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[インデックス 15543] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のビルドシステムにおける変更を記録しています。具体的には、cgo(C言語との相互運用機能)に関連するテストが、ARMアーキテクチャ上でスキップされるように修正が加えられました。これは、特定の環境下でのテストの安定性や互換性の問題を解決するための対応と考えられます。

コミット

commit e02168f6593db7f807a475b2bd4af0f3d7583e4d
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Fri Mar 1 15:01:26 2013 -0500

    build: skip cgo test on arm
    
    Update #4961.
    
    R=golang-dev
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7451044

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/e02168f6593db7f807a475b2bd4af0f3d7583e4d

元コミット内容

build: skip cgo test on arm

Update #4961.

R=golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7451044

変更の背景

この変更の背景には、Go言語のビルドおよびテストプロセスにおける特定の課題が存在していました。コミットメッセージにある「Update #4961」は、Goプロジェクトの課題追跡システムにおける特定のイシュー(問題)への対応を示唆しています。2013年当時のGoのイシュートラッカーは現在とは異なる可能性があり、この番号の具体的な内容は公開情報からは特定できませんでしたが、文脈から判断すると、ARMアーキテクチャ上でcgoのテストが安定して実行できない、あるいは予期せぬ問題を引き起こす状況があったと考えられます。

cgoはGoプログラムからC言語のコードを呼び出すための機能であり、異なるアーキテクチャやOS環境では、Cコンパイラ、リンカ、およびランタイムの挙動が微妙に異なることがあります。特にARMのような組み込みシステムやモバイルデバイスで広く利用されるアーキテクチャでは、クロスコンパイルや特定のシステムコール、ライブラリの互換性に関する問題が発生しやすい傾向にあります。このコミットは、そのような環境依存の問題を一時的に回避し、CI/CDパイプラインや開発者のテスト実行を妨げないようにするための実用的な措置として導入されました。

前提知識の解説

cgo

cgoは、Go言語のプログラムからC言語の関数を呼び出したり、C言語のコード内でGoの関数を呼び出したりするためのGoの機能です。これにより、既存のCライブラリをGoプロジェクトで再利用したり、パフォーマンスが重要な部分をCで記述したりすることが可能になります。cgoを使用するGoのソースファイルは、import "C"という特別なインポート宣言を含み、CのコードをGoのコメントブロック内に記述することができます。ビルド時には、cgoツールがこれらのCコードをGoのコードとリンク可能な形式に変換します。

ARMアーキテクチャ

ARM(Advanced RISC Machine)アーキテクチャは、低消費電力と高性能を両立するRISC(Reduced Instruction Set Computer)プロセッサの命令セットアーキテクチャです。スマートフォン、タブレット、組み込みシステム、IoTデバイス、最近ではサーバーやデスクトップPC(Apple Siliconなど)に至るまで、非常に幅広いデバイスで利用されています。ARMプロセッサは、x86プロセッサとは異なる命令セットとメモリモデルを持つため、ソフトウェアをARM向けにコンパイルする際には、特定の最適化や互換性の調整が必要になることがあります。

go test

go testは、Go言語の標準的なテスト実行コマンドです。Goのテストフレームワークは、_test.goで終わるファイルに記述されたテスト関数(TestXxxという命名規則に従う)を自動的に発見し、実行します。go testは、テストのコンパイル、実行、結果のレポートまでを一貫して行います。cgoを使用するパッケージのテストも、通常はこのコマンドで実行されますが、cgoの特性上、クロスコンパイル環境や特定のアーキテクチャでは、テストの実行環境のセットアップが複雑になったり、予期せぬエラーが発生したりすることがあります。

技術的詳細

このコミットは、Goのビルドスクリプトであるsrc/run.bashに条件分岐を追加することで、ARMアーキテクチャ上でのcgoテストの実行をスキップしています。

src/run.bashは、Goのテストスイート全体を実行するためのシェルスクリプトです。このスクリプト内で、cgoテストの実行を制御するセクションがあります。元のコードでは、CGO_ENABLED環境変数が1である場合、またはGOHOSTOSopenbsdでない場合にcgoテストを実行するようになっていました(OpenBSDでの問題はissue 4878で追跡されていました)。

今回の変更では、この条件にGOARCHarmである場合も追加されました。GOARCHはGoのビルドターゲットアーキテクチャを示す環境変数です。つまり、GOARCHarmに設定されている環境では、cgoテストの実行がスキップされるようになります。

このスキップの理由は、ARM環境におけるcgoのテストの不安定性や、特定のCライブラリの依存関係、あるいはクロスコンパイル環境でのセットアップの複雑さなどが考えられます。例えば、ARM環境で利用可能なCコンパイラのバージョンや設定、あるいは特定のシステムヘッダーファイルの欠如などが、テストの失敗につながる可能性がありました。テストをスキップすることで、Goのビルドとテストの全体的な安定性を向上させ、開発者がARM環境でGoを扱う際の障壁を一時的に取り除くことが目的です。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/run.bash
+++ b/src/run.bash
@@ -75,6 +75,7 @@ go run $GOROOT/test/run.go - .
 
  [ "$CGO_ENABLED" != 1 ] ||
  [ "$GOHOSTOS" == openbsd ] || # issue 4878
+[ "$GOARCH" == arm ] || # issue 4961
  (xcd ../misc/cgo/test
  go test
  ) || exit $?

コアとなるコードの解説

変更はsrc/run.bashファイルの78行目に追加された1行です。

元のコードは以下のようになっていました。

[ "$CGO_ENABLED" != 1 ] || \
[ "$GOHOSTOS" == openbsd ] || \
(xcd ../misc/cgo/test; go test) || exit $?

これはシェルスクリプトの条件分岐で、論理OR (||) を使用しています。

  • [ "$CGO_ENABLED" != 1 ]: cgoが無効化されている場合(CGO_ENABLED1ではない場合)。
  • [ "$GOHOSTOS" == openbsd ]: ホストOSがOpenBSDである場合(issue 4878に対応)。

これらの条件のいずれかが真であれば、その後のコマンド(xcd ../misc/cgo/test; go test)は実行されません。つまり、cgoテストがスキップされます。

今回のコミットで追加された行は以下の通りです。

[ "$GOARCH" == arm ] || # issue 4961

この行が追加されたことで、条件分岐は以下のようになります。

[ "$CGO_ENABLED" != 1 ] || \
[ "$GOHOSTOS" == openbsd ] || \
[ "$GOARCH" == arm ] || \
(xcd ../misc/cgo/test; go test) || exit $?

これにより、

  • CGO_ENABLED1ではない場合、または
  • GOHOSTOSopenbsdである場合、または
  • GOARCHarmである場合

のいずれかの条件が真であれば、../misc/cgo/testディレクトリに移動してgo testを実行する処理がスキップされます。

この変更は、ARMアーキテクチャ上でのcgoテストの実行を明示的に回避するためのものであり、特定の環境でのビルドやテストの失敗を防ぐことを目的としています。

関連リンク

参考にした情報源リンク