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[インデックス 15192] ファイルの概要

コミット

commit fece09e58a094fb917703c147ebc9cd4f87924d0
Author: Lucio De Re <lucio.dere@gmail.com>
Date:   Mon Feb 11 10:15:56 2013 +1100

    cmd/8l/asm.c: Unused function arguments, suppress warnings.
    
    R=golang-dev, nigeltao
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7304069

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/fece09e58a094fb917703c147ebc9cd4f87924d0

元コミット内容

cmd/8l/asm.c: Unused function arguments, suppress warnings.

変更の背景

このコミットは、Go言語のリンカの一部である cmd/8l/asm.c ファイルにおいて、未使用の関数引数に関するコンパイラの警告を抑制することを目的としています。C言語では、関数が引数を受け取るものの、その関数本体内でその引数が使用されない場合に、コンパイラが「未使用の引数」に関する警告を発することがよくあります。これらの警告は、コードの潜在的なバグを示唆する場合もありますが、意図的に引数が未使用である場合(例えば、将来の拡張のために予約されている場合や、特定のインターフェースに合わせるために必要な場合など)には、ノイズとなることがあります。

特に、adddynrela 関数は sysfatal("adddynrela not implemented"); となっており、現時点では実装されていません。しかし、この関数は rela, s, r という3つの引数を受け取るように定義されています。関数が実装されていないため、これらの引数は当然ながら関数本体内で使用されません。この状態では、コンパイラが未使用引数に関する警告を生成し、ビルドプロセスを煩雑にする可能性があります。このコミットは、これらの警告を明示的に抑制することで、クリーンなビルドを維持し、開発者が本当に対応すべき警告に集中できるようにすることを目的としています。

前提知識の解説

C言語における未使用引数警告

C言語のコンパイラは、関数定義において宣言された引数が、その関数の本体内で一度も参照されない場合に警告を発することが一般的です。これは、プログラマが引数を誤って宣言した、あるいは引数を使用し忘れた可能性を指摘するための有用な機能です。しかし、以下のようなシナリオでは、意図的に引数が未使用となることがあります。

  1. インターフェースの統一: 特定の関数ポインタ型やコールバックインターフェースに合わせるために、一部の引数が必要であっても、現在の実装では使用しない場合。
  2. 将来の拡張: 将来的に使用する予定の引数を、あらかじめ関数シグネチャに含めておく場合。
  3. デバッグ目的: デバッグ中に一時的に引数の使用をコメントアウトした場合。

これらの場合、警告はノイズとなり、実際のバグを見落とす原因となる可能性があります。そのため、意図的に未使用である引数については、コンパイラにその旨を伝え、警告を抑制する手法が用いられます。

未使用引数警告の抑制方法

C言語において未使用引数警告を抑制する一般的な方法はいくつかあります。

  1. void へのキャスト: 最も移植性が高く、広く使われている方法です。引数を (void)引数名; のように void にキャストすることで、コンパイラにその引数が意図的に使用されていないことを伝えます。これにより、コンパイラはその引数に関する警告を発しなくなります。
    void func(int unused_arg) {
        (void)unused_arg; // 警告を抑制
        // ...
    }
    
  2. コンパイラ固有の属性: GCCやClangなどのコンパイラでは、__attribute__((unused)) のような属性を使用して、引数が未使用であることを明示的に示すことができます。これはより意図が明確ですが、コンパイラに依存するため移植性はありません。
    void func(int unused_arg __attribute__((unused))) {
        // ...
    }
    
  3. 引数名の省略: 関数定義において、引数名を省略することで、その引数が未使用であることを示すことができます。ただし、これは関数定義でのみ可能であり、マクロの引数などには適用できません。
    void func(int /* unused_arg */) { // または void func(int) {
        // ...
    }
    

このコミットでは、USED マクロを使用しており、これは通常、内部的に void へのキャストを利用して警告を抑制するものです。

技術的詳細

このコミットでは、USED マクロを用いて未使用引数警告を抑制しています。USED マクロは、Go言語のツールチェインのC言語コードベースで広く使用されている慣習的なマクロです。その定義は通常、以下のような形をしています。

#define USED(x) (void)(x)

このマクロは、引数 xvoid 型にキャストするだけのシンプルなものです。C言語の標準では、式の結果が使用されない場合でも、その式自体は評価されることが保証されています。void へのキャストは、コンパイラに対して「この式の値は意図的に無視される」という明確なシグナルを送ります。これにより、コンパイラは「未使用の変数」や「未使用の引数」に関する警告を発しなくなります。

adddynrela 関数は、動的再配置(dynamic relocation)に関連する処理を行うためのものですが、このコミットが作成された時点では sysfatal("adddynrela not implemented"); となっており、実際には何も処理を行わず、プログラムを終了させるだけです。このような「未実装」の状態の関数であっても、そのシグネチャ(引数の型と数)は定義されているため、コンパイラは引数の使用状況をチェックします。

USED(rela); USED(s); USED(r); という行を追加することで、rela, s, r の各引数が adddynrela 関数内で「使用されている」とコンパイラに認識させます。これにより、これらの引数が実際にはコード内で論理的に利用されていなくても、コンパイラは警告を発しなくなります。これは、コードの意図を明確にし、ビルド時のノイズを減らすためのクリーンな方法とされています。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/8l/asm.c
+++ b/src/cmd/8l/asm.c
@@ -104,6 +104,9 @@ lookuprel(void)
 void
 adddynrela(Sym *rela, Sym *s, Reloc *r)
 {
+	USED(rela);
+	USED(s);
+	USED(r);
 	sysfatal("adddynrela not implemented");
 }

コアとなるコードの解説

変更は src/cmd/8l/asm.c ファイル内の adddynrela 関数に集中しています。

元のコード:

void
adddynrela(Sym *rela, Sym *s, Reloc *r)
{
	sysfatal("adddynrela not implemented");
}

この関数は Sym *rela, Sym *s, Reloc *r という3つのポインタ引数を受け取りますが、関数本体ではこれらの引数を一切使用せず、単に sysfatal を呼び出して「未実装」であることを示していました。このため、コンパイラはこれらの引数に対して「未使用の引数」警告を発していました。

変更後のコード:

void
adddynrela(Sym *rela, Sym *s, Reloc *r)
{
	USED(rela);
	USED(s);
	USED(r);
	sysfatal("adddynrela not implemented");
}

新たに追加された3行 USED(rela);, USED(s);, USED(r); は、それぞれの引数に対して USED マクロを適用しています。前述の通り、USED マクロは引数を void にキャストすることで、コンパイラにその引数が意図的に使用されていることを伝えます。これにより、コンパイラはこれらの引数に関する警告を発しなくなり、ビルド時の出力がクリーンになります。

この変更は、adddynrela 関数の論理的な振る舞いには一切影響を与えません。関数は引き続き「未実装」であり、呼び出されればプログラムは終了します。この変更の唯一の目的は、コンパイラの警告を抑制することにあります。

関連リンク

参考にした情報源リンク