[インデックス 15070] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリ encoding/base64 パッケージ内のテストコード base64_test.go に対する修正です。具体的には、TestDecoderIssue3577 というテスト関数において、ReadFull の変更に対応するための追加の nextRead エントリが挿入されています。
コミット
commit 31fafa5081fd34e8d8f595607cf43a96dbce1c5e
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Thu Jan 31 14:42:56 2013 -0800
encoding/base64: fix test for ReadFull change
R=golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7249045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/31fafa5081fd34e8d8f595607cf43a96dbce1c5e
元コミット内容
encoding/base64: fix test for ReadFull change
このコミットメッセージは簡潔ですが、ReadFull の変更に対応するためにテストを修正したことを明確に示しています。
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語の標準ライブラリにおける io.ReadFull 関数の挙動変更、またはそれに関連する encoding/base64 デコーダの内部的な読み取りロジックの変更があります。コミットメッセージにある ReadFull change は、おそらく io.ReadFull のセマンティクス、特にエラー処理やEOF(End Of File)の扱いに関する変更を指しています。
io.ReadFull(r Reader, buf []byte) (n int, err error) は、r から buf が完全に満たされるまでバイトを読み込もうとします。もし buf が満たされる前にEOFに達した場合、io.ErrUnexpectedEOF を返します。また、読み取り中にエラーが発生した場合はそのエラーを返します。
encoding/base64 デコーダは、内部的に基となる io.Reader からデータを読み取ってBase64デコードを行います。もし ReadFull の挙動が変更され、特定の条件下で追加の読み取り試行が行われるようになった場合、既存のテスト、特にエラー注入を行うテストケースでは、その新しい挙動を考慮に入れる必要があります。
TestDecoderIssue3577 は、Go issue 3577 に関連するテストであり、デコーダが基となるリーダーからのエラーを適切に処理するかどうかを検証するためのものです。このテストでは faultInjectReader というカスタムリーダーを使用して、特定のバイト数を読み取った後に意図的にエラーを発生させています。ReadFull の変更により、エラー発生後にデコーダがさらに読み取りを試みるようになった場合、テストが期待するエラーシーケンスと実際のシーケンスがずれ、テストが失敗する可能性があります。このコミットは、そのずれを修正し、テストが新しい ReadFull の挙動に適合するように調整したものです。
前提知識の解説
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Base64エンコーディング: Base64は、バイナリデータをASCII文字列の形式に変換するエンコーディング方式です。主に、テキストベースのプロトコル(例: メール、HTTP)でバイナリデータを安全に転送するために使用されます。3バイトのバイナリデータを4文字のBase64文字列に変換します。
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Go言語の
encoding/base64パッケージ: Go言語の標準ライブラリencoding/base64は、Base64エンコーディングとデコーディングの機能を提供します。base64.NewDecoder(enc *Encoding, r io.Reader) io.Reader: 指定されたエンコーディング (StdEncodingやURLEncodingなど) と基となるio.Readerを使用して、Base64デコードを行うio.Readerを返します。このデコーダから読み取ると、Base64エンコードされた入力がデコードされて返されます。
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io.Readerインターフェース: Go言語におけるio.Readerは、データを読み取るための基本的なインターフェースです。type Reader interface { Read(p []byte) (n int, err error) }Readメソッドは、pに最大len(p)バイトを読み込み、読み込んだバイト数nとエラーerrを返します。EOFに達した場合はn > 0の後にio.EOFを返します。 -
io.ReadFull関数:io.ReadFull(r Reader, buf []byte) (n int, err error)は、rからbufが完全に満たされるまでバイトを読み込もうとします。len(buf)バイトを読み込むことに成功した場合、n = len(buf)とerr = nilを返します。len(buf)バイトを読み込む前にEOFに達した場合、nは読み込んだバイト数、errはio.ErrUnexpectedEOFを返します。- 読み取り中に他のエラーが発生した場合、
nは読み込んだバイト数(0の場合もある)、errはそのエラーを返します。
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テストにおけるエラー注入 (Fault Injection): ソフトウェアテストにおいて、特定のコンポーネントがエラーや異常な状況にどのように応答するかを検証するために、意図的にエラーを発生させる手法です。このコミットのテストケースでは、
faultInjectReaderというカスタムのio.Readerを使用して、特定の読み取り操作の後にエラーを発生させています。
技術的詳細
このコミットは、encoding/base64 パッケージのテストファイル base64_test.go にある TestDecoderIssue3577 関数を修正しています。このテストは、Base64デコーダが基となるリーダーからエラーを受け取った際に、そのエラーを適切に伝播するかどうかを検証することを目的としています。
テストでは、faultInjectReader という構造体が使用されています。これは、io.Reader インターフェースを実装しており、nextc というチャネルから nextRead 構造体を受け取ります。nextRead は、次に読み取るバイト数と、その読み取り後に返すエラーを定義します。これにより、テストはリーダーの挙動を細かく制御し、特定のタイミングでエラーを注入することができます。
元のテストコードでは、以下のシーケンスで読み取りとエラー注入を行っていました。
next <- nextRead{5, nil}: 5バイトを正常に読み取る。next <- nextRead{10, wantErr}: 10バイトを読み取ろうとし、wantErrを返す。
このコミットで追加された行は next <- nextRead{0, wantErr} です。これは、ReadFull の挙動変更により、エラーが発生した後でもデコーダがさらに読み取りを試みるようになったことを示唆しています。もし ReadFull がエラーを返した後、内部的に0バイトの読み取りを試みるような変更があった場合、この追加の nextRead{0, wantErr} が必要になります。これにより、デコーダがエラーを受け取った後に再度読み取りを試みた際に、期待通りのエラー (wantErr) が返されることを保証し、テストが新しい ReadFull のセマンティクスに適合するようにします。
つまり、デコーダがエラーを受け取った後、さらに0バイトの読み取りを試みるという新しい挙動に対応するために、テストの faultInjectReader のシーケンスに、0バイトの読み取りとエラーの再注入を追加したものです。これにより、デコーダがエラーを適切に処理し、その後の読み取り試行でも正しいエラーが返されることを検証できます。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/encoding/base64/base64_test.go
+++ b/src/pkg/encoding/base64/base64_test.go
@@ -257,6 +257,7 @@ func TestDecoderIssue3577(t *testing.T) {
wantErr := errors.New("my error")
next <- nextRead{5, nil}
next <- nextRead{10, wantErr}
+ next <- nextRead{0, wantErr}
d := NewDecoder(StdEncoding, &faultInjectReader{
source: "VHdhcyBicmlsbGlnLCBhbmQgdGhlIHNsaXRoeSB0b3Zlcw==\", // twas brillig...
nextc: next,
コアとなるコードの解説
変更は src/pkg/encoding/base64/base64_test.go ファイルの TestDecoderIssue3577 関数内で行われています。
追加された行:
next <- nextRead{0, wantErr}
この行は、next チャネルに nextRead 構造体の新しいインスタンスを送信しています。
0: これはfaultInjectReaderが次に読み取るバイト数を示します。ここでは0バイトです。wantErr: これは、この読み取り操作の後にfaultInjectReaderが返すエラーです。errors.New("my error")で定義されたカスタムエラーです。
この追加により、faultInjectReader は以下のシーケンスで動作します。
- 最初の
Read呼び出しで5バイトを正常に読み取る。 - 次の
Read呼び出しで10バイトを読み取ろうとし、wantErrを返す。 - (追加された部分) その後、デコーダがさらに読み取りを試みた場合(おそらく
ReadFullの内部的な挙動変更により0バイトの読み取りが試みられる)、faultInjectReaderは再度wantErrを返す。
この修正は、io.ReadFull の挙動が変更された結果、Base64デコーダがエラーを受け取った後に、さらに0バイトの読み取りを試みるようになったという仮説を裏付けています。テストはこの新しい挙動を考慮に入れ、エラーが適切に伝播し続けることを保証するために調整されました。
関連リンク
- Go issue 3577: このコミットが修正しているテストケースの元となったGo issueを検索すると、より詳細な背景情報が得られる可能性があります。
- Go言語の
ioパッケージドキュメント:io.Readerやio.ReadFullの詳細な仕様を確認できます。 - Go言語の
encoding/base64パッケージドキュメント: Base64デコーダの動作に関する公式ドキュメントを参照できます。
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (ioパッケージ, encoding/base64パッケージ)
- Go言語のGitHubリポジトリ (コミット履歴、issueトラッカー)
- Go言語のコードレビューシステム (golang.org/cl/7249045)
- 一般的なBase64エンコーディングの知識
io.ReadFullの挙動に関する一般的な理解- テストにおけるエラー注入の概念