[インデックス 15305] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリであるreflect
パッケージ内のSelect
関数のドキュメンテーションを更新するものです。特に、Goのselect
ステートメントと同様に、複数のケースが同時に準備できた場合の「タイブレーキング(tie-breaking)」、すなわちどのケースが選択されるかについての挙動を明確にするための変更です。
コミット
- コミットハッシュ:
a6db2a8517f866b6f94445059ab60bc945d0d7ec
- 作者: Russ Cox rsc@golang.org
- コミット日時: 2013年2月19日 火曜日 10:13:53 -0500
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/a6db2a8517f866b6f94445059ab60bc945d0d7ec
元コミット内容
reflect: document tie-breaking in Select
The exact words are taken from the spec.
Fixes some confusion on golang-nuts.
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7353044
変更の背景
この変更の背景には、Go言語の並行処理におけるselect
ステートメントの挙動、特に複数の通信操作(チャネルの送受信)が同時に準備可能になった場合に、どのケースが選択されるかについての混乱がありました。コミットメッセージにある「Fixes some confusion on golang-nuts.」は、Goの公式メーリングリストであるgolang-nuts
で、このselect
のタイブレーキングの挙動に関して議論や誤解があったことを示唆しています。
Goのselect
ステートメントは、複数のチャネル操作を待機し、準備ができた最初の操作を実行するために使用されます。しかし、複数の操作が同時に準備できた場合、Go言語の仕様では「均一な擬似乱数的な選択(uniform pseudo-random choice)」が行われると定められています。この非決定的な挙動は、特定のケースが常に優先されると誤解されることがあり、それが混乱の原因となっていました。
reflect.Select
は、Goのselect
ステートメントをリフレクションAPIを通じて動的に構築・実行するための機能であり、その挙動は基本的なselect
ステートメントに準じます。したがって、reflect.Select
のドキュメンテーションも、このタイブレーキングの挙動を正確に反映し、誤解を解消する必要がありました。
前提知識の解説
Go言語のreflect
パッケージ
reflect
パッケージは、Goプログラムが実行時に自身の構造を検査し、操作するための機能(リフレクション)を提供します。これにより、型情報(Type
)や値情報(Value
)を動的に取得・操作できます。例えば、構造体のフィールド名やタグを読み取ったり、任意の型の値を生成したり、メソッドを呼び出したりすることが可能です。reflect.Select
は、このリフレクション機能の一部として、Goのselect
ステートメントをプログラム的に構築・実行するために使用されます。
Go言語のselect
ステートメント
select
ステートメントは、Goにおける並行処理の重要な構成要素です。複数のチャネル操作(送信または受信)を同時に待機し、いずれかの操作が準備できた時点でその操作を実行します。
- ブロッキング:
select
は、いずれかのケースが準備できるまでブロックします。 - 非ブロッキング:
default
ケースが存在する場合、どのケースも準備できていなければdefault
ケースが即座に実行され、ブロックしません。 - タイブレーキング: 複数のケースが同時に準備できた場合、Go言語の仕様では「均一な擬似乱数的な選択」が行われると定められています。これは、特定の順序や優先順位がなく、ランダムにいずれか一つが選ばれることを意味します。この非決定性は、デッドロックの回避や公平なリソースアクセスを保証するために重要です。
reflect.Select
reflect.Select
関数は、Goのselect
ステートメントをリフレクションAPIを介して動的に実行するためのものです。SelectCase
のリストを受け取り、それぞれのケースがチャネルの送受信操作を表します。これにより、コンパイル時には知りえない動的なチャネル操作の選択が可能になります。その挙動は、Goのselect
ステートメントのセマンティクス(特にタイブレーキングのルール)に厳密に従います。
技術的詳細
このコミットは、src/pkg/reflect/value.go
ファイル内のSelect
関数のドキュメンテーションコメントを修正するものです。変更の核心は、reflect.Select
がGoのselect
ステートメントと同様に、複数のケースが同時に準備できた場合に「均一な擬似乱数的な選択」を行うという重要な挙動を明示的に記述することにあります。
以前のドキュメンテーションは、「ブロックし、ケースの1つが進行可能になったらそれを実行する」という一般的な説明に留まっていました。しかし、これは複数のケースが同時に準備できた場合の挙動について曖昧さを残していました。
今回の変更では、Go言語の仕様から正確な文言を引用し、「ブロックし、少なくとも1つのケースが進行可能になったら、均一な擬似乱数的な選択を行い、そのケースを実行する」という記述に修正されました。これにより、reflect.Select
の非決定的なタイブレーキング挙動が明確になり、開発者の誤解を防ぐことを目的としています。
この変更は、コードの動作自体を変更するものではなく、あくまでドキュメンテーションの正確性を向上させるものです。しかし、並行処理のデバッグや予測可能性において、この挙動の明確化は非常に重要です。
コアとなるコードの変更箇所
変更はsrc/pkg/reflect/value.go
ファイルにあります。
--- a/src/pkg/reflect/value.go
+++ b/src/pkg/reflect/value.go
@@ -1791,8 +1791,9 @@ type SelectCase struct {
}
// Select executes a select operation described by the list of cases.
-// Like the Go select statement, it blocks until one of the cases can
-// proceed and then executes that case. It returns the index of the chosen case
+// Like the Go select statement, it blocks until at least one of the cases
+// can proceed, makes a uniform pseudo-random choice,
+// and then executes that case. It returns the index of the chosen case
// and, if that case was a receive operation, the value received and a
// boolean indicating whether the value corresponds to a send on the channel
// (as opposed to a zero value received because the channel is closed).
コアとなるコードの解説
上記の差分は、reflect
パッケージのSelect
関数のGoDocコメントに対する変更を示しています。
変更前:
// Select executes a select operation described by the list of cases.
// Like the Go select statement, it blocks until one of the cases can
// proceed and then executes that case. It returns the index of the chosen case
変更後:
// Select executes a select operation described by the list of cases.
// Like the Go select statement, it blocks until at least one of the cases
// can proceed, makes a uniform pseudo-random choice,
// and then executes that case. It returns the index of the chosen case
この変更のポイントは以下の通りです。
-
until one of the cases can proceed
からuntil at least one of the cases can proceed
への変更:- これは、複数のケースが同時に準備可能になる可能性があることをより正確に示唆しています。以前の表現では、あたかも一度に1つのケースしか準備できないかのような誤解を与える可能性がありました。
-
makes a uniform pseudo-random choice,
の追加:- これがこのコミットの最も重要な変更点です。Goの
select
ステートメントの仕様で定められている「均一な擬似乱数的な選択」というタイブレーキングの挙動を明示的に記述しています。これにより、複数のケースが同時に準備できた場合に、どのケースが選択されるかは予測不可能であり、ランダムに選ばれるという事実が明確になります。これは、並行処理の設計において非常に重要な考慮事項です。
- これがこのコミットの最も重要な変更点です。Goの
このドキュメンテーションの更新は、reflect.Select
の挙動に関する誤解を解消し、開発者がGoの並行処理モデルをより正確に理解するのに役立ちます。
関連リンク
- Go Gerrit Change-ID: https://golang.org/cl/7353044
参考にした情報源リンク
- Go Language Specification - Select statements: https://go.dev/ref/spec#Select_statements
- Go
reflect
package documentation: https://pkg.go.dev/reflect - golang-nutsメーリングリスト (一般的な情報源): https://groups.google.com/g/golang-nuts
- Goの
select
ステートメントのランダム性に関する議論 (例): https://go.dev/blog/go-concurrency-patterns-timing-out-and-cancellation (このブログ記事は直接的な情報源ではないが、select
の挙動に関する一般的な理解を深めるのに役立つ)
[インデックス 15305] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリであるreflect
パッケージ内のSelect
関数のドキュメンテーションを更新するものです。特に、Goのselect
ステートメントと同様に、複数のケースが同時に準備できた場合の「タイブレーキング(tie-breaking)」、すなわちどのケースが選択されるかについての挙動を明確にするための変更です。
コミット
- コミットハッシュ:
a6db2a8517f866b6f94445059ab60bc945d0d7ec
- 作者: Russ Cox rsc@golang.org
- コミット日時: 2013年2月19日 火曜日 10:13:53 -0500
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/a6db2a8517f866b6f94445059ab60bc945d0d7ec
元コミット内容
reflect: document tie-breaking in Select
The exact words are taken from the spec.
Fixes some confusion on golang-nuts.
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7353044
変更の背景
この変更の背景には、Go言語の並行処理におけるselect
ステートメントの挙動、特に複数の通信操作(チャネルの送受信)が同時に準備可能になった場合に、どのケースが選択されるかについての混乱がありました。コミットメッセージにある「Fixes some confusion on golang-nuts.」は、Goの公式メーリングリストであるgolang-nuts
で、このselect
のタイブレーキングの挙動に関して議論や誤解があったことを示唆しています。
Goのselect
ステートメントは、複数のチャネル操作を待機し、準備ができた最初の操作を実行するために使用されます。しかし、複数の操作が同時に準備できた場合、Go言語の仕様では「均一な擬似乱数的な選択(uniform pseudo-random choice)」が行われると定められています。これは、特定のケースが常に優先されると誤解されることがあり、それが混乱の原因となっていました。
reflect.Select
は、Goのselect
ステートメントをリフレクションAPIを通じて動的に構築・実行するための機能であり、その挙動は基本的なselect
ステートメントに準じます。したがって、reflect.Select
のドキュメンテーションも、このタイブレーキングの挙動を正確に反映し、誤解を解消する必要がありました。
前提知識の解説
Go言語のreflect
パッケージ
reflect
パッケージは、Goプログラムが実行時に自身の構造を検査し、操作するための機能(リフレクション)を提供します。これにより、型情報(Type
)や値情報(Value
)を動的に取得・操作できます。例えば、構造体のフィールド名やタグを読み取ったり、任意の型の値を生成したり、メソッドを呼び出したりすることが可能です。reflect.Select
は、このリフレクション機能の一部として、Goのselect
ステートメントをプログラム的に構築・実行するために使用されます。
Go言語のselect
ステートメント
select
ステートメントは、Goにおける並行処理の重要な構成要素です。複数のチャネル操作(送信または受信)を同時に待機し、いずれかの操作が準備できた時点でその操作を実行します。
- ブロッキング:
select
は、いずれかのケースが準備できるまでブロックします。 - 非ブロッキング:
default
ケースが存在する場合、どのケースも準備できていなければdefault
ケースが即座に実行され、ブロックしません。 - タイブレーキング: 複数のケースが同時に準備できた場合、Go言語の仕様では「均一な擬似乱数的な選択」が行われると定められています。これは、特定の順序や優先順位がなく、ランダムにいずれか一つが選ばれることを意味します。この設計は、公平性を保証し、特定の通信操作が他の操作に比べて常に無視される(スターベーション)のを防ぐのに役立ちます。
reflect.Select
reflect.Select
関数は、Goのselect
ステートメントをリフレクションAPIを介して動的に実行するためのものです。SelectCase
のリストを受け取り、それぞれのケースがチャネルの送受信操作を表します。これにより、コンパイル時には知りえない動的なチャネル操作の選択が可能になります。その挙動は、Goのselect
ステートメントのセマンティクス(特にタイブレーキングのルール)に厳密に従います。
技術的詳細
このコミットは、src/pkg/reflect/value.go
ファイル内のSelect
関数のドキュメンテーションコメントを修正するものです。変更の核心は、reflect.Select
がGoのselect
ステートメントと同様に、複数のケースが同時に準備できた場合に「均一な擬似乱数的な選択」を行うという重要な挙動を明示的に記述することにあります。
以前のドキュメンテーションは、「ブロックし、ケースの1つが進行可能になったらそれを実行する」という一般的な説明に留まっていました。しかし、これは複数のケースが同時に準備できた場合の挙動について曖昧さを残していました。
今回の変更では、Go言語の仕様から正確な文言を引用し、「ブロックし、少なくとも1つのケースが進行可能になったら、均一な擬似乱数的な選択を行い、そのケースを実行する」という記述に修正されました。これにより、reflect.Select
の非決定的なタイブレーキング挙動が明確になり、開発者の誤解を防ぐことを目的としています。
この変更は、コードの動作自体を変更するものではなく、あくまでドキュメンテーションの正確性を向上させるものです。しかし、並行処理のデバッグや予測可能性において、この挙動の明確化は非常に重要です。
コアとなるコードの変更箇所
変更はsrc/pkg/reflect/value.go
ファイルにあります。
--- a/src/pkg/reflect/value.go
+++ b/src/pkg/reflect/value.go
@@ -1791,8 +1791,9 @@ type SelectCase struct {
}
// Select executes a select operation described by the list of cases.
-// Like the Go select statement, it blocks until one of the cases can
-// proceed and then executes that case. It returns the index of the chosen case
+// Like the Go select statement, it blocks until at least one of the cases
+// can proceed, makes a uniform pseudo-random choice,
+// and then executes that case. It returns the index of the chosen case
// and, if that case was a receive operation, the value received and a
// boolean indicating whether the value corresponds to a send on the channel
// (as opposed to a zero value received because the channel is closed).\n
コアとなるコードの解説
上記の差分は、reflect
パッケージのSelect
関数のGoDocコメントに対する変更を示しています。
変更前:
// Select executes a select operation described by the list of cases.
// Like the Go select statement, it blocks until one of the cases can
// proceed and then executes that case. It returns the index of the chosen case
変更後:
// Select executes a select operation described by the list of cases.
// Like the Go select statement, it blocks until at least one of the cases
// can proceed, makes a uniform pseudo-random choice,
// and then executes that case. It returns the index of the chosen case
この変更のポイントは以下の通りです。
-
until one of the cases can proceed
からuntil at least one of the cases can proceed
への変更:- これは、複数のケースが同時に準備可能になる可能性があることをより正確に示唆しています。以前の表現では、あたかも一度に1つのケースしか準備できないかのような誤解を与える可能性がありました。
-
makes a uniform pseudo-random choice,
の追加:- これがこのコミットの最も重要な変更点です。Goの
select
ステートメントの仕様で定められている「均一な擬似乱数的な選択」というタイブレーキングの挙動を明示的に記述しています。これにより、複数のケースが同時に準備できた場合に、どのケースが選択されるかは予測不可能であり、ランダムに選ばれるという事実が明確になります。これは、並行処理の設計において非常に重要な考慮事項です。
- これがこのコミットの最も重要な変更点です。Goの
このドキュメンテーションの更新は、reflect.Select
の挙動に関する誤解を解消し、開発者がGoの並行処理モデルをより正確に理解するのに役立ちます。
関連リンク
- Go Gerrit Change-ID: https://golang.org/cl/7353044
参考にした情報源リンク
- Go Language Specification - Select statements: https://go.dev/ref/spec#Select_statements
- Go
reflect
package documentation: https://pkg.go.dev/reflect - golang-nutsメーリングリスト (一般的な情報源): https://groups.google.com/g/golang-nuts
- Goの
select
ステートメントのランダム性に関する議論 (例): https://go.dev/blog/go-concurrency-patterns-timing-out-and-cancellation (このブログ記事は直接的な情報源ではないが、select
の挙動に関する一般的な理解を深めるのに役立つ)