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[インデックス 14857] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のコンパイラ (cmd/gc) とリンカ (cmd/ld) のドキュメントファイル (doc.go) を更新し、-race フラグに関する記述を追加するものです。具体的には、以前の -b フラグに関する記述を -race フラグに関する記述に置き換えています。これにより、Goの競合検出機能(Race Detector)がより明確にドキュメントに反映されるようになりました。

コミット

commit 9ae7f340845f3cffd53859577644aa0099798cc4
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date:   Fri Jan 11 12:35:58 2013 +0800

    cmd/gc, cmd/ld: update doc.go for -race
    
    R=golang-dev, dave, rsc
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7066052

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/9ae7f340845f3cffd53859577644aa0099798cc4

元コミット内容

diff --git a/src/cmd/gc/doc.go b/src/cmd/gc/doc.go
index fad1427339..78bffc8ecb 100644
--- a/src/cmd/gc/doc.go
+++ b/src/cmd/gc/doc.go
@@ -54,7 +54,7 @@ Flags:
 		disallow importing packages not marked as safe
 	-V
 		print the compiler version
-	-b
+	-race
 		compile with race detection enabled
 
 There are also a number of debugging flags; run the command with no arguments
diff --git a/src/cmd/ld/doc.go b/src/cmd/ld/doc.go
index 357505f0b2..cf22ba8d80 100644
--- a/src/cmd/ld/doc.go
+++ b/src/cmd/ld/doc.go
@@ -56,7 +56,7 @@ Options new in this version:
 		Set the value of an otherwise uninitialized string variable.
 		The symbol name should be of the form importpath.name,
 		as displayed in the symbol table printed by "go tool nm".
-	-b
+	-race
 		Link with race detection libraries.
 	-B value
 		Add a NT_GNU_BUILD_BUILD_ID note when using ELF.  The value

変更の背景

このコミットの背景には、Go言語における競合検出機能(Race Detector)の導入と、それに関連するツールのドキュメント整備があります。GoのRace Detectorは、並行処理におけるデータ競合(data race)を検出するための強力なツールです。データ競合は、複数のゴルーチンが同時に同じメモリ位置にアクセスし、少なくとも1つのアクセスが書き込みである場合に発生し、プログラムの予測不能な動作やバグの原因となります。

Go 1.1から導入されたRace Detectorは、コンパイル時およびリンク時に特定のフラグを付与することで有効化されます。このコミットが行われた2013年1月時点では、Race Detectorの機能がGoツールチェインに統合されつつあり、その使用方法をユーザーに明確に伝えるためのドキュメント更新が必要とされていました。

以前は、-bという汎用的なフラグが使用されていた可能性がありますが、Race Detectorの機能が確立されたことで、より意味のある -race というフラグ名に変更され、それに伴いドキュメントも更新されたと考えられます。これにより、ユーザーはコンパイラ (gc) やリンカ (ld) のオプションとして -race を指定することで、簡単に競合検出を有効にできることを理解できるようになります。

前提知識の解説

1. Go言語のツールチェイン

Go言語は、go コマンドを介して様々なツールを提供しています。主要なツールには以下のようなものがあります。

  • go build: Goのソースコードをコンパイルして実行可能ファイルを生成します。内部的にはコンパイラ (gc) やリンカ (ld) などのツールを呼び出します。
  • go run: ソースファイルをコンパイルして実行します。
  • go test: テストを実行します。
  • go tool: Goツールチェインに含まれる低レベルなツール(コンパイラ、リンカ、アセンブラなど)を直接実行するためのコマンドです。このコミットで言及されている cmd/gccmd/ld は、go tool gcgo tool ld として実行される内部ツールです。

2. cmd/gc (Goコンパイラ)

cmd/gc はGo言語のソースコードをコンパイルし、オブジェクトファイル(中間コード)を生成するコンパイラです。Goのソースコードを機械語に変換する最初のステップを担当します。コンパイル時には、コードの構文チェック、型チェック、最適化などが行われます。

3. cmd/ld (Goリンカ)

cmd/ld はGo言語のリンカです。コンパイラによって生成された複数のオブジェクトファイルや、標準ライブラリなどの外部ライブラリを結合し、最終的な実行可能ファイルを生成します。リンカは、シンボルの解決(関数や変数のアドレスを特定する)、コードの再配置、実行可能ファイルのフォーマット(ELF, Mach-O, PEなど)の生成などを行います。

4. データ競合 (Data Race)

データ競合は、並行プログラミングにおける一般的なバグの一種です。以下の3つの条件がすべて満たされた場合に発生します。

  • 複数のゴルーチン(またはスレッド)が同時に同じメモリ位置にアクセスする。
  • 少なくとも1つのアクセスが書き込み操作である。
  • これらのアクセスが同期メカニズム(ミューテックス、チャネルなど)によって保護されていない。

データ競合が発生すると、プログラムの実行結果がアクセス順序に依存するようになり、予測不能な動作、クラッシュ、データの破損などを引き起こす可能性があります。

5. Go Race Detector

Go Race Detectorは、実行時にデータ競合を検出するためのツールです。プログラムの実行中にメモリアクセスを監視し、競合のパターンを特定します。競合が検出されると、Race Detectorは詳細なレポート(競合が発生した場所、スタックトレースなど)を出力し、開発者が問題を特定し修正するのを助けます。

Race Detectorは、コンパイル時とリンク時に特別なインストゥルメンテーション(計測コードの埋め込み)を行うことで機能します。このインストゥルメンテーションにより、メモリアクセスが監視され、競合の可能性がチェックされます。

技術的詳細

このコミットは、Goツールチェインの内部ドキュメントファイルである src/cmd/gc/doc.gosrc/cmd/ld/doc.go を修正しています。これらのファイルは、それぞれのツールのコマンドラインフラグやオプションに関する説明を提供しています。

変更の核心は、コンパイラとリンカの両方で、競合検出機能を有効にするためのフラグが -b から -race に変更されたことをドキュメントに反映させることです。

  • src/cmd/gc/doc.go の変更:

    • 以前は -b フラグが「compile with race detection enabled」と説明されていました。
    • このコミットにより、-b が削除され、代わりに -race フラグが「compile with race detection enabled」として追加されました。
    • これは、コンパイラがソースコードをコンパイルする際に、競合検出のための追加のコード(インストゥルメンテーション)を挿入することを示しています。
  • src/cmd/ld/doc.go の変更:

    • 以前は -b フラグが「Link with race detection libraries.」と説明されていました。
    • このコミットにより、-b が削除され、代わりに -race フラグが「Link with race detection libraries.」として追加されました。
    • これは、リンカが最終的な実行可能ファイルを生成する際に、競合検出に必要なランタイムライブラリをリンクすることを示しています。

この変更は、GoのRace DetectorがGo 1.1で正式に導入される過程の一部であり、ユーザーがこの重要なデバッグ機能をより直感的に利用できるようにするためのドキュメント上の整備です。フラグ名をより機能に即したものに変更することで、ツールの使いやすさと理解度が向上します。

コアとなるコードの変更箇所

src/cmd/gc/doc.go

--- a/src/cmd/gc/doc.go
+++ b/src/cmd/gc/doc.go
@@ -54,7 +54,7 @@ Flags:
 		disallow importing packages not marked as safe
 	-V
 		print the compiler version
-	-b
+	-race
 		compile with race detection enabled
 
 There are also a number of debugging flags; run the command with no arguments

src/cmd/ld/doc.go

--- a/src/cmd/ld/doc.go
+++ b/src/cmd/ld/doc.go
@@ -56,7 +56,7 @@ Options new in this version:
 		Set the value of an otherwise uninitialized string variable.
 		The symbol name should be of the form importpath.name,
 		as displayed in the symbol table printed by "go tool nm".
-	-b
+	-race
 		Link with race detection libraries.
 	-B value
 		Add a NT_GNU_BUILD_ID note when using ELF.  The value

コアとなるコードの解説

このコミットは、Goコンパイラ (gc) とGoリンカ (ld) のドキュメントファイル (doc.go) におけるコマンドラインフラグの説明を更新しています。

  • src/cmd/gc/doc.go:

    • -b フラグの行が削除され、その直後に -race フラグの行が追加されています。
    • 説明文はどちらも「compile with race detection enabled」であり、コンパイラが競合検出機能を有効にするためのコードを生成することを示しています。これは、コンパイル時にプログラムに計測コードを埋め込むことを意味します。
  • src/cmd/ld/doc.go:

    • 同様に、-b フラグの行が削除され、その直後に -race フラグの行が追加されています。
    • 説明文はどちらも「Link with race detection libraries.」であり、リンカが競合検出に必要なランタイムライブラリを最終的な実行可能ファイルに含めることを示しています。

これらの変更は、GoのRace Detectorを使用するための標準的な方法が -race フラグになったことを明確に示しています。ユーザーは go build -racego test -race のようにこのフラグを使用することで、コンパイルとリンクの両方で競合検出が有効になり、実行時にデータ競合が監視されるようになります。

このドキュメントの更新は、Goツールチェインの進化と、新しい機能の導入に伴うユーザーへの情報提供の重要性を示しています。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go Race Detector: https://go.dev/doc/articles/race_detector
  • Go 1.1 Release Notes: https://go.dev/doc/go1.1#race
  • Go言語のコンパイラとリンカに関する一般的な情報 (Goの公式ドキュメントやブログ記事など)
  • データ競合に関する一般的な情報 (並行プログラミングの概念)
  • GitHubのコミット履歴と関連するコードレビュー (Gerrit CL 7066052)