[インデックス 15331] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のドキュメンテーションツールであるgodoc
において、Example関数が未知の関数や型を参照している場合に表示されるコンソールエラーメッセージを改善するものです。より具体的で分かりやすいメッセージにすることで、開発者が問題の原因を特定しやすくなることを目的としています。
コミット
commit 9dcf3eee4164479ae627bf3f3c16fa3d8eee41d0
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date: Wed Feb 20 12:28:12 2013 -0800
cmd/godoc: better console error message for example error
(per r's suggestion)
R=r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7376045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/9dcf3eee4164479ae627bf3f3c16fa3d8eee41d0
元コミット内容
cmd/godoc
: Exampleエラーに対するコンソールエラーメッセージを改善。
(rの提案による)
変更の背景
Go言語のgodoc
ツールは、Goのソースコードからドキュメンテーションを生成する際に、コード内のExample関数も解析し、実行可能なドキュメントとして表示します。Example関数は、特定の関数や型の使用例を示すために書かれる特別な関数です。
しかし、Example関数が、そのパッケージ内で定義されていない、あるいはインポートされていない未知の関数や型を参照している場合、godoc
はそれをスキップし、コンソールにエラーメッセージを出力していました。この際に出力されるメッセージが「skipping example Example%s: refers to unknown function or type」(Example%sをスキップしています: 未知の関数または型を参照しています)というものでした。
このメッセージは、どのExample関数がスキップされたかは示しますが、具体的にどの「未知の関数または型」が問題を引き起こしているのかが不明瞭でした。開発者がこのメッセージを見た際に、Exampleコードのどこを修正すべきかすぐに判断できないという課題がありました。
このコミットは、このエラーメッセージをより詳細で分かりやすいものに改善することを目的としています。具体的には、スキップされたExample関数の名前だけでなく、参照が見つからなかった具体的な関数名や型名もメッセージに含めることで、デバッグの効率を向上させます。これは、コードレビューの過程で「r」氏からの提案((per r's suggestion)
)を受けて行われた改善です。
前提知識の解説
godoc
とは
godoc
は、Go言語の標準ツールチェーンに含まれるコマンドラインツールです。Goのソースコードを解析し、コメントやExample関数、型定義などから自動的にドキュメンテーションを生成します。生成されたドキュメントは、Webブラウザを通じて閲覧できる形式で提供されることが多く、Goの公式ドキュメントサイト(pkg.go.devなど)もgodoc
の仕組みを利用しています。開発者がコードの利用方法を理解する上で非常に重要なツールです。
Go言語のExample関数
Go言語では、Example
というプレフィックスを持つ関数を記述することで、その関数や型の使用例をドキュメンテーションに含めることができます。これらのExample関数は、通常のテスト関数と同様にgo test
コマンドで実行可能であり、出力が期待される結果と一致するかどうかを検証することもできます。
Example関数は通常、以下のような形式で記述されます。
package mypackage
import "fmt"
func Hello() {
fmt.Println("Hello, World!")
}
func ExampleHello() {
Hello()
// Output: Hello, World!
}
type MyType struct {
Value int
}
func (m MyType) String() string {
return fmt.Sprintf("MyType with value %d", m.Value)
}
func ExampleMyType_String() {
m := MyType{Value: 42}
fmt.Println(m.String())
// Output: MyType with value 42
}
godoc
はこれらのExample関数を解析し、ドキュメントの一部として表示します。Example関数が参照する関数や型が、そのExample関数が属するパッケージ内で定義されているか、または適切にインポートされている必要があります。
log.Printf
について
log
パッケージはGo言語の標準ライブラリの一部で、ログメッセージを出力するための機能を提供します。log.Printf
は、fmt.Printf
と同様の書式指定子(例: %s
、%d
)を使用して、フォーマットされた文字列を標準エラー出力(または設定された出力先)に書き込みます。このコミットでは、godoc
が内部的にエラーや警告をコンソールに出力するためにlog.Printf
を使用しています。
技術的詳細
このコミットが変更を加えているのは、src/cmd/godoc/godoc.go
ファイル内のcollectExamples
関数です。
collectExamples
関数は、Goパッケージ内のExample関数を収集し、解析する役割を担っています。この関数は、ast.Package
(抽象構文木で表現されたパッケージ情報)とtestfiles
(テストファイルの抽象構文木)を受け取り、doc.Example
のリストを返します。
Example関数を処理する際、godoc
はExample関数が参照している識別子(関数名や型名)が、そのパッケージ内で既知のグローバルな関数や型であるかどうかをチェックします。これは、Example関数が独立して実行可能であり、かつドキュメントとして意味を持つために重要です。
変更前のコードでは、Example関数が参照する識別子(e.Name
)がglobals
マップ(既知のグローバルな識別子を保持)に存在しない場合、つまり未知の関数や型を参照している場合に、以下のエラーメッセージを出力していました。
log.Printf("skipping example Example%s: refers to unknown function or type", e.Name)
このメッセージでは、e.Name
(Example関数の名前、例: Hello
)は表示されますが、Example関数内で具体的にどの識別子(例えばUnknownFunction
)が見つからなかったのかは示されませんでした。
このコミットでは、エラーメッセージのフォーマット文字列を変更し、e.Name
を2回表示するように修正しています。これにより、メッセージは以下のようになります。
log.Printf("skipping example 'Example%s' because '%s' is not a known function or type", e.Name, e.Name)
一見すると同じe.Name
を2回表示しているように見えますが、これはExample関数の名前が、同時にそのExample関数が参照しようとして見つからなかった「未知の関数または型」の名前でもあるという、godoc
のExample関数の命名規則と内部処理の特性に基づいています。GoのExample関数は、通常Example<FunctionName>
やExample<TypeName>_<MethodName>
のように命名され、そのExampleが対象とする関数や型を直接参照することが期待されます。もしExampleHello
というExample関数が、Hello
という関数を参照しようとして見つからなかった場合、この変更によって「skipping example 'ExampleHello' because 'Hello' is not a known function or type」というメッセージが出力されるようになります。これにより、開発者はどのExample関数が、どの具体的な識別子を見つけられなかったのかを明確に理解できるようになります。
この変更は、godoc
のユーザーエクスペリエンスを向上させるための小さな、しかし重要な改善です。エラーメッセージの質は、開発者が問題を迅速に診断し、解決する能力に直接影響します。
コアとなるコードの変更箇所
変更はsrc/cmd/godoc/godoc.go
ファイルの一箇所のみです。
--- a/src/cmd/godoc/godoc.go
+++ b/src/cmd/godoc/godoc.go
@@ -959,7 +959,7 @@ func collectExamples(pkg *ast.Package, testfiles map[string]*ast.File) []*doc.Ex
if name == "" || globals[name] {
examples = append(examples, e)
} else {
- log.Printf("skipping example Example%s: refers to unknown function or type", e.Name)
+ log.Printf("skipping example 'Example%s' because '%s' is not a known function or type", e.Name, e.Name)
}
}
コアとなるコードの解説
変更された行は、collectExamples
関数内のelse
ブロックにあります。このブロックは、Example関数(e
)が参照する名前(e.Name
)が、パッケージのグローバルスコープ(globals
マップ)に存在しない場合に実行されます。
-
変更前:
log.Printf("skipping example Example%s: refers to unknown function or type", e.Name)
この行では、
e.Name
(Example関数の名前、例:Hello
が対象のExampleHello
の場合)が一度だけフォーマット文字列に渡され、ExampleHello
というExampleがスキップされたことだけが示されていました。 -
変更後:
log.Printf("skipping example 'Example%s' because '%s' is not a known function or type", e.Name, e.Name)
この行では、
e.Name
が二度フォーマット文字列に渡されています。これにより、出力されるメッセージは「skipping example 'ExampleHello' because 'Hello' is not a known function or type
」のようになります。 最初の'%s'
にはExample関数の名前(例:ExampleHello
)が入り、次の'%s'
にはそのExample関数が参照しようとしたが解決できなかった識別子の名前(例:Hello
)が入ります。GoのExample関数の命名規則により、Example<Name>
というExample関数は通常<Name>
という関数や型を参照するため、e.Name
を二度使うことで、より具体的なエラー情報を提供できるというわけです。
この修正により、godoc
のコンソール出力を見た開発者は、どのExample関数がスキップされ、その原因が具体的にどの識別子が見つからなかったためであるかを、より迅速かつ正確に把握できるようになります。
関連リンク
- Go CL 7376045: https://golang.org/cl/7376045
- Go言語の
godoc
コマンドに関する公式ドキュメント: https://pkg.go.dev/cmd/godoc - Go言語のExample関数に関する公式ドキュメント(
go doc
コマンドのExampleセクションなど): https://go.dev/blog/examples
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメンテーション
- Go言語のソースコード(特に
src/cmd/godoc/godoc.go
) - Gitコミットログの解析