[インデックス 14968] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のgo/build
パッケージ内のテストTestBogusDirectory
におけるエラーメッセージのフォーマットを修正し、特にWindows環境でのテスト失敗の可能性を解消することを目的としています。パスセパレータのプラットフォーム依存性を吸収するためにfilepath.FromSlash
を使用し、テストのエラー報告をより適切に行うためにt.Error
をt.Errorf
に変更しています。
コミット
commit 379f5fc7f14074ec6ab6e937b4217686022bf3da
Author: Brad Fitzpatrick <bradfitz@golang.org>
Date: Tue Jan 22 17:50:12 2013 -0800
go/build: fix TestBogusDirectory format and maybe Windows failure
R=golang-dev, adg
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7183046
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/379f5fc7f14074ec6ab6e937b4217686022bf3da
元コミット内容
go/build: fix TestBogusDirectory format and maybe Windows failure
R=golang-dev, adg
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7183046
変更の背景
このコミットの主な背景は、Go言語の標準ライブラリであるgo/build
パッケージのテストスイートにおけるTestBogusDirectory
という特定のテストが、一部の環境、特にWindowsで失敗する可能性があったことです。
元のテストコードでは、存在しないディレクトリパスを検証する際に、Unixスタイルのパス(例: /foo/bar/baz/gopher
)をハードコードし、そのパスを含むエラーメッセージが返されることを期待していました。しかし、Windowsのようなオペレーティングシステムでは、ファイルパスのセパレータとしてバックスラッシュ(\
)が使用されるため、ImportDir
関数が返す実際のエラーメッセージにはバックスラッシュが含まれることになります。このパスセパレータの違いにより、テストが期待するエラーメッセージと実際のエラーメッセージが一致せず、テストが失敗していました。
また、テスト失敗時のエラー報告の形式も改善の対象でした。元のコードではt.Error
を使用していましたが、これは引数をそのまま出力するため、フォーマット文字列が意図通りに解釈されず、デバッグ情報が読みにくくなる可能性がありました。t.Errorf
への変更は、より明確で整形されたエラーメッセージを提供し、テストの可読性とデバッグの容易性を向上させるためのものです。
したがって、このコミットは、クロスプラットフォーム互換性の向上とテストコードの品質改善という二つの側面から行われました。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語の概念とパッケージに関する知識が必要です。
-
Go言語の
go/build
パッケージ: Goのビルドシステムの中核をなすパッケージの一つです。このパッケージは、Goのソースコードを解析し、パッケージの依存関係を解決し、指定されたディレクトリからGoパッケージをインポートするための機能を提供します。ImportDir
関数は、特定のディレクトリがGoパッケージとして有効であるか、またはそのディレクトリからパッケージ情報を取得できるかを検証する際に使用されます。 -
ImportDir
関数:go/build
パッケージに属する関数で、指定されたディレクトリパスからGoパッケージの情報をインポートしようとします。この関数は、パッケージのソースファイルや依存関係を特定するために使用されます。FindOnly
オプションは、パッケージの存在確認のみを行い、実際のビルド処理や依存関係の解決を深く行わないことを示します。テストでは、存在しないディレクトリに対してこの関数を呼び出し、期待されるエラーが返されることを確認します。 -
path/filepath
パッケージとfilepath.FromSlash
関数:path/filepath
パッケージは、ファイルパスを操作するためのユーティリティ関数を提供します。特に、オペレーティングシステムに依存しないパス操作を可能にします。filepath.FromSlash(path string)
関数は、引数として与えられたパス文字列内のスラッシュ (/
) を、現在のオペレーティングシステムに適したパスセパレータ(例えば、Windowsではバックスラッシュ\
)に変換します。これにより、コードが異なるOS環境で実行された場合でも、パスの表現が正しく扱われ、クロスプラットフォーム互換性が保証されます。 -
fmt
パッケージとfmt.Sprintf
関数:fmt
パッケージは、フォーマットされたI/O(入力/出力)を実装します。C言語のprintf
やscanf
に似た機能を提供します。fmt.Sprintf(format string, a ...interface{}) string
関数は、指定されたフォーマット文字列と引数に基づいて新しい文字列を生成し、その文字列を返します。%q
のようなフォーマット指定子を使用することで、文字列を引用符で囲んで出力するなど、様々な形式で値を整形できます。 -
Goのテストフレームワーク (
testing
パッケージ): Goには標準でtesting
パッケージが組み込まれており、ユニットテストやベンチマークテストを記述するための機能を提供します。*testing.T
: 各テスト関数に渡される構造体で、テストの状態管理、エラー報告、ログ出力などを行います。t.Error(args ...interface{})
: テストを失敗としてマークし、引数をデフォルトのフォーマットでログに出力します。この関数が呼び出されても、テスト関数の実行は継続されます。t.Errorf(format string, args ...interface{})
:t.Error
と同様にテストを失敗としてマークしますが、fmt.Sprintf
と同じようにフォーマット文字列と可変引数を受け取ります。これにより、より詳細で読みやすいエラーメッセージを生成し、テスト失敗の原因を明確にすることができます。Goのテストでは、通常、t.Errorf
が推奨されます。
技術的詳細
このコミットにおける技術的な変更は、Go言語のクロスプラットフォーム開発における重要な側面と、テストコードのベストプラクティスを反映しています。
-
クロスプラットフォームなパス処理の実現: Goはクロスプラットフォーム開発を強く意識した言語であり、ファイルパスの扱いもその例外ではありません。Unix系OSではパスセパレータとしてスラッシュ(
/
)が一般的ですが、Windowsではバックスラッシュ(\
)が使用されます。TestBogusDirectory
テストでは、const dir = "/foo/bar/baz/gopher"
という形で、存在しないディレクトリパスをUnixスタイルのスラッシュ区切りで定義していました。ImportDir
関数がこのパスを処理し、存在しないためにエラーを返した場合、そのエラーメッセージに含まれるパスは、実行されているOSのネイティブなパスセパレータを使用します。 元のコードでは、期待されるエラーメッセージをfmt.Sprintf("%q is not a directory", dir)
として生成していました。ここでdir
は常にUnixスタイルのパスです。このため、Windows環境でテストを実行すると、ImportDir
が返すエラーメッセージ(例:"C:\\foo\\bar\\baz\\gopher" is not a directory
)と、テストが期待するエラーメッセージ(例:"/foo/bar/baz/gopher" is not a directory
)のパスセパレータが一致せず、テストが誤って失敗していました。 この問題を解決するために、filepath.FromSlash(dir)
が導入されました。この関数は、ハードコードされたUnixスタイルのパスdir
を、現在のOSのパスセパレータに変換します。例えば、Windowsでは"/foo/bar/baz/gopher"
が"\\foo\\bar\\baz\\gopher"
に変換され、fmt.Sprintf
によって生成される期待されるエラーメッセージのパス部分が、ImportDir
が実際に返すエラーメッセージのパス部分と一致するようになります。これにより、テストはどのOS環境でも一貫して正しく動作するようになります。 -
テストエラー報告の改善 (
t.Error
からt.Errorf
へ): Goのtesting
パッケージでは、テストが失敗したことを報告するためにt.Error
とt.Errorf
の2つの主要な関数が提供されています。t.Error
は可変引数を受け取りますが、それらをfmt.Println
のようにデフォルトのフォーマットで出力します。元のコードのt.Error("got error %q, want %q", err, want)
という記述では、%q
がフォーマット指定子として機能せず、単なる文字列リテラルとして出力されていました。つまり、got error %q, want %q
という文字列と、err
とwant
の値がそれぞれ別の引数として出力される形になっていました。- 一方、
t.Errorf
はfmt.Sprintf
と同様に、最初の引数をフォーマット文字列として解釈し、それに続く引数をそのフォーマット文字列に従って整形して出力します。したがって、t.Errorf("got error %q, want %q", err, want)
とすることで、%q
が正しく機能し、err
とwant
の値が引用符で囲まれた文字列として整形されて出力されます。 この変更は、テストが失敗した際に、より明確で構造化されたエラーメッセージを生成することを可能にし、テストのデバッグを大幅に容易にします。これはGoのテストコードにおける一般的なベストプラクティスであり、よりプロフェッショナルなエラー報告を実現します。
これらの技術的変更は、Go言語の堅牢性と移植性を高める上で不可欠であり、開発者が異なるプラットフォームで安心してコードを開発・テストできる基盤を提供します。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/go/build/build_test.go
+++ b/src/pkg/go/build/build_test.go
@@ -94,9 +94,9 @@ func TestLocalDirectory(t *testing.T) {
func TestBogusDirectory(t *testing.T) {
const dir = "/foo/bar/baz/gopher"
_, err := ImportDir(dir, FindOnly)
- want := fmt.Sprintf("%q is not a directory", dir)
+ want := fmt.Sprintf("%q is not a directory", filepath.FromSlash(dir))
if err == nil || err.Error() != want {
- \tt.Error("got error %q, want %q", err, want)
+ \tt.Errorf("got error %q, want %q", err, want)
}
}
コアとなるコードの解説
このコミットでは、src/pkg/go/build/build_test.go
ファイル内のTestBogusDirectory
関数に2つの重要な変更が加えられています。
-
want
変数の初期化:-
変更前:
want := fmt.Sprintf("%q is not a directory", dir)
- この行では、
ImportDir
関数が返すことを期待するエラーメッセージを生成しています。dir
は"/foo/bar/baz/gopher"
というUnixスタイルのパスがハードコードされています。 - 問題は、WindowsなどのOSでは、
ImportDir
が返すエラーメッセージ内のパスセパレータがバックスラッシュ(\
)になるため、期待される文字列と実際のエラー文字列が一致しないことでした。
- この行では、
-
変更後:
want := fmt.Sprintf("%q is not a directory", filepath.FromSlash(dir))
dir
をfilepath.FromSlash()
関数でラップすることで、ハードコードされたUnixスタイルのパス"/foo/bar/baz/gopher"
が、現在のオペレーティングシステムに適したパスセパレータに変換されます。- 例えば、Windows環境では、
filepath.FromSlash(dir)
は"\\foo\\bar\\baz\\gopher"
のようなパスを生成します。これにより、want
変数に格納される期待されるエラーメッセージのパス部分が、ImportDir
が実際に返すエラーメッセージのパス部分と一致するようになり、クロスプラットフォームでのテストの安定性が向上します。
-
-
テスト失敗時のエラー報告:
-
変更前:
t.Error("got error %q, want %q", err, want)
- この行は、
ImportDir
が返したエラーが期待されるエラーと異なる場合に、テストを失敗としてマークし、エラーメッセージを出力します。 t.Error
は引数をそのまま出力するため、"got error %q, want %q"
という文字列リテラルと、err
とwant
の値がそれぞれ独立した引数として出力されていました。これは、%q
がフォーマット指定子として機能せず、デバッグ情報が読みにくい原因となっていました。
- この行は、
-
変更後:
t.Errorf("got error %q, want %q", err, want)
t.Errorf
関数は、fmt.Sprintf
と同様に、最初の引数をフォーマット文字列として解釈します。- これにより、
"got error %q, want %q"
というフォーマット文字列が正しく適用され、err
とwant
の値がそれぞれ引用符で囲まれた文字列として整形されて出力されます。 - 結果として、テストが失敗した際に、
got error "actual error message" want "expected error message"
のような、より明確で整形されたエラーメッセージがログに表示されるようになり、デバッグ作業が大幅に効率化されます。
-
これらの変更は、Goのテストが異なる環境で一貫して動作することを保証し、テスト失敗時の情報提供を改善するという点で、Go言語の品質と保守性を高める重要な修正です。
関連リンク
- Go Code Review: https://golang.org/cl/7183046
参考にした情報源リンク
- Go
path/filepath
package documentation: https://pkg.go.dev/path/filepath - Go
fmt
package documentation: https://pkg.go.dev/fmt - Go
testing
package documentation: https://pkg.go.dev/testing - Go
go/build
package documentation: https://pkg.go.dev/go/build