス: これらのゴルーチンが同じメモリ位置(変数)にアクセスしている。
  3. 少なくとも1つの書き込み: アクセスのうち少なくとも1つが書き込み操作である。

データ競合が発生すると、プログラムの実行結果が非決定論的になり、再現が困難なバグにつながります。

Goメモリモデル (The Go Memory Model)

Go言語には、並行プログラムにおけるメモリ操作の順序と可視性を定義する「Goメモリモデル」が存在します。これは、データ競合を避けるためのルールと、同期プリミティブ(チャネル、ミューテックスなど)がどのようにメモリの可視性を保証するかを規定しています。データ競合が発生するプログラムは、Goメモリモデルの保証外となり、予測不能な動作を引き起こす可能性があります。

ゴルーチン (Goroutine)

Go言語における軽量な並行実行単位です。OSのスレッドよりもはるかに軽量で、数千、数万のゴルーチンを同時に実行することが可能です。

チャネル (Channel)

ゴルーチン間で値を安全に送受信するための通信メカニズムです。チャネルを通じた通信は、Goメモリモデルによって同期が保証されており、データ競合を避けるための主要な手段の一つです。

ミューテックス (Mutex)

syncパッケージで提供される排他制御のプリミティブです。sync.MutexLock()Unlock()メソッドを使用することで、共有リソースへのアクセスを一度に一つのゴルーチンに制限し、データ競合を防ぐことができます。

アトミック操作 (Atomic Operations)

sync/atomicパッケージで提供される、プリミティブ型(int32, int64など)の変数に対するアトミックな操作(読み込み、書き込み、交換、加算など)です。これらの操作は、CPUレベルで不可分に実行されることが保証されており、ロックを使用せずに特定のデータ競合を避けるために使用できます。

技術的詳細

Goのデータ競合検出器は、Go 1.1で導入された組み込みツールであり、goコマンドに-raceフラグを追加するだけで有効にできます。

検出器の有効化

  • go test -race mypkg: パッケージのテスト時に競合検出を有効にする。
  • go run -race mysrc.go: ソースファイルの実行時に競合検出を有効にする。
  • go build -race mycmd: コマンドのビルド時に競合検出を有効にする。
  • go install -race mypkg: パッケージのインストール時に競合検出を有効にする。

レポート形式

データ競合が検出されると、検出器は詳細なレポートを出力します。このレポートには以下の情報が含まれます。

  • WARNING: DATA RACE: 競合が検出されたことを示す警告。
  • Read by goroutine X: 読み込みアクセスを行ったゴルーチンのスタックトレース。
  • Previous write by goroutine Y: 競合する書き込みアクセスを行ったゴルーチンのスタックトレース。
  • Goroutine X (running) created at: 読み込みアクセスを行ったゴルーチンが作成された場所のスタックトレース。
  • Goroutine Y (running) created at: 書き込みアクセスを行ったゴルーチンが作成された場所のスタックトレース。

これにより、開発者は競合が発生したコードの場所だけでなく、関連するゴルーチンがどこで生成されたかまで追跡し、問題の根本原因を特定できます。

GORACE 環境変数

GORACE環境変数を使用することで、競合検出器の動作を細かく設定できます。フォーマットは GORACE="option1=val1 option2=val2" です。

  • log_path (デフォルト: stderr): レポートの出力先を指定します。stdoutstderr、またはファイルパスを指定できます。ファイルパスを指定した場合、log_path.pidという形式でファイルが作成されます。
  • exitcode (デフォルト: 66): 競合検出後にプログラムが終了する際の終了ステータスコードを指定します。
  • strip_path_prefix (デフォルト: ""): レポートに表示されるファイルパスから指定されたプレフィックスを削除し、レポートを簡潔にします。
  • history_size (デフォルト: 1): ゴルーチンごとのメモリアクセス履歴のサイズを制御します。32K * 2**history_size要素となります。この値を増やすと、「failed to restore the stack」エラーを回避できる場合がありますが、メモリ使用量が増加します。

テストの除外

-raceフラグでビルドすると、raceというビルドタグが定義されます。これを利用して、特定のコードやテストを競合検出器の対象から除外することができます。例えば、// +build !raceというビルド制約をファイルの先頭に追加することで、そのファイルが-raceフラグ付きでビルドされる際にはコンパイルされなくなります。これは、意図的にデータ競合を含むテストや、競合検出器の下でタイムアウトしたり実行時間が長くなったりするテストに対して有用です。

実行時のオーバーヘッド

データ競合検出器は、プログラムの実行時にメモリアクセスを監視するため、ある程度のオーバーヘッドが発生します。

  • メモリ使用量: 通常、5〜10倍に増加する可能性があります。
  • 実行時間: 通常、2〜20倍に増加する可能性があります。

このオーバーヘッドのため、本番環境での常時有効化は推奨されず、開発・テスト段階での利用が一般的です。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットでは、以下の3つのファイルが変更されています。

  1. doc/articles/race_detector.html (新規追加)

    • このファイルは、Goデータ競合検出器に関する包括的なマニュアルの本体です。
    • HTML形式で記述されており、検出器の導入、使用方法、レポート形式、GORACE環境変数によるオプション設定、テストからの除外方法、一般的なデータ競合のパターンと修正例、サポートされるシステム、実行時のオーバーヘッドについて詳細に説明しています。
    • 特に、ループカウンタの競合、意図せず共有された変数、保護されていないグローバル変数、プリミティブ型の保護されていない変数といった具体的なコード例を挙げて、データ競合の発生メカニズムとsync.WaitGroupsync.Mutexsync/atomicパッケージを用いた修正方法を示しています。
  2. doc/docs.html (1行追加)

    • Go言語の主要なドキュメントへのリンクをまとめたページです。
    • 既存の「Profiling Go Programs」の項目に続いて、新しく追加されたデータ競合検出器のマニュアルへのリンクが追加されています。
      <li><a href="/doc/articles/race_detector.html">Data Race Detector</a> - testing Go programs for race conditions.</li>
      
  3. doc/go1.1.html (6行追加)

    • Go 1.1のリリースノートまたは変更点の概要をまとめたページです。
    • Go 1.1の新機能として、データ競合検出器が組み込まれたことが言及され、そのマニュアルへのリンクが追加されています。
      <h3 id="race">Data race detector</h3>
      <p>
      The implementation now includes a built-in <a href="/doc/articles/race_detector.html">data race detector</a>.
      </p>
      

コアとなるコードの解説

このコミットの核となるのは、doc/articles/race_detector.htmlファイルです。このファイルは、Go言語のデータ競合検出器の利用に関する包括的なガイドとして機能します。

  • 導入 (Introduction): データ競合の定義と、それが並行システムで引き起こす問題について説明しています。Goメモリモデルへの参照も含まれています。
  • 使用方法 (Usage): go test -racego run -racego build -racego install -raceといった、-raceフラグを使った検出器の有効化方法を具体的に示しています。
  • レポート形式 (Report Format): 検出器がデータ競合を検出した際に生成するレポートの構造と内容を解説しています。競合するアクセスを行ったゴルーチンのスタックトレースと、それらのゴルーチンが作成された場所のスタックトレースが含まれることが強調されています。
  • オプション (Options): GORACE環境変数を通じて設定できる各種オプション(log_path, exitcode, strip_path_prefix, history_size)について説明しています。これにより、ユーザーは検出器の動作をカスタマイズできます。
  • テストの除外 (Excluding Tests): +build !raceビルドタグを使用して、特定のコードやテストを競合検出器の対象から除外する方法を説明しています。これは、検出器の下で問題が発生するテストや、意図的に競合を含むテストケースを扱う際に役立ちます。
  • 使用のヒント (How To Use): 検出器が実行時に発生する競合のみを検出するため、テストカバレッジが不完全な場合は、実際のワークロードで-raceフラグ付きでビルドされたバイナリを実行することが推奨されています。
  • 典型的なデータ競合 (Typical Data Races):
    • ループカウンタの競合: forループ内でゴルーチンを起動する際に、ループ変数が共有されてしまう一般的なパターンと、その修正方法(変数のローカルコピーを作成する)を示しています。
    • 意図せず共有された変数: 複数のゴルーチンが同じエラー変数などを共有してしまうケースと、:=演算子を使って新しいローカル変数を導入することで解決する方法を説明しています。
    • 保護されていないグローバル変数: mapのような並行アクセスに対して安全でないデータ構造をグローバルに共有する際の競合と、sync.Mutexを使った排他制御による保護方法を示しています。
    • プリミティブ型の保護されていない変数: bool, int, int64のようなプリミティブ型でもデータ競合が発生しうることを示し、sync/atomicパッケージを使ったアトミック操作による安全なアクセス方法を説明しています。
  • サポートされるシステム (Supported Systems): 検出器がサポートするOSとアーキテクチャ(darwin/amd64, linux/amd64, windows/amd64)を明記しています。
  • 実行時のオーバーヘッド (Runtime Overheads): 検出器の利用に伴うメモリ使用量と実行時間の増加について言及し、そのコストを開発者に伝えています。

このマニュアルは、Go開発者がデータ競合の概念を理解し、Goの組み込みツールを使ってそれらを効果的に特定・修正するための実践的な知識を提供します。

関連リンク

参考にした情報源リンク