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[インデックス 15672] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のビルドシステムにおけるテストスクリプト src/run.bash の変更に関するものです。具体的には、ホストリンキング(host linking)のテストが実行されるオペレーティングシステムとアーキテクチャの組み合わせに、FreeBSD、NetBSD、OpenBSDの各386およびamd64アーキテクチャを追加しています。これにより、これらのBSD系OS上でのGoのビルドおよびリンキングの安定性と互換性を検証し、潜在的な問題を早期に発見することを目的としています。コミットメッセージにある「Let's just see what breaks.」という文言は、この変更が広範なテストカバレッジを確保し、予期せぬバグをあぶり出すための積極的な試みであることを示唆しています。

コミット

  • コミットハッシュ: 761c38677021c438b965762bf52ab814c46c871c
  • Author: Russ Cox rsc@golang.org
  • Date: Mon Mar 11 01:12:18 2013 -0400
  • コミットメッセージ:
    build: enable host linking test for all BSDs
    
    Let's just see what breaks.
    
    R=golang-dev, bradfitz, adg
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7693043
    

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/761c38677021c438b965762bf52ab814c46c871c

元コミット内容

build: enable host linking test for all BSDs

Let's just see what breaks.

R=golang-dev, bradfitz, adg
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7693043

変更の背景

この変更の背景には、Go言語のクロスプラットフォーム対応と安定性向上への継続的な取り組みがあります。Goは設計当初から、様々なオペレーティングシステムやアーキテクチャで動作することを目標としていました。そのため、各プラットフォームでのビルド、リンキング、実行時の挙動を網羅的にテストすることが不可欠です。

特に、C言語との相互運用機能であるCgoを使用する場合、Goのコンパイラとリンカは、システムにインストールされているCコンパイラ(通常はGCCやClang)と連携して、Cのオブジェクトファイル(ホストオブジェクト)をGoの実行可能ファイルにリンクする必要があります。このプロセスは、OSやアーキテクチャによって細かな違いがあり、予期せぬリンキングエラーや実行時エラーが発生する可能性があります。

このコミットが行われた2013年当時、Goはまだ比較的新しい言語であり、様々なプラットフォームでの成熟度を高めている段階でした。既存のテストスイートでは、Darwin(macOS)とLinuxのx86およびx86-64アーキテクチャでホストリンキングのテストが実行されていましたが、BSD系OS(FreeBSD, NetBSD, OpenBSD)については、同様のテストカバレッジが不足していたと考えられます。

コミットメッセージの「Let's just see what breaks.」という表現は、開発チームがこれらのBSD系OSでのホストリンキングのテストを積極的に拡大し、潜在的な互換性問題やバグを早期に発見し、修正しようとする意図を示しています。これにより、Go言語がより多くの環境で安定して動作するようになることを目指していました。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の技術的な概念について知っておく必要があります。

  1. Go言語のビルドシステム: Go言語のビルドプロセスは、ソースコードをコンパイルし、実行可能なバイナリを生成する一連のステップです。Goのツールチェインは、クロスコンパイルを容易にするように設計されており、GOOS(ターゲットOS)とGOARCH(ターゲットアーキテクチャ)の環境変数を設定することで、異なるプラットフォーム向けのバイナリを生成できます。 ビルドプロセスには、コンパイル(Goコードをオブジェクトファイルに変換)、アセンブル(アセンブリコードをオブジェクトファイルに変換)、リンキング(オブジェクトファイルと必要なライブラリを結合して実行可能ファイルを生成)が含まれます。

  2. go test コマンド: go testは、Go言語の標準的なテスト実行コマンドです。Goのテストは、_test.goというサフィックスを持つファイルに記述され、TestXxxという命名規則に従う関数として定義されます。go testはこれらのテスト関数を検出し、実行し、結果を報告します。

  3. リンカフラグ (-ldflags): go buildgo testコマンドには、リンカに渡す追加のフラグを指定するための-ldflagsオプションがあります。これにより、生成されるバイナリの特性を細かく制御できます。例えば、シンボルテーブルの削除、デバッグ情報の削除、特定のライブラリのリンク方法の指定などが可能です。

  4. -w リンカフラグ: -ldflags "-w"-wフラグは、生成されるバイナリからDWARFデバッグ情報を削除するようリンカに指示します。これにより、バイナリのサイズを削減できますが、デバッガでのデバッグが困難になります。テスト実行時には、デバッグ情報が不要な場合が多いため、このフラグが使用されることがあります。

  5. -hostobj リンカフラグ: -ldflags "-hostobj"-hostobjフラグは、Cgo(GoとC言語の相互運用機能)を使用する際に特に重要です。このフラグは、Goのリンカが、Cgoによって生成されたCのオブジェクトファイル(これらは「ホストオブジェクト」と呼ばれることがあります)をどのように扱うかに関連します。具体的には、Cgoが生成したCのオブジェクトファイルをGoの実行可能ファイルにリンクする際に、Goのリンカがホストシステム(Goのビルドが実行されているシステム)のリンカと連携して処理を行うことを示唆しています。これは、CgoがGoのコードからCの関数を呼び出す際に、CのコードがホストシステムのCコンパイラによってコンパイルされ、その結果生成されたオブジェクトファイルがGoのバイナリに組み込まれる必要があるためです。

  6. Cgo: Cgoは、GoプログラムからC言語のコードを呼び出したり、C言語のコードからGoの関数を呼び出したりするためのGoの機能です。Cgoを使用すると、既存のCライブラリをGoプロジェクトに統合したり、パフォーマンスが重要な部分をCで記述したりすることができます。Cgoを使用するGoプログラムをビルドする際には、Goコンパイラだけでなく、ホストシステムのCコンパイラ(GCCやClangなど)も必要になります。

  7. BSD系OS: BSD(Berkeley Software Distribution)は、Unixオペレーティングシステムの派生ファミリーです。このコミットで言及されているFreeBSD、NetBSD、OpenBSDは、それぞれ異なる開発目標とコミュニティを持つ、広く使用されているBSD系OSです。これらは、Linuxと同様に、サーバー、デスクトップ、組み込みシステムなど、様々な環境で利用されています。Go言語はこれらのOSもサポート対象としています。

  8. src/run.bash: Go言語のソースリポジトリ内のsrc/run.bashファイルは、Goのテストスイートを実行するためのシェルスクリプトです。Goのビルドシステムやテストフレームワークの内部的な動作を制御するために使用されます。このスクリプトは、GOROOT(Goのインストールディレクトリ)やGOHOSTOS(ビルドホストのOS)、GOARCH(ビルドホストのアーキテクチャ)といった環境変数を利用して、テストの実行環境を調整します。

  9. GOHOSTOSGOARCH: Goのビルドシステムで使用される環境変数です。

    • GOHOSTOS: Goのビルドが実行されているホストシステムのオペレーティングシステム(例: darwin, linux, freebsd)。
    • GOARCH: Goのビルドが実行されているホストシステムのCPUアーキテクチャ(例: 386, amd64)。 これらの変数は、クロスコンパイルのターゲットを指定するGOOSGOARCHとは異なり、ビルド環境自体の特性を示します。

技術的詳細

このコミットは、Go言語のテストスクリプト src/run.bash の変更を通じて、特定のビルド環境下でのホストリンキングテストの実行範囲を拡大しています。

src/run.bash スクリプトは、Goのテストスイートの一部として、様々なテストを実行します。その中には、Cgoに関連するテストも含まれており、特にホストリンキングの挙動を検証するテストが存在します。

変更前のスクリプトでは、以下のOSとアーキテクチャの組み合わせでのみ、go test -ldflags '-w -hostobj' コマンドが実行されていました。

  • darwin-386 (macOS 32-bit)
  • darwin-amd64 (macOS 64-bit)
  • linux-386 (Linux 32-bit)
  • linux-amd64 (Linux 64-bit)

このcase文は、現在のビルドホストのOSとアーキテクチャ($GOHOSTOS-$GOARCH)に基づいて条件分岐を行い、特定の環境でのみgo testコマンドに-ldflags '-w -hostobj'というリンカフラグを付けて実行していました。

このコミットでは、このcase文の条件に以下のBSD系OSの組み合わせが追加されました。

  • freebsd-386 (FreeBSD 32-bit)
  • freebsd-amd64 (FreeBSD 64-bit)
  • netbsd-386 (NetBSD 32-bit)
  • netbsd-amd64 (NetBSD 64-bit)
  • openbsd-386 (OpenBSD 32-bit)
  • openbsd-amd64 (OpenBSD 64-bit)

これにより、GoのテストスイートがFreeBSD、NetBSD、OpenBSDの各32ビットおよび64ビット環境で実行される際にも、Cgoのホストリンキングに関連するテストが実行されるようになります。

go test -ldflags '-w -hostobj' コマンドの目的は、Cgoを使用するテストにおいて、Goのリンカがホストシステムのリンカと連携してCのオブジェクトファイルを正しくリンクできるかを確認することです。-wフラグはデバッグ情報を削除するもので、テストの実行自体には直接影響しませんが、生成されるテストバイナリのサイズを小さくする効果があります。-hostobjフラグは、Cgoが生成するCのオブジェクトファイル(ホストオブジェクト)のリンキング挙動をテストするために特に重要です。

この変更は、Go言語がこれらのBSD系OS上でCgoを介した外部Cライブラリとの連携をより堅牢に行えるようにするための、重要なテストカバレッジの拡大を意味します。もしこれらの環境でリンキングに関する問題があれば、このテストの追加によって早期に検出され、修正されることが期待されます。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/run.bash
+++ b/src/run.bash
@@ -78,7 +78,7 @@ go run $GOROOT/test/run.go - .
 (xcd ../misc/cgo/test
 go test
 case "$GOHOSTOS-$GOARCH" in
-darwin-386 | darwin-amd64 | linux-386 | linux-amd64)
+darwin-386 | darwin-amd64 | freebsd-386 | freebsd-amd64 | linux-386 | linux-amd64 | netbsd-386 | netbsd-amd64 | openbsd-386 | openbsd-amd64)
 	go test -ldflags '-w -hostobj'
 esac
 ) || exit $?

コアとなるコードの解説

変更は、src/run.bash ファイル内のcase "$GOHOSTOS-$GOARCH"文の1行に集約されています。

元のコードでは、darwin-386 | darwin-amd64 | linux-386 | linux-amd64) というパターンにマッチした場合にのみ、go test -ldflags '-w -hostobj' コマンドが実行されていました。これは、macOSとLinuxの32ビットおよび64ビット環境でのみ、Cgoのホストリンキングテストが実行されていたことを意味します。

変更後のコードでは、このパターンに以下のOSとアーキテクチャの組み合わせが追加されています。

  • freebsd-386
  • freebsd-amd64
  • netbsd-386
  • netbsd-amd64
  • openbsd-386
  • openbsd-amd64

これにより、Goのテストスクリプトが実行される環境がFreeBSD、NetBSD、OpenBSDのいずれかであり、かつアーキテクチャが386またはamd64である場合にも、go test -ldflags '-w -hostobj' コマンドが実行されるようになります。

この変更の直接的な効果は、GoのCgoホストリンキングテストの適用範囲を、既存のmacOSおよびLinux環境から、主要なBSD系OS環境へと拡大することです。これにより、これらのプラットフォームにおけるCgoの安定性と互換性がより厳密に検証され、潜在的なリンキング問題やCgo関連のバグが早期に発見・修正される可能性が高まります。

関連リンク

参考にした情報源リンク