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[インデックス 15184] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリであるsrc/pkg/testing/testing.goファイルに対する変更です。具体的には、ベンチマーク関数におけるb.Nの使用方法に関するコメントが追加されています。

コミット

commit 66000925279db375f8ff713dc51d4b918282fafa
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Sat Feb 9 13:43:15 2013 -0500

    testing: be explicit about use of b.N
    
    R=golang-dev, minux.ma
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7314071

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/66000925279db375f8ff713dc51d4b918282fafa

元コミット内容

testing: be explicit about use of b.N
    
R=golang-dev, minux.ma
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7314071

変更の背景

Go言語のtestingパッケージにおけるベンチマーク機能は、コードのパフォーマンスを測定するための強力なツールです。ベンチマーク関数は*testing.B型の引数を受け取り、その中に含まれるb.Nというフィールドを使って、ベンチマーク対象のコードを何回実行するかを制御します。しかし、このb.Nの役割や、ベンチマーク関数内でどのように使用すべきかについて、既存のドキュメントでは明示的な説明が不足していました。

このコミットは、ベンチマーク関数がb.N回ターゲットコードを実行する必要があるという重要な要件を、コメントとして明示的に追加することで、ドキュメントの明確性を向上させることを目的としています。これにより、Goのベンチマーク機能を利用する開発者が、より正確で信頼性の高いベンチマークを作成できるようになります。

前提知識の解説

Go言語のtestingパッケージ

Go言語には、ユニットテスト、ベンチマークテスト、および例(Example)テストをサポートするための組み込みのtestingパッケージが用意されています。

  • ユニットテスト: TestXxxという形式の関数で記述され、コードの特定の単位が期待通りに動作するかを検証します。
  • ベンチマークテスト: BenchmarkXxxという形式の関数で記述され、コードのパフォーマンスを測定します。
  • 例テスト: ExampleXxxという形式の関数で記述され、コードの使用例を示し、ドキュメントとしても機能します。

testing.Bb.N

ベンチマーク関数は、func BenchmarkXxx(b *testing.B)というシグネチャを持ちます。ここでb*testing.B型のインスタンスであり、ベンチマークの実行を制御するための様々なメソッドやフィールドを提供します。

b.Nは、*testing.B構造体に含まれる整数型のフィールドで、ベンチマーク対象のコードを何回実行すべきかを示すイテレーション回数を表します。Goのベンチマークフレームワークは、このb.Nの値を動的に調整します。具体的には、ベンチマーク関数が信頼できる測定結果を得るのに十分な時間(通常は1秒以上)実行されるように、b.Nの値を自動的に増やしていきます。

典型的なベンチマーク関数は、次のようなループ構造を持ちます。

func BenchmarkMyFunction(b *testing.B) {
    for i := 0; i < b.N; i++ {
        // ここにベンチマーク対象のコードを記述
        MyFunction() 
    }
}

このループ内でMyFunction()b.N回実行されることで、Goのテストフレームワークは総実行時間とb.Nから1操作あたりの平均時間を計算し、ns/op(ナノ秒/操作)などの単位で出力します。

技術的詳細

Goのベンチマークシステムは、非常に高速な操作であっても信頼性の高いパフォーマンス測定を可能にするために、b.Nを動的に調整するメカニズムを採用しています。

  1. 初期値と増加: ベンチマークの実行が開始されると、b.Nは小さな値(例えば1)から始まります。
  2. 時間測定: ベンチマーク関数がb.N回実行された後、その総実行時間が測定されます。
  3. 動的調整: もし総実行時間が短すぎる場合(例えば、信頼できる測定には不十分な場合)、b.Nの値は増加され、ベンチマーク関数は再度実行されます。このプロセスは、ベンチマーク関数が十分な時間(デフォルトでは1秒)実行されるまで繰り返されます。
  4. 結果の計算: 最終的に、ベンチマーク関数が十分な時間実行されたときのb.Nの値と総実行時間を用いて、1操作あたりの平均実行時間(ns/opなど)が計算されます。

この動的なb.Nの調整により、開発者はベンチマーク対象のコードがどれだけ高速であっても、手動でイテレーション回数を調整することなく、安定したパフォーマンス測定結果を得ることができます。

このコミットで追加されたコメントは、このb.Nの動的な性質と、ベンチマーク関数がその値を適切に利用してターゲットコードをb.N回実行する責任があることを明確にしています。

b.Loop() (Go 1.24以降)

このコミットが作成された2013年時点では存在しませんでしたが、Go 1.24以降では、ベンチマークの記述をより堅牢にするためにtesting.B.Loop()メソッドが導入されました。これは、従来のfor i := 0; i < b.N; i++ループを置き換えるもので、コンパイラの最適化によるベンチマークの不正確さを防ぎ、セットアップ/クリーンアップコードがタイミングに含まれないようにするなどの利点があります。しかし、b.Loop()の内部でも、b.Nの概念に基づいてイテレーションが管理されており、基本的な原理は変わりません。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/pkg/testing/testing.goファイルの一箇所のみです。

--- a/src/pkg/testing/testing.go
+++ b/src/pkg/testing/testing.go
@@ -33,6 +33,7 @@
 //         }\n //     }\n //\n+// The benchmark function must run the target code b.N times.\n // The benchmark package will vary b.N until the benchmark function lasts\n // long enough to be timed reliably.  The output\n //     BenchmarkHello    10000000    282 ns/op

具体的には、36行目に新しいコメント行が追加されています。

コアとなるコードの解説

追加された行は以下の通りです。

// The benchmark function must run the target code b.N times.

このコメントは、Goのベンチマーク関数を記述する際の最も基本的なルールの一つを明示しています。つまり、ベンチマーク関数は、b.Nで指定された回数だけ、測定したいコード(ターゲットコード)を繰り返し実行しなければならない、という責任があることを明確に示しています。

このコメントが追加される前は、b.Nの概念は既存のコード例や文脈から推測する必要がありましたが、この変更により、その使用方法が公式ドキュメントの一部として明確に記述されることになりました。これにより、Goのベンチマーク機能の学習曲線が緩和され、より多くの開発者が正確なベンチマークを容易に作成できるようになります。

関連リンク

参考にした情報源リンク