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[インデックス 15096] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のランタイムにおけるWindowsビルドの問題を修正するものです。具体的には、src/pkg/runtime/signal_windows_386.c ファイル内のトレースバック処理において、誤ったゴルーチンポインタが渡されていた問題を修正しています。

コミット

commit e5ea2d53358f8c28853ef91b3c325e81858e09ed
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date:   Sat Feb 2 11:41:04 2013 -0800

    runtime: fix windows build
    
    Fixes #4743.
    
    R=golang-dev, bradfitz
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7284044

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/e5ea2d53358f8c28853ef91b3c325e81858e09ed

元コミット内容

runtime: fix windows build

Fixes #4743.

R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7284044

変更の背景

このコミットは、Go言語のランタイムがWindows環境でビルドされる際に発生していた問題に対処するために作成されました。コミットメッセージにある Fixes #4743 は、GoプロジェクトのIssueトラッカーにおける特定のバグ報告に対応していることを示しています。この種のビルドエラーは、特定のプラットフォーム(この場合はWindows)でのGoアプリケーションの実行可能性に直接影響するため、非常に重要です。特に、ランタイムレベルでの問題は、アプリケーションの安定性やデバッグの困難さに直結します。

前提知識の解説

  • Goランタイム (Go Runtime): Go言語で書かれたプログラムを実行するために必要な基盤ソフトウェアです。ガベージコレクション、スケジューラ、システムコールインターフェース、エラーハンドリング(パニックとリカバリ)、そしてシグナルハンドリングなど、多くの低レベルな機能を提供します。
  • シグナルハンドリング (Signal Handling): オペレーティングシステムがプログラムに送信する非同期イベント(シグナル)を処理するメカニズムです。例えば、プログラムの異常終了(セグメンテーション違反など)、Ctrl+Cによる中断、タイマーイベントなどがシグナルとして扱われます。Goランタイムは、これらのシグナルを捕捉し、適切に処理することで、プログラムのクラッシュを防いだり、デバッグ情報を提供したりします。
  • コンテキスト (Context): プログラムの実行状態を保持するデータ構造です。CPUレジスタの値(Eip, Espなど)、スタックポインタ、プログラムカウンタなどが含まれます。シグナルハンドラが呼び出された際、このコンテキスト情報を用いて、シグナル発生時のプログラムの状態を再現したり、デバッグ情報を取得したりします。
  • ゴルーチン (Goroutine): Go言語における軽量な並行実行単位です。OSのスレッドよりもはるかに軽量で、数百万個のゴルーチンを同時に実行することも可能です。GoランタイムのスケジューラがゴルーチンをOSスレッドにマッピングし、効率的に実行を管理します。
  • トレースバック (Traceback): プログラムがクラッシュしたり、パニックを起こしたりした際に、関数呼び出しの履歴(スタックトレース)を表示する機能です。これにより、どの関数がどの関数を呼び出し、最終的に問題が発生した場所を特定するのに役立ちます。デバッグにおいて非常に重要な情報です。
  • Windowsビルド (Windows Build): GoプログラムをWindowsオペレーティングシステム上で実行可能な形式にコンパイルするプロセスです。Goはクロスコンパイルをサポートしており、LinuxやmacOSなどの環境からWindows向けの実行ファイルを生成できます。

技術的詳細

このコミットは、GoランタイムのWindows版シグナルハンドリングコード、具体的には src/pkg/runtime/signal_windows_386.c ファイルに焦点を当てています。このファイルは、Windowsの32ビット(x86)アーキテクチャにおけるシグナル(Windowsでは「例外」として扱われることが多い)の処理を担当しています。

問題の核心は、runtime·sighandler 関数内で runtime·traceback および runtime·tracebackothers 関数が呼び出される際に、誤ったゴルーチンポインタが渡されていたことにあります。

  • runtime·sighandler(ExceptionRecord *info, Context *r, G *gp): この関数は、Windowsが例外(シグナル)を検出した際にGoランタイムによって呼び出されるシグナルハンドラです。引数として、例外情報 (info)、CPUレジスタのコンテキスト (r)、そして現在のゴルーチン (gp) を受け取ります。
  • runtime·traceback((void*)r->Eip, (void*)r->Esp, 0, m->curg): 変更前のコードでは、トレースバック関数に m->curg が渡されていました。ここで m は現在のM(Machine、OSスレッドに相当)を表し、m->curg はそのMが現在実行しているゴルーチンを指します。
  • runtime·tracebackothers(m->curg): 同様に、他のゴルーチンのトレースバックを取得する関数にも m->curg が渡されていました。

問題は、runtime·sighandler 関数が既に引数として正しい現在のゴルーチンポインタ gp を受け取っているにもかかわらず、内部で m->curg を使用していた点です。Goランタイムの内部構造において、m->curg は常に現在のMが実行しているゴルーチンを指しますが、シグナルハンドラが呼び出される特定のコンテキストでは、gp がより正確な、シグナル発生時のゴルーチンを示す可能性があります。特に、シグナルが非同期に発生した場合や、Goスケジューラの特定の状態によっては、m->curg が期待するゴルーチンと異なる場合があり、これがトレースバックの誤りやビルドエラーの原因となっていたと考えられます。

この修正は、シグナルハンドラに渡された gp 引数を直接使用することで、トレースバックが常にシグナル発生時の正しいゴルーチンコンテキストに対して行われるように保証します。これにより、Windows環境でのビルドが正常に行われ、デバッグ時のトレースバック情報も正確になります。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/pkg/runtime/signal_windows_386.c ファイルの以下の部分です。

--- a/src/pkg/runtime/signal_windows_386.c
+++ b/src/pkg/runtime/signal_windows_386.c
@@ -75,8 +75,8 @@ runtime·sighandler(ExceptionRecord *info, Context *r, G *gp)
 	runtime·printf("\n");
 
 	if(runtime·gotraceback()){
-		runtime·traceback((void*)r->Eip, (void*)r->Esp, 0, m->curg);
-		runtime·tracebackothers(m->curg);
+		runtime·traceback((void*)r->Eip, (void*)r->Esp, 0, gp);
+		runtime·tracebackothers(gp);
 	}
 

コアとなるコードの解説

変更は非常にシンプルですが、その影響は大きいです。

  • 変更前:

    runtime·traceback((void*)r->Eip, (void*)r->Esp, 0, m->curg);
    runtime·tracebackothers(m->curg);
    

    ここでは、m->curg がトレースバックの対象となるゴルーチンとして渡されていました。m は現在のOSスレッド(GoランタイムではMとして表現される)の構造体ポインタであり、curgはそのMが現在実行しているゴルーチンへのポインタです。

  • 変更後:

    runtime·traceback((void*)r->Eip, (void*)r->Esp, 0, gp);
    runtime·tracebackothers(gp);
    

    変更後では、runtime·sighandler 関数に引数として渡された gp が直接使用されています。gp は、シグナルハンドラが呼び出された時点での「現在のゴルーチン」を正確に指すポインタです。

この修正により、シグナル発生時のトレースバックが、そのシグナルを受け取った(またはそのシグナルによって影響を受けた)正確なゴルーチンに対して行われることが保証されます。これにより、Windows環境でのデバッグ情報の正確性が向上し、ビルド時の潜在的な問題が解消されます。これは、Goランタイムの堅牢性を高めるための重要な修正と言えます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント (Go Runtime, Goroutines, Signalsに関する一般的な情報)
  • Go言語のソースコード (特に src/pkg/runtime ディレクトリ内のファイル)
  • Go Issue Tracker (Issue #4743の詳細)
  • Go Code Review System (Gerrit) のアーカイブ
  • Windowsにおける例外処理に関する一般的な情報 (MSDNなど)
  • Go言語の並行処理モデルに関する技術記事や解説

[インデックス 15096] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のランタイムにおけるWindowsビルドの問題を修正するものです。具体的には、src/pkg/runtime/signal_windows_386.c ファイル内のトレースバック処理において、誤ったゴルーチンポインタが渡されていた問題を修正しています。

コミット

commit e5ea2d53358f8c28853ef91b3c325e81858e09ed
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date:   Sat Feb 2 11:41:04 2013 -0800

    runtime: fix windows build
    
    Fixes #4743.
    
    R=golang-dev, bradfitz
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7284044

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/e5ea2d53358f8c28853ef91b3c325e81858e09ed

元コミット内容

runtime: fix windows build

Fixes #4743.

R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7284044

変更の背景

このコミットは、Go言語のランタイムがWindows環境でビルドされる際に発生していた問題に対処するために作成されました。コミットメッセージにある Fixes #4743 は、GoプロジェクトのIssueトラッカーにおける特定のバグ報告に対応していることを示しています。この種のビルドエラーは、特定のプラットフォーム(この場合はWindows)でのGoアプリケーションの実行可能性に直接影響するため、非常に重要です。特に、ランタイムレベルでの問題は、アプリケーションの安定性やデバッグの困難さに直結します。

前提知識の解説

  • Goランタイム (Go Runtime): Go言語で書かれたプログラムを実行するために必要な基盤ソフトウェアです。ガベージコレクション、スケジューラ、システムコールインターフェース、エラーハンドリング(パニックとリカバリ)、そしてシグナルハンドリングなど、多くの低レベルな機能を提供します。
  • シグナルハンドリング (Signal Handling): オペレーティングシステムがプログラムに送信する非同期イベント(シグナル)を処理するメカニズムです。例えば、プログラムの異常終了(セグメンテーション違反など)、Ctrl+Cによる中断、タイマーイベントなどがシグナルとして扱われます。Goランタイムは、これらのシグナルを捕捉し、適切に処理することで、プログラムのクラッシュを防いだり、デバッグ情報を提供したりします。
  • コンテキスト (Context): プログラムの実行状態を保持するデータ構造です。CPUレジスタの値(Eip, Espなど)、スタックポインタ、プログラムカウンタなどが含まれます。シグナルハンドラが呼び出された際、このコンテキスト情報を用いて、シグナル発生時のプログラムの状態を再現したり、デバッグ情報を取得したりします。
  • ゴルーチン (Goroutine): Go言語における軽量な並行実行単位です。OSのスレッドよりもはるかに軽量で、数百万個のゴルーチンを同時に実行することも可能です。GoランタイムのスケジューラがゴルーチンをOSスレッドにマッピングし、効率的に実行を管理します。
  • トレースバック (Traceback): プログラムがクラッシュしたり、パニックを起こしたりした際に、関数呼び出しの履歴(スタックトレース)を表示する機能です。これにより、どの関数がどの関数を呼び出し、最終的に問題が発生した場所を特定するのに役立ちます。デバッグにおいて非常に重要な情報です。
  • Windowsビルド (Windows Build): GoプログラムをWindowsオペレーティングシステム上で実行可能な形式にコンパイルするプロセスです。Goはクロスコンパイルをサポートしており、LinuxやmacOSなどの環境からWindows向けの実行ファイルを生成できます。

技術的詳細

このコミットは、GoランタイムのWindows版シグナルハンドリングコード、具体的には src/pkg/runtime/signal_windows_386.c ファイルに焦点を当てています。このファイルは、Windowsの32ビット(x86)アーキテクチャにおけるシグナル(Windowsでは「例外」として扱われることが多い)の処理を担当しています。

問題の核心は、runtime·sighandler 関数内で runtime·traceback および runtime·tracebackothers 関数が呼び出される際に、誤ったゴルーチンポインタが渡されていたことにあります。

  • runtime·sighandler(ExceptionRecord *info, Context *r, G *gp): この関数は、Windowsが例外(シグナル)を検出した際にGoランタイムによって呼び出されるシグナルハンドラです。引数として、例外情報 (info)、CPUレジスタのコンテキスト (r)、そして現在のゴルーチン (gp) を受け取ります。
  • runtime·traceback((void*)r->Eip, (void*)r->Esp, 0, m->curg): 変更前のコードでは、トレースバック関数に m->curg が渡されていました。ここで m は現在のM(Machine、OSスレッドに相当)を表し、m->curg はそのMが現在実行しているゴルーチンを指します。
  • runtime·tracebackothers(m->curg): 同様に、他のゴルーチンのトレースバックを取得する関数にも m->curg が渡されていました。

問題は、runtime·sighandler 関数が既に引数として正しい現在のゴルーチンポインタ gp を受け取っているにもかかわらず、内部で m->curg を使用していた点です。Goランタイムの内部構造において、m->curg は常に現在のMが実行しているゴルーチンを指しますが、シグナルハンドラが呼び出される特定のコンテキストでは、gp がより正確な、シグナル発生時のゴルーチンを示す可能性があります。特に、シグナルが非同期に発生した場合や、Goスケジューラの特定の状態によっては、m->curg が期待するゴルーチンと異なる場合があり、これがトレースバックの誤りやビルドエラーの原因となっていたと考えられます。

この修正は、シグナルハンドラに渡された gp 引数を直接使用することで、トレースバックが常にシグナル発生時の正しいゴルーチンコンテキストに対して行われるように保証します。これにより、Windows環境でのビルドが正常に行われ、デバッグ時のトレースバック情報も正確になります。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/pkg/runtime/signal_windows_386.c ファイルの以下の部分です。

--- a/src/pkg/runtime/signal_windows_386.c
+++ b/src/pkg/runtime/signal_windows_386.c
@@ -75,8 +75,8 @@ runtime·sighandler(ExceptionRecord *info, Context *r, G *gp)
 	runtime·printf("\n");
 
 	if(runtime·gotraceback()){
-		runtime·traceback((void*)r->Eip, (void*)r->Esp, 0, m->curg);
-		runtime·tracebackothers(m->curg);
+		runtime·traceback((void*)r->Eip, (void*)r->Esp, 0, gp);
+		runtime·tracebackothers(gp);
 	}
 

コアとなるコードの解説

変更は非常にシンプルですが、その影響は大きいです。

  • 変更前:

    runtime·traceback((void*)r->Eip, (void*)r->Esp, 0, m->curg);
    runtime·tracebackothers(m->curg);
    

    ここでは、m->curg がトレースバックの対象となるゴルーチンとして渡されていました。m は現在のOSスレッド(GoランタイムではMとして表現される)の構造体ポインタであり、curgはそのMが現在実行しているゴルーチンへのポインタです。

  • 変更後:

    runtime·traceback((void*)r->Eip, (void*)r->Esp, 0, gp);
    runtime·tracebackothers(gp);
    

    変更後では、runtime·sighandler 関数に引数として渡された gp が直接使用されています。gp は、シグナルハンドラが呼び出された時点での「現在のゴルーチン」を正確に指すポインタです。

この修正により、シグナル発生時のトレースバックが、そのシグナルを受け取った(またはそのシグナルによって影響を受けた)正確なゴルーチンに対して行われることが保証されます。これにより、Windows環境でのデバッグ情報の正確性が向上し、ビルド時の潜在的な問題が解消されます。これは、Goランタイムの堅牢性を高めるための重要な修正と言えます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント (Go Runtime, Goroutines, Signalsに関する一般的な情報)
  • Go言語のソースコード (特に src/pkg/runtime ディレクトリ内のファイル)
  • Go Code Review System (Gerrit) のアーカイブ
  • Windowsにおける例外処理に関する一般的な情報 (MSDNなど)
  • Go言語の並行処理モデルに関する技術記事や解説