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[インデックス 15721] ファイルの概要

本ドキュメントは、Go言語のランタイムに関するコミット 4e032ce301f980d238d876278d60a4937c772814 について、その技術的な詳細と背景を包括的に解説します。

コミット

  • コミットハッシュ: 4e032ce301f980d238d876278d60a4937c772814
  • 作者: Dmitriy Vyukov dvyukov@google.com
  • コミット日時: 2013年3月12日 火曜日 21:39:49 +0400
  • コミットメッセージ:
    runtime: fix build
    
    R=golang-dev
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7760043
    

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/4e032ce301f980d238d876278d60a4937c772814

元コミット内容

runtime: fix build

R=golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7760043

変更の背景

このコミットの主な目的は、Goランタイムのビルドに関する問題を修正することです。コミットメッセージの「runtime: fix build」が示す通り、何らかのビルドエラーが発生しており、それを解決するためにこの変更が導入されました。

具体的な変更内容を見ると、src/pkg/runtime/netpoll_stub.c ファイルから // +build windows というビルドタグが削除されています。これは、このファイルが意図せずWindows環境でのみビルドされるように設定されていたか、あるいはその設定が他の環境でのビルドを妨げていた可能性を示唆しています。Goのビルドシステムは、特定のOSやアーキテクチャ向けのコードを条件付きでコンパイルするためにビルドタグを使用します。このタグの誤用や不適切な配置が、ビルドの失敗を引き起こしていたと考えられます。

前提知識の解説

Goのビルドタグ (Build Tags)

Go言語には、ソースコードファイルに特別なコメント行を追加することで、特定のビルド条件に基づいてファイルのコンパイルを制御する「ビルドタグ(build tags)」という機能があります。これは、クロスプラットフォーム開発において、OS固有のコードやアーキテクチャ固有のコードを適切に含めたり除外したりするために非常に重要です。

ビルドタグは、ファイルの先頭付近に // +build tag_name の形式で記述されます。例えば、// +build windows と記述されたファイルは、Windows環境でのビルド時にのみコンパイル対象となります。複数のタグをスペースで区切って記述することもでき、その場合はAND条件となります(例: // +build linux amd64 はLinuxかつAMD64アーキテクチャの場合にコンパイル)。また、カンマで区切るとOR条件になります(例: // +build linux,darwin はLinuxまたはmacOSの場合にコンパイル)。タグの前に ! を付けると否定条件になります(例: // +build !windows はWindows以外の環境でコンパイル)。

netpoll_stub.c とネットワークポーリング

netpoll_stub.c は、Goランタイムにおけるネットワークポーリングのスタブ(stub)実装、つまりプレースホルダーまたは最小限の実装を提供するC言語のファイルです。ネットワークポーリングは、I/O操作(特にネットワーク通信)の準備ができたかどうかを効率的に監視するためのメカニズムです。Goのランタイムは、ノンブロッキングI/Oとイベント駆動型プログラミングをサポートするために、OS固有のネットワークポーリングメカニズム(例: Linuxのepoll、macOSのkqueue、WindowsのIOCP)を利用します。

スタブ実装は、特定のOS固有のポーリングメカニズムが利用できない場合や、テスト目的、あるいは特定の環境でネットワークポーリングが不要な場合に、最小限の機能を提供するために使用されます。このファイルが「スタブ」であることから、おそらく実際のネットワークポーリングの実装は、各OS固有のファイル(例: netpoll_linux.go, netpoll_windows.go など)に存在し、netpoll_stub.c はそれらのいずれも適用されない場合のフォールバックとして機能する、あるいは特定のビルド構成でのみ使用されることを意図していたと考えられます。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、src/pkg/runtime/netpoll_stub.c ファイルから // +build windows という行が削除された点に集約されます。

元の状態では、netpoll_stub.c// +build windows というビルドタグを持っていたため、Goのビルドシステムは、このファイルをWindows環境でのみコンパイル対象として認識していました。これは、以下のいずれかの問題を引き起こしていた可能性があります。

  1. 非Windows環境でのビルドエラー: netpoll_stub.c が、Windows以外のOS(Linux, macOSなど)でビルドされるべきランタイムの一部であったにもかかわらず、ビルドタグによってコンパイルから除外されていた場合、これらの環境で必要なシンボルや関数が不足し、リンクエラーやビルドエラーが発生していた可能性があります。
  2. 意図しないコンパイルの除外: netpoll_stub.c が、実際にはWindows固有のコードではなく、すべてのプラットフォームで共通して必要とされる、あるいは特定の条件下で必要とされるスタブ実装であったにもかかわらず、誤ってWindows専用としてマークされていた場合です。この場合、Windows以外の環境でビルドが失敗するか、あるいは予期せぬ動作を引き起こす可能性がありました。

コミットメッセージの「fix build」という記述から、前者の「非Windows環境でのビルドエラー」が最も可能性が高いシナリオです。netpoll_stub.c は、おそらくGoランタイムの基本的なネットワークポーリング機能の一部として、特定のOS固有の実装が存在しない場合にフォールバックとして機能する、あるいは特定のビルド構成で常に含まれるべきファイルだったのでしょう。しかし、誤って +build windows タグが付与されたことで、Windows以外の環境ではこのファイルがコンパイルされず、結果としてビルドが失敗していたと考えられます。

このコミットによって // +build windows タグが削除されたことで、netpoll_stub.c は特定のOSに限定されずにコンパイルされるようになりました。これにより、Goランタイムのビルドプロセスが修正され、すべてのサポート対象プラットフォームで正しくビルドが完了するようになったと推測されます。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/pkg/runtime/netpoll_stub.c ファイルの1箇所のみです。

--- a/src/pkg/runtime/netpoll_stub.c
+++ b/src/pkg/runtime/netpoll_stub.c
@@ -2,8 +2,6 @@
 // Use of this source code is governed by a BSD-style
 // license that can be found in the LICENSE file.
 
-// +build windows
-
 #include "runtime.h"
 
 // Polls for ready network connections.

具体的には、以下の2行が削除されました。

// +build windows

コアとなるコードの解説

削除された // +build windows という行は、Goのビルドシステムに対する指示であり、このファイルがWindows環境でのみコンパイルされるべきであることを示していました。

この行が削除されたことにより、src/pkg/runtime/netpoll_stub.c はもはやWindows固有のファイルではなくなりました。つまり、Goのビルドシステムは、このファイルをGoがサポートするすべてのオペレーティングシステム(または、他のより具体的なビルドタグが適用されない限り)でコンパイル対象として含めるようになります。

この変更は、Goランタイムのビルドプロセスにおいて、netpoll_stub.c が特定のプラットフォームに限定されずに、より広範な環境で利用可能になることを意味します。これにより、Windows以外の環境でこのスタブ実装が必要とされていた場合に発生していたビルドエラーが解消され、Goランタイムのクロスプラットフォーム互換性が向上しました。

関連リンク

  • Go Change-Id: https://golang.org/cl/7760043 (このリンクは、GoプロジェクトのコードレビューシステムであるGerritの変更リストを指します。ただし、この特定のCLは cmd/go: add -json flag to 'go list' という別のコミットに関連付けられているようです。これは、コミットメッセージに記載されたCL IDが、実際の変更内容とは異なる、あるいは古い情報である可能性を示唆しています。Goのコミット履歴では、このような参照のずれが稀に発生することがあります。このコミット自体は、直接的なGerritの変更リストへのリンクとしては機能しないかもしれません。)

参考にした情報源リンク

  • GitHub: golang/go commit 4e032ce301f980d238d876278d60a4937c772814
  • Go言語のビルドタグに関する公式ドキュメント (Goのバージョンによってドキュメントの場所が変わる可能性がありますが、一般的にはGoの公式ドキュメントやgo help buildコマンドで詳細を確認できます。)
  • Goランタイムのソースコード (src/pkg/runtime/ ディレクトリ内の関連ファイル)
  • ネットワークポーリングに関する一般的な情報 (オペレーティングシステムにおけるI/O多重化のメカニズムについて)
  • Goのクロスコンパイルとビルドプロセスに関する情報