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[インデックス 15354] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の古いコンパイラである cmd/5g (ARMアーキテクチャ向け) と cmd/6g (AMD64アーキテクチャ向け) における内部ノードダンプのフォーマット文字列の修正に関するものです。具体的には、デバッグ出力で使用されるフォーマット指定子 %N%+hN に変更し、ノード情報の出力形式を更新しています。

コミット

commit 0cdc0b3b78dcb029bc4951637a0d9be11ee0d7e5
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Thu Feb 21 12:53:25 2013 -0500

    cmd/5g, cmd/6g: fix node dump formats
    
    lvd changed the old %N to %+hN and these
    never got updated.
    
    R=ken2
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7391045

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/0cdc0b3b78dcb029bc4951637a0d9be11ee0d7e5

元コミット内容

cmd/5g, cmd/6g: fix node dump formats

lvd changed the old %N to %+hN and these
never got updated.

R=ken2
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7391045

変更の背景

このコミットの背景には、Goコンパイラの内部デバッグ出力フォーマットの変更があります。コミットメッセージによると、「lvd が古い %N%+hN に変更したが、これらの箇所は更新されていなかった」とあります。これは、Goコンパイラの開発過程で、内部的なノード(抽象構文木や中間表現のノード)のダンプ形式が改善または変更されたにもかかわらず、特定のコードパス(cgen および agen 関数内のエラーメッセージ)で古いフォーマット指定子が使われ続けていたため、それを修正する必要があったことを示しています。

コンパイラの開発では、内部データ構造(ノード)をデバッグ目的で出力することが頻繁に行われます。この出力形式が変更された場合、それを使用しているすべての箇所で更新が行われるべきですが、見落としがあったと考えられます。このコミットは、その見落としを修正し、デバッグ出力の一貫性と正確性を保つことを目的としています。

前提知識の解説

Go言語のコンパイラ (cmd/5g, cmd/6g)

Go言語の初期のバージョンでは、特定のCPUアーキテクチャごとに異なるコンパイラが提供されていました。

  • cmd/5g: ARMアーキテクチャ向けのGoコンパイラ。
  • cmd/6g: AMD64 (x86-64) アーキテクチャ向けのGoコンパイラ。
  • cmd/8g: x86 (386) アーキテクチャ向けのGoコンパイラ。

これらのコンパイラは、Go 1.5で単一の go tool compile コマンドに統合され、アーキテクチャ固有の命名は廃止されました。したがって、このコミットはGo 1.5以前のコンパイラコードベースに対する変更であることがわかります。

コンパイラの内部ノードダンプ

コンパイラは、ソースコードを解析して抽象構文木 (AST) や中間表現 (IR) といった内部データ構造を構築します。これらの内部ノードは、コンパイラの各フェーズ(構文解析、型チェック、コード生成など)で処理されます。

開発やデバッグの際には、これらの内部ノードの状態を確認するために、その内容を標準出力やログファイルに出力する機能がコンパイラに組み込まれています。これを「ノードダンプ」と呼びます。ノードダンプは、コンパイラの動作を理解したり、バグを特定したりする上で非常に重要な情報源となります。

フォーマット指定子 (%N, %+hN)

C言語の printf 関数やGo言語の fmt.Printf 関数のように、多くのプログラミング言語にはフォーマット文字列を使って変数の内容を整形して出力する機能があります。コンパイラの内部デバッグ出力でも、同様のフォーマット指定子が使われることがあります。

  • %N: Goコンパイラの内部で定義されたカスタムフォーマット指定子で、コンパイラの「Node」オブジェクトをダンプするために使用されます。その具体的な出力形式は、コンパイラの内部実装に依存します。
  • %+hN: これは %N+ フラグと h フラグが追加されたものです。
    • + フラグ: 一般的に、より詳細な情報や「デバッグ」形式での出力を指示します。Go言語の fmt.Printf における %+v と同様の役割を果たすことが多いです。
    • h フラグ: これはコンパイラ内部で定義されたカスタムフラグであり、その具体的な意味(例: ハッシュ値、16進数表現、またはその他の内部詳細)は、コンパイラのソースコード内のノードダンプ関数で定義されます。

つまり、%+hN%N よりも詳細な、または特定のデバッグ情報を含む形式でノードをダンプするための指定子であると理解できます。

技術的詳細

このコミットは、Goコンパイラのコード生成部分 (cgen.c) におけるエラーハンドリングロジックに焦点を当てています。cgen 関数と agen 関数は、それぞれGo言語のコードをターゲットアーキテクチャの機械語に変換する過程で重要な役割を担っています。

これらの関数内で、予期しない操作 (n->op) が検出された場合に fatal 関数が呼び出され、コンパイラが異常終了するようになっています。この fatal 関数に渡されるエラーメッセージのフォーマット文字列が今回の変更の対象です。

変更前は、エラーメッセージ内でノード情報を出力するために %N が使用されていました。しかし、コンパイラの内部変更により、ノードダンプの標準的なフォーマットが %N から %+hN に変更されたため、それに合わせてエラーメッセージ内のフォーマット指定子も更新する必要がありました。

この変更は、コンパイラの機能そのものに影響を与えるものではなく、主にデバッグ時の出力の質を向上させるためのものです。コンパイラの開発者がエラー発生時に、より詳細で有用なノード情報を得られるようにすることで、問題の特定と解決を迅速に行うことが可能になります。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/cmd/5g/cgen.csrc/cmd/6g/cgen.c の2つのファイルで行われています。

src/cmd/5g/cgen.c

--- a/src/cmd/5g/cgen.c
+++ b/src/cmd/5g/cgen.c
@@ -193,7 +193,7 @@ cgen(Node *n, Node *res)
 	switch(n->op) {
 	default:
 		dump("cgen", n);
-		fatal("cgen: unknown op %N", n);
+		fatal("cgen: unknown op %+hN", n);
 		break;
 
 	case OREAL:
@@ -598,7 +598,7 @@ agen(Node *n, Node *res)
 
 	switch(n->op) {
 	default:
-		fatal("agen: unknown op %N", n);
+		fatal("agen: unknown op %+hN", n);
 		break;
 
 	case OCALLMETH:

src/cmd/6g/cgen.c

--- a/src/cmd/6g/cgen.c
+++ b/src/cmd/6g/cgen.c
@@ -191,7 +191,7 @@ cgen(Node *n, Node *res)
 	switch(n->op) {
 	default:
 		dump("cgen", n);
-		fatal("cgen: unknown op %N", n);
+		fatal("cgen: unknown op %+hN", n);
 		break;
 
 	// these call bgen to get a bool value
@@ -820,7 +820,7 @@ agen(Node *n, Node *res)
 
 	switch(n->op) {
 	default:
-		fatal("agen: unknown op %N", n);
+		fatal("agen: unknown op %+hN", n);
 		break;
 
 	case OCALLMETH:

コアとなるコードの解説

両ファイルにおいて、cgen 関数と agen 関数内の switch ステートメントの default ケースが変更されています。

  • cgen 関数:

    • この関数は、Go言語の抽象構文木 (AST) のノードを受け取り、それに対応する機械語を生成する役割を担っています。
    • default ケースは、n->op (ノードの操作タイプ) が予期しない値であった場合に実行されます。
    • 変更前: fatal("cgen: unknown op %N", n);
    • 変更後: fatal("cgen: unknown op %+hN", n);
    • これにより、cgen 関数が未知の操作に遭遇して異常終了する際に、エラーメッセージに表示されるノード情報がより詳細な形式で出力されるようになります。
  • agen 関数:

    • この関数も cgen と同様にコード生成に関連しますが、アドレス生成など特定のコンテキストで使用されます。
    • default ケースは、n->op が予期しない値であった場合に実行されます。
    • 変更前: fatal("agen: unknown op %N", n);
    • 変更後: fatal("agen: unknown op %+hN", n);
    • agen 関数が未知の操作に遭遇して異常終了する際も、同様に詳細なノード情報がエラーメッセージに含まれるようになります。

この変更は、コンパイラの内部デバッグ出力の整合性を保ち、開発者がコンパイラのバグを診断する際の効率を高めるための、小さなしかし重要な修正です。

関連リンク

参考にした情報源リンク