[インデックス 15084] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の reflect
パッケージにおける Value.Slice
メソッドのドキュメントを更新し、アドレス指定不可能な配列(unaddressable array)に対してこのメソッドがパニックを起こすことを明記するものです。これにより、Value.Slice
の挙動に関するドキュメントの正確性が向上し、開発者が予期せぬパニックに遭遇するのを防ぐことを目的としています。
コミット
commit 11d16dc53545438067fef0103c10eae126c11535
Author: Robert Daniel Kortschak <dan.kortschak@adelaide.edu.au>
Date: Fri Feb 1 10:02:23 2013 -0800
reflect: document that Value.Slice panics on an unaddressable array.
Fixes #4736.
R=rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7239045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/11d16dc53545438067fef0103c10eae126c11535
元コミット内容
reflect: document that Value.Slice panics on an unaddressable array.
このコミットは、reflect
パッケージの Value.Slice
メソッドが、アドレス指定不可能な配列に対して呼び出された場合にパニックを引き起こすという事実をドキュメントに追加するものです。これは、Go言語のIssue #4736を修正するための変更です。
変更の背景
この変更は、Go言語のIssue #4736に対応するものです。Issue #4736では、reflect.Value
型のインスタンスがアドレス指定不可能な配列を表す場合に、Slice
メソッドを呼び出すとパニックが発生するという問題が報告されていました。
Go言語の reflect
パッケージは、実行時に型情報を検査し、値を操作するための機能を提供します。しかし、リフレクションを介して値を操作する際には、Go言語の基本的なセマンティクス(例えば、アドレス指定可能性)が依然として適用されます。
Value.Slice
メソッドは、Array
、Slice
、または String
型の Value
からスライスを生成するために使用されます。しかし、アドレス指定不可能な配列(例えば、直接リテラルで作成された配列や、関数の戻り値としてコピーされた配列など)に対して Slice
を呼び出すと、内部的にポインタの取得やスライスヘッダの構築に必要な情報が不足しているため、ランタイムパニックが発生していました。
この挙動は、ドキュメントに明記されていなかったため、開発者が予期せぬパニックに遭遇し、デバッグに時間を要する可能性がありました。このコミットは、この重要な挙動をドキュメントに追記することで、開発者の混乱を解消し、より堅牢なコードを書く手助けをすることを目的としています。
前提知識の解説
Go言語の reflect
パッケージ
reflect
パッケージは、Goプログラムが実行時に自身の構造を検査し、変更することを可能にする機能(リフレクション)を提供します。これにより、プログラムは型情報にアクセスしたり、変数の値を動的に操作したりできます。
reflect.Value
: Goの任意の値を表す型です。この型を通じて、値の型、種類(Kind)、アドレス指定可能性などを調べたり、値を設定したりできます。reflect.Kind
: Goの組み込み型(例:Array
,Slice
,String
,Int
,Struct
など)を表す列挙型です。Value.Slice
メソッド:reflect.Value
のメソッドの一つで、Array
、Slice
、またはString
型のValue
から新しいValue
(スライス)を生成します。これは、Goの組み込みスライス操作[beg:end]
に相当するリフレクション版です。
アドレス指定可能性 (Addressability)
Go言語において、変数が「アドレス指定可能 (addressable)」であるとは、その変数のメモリ上のアドレス(ポインタ)を取得できることを意味します。アドレス指定可能な変数に対しては、&
演算子を使用してポインタを取得できます。
一般的に、以下のものがアドレス指定可能です。
- 変数の実体(例:
var x int
のx
) - ポインタの指す先(例:
*p
) - スライス要素(例:
s[i]
) - 配列要素(例:
a[i]
) - 構造体のフィールド(例:
s.field
)
一方、以下のものはアドレス指定不可能です。
- 定数リテラル(例:
10
,"hello"
) - マップ要素(例:
m[key]
) - 関数の戻り値(例:
f()
) - インターフェースの値の動的な部分(インターフェース変数が保持する具体的な値そのものはアドレス指定可能でも、インターフェース変数を介して直接その値のアドレスを取得することはできない)
reflect
パッケージで値を操作する際、特に値を変更したり、スライスやマップのような複合型を操作したりする場合には、その reflect.Value
がアドレス指定可能であるかどうかが重要になります。Value.CanAddr()
メソッドを使って、reflect.Value
がアドレス指定可能かどうかをチェックできます。
パニック (Panic)
Go言語におけるパニックは、プログラムの実行を中断させる回復不可能なエラー状態です。パニックが発生すると、通常の制御フローは停止し、遅延関数(defer
)が実行された後、プログラムは終了します。パニックは、通常、プログラミングエラーや予期せぬ異常な状態を示すために使用されます。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、reflect.Value.Slice
メソッドのドキュメントに、特定の条件下でパニックが発生するという重要な情報を追加した点にあります。
変更前は、Value.Slice
のドキュメントには「v
の Kind
が Array
、Slice
、または String
でない場合にパニックを起こす」とだけ記載されていました。しかし、実際には、v
が Array
型であっても、それがアドレス指定不可能な配列である場合にはパニックが発生するという、もう一つのパニック条件が存在していました。
Go言語の内部実装において、reflect.Value.Slice
は、基となる配列のデータへのポインタを取得し、新しいスライスヘッダ(ポインタ、長さ、容量)を構築する必要があります。アドレス指定不可能な配列の場合、この基となるデータへのポインタを安全に取得することができません。例えば、[3]int{1, 2, 3}
のような配列リテラルは、それ自体はアドレス指定可能ではありません。もし、このようなリテラルから直接 reflect.Value
を作成し、Slice
を呼び出そうとすると、Goランタイムは有効なメモリ位置を特定できず、パニックを引き起こします。
このコミットは、この「アドレス指定不可能な配列」という条件を明示的にドキュメントに追加することで、reflect
パッケージを利用する開発者が、なぜ特定の状況で Slice
メソッドがパニックを起こすのかを理解しやすくなります。これにより、開発者はコードを書く際に、Value
がアドレス指定可能であるかどうかのチェック(Value.CanAddr()
)を適切に行うなど、より堅牢なリフレクションコードを記述できるようになります。
この変更は、Go言語のドキュメントの正確性と完全性を高めるための重要な改善であり、リフレクションのような高度な機能を使用する際の開発者の体験を向上させます。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/reflect/value.go
+++ b/src/pkg/reflect/value.go
@@ -1448,7 +1448,7 @@ func (v Value) SetString(x string) {
}
// Slice returns a slice of v.
-// It panics if v's Kind is not Array, Slice, or String.
+// It panics if v's Kind is not Array, Slice or String, or if v is an unaddressable array.
func (v Value) Slice(beg, end int) Value {
var (
cap int
コアとなるコードの解説
変更は src/pkg/reflect/value.go
ファイルの Slice
メソッドのコメント行にあります。
元のコメント:
// It panics if v's Kind is not Array, Slice, or String.
(v
の種類が Array
、Slice
、または String
でない場合にパニックを起こします。)
変更後のコメント:
// It panics if v's Kind is not Array, Slice or String, or if v is an unaddressable array.
(v
の種類が Array
、Slice
、または String
でない場合、または v
がアドレス指定不可能な配列である場合にパニックを起こします。)
この変更は、Value.Slice
メソッドがパニックを起こす条件に「v
がアドレス指定不可能な配列である場合」という条件を明確に追加しています。これにより、ドキュメントが実際の挙動と完全に一致するようになり、開発者がリフレクションAPIを使用する際の誤解や予期せぬエラーを減らすことができます。これはコードの機能変更ではなく、ドキュメントの正確性を高めるための変更です。
関連リンク
- Go Issue #4736: https://code.google.com/p/go/issues/detail?id=4736 (古いGoogle Codeのリンクですが、GoのIssueトラッカーで検索すると現在のGitHubのIssueにリダイレクトされる可能性があります。)
- Gerrit Change-ID:
https://golang.org/cl/7239045
(GoプロジェクトのGerritコードレビューシステムへのリンク)
参考にした情報源リンク
- Go言語の
reflect
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/reflect - Go言語におけるアドレス指定可能性に関する議論やドキュメント
- Go言語のパニックに関するドキュメント
- Go言語のIssue #4736に関する情報 (Web検索で確認)
- Go言語のGerritコードレビューシステムに関する情報 (Web検索で確認)
- Go言語の配列とスライスの基本概念# [インデックス 15084] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の reflect
パッケージにおける Value.Slice
メソッドのドキュメントを更新し、アドレス指定不可能な配列(unaddressable array)に対してこのメソッドがパニックを起こすことを明記するものです。これにより、Value.Slice
の挙動に関するドキュメントの正確性が向上し、開発者が予期せぬパニックに遭遇するのを防ぐことを目的としています。
コミット
commit 11d16dc53545438067fef0103c10eae126c11535
Author: Robert Daniel Kortschak <dan.kortschak@adelaide.edu.au>
Date: Fri Feb 1 10:02:23 2013 -0800
reflect: document that Value.Slice panics on an unaddressable array.
Fixes #4736.
R=rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7239045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/11d16dc53545438067fef0103c10eae126c11535
元コミット内容
reflect: document that Value.Slice panics on an unaddressable array.
このコミットは、reflect
パッケージの Value.Slice
メソッドが、アドレス指定不可能な配列に対して呼び出された場合にパニックを引き起こすという事実をドキュメントに追加するものです。これは、Go言語のIssue #4736を修正するための変更です。
変更の背景
この変更は、Go言語のIssue #4736に対応するものです。Issue #4736では、reflect.Value
型のインスタンスがアドレス指定不可能な配列を表す場合に、Slice
メソッドを呼び出すとパニックが発生するという問題が報告されていました。
Go言語の reflect
パッケージは、実行時に型情報を検査し、値を操作するための機能を提供します。しかし、リフレクションを介して値を操作する際には、Go言語の基本的なセマンティクス(例えば、アドレス指定可能性)が依然として適用されます。
Value.Slice
メソッドは、Array
、Slice
、または String
型の Value
からスライスを生成するために使用されます。しかし、アドレス指定不可能な配列(例えば、直接リテラルで作成された配列や、関数の戻り値としてコピーされた配列など)に対して Slice
を呼び出すと、内部的にポインタの取得やスライスヘッダの構築に必要な情報が不足しているため、ランタイムパニックが発生していました。
この挙動は、ドキュメントに明記されていなかったため、開発者が予期せぬパニックに遭遇し、デバッグに時間を要する可能性がありました。このコミットは、この重要な挙動をドキュメントに追記することで、開発者の混乱を解消し、より堅牢なコードを書く手助けをすることを目的としています。
前提知識の解説
Go言語の reflect
パッケージ
reflect
パッケージは、Goプログラムが実行時に自身の構造を検査し、変更することを可能にする機能(リフレクション)を提供します。これにより、プログラムは型情報にアクセスしたり、変数の値を動的に操作したりできます。
reflect.Value
: Goの任意の値を表す型です。この型を通じて、値の型、種類(Kind)、アドレス指定可能性などを調べたり、値を設定したりできます。reflect.Kind
: Goの組み込み型(例:Array
,Slice
,String
,Int
,Struct
など)を表す列挙型です。Value.Slice
メソッド:reflect.Value
のメソッドの一つで、Array
、Slice
、またはString
型のValue
から新しいValue
(スライス)を生成します。これは、Goの組み込みスライス操作[beg:end]
に相当するリフレクション版です。
アドレス指定可能性 (Addressability)
Go言語において、変数が「アドレス指定可能 (addressable)」であるとは、その変数のメモリ上のアドレス(ポインタ)を取得できることを意味します。アドレス指定可能な変数に対しては、&
演算子を使用してポインタを取得できます。
一般的に、以下のものがアドレス指定可能です。
- 変数の実体(例:
var x int
のx
) - ポインタの指す先(例:
*p
) - スライス要素(例:
s[i]
) - 配列要素(例:
a[i]
) - 構造体のフィールド(例:
s.field
)
一方、以下のものはアドレス指定不可能です。
- 定数リテラル(例:
10
,"hello"
) - マップ要素(例:
m[key]
) - 関数の戻り値(例:
f()
) - インターフェースの値の動的な部分(インターフェース変数が保持する具体的な値そのものはアドレス指定可能でも、インターフェース変数を介して直接その値のアドレスを取得することはできない)
reflect
パッケージで値を操作する際、特に値を変更したり、スライスやマップのような複合型を操作したりする場合には、その reflect.Value
がアドレス指定可能であるかどうかが重要になります。Value.CanAddr()
メソッドを使って、reflect.Value
がアドレス指定可能かどうかをチェックできます。
パニック (Panic)
Go言語におけるパニックは、プログラムの実行を中断させる回復不可能なエラー状態です。パニックが発生すると、通常の制御フローは停止し、遅延関数(defer
)が実行された後、プログラムは終了します。パニックは、通常、プログラミングエラーや予期せぬ異常な状態を示すために使用されます。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、reflect.Value.Slice
メソッドのドキュメントに、特定の条件下でパニックが発生するという重要な情報を追加した点にあります。
変更前は、Value.Slice
のドキュメントには「v
の Kind
が Array
、Slice
、または String
でない場合にパニックを起こす」とだけ記載されていました。しかし、実際には、v
が Array
型であっても、それがアドレス指定不可能な配列である場合にはパニックが発生するという、もう一つのパニック条件が存在していました。
Go言語の内部実装において、reflect.Value.Slice
は、基となる配列のデータへのポインタを取得し、新しいスライスヘッダ(ポインタ、長さ、容量)を構築する必要があります。アドレス指定不可能な配列の場合、この基となるデータへのポインタを安全に取得することができません。例えば、[3]int{1, 2, 3}
のような配列リテラルは、それ自体はアドレス指定可能ではありません。もし、このようなリテラルから直接 reflect.Value
を作成し、Slice
を呼び出そうとすると、Goランタイムは有効なメモリ位置を特定できず、パニックを引き起こします。
このコミットは、この「アドレス指定不可能な配列」という条件を明示的にドキュメントに追加することで、reflect
パッケージを利用する開発者が、なぜ特定の状況で Slice
メソッドがパニックを起こすのかを理解しやすくなります。これにより、開発者はコードを書く際に、Value
がアドレス指定可能であるかどうかのチェック(Value.CanAddr()
)を適切に行うなど、より堅牢なリフレクションコードを記述できるようになります。
この変更は、Go言語のドキュメントの正確性と完全性を高めるための重要な改善であり、リフレクションのような高度な機能を使用する際の開発者の体験を向上させます。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/reflect/value.go
+++ b/src/pkg/reflect/value.go
@@ -1448,7 +1448,7 @@ func (v Value) SetString(x string) {
}
// Slice returns a slice of v.
-// It panics if v's Kind is not Array, Slice, or String.
+// It panics if v's Kind is not Array, Slice or String, or if v is an unaddressable array.
func (v Value) Slice(beg, end int) Value {
var (
cap int
コアとなるコードの解説
変更は src/pkg/reflect/value.go
ファイルの Slice
メソッドのコメント行にあります。
元のコメント:
// It panics if v's Kind is not Array, Slice, or String.
(v
の種類が Array
、Slice
、または String
でない場合にパニックを起こします。)
変更後のコメント:
// It panics if v's Kind is not Array, Slice or String, or if v is an unaddressable array.
(v
の種類が Array
、Slice
、または String
でない場合、または v
がアドレス指定不可能な配列である場合にパニックを起こします。)
この変更は、Value.Slice
メソッドがパニックを起こす条件に「v
がアドレス指定不可能な配列である場合」という条件を明確に追加しています。これにより、ドキュメントが実際の挙動と完全に一致するようになり、開発者がリフレクションAPIを使用する際の誤解や予期せぬエラーを減らすことができます。これはコードの機能変更ではなく、ドキュメントの正確性を高めるための変更です。
関連リンク
- Go Issue #4736: https://code.google.com/p/go/issues/detail?id=4736 (古いGoogle Codeのリンクですが、GoのIssueトラッカーで検索すると現在のGitHubのIssueにリダイレクトされる可能性があります。)
- Gerrit Change-ID:
https://golang.org/cl/7239045
(GoプロジェクトのGerritコードレビューシステムへのリンク)
参考にした情報源リンク
- Go言語の
reflect
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/reflect - Go言語におけるアドレス指定可能性に関する議論やドキュメント
- Go言語のパニックに関するドキュメント
- Go言語のIssue #4736に関する情報 (Web検索で確認)
- Go言語のGerritコードレビューシステムに関する情報 (Web検索で確認)
- Go言語の配列とスライスの基本概念