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[インデックス 15017] ファイルの概要

このコミットは、Goランタイムのトレースバック処理におけるコメントの整理と、goexit時の挙動に関する条件の修正、およびx86アーキテクチャにおける不要なnil関数呼び出しチェックの削除を目的としています。

コミット

commit ec1948a44d93b76692188df3a9d1dc45c8ee390e
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Tue Jan 29 13:12:50 2013 -0800

    runtime: clear up lr comments
    
    R=cshapiro
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7230052

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/ec1948a44d93b76692188df3a9d1dc45c8ee390e

元コミット内容

runtime: clear up lr comments

このコミットメッセージは簡潔ですが、Goランタイムのトレースバック処理におけるlr(リンクレジスタ)に関するコメントの整理が主な目的であることを示唆しています。また、コードの差分からは、goexit関数の処理ロジックの微調整と、x86アーキテクチャにおける特定のnil関数呼び出しチェックの削除が行われていることが読み取れます。

変更の背景

Goランタイムは、プログラムの実行中に発生したエラーやパニックの際に、現在の実行スタック(コールスタック)を遡って関数呼び出しの履歴を表示する「トレースバック」機能を提供します。このトレースバックは、デバッグやエラー解析において非常に重要な情報源となります。

このコミットの背景には、トレースバック処理の正確性とコードの可読性の向上があったと考えられます。特に、goexitという特殊な状態(ゴルーチンがまだ開始されていない、または終了中の状態)でのトレースバックの挙動は、正確なスタックトレースを生成するために重要です。また、lr(リンクレジスタ)は、関数呼び出し後に戻るべきアドレスを保持するレジスタであり、トレースバック処理においてスタックフレームを辿る際に重要な役割を果たします。

このコミットは、以下の問題に対処しようとしています。

  1. goexit時のトレースバックの正確性: goexitは、ゴルーチンがまだ開始されていない、または終了中の状態を示す特別なPC (Program Counter) 値です。この状態でのトレースバックが、誤ったスタックトレースを生成しないように、条件をより厳密にする必要がありました。具体的には、gp->entry != 0という条件を追加することで、ゴルーチンのエントリポイントが設定されている場合にのみgoexitを特別扱いするように変更されています。これにより、初期化中のゴルーチンなど、まだエントリポイントが設定されていない状態での誤ったトレースバックを防ぎます。
  2. x86アーキテクチャにおける冗長なチェックの削除: traceback_x86.cには、PCがゼロの場合にnil関数呼び出しとして扱うロジックが二重に存在していました。この冗長なコードを削除することで、コードベースの整理と保守性の向上が図られています。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGoランタイムおよびCPUアーキテクチャに関する基本的な知識が必要です。

1. ゴルーチン (Goroutine)

Go言語における軽量な実行スレッドです。Goランタイムによって管理され、OSのスレッドよりもはるかに少ないリソースで多数のゴルーチンを同時に実行できます。各ゴルーチンは独自のスタックを持ち、G構造体(runtime.g)によって表現されます。

2. プログラムカウンタ (PC)

CPUのレジスタの一つで、次に実行される命令のアドレスを指します。トレースバックでは、このPC値を使ってどの関数が実行されていたかを特定します。

3. スタックポインタ (SP)

CPUのレジスタの一つで、現在のスタックフレームの最上位(または最下位、アーキテクチャによる)のアドレスを指します。関数呼び出しごとにスタックフレームが積まれ、SPが更新されます。

4. リンクレジスタ (LR) / ベースポインタ (BP) / フレームポインタ (FP)

  • リンクレジスタ (LR): ARMアーキテクチャに特有のレジスタで、関数呼び出し時に呼び出し元に戻るアドレス(リターンアドレス)を保持します。関数から戻る際にこのアドレスがPCにロードされます。
  • ベースポインタ (BP) / フレームポインタ (FP): x86アーキテクチャなどで使用されるレジスタで、現在のスタックフレームの基点(ベース)アドレスを指します。これにより、スタック上のローカル変数や引数にアクセスできます。トレースバックでは、FPを辿ることで過去のスタックフレームを遡り、関数呼び出しの履歴を再構築します。

5. runtime.goexit

Goランタイム内部で使用される特別な関数(またはPC値)です。ゴルーチンがまだ開始されていない状態や、ゴルーチンが終了する際に一時的にPCがこの値になることがあります。トレースバック処理では、このgoexitを検出した場合に、ゴルーチンの実際のエントリポイント(gp->entry)をPCとして扱うことで、より意味のあるスタックトレースを生成しようとします。

6. トレースバック (Traceback)

プログラムの実行中にエラーやパニックが発生した際に、その時点での関数呼び出しの履歴(コールスタック)を表示する機能です。Go言語では、panicが発生すると自動的にトレースバックが出力されます。トレースバックは、PC、SP、FP/LRなどのレジスタ値とスタック上の情報を用いて、過去の関数呼び出しを逆順に辿ることで生成されます。

7. runtime·gentraceback

Goランタイム内部の関数で、トレースバックを生成する主要なロジックが含まれています。この関数は、与えられたPC、SP、LRなどの情報から、ゴルーチンのスタックフレームを解析し、呼び出し履歴を構築します。

技術的詳細

このコミットは、Goランタイムのトレースバック処理における特定のコーナーケースと冗長性を改善しています。

ARMアーキテクチャ (traceback_arm.c) の変更点

変更前:

// If the PC is goexit, the goroutine hasn't started yet.
if(pc == (uintptr)runtime·goexit) {
    pc = (uintptr)gp->entry;
    lr = (uintptr)runtime·goexit;
}

変更後:

// If the PC is goexit, the goroutine hasn't started yet.
if(pc == (uintptr)runtime·goexit && gp->entry != 0) {
    pc = (uintptr)gp->entry;
    lr = (uintptr)runtime·goexit;
}

この変更は、runtime·goexitがPCとして検出された場合に、ゴルーチンのエントリポイント(gp->entry)を実際のPCとして使用する条件をより厳密にしています。具体的には、gp->entry != 0という条件が追加されました。

  • なぜこの条件が必要か?: runtime·goexitは、ゴルーチンがまだ完全に初期化されていない状態でもPCとして現れる可能性があります。このような場合、gp->entryがまだ設定されていない(ゼロである)可能性があります。gp->entryがゼロの状態でそれをPCとして使用しようとすると、無効なアドレスを参照することになり、誤ったトレースバックやクラッシュの原因となる可能性があります。gp->entry != 0という条件を追加することで、ゴルーチンのエントリポイントが有効な場合にのみ、この特別な処理を行うようにしています。これにより、トレースバックの堅牢性が向上します。

x86アーキテクチャ (traceback_x86.c) の変更点

変更前:

// If the PC is goexit, the goroutine hasn't started yet.
if(pc0 == gp->sched.pc && sp == (byte*)gp->sched.sp && pc0 == (byte*)runtime·goexit) {
    fp = sp;
    lr = pc;
    pc = (uintptr)gp->entry;
}

// If the PC is zero, it's likely a nil function call.
// Start in the caller's frame.
if(pc == 0) {
    pc = lr;
    lr = 0;
}

変更後:

// If the PC is goexit, the goroutine hasn't started yet.
if(pc0 == gp->sched.pc && sp == (byte*)gp->sched.sp && pc0 == (byte*)runtime·goexit && gp->entry != 0) {
    fp = sp;
    lr = pc;
    pc = (uintptr)gp->entry;
}

// If the PC is zero, it's likely a nil function call.
// Start in the caller's frame.
if(pc == 0) {
    pc = lr;
    lr = 0;
}

x86アーキテクチャの変更点は2つあります。

  1. goexit条件の追加: ARMアーキテクチャと同様に、goexitの条件にgp->entry != 0が追加されています。これは、前述の理由と同じく、トレースバックの正確性と堅牢性を高めるためです。
  2. 冗長なnil関数呼び出しチェックの削除: 変更前のコードには、if(pc == 0)というnil関数呼び出しを処理するブロックが2回出現していました。このコミットでは、そのうちの1つが削除されています。これは単なるコードの重複であり、削除することでコードベースが整理され、保守性が向上します。機能的な変更はありません。

コアとなるコードの変更箇所

src/pkg/runtime/traceback_arm.c

--- a/src/pkg/runtime/traceback_arm.c
+++ b/src/pkg/runtime/traceback_arm.c
@@ -32,7 +32,7 @@ runtime·gentraceback(byte *pc0, byte *sp, byte *lr0, G *gp, int32 skip, uintptr
 	waspanic = false;
 
 	// If the PC is goexit, the goroutine hasn't started yet.
-	if(pc == (uintptr)runtime·goexit) {
+	if(pc == (uintptr)runtime·goexit && gp->entry != 0) {
 		pc = (uintptr)gp->entry;
 		lr = (uintptr)runtime·goexit;
 	}

src/pkg/runtime/traceback_x86.c

--- a/src/pkg/runtime/traceback_x86.c
+++ b/src/pkg/runtime/traceback_x86.c
@@ -40,19 +40,12 @@ runtime·gentraceback(byte *pc0, byte *sp, byte *lr0, G *gp, int32 skip, uintptr
 	waspanic = false;
 	
 	// If the PC is goexit, the goroutine hasn't started yet.
-	if(pc0 == gp->sched.pc && sp == (byte*)gp->sched.sp && pc0 == (byte*)runtime·goexit) {
+	if(pc0 == gp->sched.pc && sp == (byte*)gp->sched.sp && pc0 == (byte*)runtime·goexit && gp->entry != 0) {
 		fp = sp;
 		lr = pc;
 		pc = (uintptr)gp->entry;
 	}
 	
-	// If the PC is zero, it's likely a nil function call.
-	// Start in the caller's frame.
-	if(pc == 0) {
-		pc = lr;
-		lr = 0;
-	}
-
 	// If the PC is zero, it's likely a nil function call.
 	// Start in the caller's frame.
 	if(pc == 0) {

コアとなるコードの解説

traceback_arm.c の変更

runtime·gentraceback 関数内で、PCがruntime·goexitである場合の条件に && gp->entry != 0 が追加されました。 これは、ゴルーチンがまだ完全に初期化されておらず、gp->entry(ゴルーチンの開始関数へのポインタ)がまだ設定されていない(ゼロである)可能性がある場合に、誤ったエントリポイントへのジャンプを防ぐためのガード条件です。これにより、トレースバックの信頼性が向上します。

traceback_x86.c の変更

  1. runtime·gentraceback 関数内で、ARM版と同様にgoexitの条件に && gp->entry != 0 が追加されました。これはクロスアーキテクチャでの一貫性と正確性を保つための変更です。
  2. if(pc == 0) で始まるnil関数呼び出しのチェックブロックが一つ削除されました。これは、同じロジックがファイル内に二重に存在していたため、冗長なコードを削除し、コードベースをクリーンアップするための変更です。機能的な影響はありません。

これらの変更は、Goランタイムのトレースバック機能が、より正確で堅牢なスタックトレースを生成できるようにするための、細かながらも重要な改善です。特に、goexitのような特殊な状態での挙動を明確にすることで、デバッグ時の混乱を減らす効果があります。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Goのソースコード (特に src/pkg/runtime/traceback_arm.csrc/pkg/runtime/traceback_x86.c)
  • Goのコミット履歴と関連するコードレビュー (Go CL 7230052)
  • ARMアーキテクチャのレジスタに関する一般的な情報
  • x86アーキテクチャのスタックフレームとレジスタに関する一般的な情報
  • Goのゴルーチンとスケジューラに関する一般的な情報

[インデックス 15017] ファイルの概要

このコミットは、Goランタイムのトレースバック処理におけるコメントの整理と、goexit時の挙動に関する条件の修正、およびx86アーキテクチャにおける不要なnil関数呼び出しチェックの削除を目的としています。

コミット

commit ec1948a44d93b76692188df3a9d1dc45c8ee390e
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Tue Jan 29 13:12:50 2013 -0800

    runtime: clear up lr comments
    
    R=cshapiro
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7230052

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/ec1948a44d93b76692188df3a9d1dc45c8ee390e

元コミット内容

runtime: clear up lr comments

このコミットメッセージは簡潔ですが、Goランタイムのトレースバック処理におけるlr(リンクレジスタ)に関するコメントの整理が主な目的であることを示唆しています。また、コードの差分からは、goexit関数の処理ロジックの微調整と、x86アーキテクチャにおける特定のnil関数呼び出しチェックの削除が行われていることが読み取れます。

変更の背景

Goランタイムは、プログラムの実行中に発生したエラーやパニックの際に、現在の実行スタック(コールスタック)を遡って関数呼び出しの履歴を表示する「トレースバック」機能を提供します。このトレースバックは、デバッグやエラー解析において非常に重要な情報源となります。

このコミットの背景には、トレースバック処理の正確性とコードの可読性の向上があったと考えられます。特に、goexitという特殊な状態(ゴルーチンがまだ開始されていない、または終了中の状態)でのトレースバックの挙動は、正確なスタックトレースを生成するために重要です。また、lr(リンクレジスタ)は、関数呼び出し後に戻るべきアドレスを保持するレジスタであり、トレースバック処理においてスタックフレームを辿る際に重要な役割を果たします。

このコミットは、以下の問題に対処しようとしています。

  1. goexit時のトレースバックの正確性: goexitは、ゴルーチンがまだ開始されていない、または終了中の状態を示す特別なPC (Program Counter) 値です。この状態でのトレースバックが、誤ったスタックトレースを生成しないように、条件をより厳密にする必要がありました。具体的には、gp->entry != 0という条件を追加することで、ゴルーチンのエントリポイントが設定されている場合にのみgoexitを特別扱いするように変更されています。これにより、初期化中のゴルーチンなど、まだエントリポイントが設定されていない状態での誤ったトレースバックを防ぎます。
  2. x86アーキテクチャにおける冗長なチェックの削除: traceback_x86.cには、PCがゼロの場合にnil関数呼び出しとして扱うロジックが二重に存在していました。この冗長なコードを削除することで、コードベースの整理と保守性の向上が図られています。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGoランタイムおよびCPUアーキテクチャに関する基本的な知識が必要です。

1. ゴルーチン (Goroutine)

Go言語における軽量な実行スレッドです。Goランタイムによって管理され、OSのスレッドよりもはるかに少ないリソースで多数のゴルーチンを同時に実行できます。各ゴルーチンは独自のスタックを持ち、G構造体(runtime.g)によって表現されます。

2. プログラムカウンタ (PC)

CPUのレジスタの一つで、次に実行される命令のアドレスを指します。トレースバックでは、このPC値を使ってどの関数が実行されていたかを特定します。

3. スタックポインタ (SP)

CPUのレジスタの一つで、現在のスタックフレームの最上位(または最下位、アーキテクチャによる)のアドレスを指します。関数呼び出しごとにスタックフレームが積まれ、SPが更新されます。

4. リンクレジスタ (LR) / ベースポインタ (BP) / フレームポインタ (FP)

  • リンクレジスタ (LR): ARMアーキテクチャに特有のレジスタで、関数呼び出し時に呼び出し元に戻るアドレス(リターンアドレス)を保持します。関数から戻る際にこのアドレスがPCにロードされます。
  • ベースポインタ (BP) / フレームポインタ (FP): x86アーキテクチャなどで使用されるレジスタで、現在のスタックフレームの基点(ベース)アドレスを指します。これにより、スタック上のローカル変数や引数にアクセスできます。トレースバックでは、FPを辿ることで過去のスタックフレームを遡り、関数呼び出しの履歴を再構築します。

5. runtime.goexit

Goランタイム内部で使用される特別な関数(またはPC値)です。ゴルーチンがまだ開始されていない状態や、ゴルーチンが終了する際に一時的にPCがこの値になることがあります。トレースバック処理では、このgoexitを検出した場合に、ゴルーチンの実際のエントリポイント(gp->entry)をPCとして扱うことで、より意味のあるスタックトレースを生成しようとします。

6. トレースバック (Traceback)

プログラムの実行中にエラーやパニックが発生した際に、その時点での関数呼び出しの履歴(コールスタック)を表示する機能です。Go言語では、panicが発生すると自動的にトレースバックが出力されます。トレースバックは、PC、SP、FP/LRなどのレジスタ値とスタック上の情報を用いて、過去の関数呼び出しを逆順に辿ることで生成されます。

7. runtime·gentraceback

Goランタイム内部の関数で、トレースバックを生成する主要なロジックが含まれています。この関数は、与えられたPC、SP、LRなどの情報から、ゴルーチンのスタックフレームを解析し、呼び出し履歴を構築します。

技術的詳細

このコミットは、Goランタイムのトレースバック処理における特定のコーナーケースと冗長性を改善しています。

ARMアーキテクチャ (traceback_arm.c) の変更点

変更前:

// If the PC is goexit, the goroutine hasn't started yet.
if(pc == (uintptr)runtime·goexit) {
    pc = (uintptr)gp->entry;
    lr = (uintptr)runtime·goexit;
}

変更後:

// If the PC is goexit, the goroutine hasn't started yet.
if(pc == (uintptr)runtime·goexit && gp->entry != 0) {
    pc = (uintptr)gp->entry;
    lr = (uintptr)runtime·goexit;
}

この変更は、runtime·goexitがPCとして検出された場合に、ゴルーチンのエントリポイント(gp->entry)を実際のPCとして使用する条件をより厳密にしています。具体的には、gp->entry != 0という条件が追加されました。

  • なぜこの条件が必要か?: runtime·goexitは、ゴルーチンがまだ完全に初期化されていない状態でもPCとして現れる可能性があります。このような場合、gp->entryがまだ設定されていない(ゼロである)可能性があります。gp->entryがゼロの状態でそれをPCとして使用しようとすると、無効なアドレスを参照することになり、誤ったトレースバックやクラッシュの原因となる可能性があります。gp->entry != 0という条件を追加することで、ゴルーチンのエントリポイントが有効な場合にのみ、この特別な処理を行うようにしています。これにより、トレースバックの堅牢性が向上します。

x86アーキテクチャ (traceback_x86.c) の変更点

変更前:

// If the PC is goexit, the goroutine hasn't started yet.
if(pc0 == gp->sched.pc && sp == (byte*)gp->sched.sp && pc0 == (byte*)runtime·goexit) {
    fp = sp;
    lr = pc;
    pc = (uintptr)gp->entry;
}

// If the PC is zero, it's likely a nil function call.
// Start in the caller's frame.
if(pc == 0) {
    pc = lr;
    lr = 0;
}

変更後:

// If the PC is goexit, the goroutine hasn't started yet.
if(pc0 == gp->sched.pc && sp == (byte*)gp->sched.sp && pc0 == (byte*)runtime·goexit && gp->entry != 0) {
    fp = sp;
    lr = pc;
    pc = (uintptr)gp->entry;
}

// If the PC is zero, it's likely a nil function call.
// Start in the caller's frame.
if(pc == 0) {
    pc = lr;
    lr = 0;
}

x86アーキテクチャの変更点は2つあります。

  1. goexit条件の追加: ARMアーキテクチャと同様に、goexitの条件にgp->entry != 0が追加されています。これは、前述の理由と同じく、トレースバックの正確性と堅牢性を高めるためです。
  2. 冗長なnil関数呼び出しチェックの削除: 変更前のコードには、if(pc == 0)というnil関数呼び出しを処理するブロックが2回出現していました。このコミットでは、そのうちの1つが削除されています。これは単なるコードの重複であり、削除することでコードベースが整理され、保守性が向上します。機能的な変更はありません。

これらの変更は、Goランタイムのトレースバック機能が、より正確で堅牢なスタックトレースを生成できるようにするための、細かながらも重要な改善です。特に、goexitのような特殊な状態での挙動を明確にすることで、デバッグ時の混乱を減らす効果があります。

コアとなるコードの変更箇所

src/pkg/runtime/traceback_arm.c

--- a/src/pkg/runtime/traceback_arm.c
+++ b/src/pkg/runtime/traceback_arm.c
@@ -32,7 +32,7 @@ runtime·gentraceback(byte *pc0, byte *sp, byte *lr0, G *gp, int32 skip, uintptr
 	waspanic = false;
 
 	// If the PC is goexit, the goroutine hasn't started yet.
-	if(pc == (uintptr)runtime·goexit) {
+	if(pc == (uintptr)runtime·goexit && gp->entry != 0) {
 		pc = (uintptr)gp->entry;
 		lr = (uintptr)runtime·goexit;
 	}

src/pkg/runtime/traceback_x86.c

--- a/src/pkg/runtime/traceback_x86.c
+++ b/src/pkg/runtime/traceback_x86.c
@@ -40,19 +40,12 @@ runtime·gentraceback(byte *pc0, byte *sp, byte *lr0, G *gp, int32 skip, uintptr
 	waspanic = false;
 	
 	// If the PC is goexit, the goroutine hasn't started yet.
-	if(pc0 == gp->sched.pc && sp == (byte*)gp->sched.sp && pc0 == (byte*)runtime·goexit) {
+	if(pc0 == gp->sched.pc && sp == (byte*)gp->sched.sp && pc0 == (byte*)runtime·goexit && gp->entry != 0) {
 		fp = sp;
 		lr = pc;
 		pc = (uintptr)gp->entry;
 	}
 	
-	// If the PC is zero, it's likely a nil function call.
-	// Start in the caller's frame.
-	if(pc == 0) {
-		pc = lr;
-		lr = 0;
-	}
-
 	// If the PC is zero, it's likely a nil function call.
 	// Start in the caller's frame.
 	if(pc == 0) {

コアとなるコードの解説

traceback_arm.c の変更

runtime·gentraceback 関数内で、PCがruntime·goexitである場合の条件に && gp->entry != 0 が追加されました。 これは、ゴルーチンがまだ完全に初期化されておらず、gp->entry(ゴルーチンの開始関数へのポインタ)がまだ設定されていない(ゼロである)可能性がある場合に、誤ったエントリポイントへのジャンプを防ぐためのガード条件です。これにより、トレースバックの信頼性が向上します。

traceback_x86.c の変更

  1. runtime·gentraceback 関数内で、ARM版と同様にgoexitの条件に && gp->entry != 0 が追加されました。これはクロスアーキテクチャでの一貫性と正確性を保つための変更です。
  2. if(pc == 0) で始まるnil関数呼び出しのチェックブロックが一つ削除されました。これは、同じロジックがファイル内に二重に存在していたため、冗長なコードを削除し、コードベースをクリーンアップするための変更です。機能的な影響はありません。

これらの変更は、Goランタイムのトレースバック機能が、より正確で堅牢なスタックトレースを生成できるようにするための、細かながらも重要な改善です。特に、goexitのような特殊な状態での挙動を明確にすることで、デバッグ時の混乱を減らす効果があります。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Goのソースコード (特に src/pkg/runtime/traceback_arm.csrc/pkg/runtime/traceback_x86.c)
  • Goのコミット履歴と関連するコードレビュー (Go CL 7230052)
  • ARMアーキテクチャのレジスタに関する一般的な情報
  • x86アーキテクチャのスタックフレームとレジスタに関する一般的な情報
  • Goのゴルーチンとスケジューラに関する一般的な情報
  • Web検索結果: "Go runtime traceback goexit lr register"