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コミット
このコミットは、Go言語の標準ライブラリである container/list パッケージにおけるメモリリークの可能性を回避するための修正です。List の要素がリストから削除された際に、その要素が保持していた next および prev ポインタを明示的に nil に設定することで、ガベージコレクタが不要になったメモリをより効率的に解放できるようにします。
- コミットハッシュ:
ecb75486f80e320dc0a06dd85c1b83a3daf293f4 - 作者: Robert Griesemer gri@golang.org
- コミット日時: 2013年1月9日 (水) 15:22:48 -0800
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/ecb75486f80e320dc0a06dd85c1b83a3daf293f4
元コミット内容
container/list: avoid memory leaks
R=golang-dev, dsymonds
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7065067
変更の背景
Go言語はガベージコレクタ (GC) を備えており、開発者が手動でメモリを解放する必要はほとんどありません。しかし、特定のデータ構造、特に双方向連結リストのような相互参照を持つ構造では、要素が論理的にリストから削除された後も、その要素が持つポインタが他の要素を参照し続けていると、ガベージコレクタがその要素を「到達可能」と誤認し、メモリを解放できない場合があります。これは「メモリリーク」として現れる可能性があります。
container/list パッケージの remove メソッドは、リストから要素を削除する際に、その要素の next および prev ポインタを更新してリストの連結を解除します。しかし、削除される要素自体の next および prev ポインタは、以前参照していた要素への参照を保持したままでした。もし、削除された要素への参照がプログラムのどこかに残っていた場合(例えば、削除された要素を返す関数がその要素を返した後も、その要素が持つポインタがリスト内の他の要素を参照し続けている場合)、ガベージコレクタはそれらの要素を回収できませんでした。
このコミットは、remove 関数内で削除される要素の next と prev ポインタを明示的に nil に設定することで、この問題を解決しようとしています。これにより、削除された要素が他のリスト要素への参照を保持しなくなり、ガベージコレクタが不要なメモリをより迅速かつ確実に回収できるようになります。
前提知識の解説
Goの container/list パッケージ
container/list は、Go言語の標準ライブラリで提供される、双方向連結リストの実装です。要素の追加、削除、移動などを効率的に行うことができます。各要素は Element 型で表現され、Value フィールドに実際のデータを持ち、next および prev フィールドで前後の要素へのポインタを保持します。
ガベージコレクション (GC)
ガベージコレクションは、プログラムが動的に割り当てたメモリのうち、もはや使用されていない(到達不可能な)メモリ領域を自動的に解放するプロセスです。GoのGCは、マーク&スイープ方式をベースにしており、プログラムのルート(グローバル変数、スタック上の変数など)から到達可能なオブジェクトをマークし、マークされなかったオブジェクトを「到達不可能」と判断して解放します。
メモリリーク
ガベージコレクタを持つ言語においても、メモリリークは発生する可能性があります。これは、もはやプログラムで必要とされていないにもかかわらず、ガベージコレクタが「到達可能」と誤認してしまうために解放されないメモリ領域がある場合に起こります。連結リストのようなデータ構造では、要素間の参照が適切に解除されないと、このような状況が発生しやすくなります。
双方向連結リスト (Doubly Linked List)
双方向連結リストは、各ノードがデータと、次のノードへのポインタ(next)、および前のノードへのポインタ(prev)を持つ線形データ構造です。これにより、リストを前方にも後方にも効率的にトラバースできます。要素の挿入や削除は、ポインタの付け替えによって行われます。
技術的詳細
container/list パッケージの List 構造体は、root という Element を持ち、これはリストの先頭と末尾を指すダミーの要素として機能します。remove 関数は、指定された Element をリストから削除する責任を負います。
削除処理の一般的な手順は以下の通りです。
- 削除対象の要素
eのprev要素のnextポインタを、eのnext要素に付け替える。 - 削除対象の要素
eのnext要素のprevポインタを、eのprev要素に付け替える。 - 削除対象の要素
eのlistフィールドをnilに設定し、その要素がどのリストにも属していないことを示す。 - リストの長さをデクリメントする。
このコミット以前は、上記の手順で e.next と e.prev 自体は変更されませんでした。つまり、e がリストから論理的に切り離された後も、e.next は以前の次の要素を、e.prev は以前の前の要素をそれぞれ参照し続けていました。
もし、プログラムの他の部分で削除された e への参照がまだ存在していた場合(例えば、List.Remove が *Element を返すため、その戻り値を変数に保持している場合)、e 自体はガベージコレクタの対象になりません。さらに、e.next や e.prev がリスト内の他の要素を指しているため、それらの要素も e を介して「到達可能」と判断され、ガベージコレクタによって回収されない可能性がありました。これは、特に多数の要素が頻繁に追加・削除されるようなシナリオで、メモリ使用量が増加し続ける原因となり得ます。
このコミットの修正は、e.next = nil と e.prev = nil を追加することで、削除された要素 e がリスト内の他の要素への参照を完全に解除するようにします。これにより、e がもはやリストの一部ではないことがガベージコレクタに対して明確になり、e 自体、および e を介してのみ到達可能であった他の要素が、より早くガベージコレクションの対象となることが保証されます。
コアとなるコードの変更箇所
src/pkg/container/list/list.go ファイルの remove 関数に以下の2行が追加されました。
--- a/src/pkg/container/list/list.go
+++ b/src/pkg/container/list/list.go
@@ -108,6 +108,8 @@ func (l *List) insertValue(v interface{}, at *Element) *Element {
func (l *List) remove(e *Element) *Element {
e.prev.next = e.next
e.next.prev = e.prev
+ e.next = nil // avoid memory leaks
+ e.prev = nil // avoid memory leaks
e.list = nil
l.len--
return e
コアとなるコードの解説
追加された2行は、remove 関数内で要素 e がリストから切り離された直後に実行されます。
e.next = nil: 削除される要素eのnextポインタをnilに設定します。これにより、eが以前参照していた次の要素への参照が解除されます。e.prev = nil: 削除される要素eのprevポインタをnilに設定します。これにより、eが以前参照していた前の要素への参照が解除されます。
これらの変更は、削除された Element オブジェクトが、もはやリストの他の要素への内部的な参照を保持しないことを保証します。これにより、ガベージコレクタは、削除された Element オブジェクトが他のどこからも参照されていないと判断した場合、そのメモリを安全に回収できるようになります。これは、特に長期間実行されるアプリケーションや、大量のリスト操作が行われるシステムにおいて、メモリ使用量の安定化と効率的なメモリ管理に貢献します。
関連リンク
- Gerrit Change-ID: https://golang.org/cl/7065067
参考にした情報源リンク
- Go言語のガベージコレクションに関する一般的な知識
- データ構造としての双方向連結リストの動作原理
- Go言語の
container/listパッケージのドキュメントとソースコード - メモリリークとガベージコレクタの相互作用に関する一般的なプログラミングの概念