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[インデックス 15458] ファイルの概要

本解説は、Go言語のlibmachライブラリにおけるビルドエラー修正に関するコミット(インデックス15458)について詳細に説明します。このコミットは、宣言されたものの使用されていない変数が原因で発生していたビルド問題を解決することを目的としています。

コミット

commit d21b1922c61b875bb9c1ee8be39f05ffe65c8571
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Tue Feb 26 22:51:47 2013 -0500

    libmach: fix build (set and not used)
    
    TBR=golang-dev
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7401053

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/d21b1922c61b875bb9c1ee8be39f05ffe65c8571

元コミット内容

libmach: fix build (set and not used)

TBR=golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7401053

変更の背景

このコミットは、libmachライブラリのビルドプロセス中に発生していたエラーを修正するために行われました。具体的には、src/libmach/sym.cファイル内でoffという変数が宣言され、かつ値が設定されているにもかかわらず、その後のコードで一度も使用されていないことが原因でビルドエラーが発生していました。C言語のコンパイラによっては、このような「宣言され、値が設定されたが使用されていない変数」に対して警告を発するか、あるいはエラーとしてビルドを停止する場合があります。Go言語のツールチェインの一部としてCコードをコンパイルする際、この問題が顕在化したと考えられます。

開発者は、不要な変数を削除することで、このビルドエラーを解消し、libmachのビルドを成功させることを目指しました。

前提知識の解説

libmachとは

libmachは、Go言語のツールチェインの一部として使用されるライブラリで、主にデバッグ情報やシンボルテーブルの処理に関連する機能を提供します。Goのバイナリやコアダンプファイルを解析する際に、シンボル(関数名、変数名など)とそれらのメモリアドレスのマッピングを扱うために利用されます。これは、デバッガやプロファイラなどのツールが、実行中のプログラムの状態を人間が理解できる形で表示するために不可欠なコンポーネントです。

sym.cファイル

sym.clibmachライブラリの一部であり、シンボルテーブルの初期化と解析を担当するC言語のソースファイルです。プログラムの実行可能ファイルには、関数や変数の名前とそのアドレスを対応付けるシンボルテーブルが含まれており、sym.cはこのテーブルを読み込み、デバッグツールが利用できる形式に変換するロジックを含んでいます。

vlong

vlongは、C言語における特定の環境やライブラリで定義される可能性のある整数型です。通常、これは64ビット整数(long longint64_tに相当)を表すために使用されます。このコミットの文脈では、ファイルオフセットやサイズなど、大きな数値を扱うために用いられています。

BiobufBoffset

Biobufは、Plan 9オペレーティングシステム(Go言語の設計に大きな影響を与えたシステム)由来のI/OライブラリにおけるバッファリングされたI/Oストリームを表す構造体です。Boffset(&b)は、このBiobuf構造体bに関連付けられたファイルポインタの現在のオフセット(位置)を取得する関数です。これは、ファイル内の特定の位置を記録したり、そこへシークしたりするために使用されます。

「set and not used」エラー

「set and not used」または「unused variable」エラー/警告は、プログラミングにおいて変数が宣言され、値が代入されたにもかかわらず、その後のコードで一度も読み取られたり使用されたりしない場合に発生します。これは、以下のような理由で問題とされます。

  1. 無駄なリソース: 変数がメモリを占有し、コンパイル時間や実行時のオーバーヘッドをわずかながら増加させます。
  2. コードの可読性低下: 不要な変数がコードの意図を不明瞭にし、メンテナンスを困難にします。
  3. 潜在的なバグ: 変数が使用されていないのは、プログラマの意図と異なるロジックになっている可能性を示唆しており、バグの温床となることがあります。
  4. コンパイラの厳格化: 多くの現代的なコンパイラ(特にGo言語のコンパイラは非常に厳格です)は、このような未使用変数をエラーとして扱い、ビルドを停止させます。これは、開発者にクリーンで効率的なコードを書くことを強制し、潜在的な問題を早期に発見させるための設計判断です。

このコミットでは、C言語のコンパイラがこの「set and not used」の状態をエラーとして扱い、ビルドが失敗していたと考えられます。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、src/libmach/sym.cファイル内のsyminit関数におけるoff変数の取り扱いに関するものです。

syminit関数は、シンボルテーブルを初期化するために使用されます。元のコードでは、この関数内でvlong off;という変数が宣言され、さらにoff = Boffset(&b);という行でBiobuf構造体bの現在のオフセットが代入されていました。

// 変更前
@@ -110,7 +110,7 @@ syminit(int fd, Fhdr *fp)
  Sym *p;
  int32 i, l, size;
- vlong vl, off; // off が宣言されている
+ vlong vl;      // off が削除されている
  Biobuf b;
  int svalsz, newformat, shift;
  uvlong (*swav)(uvlong);
@@ -167,7 +167,6 @@ syminit(int fd, Fhdr *fp)
  size = 0;
  for(p = symbols; size < fp->symsz; p++, nsym++) {
  if(newformat) {
- off = Boffset(&b); // off に値が代入されている
  // Go 1.1 format. See comment at top of ../pkg/runtime/symtab.c.
  if(Bread(&b, &c, 1) != 1)
  return symerrmsg(1, "symbol");

このoff変数は、Boffset(&b)によって値が代入された後、その後のコードで一度も参照されたり、計算に使用されたりしていませんでした。つまり、この変数は「設定されたが使用されていない」状態でした。

Go言語のビルドシステムは、C言語のコンパイラ(通常はGCCやClangなど)を使用してGoランタイムや関連するCライブラリをコンパイルします。これらのコンパイラは、未使用変数をエラーとして扱うように設定されていることが多く、その結果、libmachのビルドが失敗していました。

このコミットでは、この問題を解決するために、off変数の宣言と、それに値を代入する行の両方を削除しました。これにより、未使用変数の問題が解消され、libmachのビルドが正常に完了するようになりました。この変更は、コードの機能には影響を与えず、単にビルドエラーを修正し、コードベースをクリーンアップするものです。

コアとなるコードの変更箇所

diff --git a/src/libmach/sym.c b/src/libmach/sym.c
index 345bcd18b8..120328d09a 100644
--- a/src/libmach/sym.c
+++ b/src/libmach/sym.c
@@ -110,7 +110,7 @@ syminit(int fd, Fhdr *fp)
  Sym *p;
  int32 i, l, size;
- vlong vl, off;
+ vlong vl;
  Biobuf b;
  int svalsz, newformat, shift;
  uvlong (*swav)(uvlong);
@@ -167,7 +167,6 @@ syminit(int fd, Fhdr *fp)
  size = 0;
  for(p = symbols; size < fp->symsz; p++, nsym++) {
  if(newformat) {
-\t\t\toff = Boffset(&b);
  // Go 1.1 format. See comment at top of ../pkg/runtime/symtab.c.
  if(Bread(&b, &c, 1) != 1)
  return symerrmsg(1, "symbol");

コアとなるコードの解説

上記のdiffは、src/libmach/sym.cファイルに対する変更を示しています。

  1. @@ -110,7 +110,7 @@ syminit(int fd, Fhdr *fp): これは、syminit関数内の変更箇所を示しています。元のファイルでは110行目から7行が変更され、新しいファイルでは110行目から7行に変更されたことを意味します。

  2. - vlong vl, off;: この行は、元のコードでvloffという2つのvlong型変数が宣言されていたことを示します。offが削除対象です。

  3. + vlong vl;: この行は、変更後のコードでvlのみがvlong型変数として宣言されていることを示します。off変数が削除されました。

  4. - off = Boffset(&b);: この行は、元のコードでoff変数にBoffset(&b)の戻り値が代入されていたことを示します。この代入行も削除されました。

これらの変更により、off変数の宣言と代入の両方がコードベースから完全に削除されました。これにより、コンパイラが「set and not used」エラーを報告することがなくなり、libmachのビルドが成功するようになりました。この修正は、コードの機能に影響を与えることなく、ビルドの健全性を回復させるためのものです。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント (一般的なGoのビルドプロセス、ツールチェイン、Cgoに関する情報)
  • Plan 9のI/Oライブラリに関するドキュメント (Biobuf, Boffsetに関する情報)
  • C言語のコンパイラに関するドキュメント (未使用変数に関する警告/エラーの挙動)
  • Go言語のソースコード (libmach/sym.cのコンテキスト理解のため)