[インデックス 15112] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のコマンドラインツール go
の get
サブコマンドに関するヘルプメッセージの更新を目的としています。具体的には、go get
が go build
コマンドの全てのビルドフラグを受け入れることを明示し、古い情報や冗長な説明を削除することで、ユーザーに対する情報の正確性と簡潔性を向上させています。
コミット
commit 46d6f3c62f9f51ac349b90b2181627d5c1ed424b
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Sun Feb 3 13:08:23 2013 -0500
cmd/go: update 'go get' help message
It accepts all the build flags.
Say that instead of making a copy that will go stale.
Fixes #4742.
R=golang-dev, minux.ma
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7229081
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/46d6f3c62f9f51ac349b90b2181627d5c1ed424b
元コミット内容
cmd/go: update 'go get' help message
It accepts all the build flags.
Say that instead of making a copy that will go stale.
Fixes #4742.
変更の背景
この変更の背景には、go get
コマンドのヘルプメッセージが、その実際の機能と乖離していたという問題があります。以前のヘルプメッセージでは、go get
が go build
や go install
と同じ意味を持つ特定のフラグ (-a
, -n
, -v
, -x
, -p
) を受け入れると個別に列挙していました。しかし、実際には go get
は go build
コマンドがサポートする全てのビルドフラグを受け入れることができました。
この不一致は、ユーザーが go get
の完全な機能を理解する上で混乱を招く可能性がありました。特に、ヘルプメッセージに記載されていないビルドフラグが go get
で利用できるにもかかわらず、その情報が欠落していることは、ユーザーエクスペリエンスの低下につながります。
コミットメッセージにある "Say that instead of making a copy that will go stale." (陳腐化するコピーを作る代わりに、そのように言う) という記述は、この問題の本質をよく表しています。つまり、特定のフラグを個別に列挙するのではなく、「go build
の全てのビルドフラグを受け入れる」という包括的な表現にすることで、ヘルプメッセージが将来の go build
フラグの追加や変更に対して自動的に対応できるようになり、情報の陳腐化を防ぐ狙いがあります。
また、Fixes #4742
とあることから、この変更はGoのIssueトラッカーで報告された特定の課題(Issue 4742)を解決するために行われたことが示唆されます。このIssueは、おそらく go get
のヘルプメッセージの不正確さや不完全さに関するものだったと考えられます。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、Go言語の基本的なコマンドラインツールと、特にパッケージ管理およびビルドに関する知識が必要です。
go
コマンド: Go言語の主要なコマンドラインツールであり、コードのコンパイル、実行、テスト、パッケージの取得など、様々な開発タスクを管理します。go get
コマンド:- Goのパッケージ管理において非常に重要なコマンドです。
- 指定されたインポートパスのパッケージとその依存関係をダウンロードし、インストールします。
- 通常、リモートリポジトリ(GitHubなど)からソースコードを取得し、
GOPATH
または Go Modules のキャッシュに配置します。 - ダウンロード後、デフォルトでは
go install
と同様にパッケージをビルドしてインストールします。
go build
コマンド:- Goのソースファイルをコンパイルして実行可能ファイルやパッケージを生成します。
- 様々な「ビルドフラグ」を受け入れ、コンパイルの挙動を制御できます。例えば、
-v
(詳細出力)、-x
(コマンド表示)、-race
(データ競合検出) などがあります。
go install
コマンド:go build
と似ていますが、コンパイルしたパッケージや実行可能ファイルを標準のインストール場所(通常はGOPATH/bin
やGOBIN
)に配置します。go get
がダウンロード後に実行するデフォルトのアクションです。
- コマンドラインフラグ (Flags):
- コマンドの挙動を変更するために、コマンド名の後に続くオプションのことです。通常、ハイフン (
-
) で始まり、その後に一文字の略称(例:-d
)または完全な単語(例:--verbose
)が続きます。 - Goのコマンドでは、多くのフラグが共通の目的で使用されます。
- コマンドの挙動を変更するために、コマンド名の後に続くオプションのことです。通常、ハイフン (
doc.go
ファイル:- Goのパッケージやコマンドのドキュメントを記述するための慣習的なファイルです。
go doc
コマンドやgo help
コマンドで表示されるヘルプメッセージのソースとなります。
UsageLine
:- Goのコマンド定義において、そのコマンドの基本的な使用方法(引数やフラグの形式)を示す一行の文字列です。
go help <command>
を実行した際に表示される最初の行に相当します。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、主にGoコマンドのヘルプメッセージの生成方法と、そのメッセージがユーザーに与える影響に焦点を当てています。
Goのコマンドラインツールは、cmd/go
パッケージ内で定義されており、各サブコマンド(get
, build
, install
など)は Command
構造体として表現されます。この構造体には、UsageLine
(コマンドの使用方法を示す一行の文字列) や Long
(詳細なヘルプメッセージ) といったフィールドが含まれています。
このコミットでは、以下の2つのファイルが変更されています。
src/cmd/go/doc.go
: これはgo
コマンド全体のドキュメント、特にgo help
で表示される一般的なヘルプメッセージを定義しているファイルです。go get
コマンドに関する一般的な説明もここに記述されています。src/cmd/go/get.go
: これはgo get
サブコマンド自体の実装と、そのコマンド固有のヘルプメッセージ(go help get
で表示される内容)を定義しているファイルです。
変更の核心は、go get
が go build
の全てのビルドフラグを受け入れるという事実を、より正確かつ簡潔に表現することです。以前は、go get
のヘルプメッセージには、go build
と共通のフラグの一部が個別に列挙されていました。これは、新しいビルドフラグが go build
に追加されるたびに、go get
のヘルプメッセージも手動で更新する必要があるという、保守性の低いアプローチでした。
このコミットでは、この冗長性と保守性の問題を解決するために、以下の変更が行われました。
UsageLine
の変更:go get
のUsageLine
から、個別のビルドフラグの列挙を削除し、代わりに[build flags]
という汎用的なプレースホルダーを導入しました。これにより、go get
がビルドフラグを受け入れることを示しつつ、具体的なフラグのリストを省略しています。- 説明文の変更: ヘルプメッセージの本文から、
go build
と共通のフラグに関する個別の説明を削除しました。その代わりに、「go get
はgo build
およびgo install
コマンドの全てのフラグを受け入れ、インストールを制御します。詳細はgo help build
を参照してください。」という新しい説明を追加しました。
この変更により、go get
のヘルプメッセージは以下の点で改善されました。
- 正確性:
go get
が実際に受け入れる全てのビルドフラグについて、より正確な情報を提供します。 - 簡潔性: 冗長なフラグの列挙を削除し、ヘルプメッセージをより読みやすくしました。
- 保守性: 将来
go build
に新しいフラグが追加されても、go get
のヘルプメッセージを更新する必要がなくなります。ユーザーは常にgo help build
を参照することで、最新のビルドフラグの情報を得ることができます。 - 一貫性:
go build
とgo install
のフラグに関する情報源を一元化することで、Goコマンド全体のヘルプシステムの一貫性が向上します。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットで変更されたコアとなるコードは、src/cmd/go/doc.go
と src/cmd/go/get.go
の2つのファイルにあります。
src/cmd/go/doc.go
の変更
--- a/src/cmd/go/doc.go
+++ b/src/cmd/go/doc.go
@@ -224,14 +224,11 @@ Download and install packages and dependencies
Usage:
- go get [-a] [-d] [-fix] [-n] [-p n] [-u] [-v] [-x] [packages]
+ go get [-d] [-fix] [-u] [build flags] [packages]
Get downloads and installs the packages named by the import paths,
along with their dependencies.
-The -a, -n, -v, -x, and -p flags have the same meaning as in 'go build'
-and 'go install'. See 'go help build'.
-
The -d flag instructs get to stop after downloading the packages; that is,
it instructs get not to install the packages.
@@ -242,6 +239,9 @@ The -u flag instructs get to use the network to update the named packages
and their dependencies. By default, get uses the network to check out
missing packages but does not use it to look for updates to existing packages.
+Get also accepts all the flags in the 'go build' and 'go install' commands,
+to control the installation. See 'go help build'.
+
When checking out or updating a package, get looks for a branch or tag
that matches the locally installed version of Go. The most important
rule is that if the local installation is running version "go1", get
src/cmd/go/get.go
の変更
--- a/src/cmd/go/get.go
+++ b/src/cmd/go/get.go
@@ -18,15 +18,12 @@ import (
)
var cmdGet = &Command{
-\tUsageLine: "get [-a] [-d] [-fix] [-n] [-p n] [-u] [-v] [-x] [packages]",
+\tUsageLine: "get [-d] [-fix] [-u] [build flags] [packages]",
\tShort: "download and install packages and dependencies",
\tLong: `
Get downloads and installs the packages named by the import paths,
along with their dependencies.
-The -a, -n, -v, -x, and -p flags have the same meaning as in 'go build'
-and 'go install'. See 'go help build'.
-
The -d flag instructs get to stop after downloading the packages; that is,
it instructs get not to install the packages.
@@ -37,6 +34,9 @@ The -u flag instructs get to use the network to update the named packages
and their dependencies. By default, get uses the network to check out
missing packages but does not use it to look for updates to existing packages.
+Get also accepts all the flags in the 'go build' and 'go install' commands,
+to control the installation. See 'go help build'.
+
When checking out or updating a package, get looks for a branch or tag
that matches the locally installed version of Go. The most important
rule is that if the local installation is running version "go1", get
コアとなるコードの解説
UsageLine
の変更
両方のファイルで、go get
コマンドの UsageLine
が以下のように変更されています。
- 変更前:
go get [-a] [-d] [-fix] [-n] [-p n] [-u] [-v] [-x] [packages]
- 変更後:
go get [-d] [-fix] [-u] [build flags] [packages]
この変更のポイントは、-a
, -n
, -p n
, -v
, -x
といった個別のビルドフラグの列挙が削除され、代わりに [build flags]
という汎用的な記述が追加されたことです。これにより、go get
が go build
の全てのビルドフラグを受け入れるという事実が、より簡潔かつ正確に表現されるようになりました。ユーザーは go get
の使用方法を見ただけで、ビルド関連のオプションが利用可能であることを理解できます。
説明文の変更
両方のファイルで、go get
の詳細な説明文が変更されています。
-
削除された行:
The -a, -n, -v, -x, and -p flags have the same meaning as in 'go build' and 'go install'. See 'go help build'.
この行は、特定のフラグが
go build
やgo install
と同じ意味を持つことを説明していましたが、これは冗長であり、またgo get
が受け入れる全てのビルドフラグを網羅していませんでした。この情報の削除により、ヘルプメッセージがより簡潔になりました。 -
追加された行:
Get also accepts all the flags in the 'go build' and 'go install' commands, to control the installation. See 'go help build'.
この新しい行は、
go get
がgo build
およびgo install
の全てのフラグを受け入れることを明確に述べています。そして、詳細についてはgo help build
を参照するように促しています。これにより、ユーザーはgo build
のヘルプを参照するだけで、go get
で利用可能なビルドフラグの完全なリストとそれぞれの意味を理解できるようになります。これは、情報の単一ソースの原則(Single Source of Truth)に則った改善であり、ヘルプドキュメントの保守性を大幅に向上させます。
これらの変更は、Goコマンドのヘルプメッセージの品質を向上させ、ユーザーが go get
コマンドをより効果的に利用できるようにするための重要な改善です。
関連リンク
- GitHubコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/46d6f3c62f9f51ac349b90b2181627d5c1ed424b
- Gerrit Change-ID:
https://golang.org/cl/7229081
(GoプロジェクトのコードレビューシステムであるGerritのリンク)
参考にした情報源リンク
- コミット情報:
/home/orange/Project/comemo/commit_data/15112.txt
- Go言語の公式ドキュメント (go get, go build, go install コマンドに関する一般的な情報)
- Go言語のソースコード (
src/cmd/go/doc.go
,src/cmd/go/get.go
) - Go Issue Tracker (Issue #4742に関する情報があれば、より詳細な背景が得られた可能性がありますが、今回の検索では直接的な情報は見つかりませんでした。)