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[インデックス 15075] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のビルドツールである cmd/dist におけるWindows環境でのバグ修正に関するものです。具体的には、ファイル読み込み処理 readfile において、UnixおよびPlan 9環境では適切にバッファがリセットされていたのに対し、Windows環境ではリセットされていなかったために発生していた「バッファの残滓(dregs)」の問題を解決します。

コミット

commit 25d1fc9389b7313b0e5743c7742c30c36dc2396a
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Thu Jan 31 22:57:30 2013 -0800

    cmd/dist: fix build
    
    The Unix and Plan 9 readfile call breset(b) but Windows was not,
    leaving dregs in the buffer.
    
    TBR=golang-dev
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7229069

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/25d1fc9389b7313b0e5743c7742c30c36dc2396a

元コミット内容

cmd/dist: fix build

The Unix and Plan 9 readfile call breset(b) but Windows was not,
leaving dregs in the buffer.

変更の背景

Go言語のビルドシステムは、異なるオペレーティングシステム(OS)やアーキテクチャに対応するために、プラットフォーム固有のコードを含んでいます。cmd/dist はGoのソースコードからGoツールチェインをビルドするためのコマンドであり、その過程で様々なファイルを読み込む必要があります。

このコミットが行われた当時、cmd/dist 内の readfile 関数は、ファイルを読み込む際に内部バッファ Buf *b を使用していました。UnixおよびPlan 9向けの readfile の実装では、ファイル読み込みの前に breset(b) という関数を呼び出してバッファをリセットしていました。しかし、Windows向けの readfile の実装では、この breset(b) の呼び出しが欠落していました。

この欠落により、Windows環境で readfile が複数回呼び出されると、以前の読み込みでバッファに残っていたデータ(「dregs」、残滓)が新しい読み込みデータと混ざり合い、不正な結果を引き起こす可能性がありました。これはビルドプロセスにおける潜在的なバグであり、ビルドの失敗や誤ったバイナリの生成につながる恐れがありました。

前提知識の解説

  • cmd/dist: Go言語のソースコードからGoツールチェイン(コンパイラ、リンカ、標準ライブラリなど)をビルドするためのコマンドです。Goの自己ホスト型コンパイラが動作するために不可欠な初期ビルドプロセスを管理します。
  • readfile 関数: この文脈では、cmd/dist 内部で特定のファイルを読み込むために使用されるユーティリティ関数を指します。ビルドプロセス中に設定ファイルやソースファイルなどを読み込む際に利用されます。
  • バッファ (Buf *b): プログラムがデータを一時的に格納するために使用するメモリ領域です。ファイルからデータを読み込む際、通常は一度にすべてのデータを読み込むのではなく、チャンク(塊)に分けてバッファに読み込み、処理します。
  • breset(b): Buf 型のバッファ b をリセットする関数です。これは、バッファの現在の内容をクリアし、ポインタを先頭に戻すことで、新しいデータを書き込む準備を整える役割を果たします。これにより、以前のデータが新しいデータに影響を与えることを防ぎます。
  • Unix/Plan 9 と Windows の違い: オペレーティングシステムは、ファイルシステム、プロセス管理、メモリ管理など、多くの点で異なる内部実装を持っています。Goのビルドシステムはこれらの違いを吸収し、各プラットフォームで正しく動作するように設計されています。このコミットは、readfile 関数のプラットフォーム固有の実装における一貫性の欠如を浮き彫りにしています。

技術的詳細

問題の核心は、readfile 関数が内部的に使用するバッファ Buf *b の状態管理にありました。

  1. バッファの再利用: readfile 関数は、おそらく効率のために、呼び出しごとに新しいバッファを割り当てるのではなく、既存のバッファオブジェクトを再利用するように設計されていました。
  2. Windowsでのバッファ未リセット: UnixおよびPlan 9向けの readfile 実装では、ファイルを読み込む前に breset(b) を呼び出すことで、バッファをクリーンな状態に戻していました。これにより、前回の readfile 呼び出しでバッファに残っていたデータが完全に消去され、新しいファイルの内容だけがバッファに格納されることが保証されていました。
  3. 「dregs in the buffer」: しかし、Windows向けの readfile 実装では、この breset(b) の呼び出しが意図せず省略されていました。その結果、readfile が連続して呼び出された場合、2回目以降の呼び出しでは、バッファの先頭に新しいファイルの内容が書き込まれるものの、以前のファイルの内容の「残滓」がバッファの後半部分に残ってしまう可能性がありました。
  4. ビルドへの影響: この「残滓」が、readfile の呼び出し元が期待するデータ構造や内容を破壊し、cmd/dist のビルドプロセスが誤動作する原因となっていました。例えば、ファイルの内容を解析する際に、予期せぬデータが混入することでパースエラーが発生したり、誤った設定が適用されたりする可能性がありました。

このコミットは、Windows版の readfile 関数にも breset(b) を追加することで、このバッファの状態管理の不整合を解消し、すべてのプラットフォームで readfile が一貫してクリーンなバッファで動作するように修正しました。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/dist/windows.c
+++ b/src/cmd/dist/windows.c
@@ -530,6 +530,7 @@ readfile(Buf *b, char *file)
 	HANDLE h;
 	Rune *r;
 
+	breset(b);
 	if(vflag > 2)
 		errprintf("read %s\\n", file);
 	torune(&r, file);

コアとなるコードの解説

変更は src/cmd/dist/windows.c ファイル内の readfile 関数に対して行われました。

元のコードでは、readfile 関数の冒頭でバッファ b をリセットする処理がありませんでした。このコミットでは、以下の1行が追加されています。

	breset(b);

この breset(b) の呼び出しは、readfile 関数が実際にファイルの内容を読み込む前に、引数として渡された Buf 型のバッファ b を初期状態にリセットすることを保証します。これにより、バッファが以前の readfile 呼び出しからの古いデータを含んでいないことが保証され、Windows環境においてもUnixやPlan 9と同様に、常にクリーンなバッファにファイルの内容が読み込まれるようになります。

この修正は非常に小さく見えますが、バッファ管理における潜在的なデータ破損を防ぎ、cmd/dist のビルドの堅牢性と信頼性を向上させる上で重要な役割を果たします。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント (cmd/distに関する情報): https://pkg.go.dev/cmd/dist (一般的な情報源として)
  • Go言語のソースコード (Buf型やbreset関数の定義): Goのソースコードリポジトリ内 (例: src/cmd/dist/buf.csrc/cmd/dist/buf.h など、当時の実装による)
  • Go言語のIssueトラッカー (関連するバグ報告や議論): https://github.com/golang/go/issues (もし関連するIssueがあれば)
  • Go言語のメーリングリスト (golang-dev): https://groups.google.com/g/golang-dev (コミットメッセージに記載されているTBR/CCの宛先)