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[インデックス 15414] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のコンパイラツールチェーンの一部である cmd/5g におけるARMアーキテクチャ向けビルドの問題を修正するものです。具体的には、src/cmd/5g/gg.h ファイルに Sym* gotype; フィールドを追加することで、ARMビルドの整合性を確保しています。

コミット

commit f5dce6c85339fff4c7328e21b8676eae4fee6ef2
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Mon Feb 25 12:21:12 2013 -0500

    cmd/5g: fix arm build
    
    R=ken2
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7365057
---
 src/cmd/5g/gg.h | 1 +\
 1 file changed, 1 insertion(+)

diff --git a/src/cmd/5g/gg.h b/src/cmd/5g/gg.h
index 2c89129f2d..fc17bf3c99 100644
--- a/src/cmd/5g/gg.h
+++ b/src/cmd/5g/gg.h
@@ -24,6 +24,7 @@ struct	Addr
 	} u;
 
 	Sym*	sym;
+	Sym*	gotype;
 	Node*	node;
 	int	width;
 	uchar	type;

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/f5dce6c85339fff4c7328e21b8676eae4fee6ef2

元コミット内容

cmd/5g: fix arm build

変更の背景

このコミットは、Go言語のコンパイラがARMアーキテクチャ向けにビルドされる際に発生していた問題を解決するために導入されました。Goコンパイラは、異なるアーキテクチャ(x86, ARMなど)向けにコードを生成するために、それぞれに対応するバックエンドを持っています。cmd/5g はARMアーキテクチャ向けのコンパイラバックエンドに関連するツールです。

Goコンパイラは、コンパイル時に型情報(Go言語の型システム)を内部的に表現し、処理します。この型情報は、シンボル(Sym)と関連付けられることがよくあります。ARMビルドの特定のシナリオにおいて、この型情報の取り扱いが不適切であったか、あるいは必要な情報が欠落していたために、ビルドが失敗したり、正しく動作しないバイナリが生成されたりする問題が発生していたと考えられます。

gotype フィールドの追加は、コンパイラがシンボルに関連するGoの型情報を正確に追跡し、ARMアーキテクチャ向けコード生成時にその情報を適切に利用できるようにするために必要だったと推測されます。これにより、ARM環境でのGoプログラムのコンパイルと実行の安定性が向上しました。

前提知識の解説

Go言語のコンパイラツールチェーン

Go言語のコンパイラは、単一の実行ファイルではなく、複数のツールから構成されるツールチェーンとして機能します。主要なツールには以下のようなものがあります。

  • go tool compile: Goソースコードをアセンブリコードにコンパイルします。
  • go tool link: コンパイルされたオブジェクトファイルをリンクして実行可能ファイルを生成します。
  • go tool asm: Goのアセンブリ言語をアセンブルします。

これらのツールは、ターゲットアーキテクチャ(例: amd64, arm, arm64)ごとに異なる実装を持つことがあります。

cmd/5g

cmd/5g は、Go言語の初期のコンパイラツールチェーンにおいて、ARMアーキテクチャ(具体的にはARMv5/v6/v7)向けのGoソースコードをコンパイルするためのコンパイラバックエンドを指していました。Goのコンパイラは、ターゲットアーキテクチャごとに異なるコンパイラ(例: 6g for amd64, 8g for 386, 5g for arm)を持っていました。現在では、これらのコンパイラは go tool compile の内部に統合され、アーキテクチャはビルドフラグによって指定されますが、このコミットが作成された当時は、5g という独立したツールが存在していました。

gg.h

gg.h は、Goコンパイラの内部で使用されるヘッダーファイルの一つで、コンパイラのグローバルな定義やデータ構造が含まれています。特に、コンパイラのフロントエンドとバックエンドの間で共有される重要な構造体や定数が定義されています。このファイルは、コンパイラの内部動作を理解する上で中心的な役割を果たします。

Sym 構造体

Sym (Symbol) 構造体は、Goコンパイラがプログラム内のシンボル(変数名、関数名、型名など)を表現するために使用する内部データ構造です。各シンボルは、その名前、スコープ、型、メモリ上の位置など、様々な属性を持ちます。コンパイラは、シンボルテーブルを通じてこれらのシンボルを管理し、コード生成の際に参照します。

Node 構造体

Node 構造体は、GoコンパイラがGoソースコードの抽象構文木(AST: Abstract Syntax Tree)を表現するために使用する内部データ構造です。ソースコードの各要素(式、文、宣言など)は、ASTのノードとして表現されます。コンパイラはASTを走査し、意味解析やコード最適化、最終的なコード生成を行います。

ARMアーキテクチャ

ARM (Advanced RISC Machine) は、モバイルデバイスや組み込みシステムで広く使用されているRISC(Reduced Instruction Set Computer)ベースのプロセッサアーキテクチャです。Go言語は、サーバーサイドだけでなく、組み込みシステムやモバイルアプリケーションのバックエンドなど、様々な環境で利用されるため、ARMアーキテクチャへの対応は非常に重要です。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Goコンパイラの内部データ構造である Addr 構造体に Sym* gotype; という新しいフィールドを追加した点にあります。

Addr 構造体は、コンパイラがメモリ上のアドレスやレジスタ、定数など、様々な種類のアドレス指定モードを表現するために使用されます。これは、コード生成の際に、変数や式の値がどこに格納されているかを追跡するために不可欠です。

Goコンパイラは、型情報を非常に厳密に扱います。プログラム内のすべての値は特定の型を持ち、コンパイル時にその型がチェックされます。gotype フィールドは、Addr 構造体が参照するシンボル(Sym* sym)が、Goの型システムにおける特定の型(gotype)と関連付けられていることを明示的に示すために導入されたと考えられます。

ARMアーキテクチャ向けのコード生成プロセスにおいて、特定の最適化やアラインメント、あるいはABI(Application Binary Interface)の要件を満たすために、シンボルが持つGoの型情報がより明示的に必要になった可能性があります。例えば、特定の型の値がレジスタにどのように配置されるか、あるいはスタックフレーム上でどのようにアラインされるかといった情報は、正確なコード生成に不可欠です。

gotype フィールドを追加することで、コンパイラは Addr 構造体を通じて、シンボルだけでなく、そのシンボルが表すGoの型情報にも直接アクセスできるようになります。これにより、ARMアーキテクチャ特有の制約や最適化を考慮した、より正確で効率的なコード生成が可能になり、結果としてARMビルドの問題が解決されたと推測されます。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/5g/gg.h
+++ b/src/cmd/5g/gg.h
@@ -24,6 +24,7 @@ struct	Addr
 	} u;
 
 	Sym*	sym;
+	Sym*	gotype;
 	Node*	node;
 	int	width;
 	uchar	type;

コアとなるコードの解説

変更は src/cmd/5g/gg.h ファイル内の Addr 構造体に対して行われています。

Addr 構造体は、Goコンパイラのバックエンド(この場合は 5g、ARM向け)が、命令のオペランドやメモリ参照を表現するために使用する重要なデータ構造です。この構造体には、以下のようなフィールドが既に存在していました。

  • Sym* sym;: このアドレスが参照するシンボル(変数、関数など)へのポインタ。
  • Node* node;: このアドレスが関連付けられている抽象構文木(AST)のノードへのポインタ。
  • int width;: アドレスが参照するデータの幅(バイト数)。
  • uchar type;: アドレスのタイプ(レジスタ、メモリ、定数など)。

このコミットでは、既存の Sym* sym; フィールドの直後に、新たに Sym* gotype; フィールドが追加されました。

この gotype フィールドの追加は、Addr 構造体が単にシンボルを参照するだけでなく、そのシンボルがGo言語の型システムにおいてどのような型を持つのかという情報を明示的に保持する必要が生じたことを示唆しています。

Goコンパイラは、コンパイルの様々な段階で型情報を利用します。特に、異なるアーキテクチャ向けのコードを生成する際には、型のサイズ、アラインメント、メモリレイアウトなどがアーキテクチャ固有の規則に従う必要があります。ARMアーキテクチャの特定のケースにおいて、Addr 構造体が参照するシンボルの「Goの型」を直接参照できることが、ビルドの成功に不可欠であったと考えられます。

例えば、あるシンボルがポインタ型であるか、整数型であるか、あるいは構造体型であるかによって、コンパイラが生成すべきアセンブリ命令やメモリ操作が異なります。gotype フィールドは、この型情報を Addr 構造体の一部として保持することで、コンパイラがより効率的かつ正確に、ARMアーキテクチャに最適化されたコードを生成できるようにします。これにより、以前は型情報の不整合や欠落によって発生していたARMビルドの問題が解消されたと推測されます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語のコンパイラに関する一般的な情報:
  • Goコンパイラの内部構造に関する情報(Sym, Node など):
    • Go言語のソースコード(特に src/cmd/compile/internal/ ディレクトリ以下)
    • Goコンパイラの開発に関するブログ記事やドキュメント(例: Russ Cox氏のブログ記事など)
  • ARMアーキテクチャに関する一般的な情報:
  • Go言語の古いコンパイラツールチェーンに関する情報(5gなど):
    • Go言語の古いドキュメントやメーリングリストのアーカイブ
    • Go言語の歴史に関する記事

(注: 上記の参考情報源リンクは、一般的な知識やGoコンパイラの構造を理解するために参照した概念的な情報源であり、この特定のコミットの背景を直接説明する単一のドキュメントを指すものではありません。)