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[インデックス 15744] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の公式FAQドキュメントである doc/go_faq.html の記述を修正し、gccgo コンパイラがGCCのフロントエンドであることをより明確に説明することを目的としています。具体的には、「GccgoはC++フロントエンドを持つ」という表現を「GccgoはC++で書かれたフロントエンドを持つ」と変更し、より正確な情報を提供しています。

コミット

commit b4afe88973a0e6bcd7b1fec508ec6cebc1e863d8
Author: Mike Rosset <mike.rosset@gmail.com>
Date:   Tue Mar 12 17:12:56 2013 -0700

    doc: clarify that gccgo is a GCC front-end
    
    R=golang-dev, r, iant, iant
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6454072

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/b4afe88973a0e6bcd7b1fec508ec6cebc1e863d8

元コミット内容

doc: clarify that gccgo is a GCC front-end

R=golang-dev, r, iant, iant
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6454072

変更の背景

この変更の背景には、Go言語のコンパイラ技術に関するFAQの記述の正確性を向上させるという意図があります。Go言語には主に二つの主要なコンパイラ実装が存在します。一つは公式ツールチェインでデフォルトとして使用される gc (Go Compiler) であり、もう一つはGCC (GNU Compiler Collection) の一部として提供される gccgo です。

元の記述では Gccgo has a C++ front-end となっていましたが、これは gccgo がC++で実装されたフロントエンドを持つという事実を述べているものの、その「フロントエンド」がGCCのアーキテクチャにおける役割を明確に示していませんでした。gccgo はGo言語のソースコードをGCCが理解できる中間表現に変換する役割を担っており、これはまさにGCCの「フロントエンド」の定義に合致します。

このコミットは、gccgo が単にC++で書かれているだけでなく、GCCという巨大なコンパイラフレームワークの一部として、Go言語の「フロントエンド」として機能しているという技術的な位置づけをより正確に、かつ分かりやすく伝えるために行われました。これにより、Go言語のコンパイラ技術について学ぶユーザーが、gccgo の役割とGCCとの関係性を正しく理解できるようになります。

前提知識の解説

このコミットの理解を深めるためには、以下の技術的な概念について知っておく必要があります。

1. コンパイラの基本構造(フロントエンド、ミドルエンド、バックエンド)

コンパイラは、ソースコードを機械が実行できる形式(実行可能ファイルなど)に変換するソフトウェアです。一般的なコンパイラは、以下の3つの主要な部分に分けられます。

  • フロントエンド (Front End):

    • ソースコードを解析し、コンパイラが内部的に処理できる中間表現 (Intermediate Representation, IR) に変換する部分です。
    • 字句解析(トークン化)、構文解析(パース)、意味解析(型チェックなど)を行います。
    • 言語ごとに異なるフロントエンドが存在します。例えば、C言語用、C++言語用、Go言語用などです。
    • このコミットで言及されている gccgo は、Go言語のソースコードをGCCのIRに変換する役割を担うため、GCCのGo言語用フロントエンドに該当します。
  • ミドルエンド (Middle End):

    • フロントエンドが生成した中間表現に対して、言語やターゲットアーキテクチャに依存しない最適化を行う部分です。
    • 共通部分式除去、ループ最適化、インライン化など、様々な最適化手法が適用されます。
    • GCCのような統合コンパイラでは、複数の言語のフロントエンドが共通のミドルエンドを利用することで、コードの再利用性と最適化の効率を高めています。
  • バックエンド (Back End):

    • ミドルエンドで最適化された中間表現を、特定のターゲットアーキテクチャ(例: x86, ARM)の機械語に変換する部分です。
    • コード生成、レジスタ割り当て、命令スケジューリングなどを行います。
    • ターゲットアーキテクチャごとに異なるバックエンドが存在します。

2. gcgccgo

Go言語には、主に2つの公式なコンパイラ実装が存在します。

  • gc (Go Compiler):

    • Go言語の公式ツールチェインに同梱されているデフォルトのコンパイラです。
    • Go言語の初期から開発されており、Go言語のセマンティクスに特化した最適化が行われます。
    • コンパイル速度が速いことが特徴です。
    • Go言語の新しい機能は通常、まず gc に実装されます。
    • yacc/bison を使用してパーサーが構築されています。
  • gccgo:

    • GNU Compiler Collection (GCC) の一部として提供されるGo言語コンパイラです。
    • Go言語のソースコードをGCCの内部表現に変換し、GCCの強力な最適化パスと多様なバックエンドを利用して機械語を生成します。
    • GCCがサポートする幅広いアーキテクチャやオペレーティングシステムでGoプログラムをコンパイルできるという利点があります。
    • gc に比べてコンパイル速度は遅い傾向がありますが、GCCの高度な最適化により、生成されるバイナリの実行速度が gc よりも速くなる場合があります。
    • このコミットで言及されているように、C++で書かれたフロントエンドを持ち、再帰下降パーサーを使用しています。

3. 再帰下降パーサー (Recursive Descent Parser)

再帰下降パーサーは、構文解析(パース)の手法の一つで、トップダウン解析に分類されます。文法の各非終端記号(例: , , 関数定義)に対応する関数(またはプロシージャ)を定義し、これらの関数が再帰的に呼び出されることで入力文字列を解析します。

  • 特徴:
    • 実装が比較的直感的で、手書きで作成しやすい。
    • 文法規則とコードの対応関係が明確。
    • 通常、LL(k)文法(左から右へ読み進め、k個の先読みトークンで次に適用すべき規則を決定できる文法)に限定されるか、バックトラック(解析に失敗した場合に以前の状態に戻って別の規則を試す)を導入する必要があります。
    • gccgo のフロントエンドでは、この再帰下降パーサーが使用されています。

4. Yacc/Bison

Yacc (Yet Another Compiler Compiler) と Bison は、パーサー(構文解析器)を自動生成するためのツールです。

  • 役割:
    • 文法規則を記述したファイル(通常はBNF形式)を入力として受け取り、その文法に従って入力ストリームを解析するC言語(または他の言語)のコードを生成します。
    • 字句解析器(Lex/Flexなど)が生成したトークンのストリームを受け取り、それらが文法的に正しいかを検証し、構文木などの内部表現を構築します。
  • gc との関係:
    • gc コンパイラは、そのパーサーの構築に yacc/bison を使用しています。これは、gc が伝統的なコンパイラ構築ツールを利用していることを示しています。

5. Plan 9 C コンパイラスイート

Plan 9は、ベル研究所で開発された分散オペレーティングシステムです。その開発過程で、独自のCコンパイラスイートが作成されました。

  • 特徴:
    • 非常に移植性が高く、様々なアーキテクチャに対応しています。
    • プリプロセッサ、コンパイラ、アセンブラの役割を統合した単一のプログラムとして設計されています。
    • Go言語の初期のコンパイラ (gc) は、このPlan 9 Cコンパイラスイートの設計思想や一部の技術的要素から影響を受けています。特に、gc がC言語で書かれている点や、その設計哲学にPlan 9の思想が反映されていることが知られています。

これらの前提知識を理解することで、コミットがGo言語のコンパイラ技術のどの側面を修正し、なぜその修正が重要であるのかを深く把握することができます。

技術的詳細

このコミットは、Go言語のFAQドキュメント doc/go_faq.html 内の「What compiler technology is used to build the compilers?」(コンパイラを構築するためにどのようなコンパイラ技術が使われていますか?)というセクションの記述を修正しています。

修正の対象となっているのは、gccgo コンパイラに関する説明です。元の記述は以下の通りでした。

Gccgo has a C++ front-end with a recursive descent parser coupled to the standard GCC back end. (Gccgoは、標準のGCCバックエンドに結合された、C++フロントエンドと再帰下降パーサーを持っています。)

この記述は技術的に誤りではありませんが、C++ front-end という表現が、gccgo が単にC++で書かれているという事実と、GCCのアーキテクチャにおける「フロントエンド」という役割を混同させる可能性がありました。

修正後の記述は以下の通りです。

Gccgo has a front end written in C++, with a recursive descent parser coupled to the standard GCC back end. (Gccgoは、標準のGCCバックエンドに結合された、C++で書かれたフロントエンドと再帰下降パーサーを持っています。)

この変更により、以下の点がより明確になります。

  1. 「フロントエンド」の役割の強調: a front end written in C++ という表現は、gccgo がGCCのコンパイラアーキテクチャにおける「フロントエンド」としての役割を担っており、その実装言語がC++であるという事実を明確に区別して伝えています。これにより、読者はgccgo がGo言語のソースコードをGCCの共通中間表現に変換する役割を果たす、GCCのGo言語用インターフェースであるという理解を深めることができます。
  2. 正確性の向上: 元の表現では「C++フロントエンドを持つ」と、あたかもC++自体がフロントエンドであるかのように読める可能性がありました。修正後は「C++で書かれたフロントエンドを持つ」となり、フロントエンドという機能的な役割と、その実装言語であるC++を明確に分離しています。
  3. GCCのモジュール性への言及: この修正は、GCCが複数のプログラミング言語に対応するために、言語ごとに異なるフロントエンドを持ち、共通のミドルエンドとバックエンドを共有するというモジュール化された設計を採用していることを暗に示しています。gccgo はこの設計パターンに完全に合致するGo言語のフロントエンドです。

この変更は、Go言語のコンパイラ技術に関する公式ドキュメントの正確性と明瞭性を高めるための、細かではあるが重要な改善と言えます。特に、gcgccgo の違いや、gccgo がGCCエコシステム内でどのように位置づけられているかを理解する上で、より正確な情報を提供します。

コアとなるコードの変更箇所

変更は doc/go_faq.html ファイルの1箇所のみです。

--- a/doc/go_faq.html
+++ b/doc/go_faq.html
@@ -1407,7 +1407,7 @@ test cases. The standard Go library is full of illustrative examples, such as in
 What compiler technology is used to build the compilers?</h3>
 
 <p>
-<code>Gccgo</code> has a C++ front-end with a recursive descent parser coupled to the
+<code>Gccgo</code> has a front end written in C++, with a recursive descent parser coupled to the
 standard GCC back end. <code>Gc</code> is written in C using
 <code>yacc</code>/<code>bison</code> for the parser.
 Although it's a new program, it fits in the Plan 9 C compiler suite

具体的には、以下の行が変更されました。

  • - <code>Gccgo</code> has a C++ front-end with a recursive descent parser coupled to the
  • + <code>Gccgo</code> has a front end written in C++, with a recursive descent parser coupled to the

C++ front-endfront end written in C++ に変更されています。

コアとなるコードの解説

この変更は、gccgo の技術的な説明における表現の正確性を向上させることを目的としています。

  • 変更前: C++ front-end

    • この表現は、gccgo のフロントエンドがC++で実装されていることを示していますが、文脈によっては「C++という言語がフロントエンドである」という誤解を招く可能性がありました。コンパイラの「フロントエンド」とは、特定のプログラミング言語(この場合はGo)のソースコードを解析し、中間表現に変換する機能的なモジュールを指します。C++はそのモジュールを実装するために使用された言語に過ぎません。
  • 変更後: front end written in C++

    • この表現は、「C++で書かれたフロントエンド」と明確に述べることで、フロントエンドがGo言語の処理を担当する機能的な部分であり、その実装言語がC++であることを明確に区別しています。これにより、読者はgccgo がGo言語のソースコードを処理するためのGCCのフロントエンドであり、そのフロントエンドがC++で開発されているという正確な情報を得ることができます。

この修正は、Go言語のコンパイラ技術に関するFAQの記述の明瞭性と正確性を高めるための、小さな変更ながらも重要な改善です。特に、コンパイラアーキテクチャの専門用語に不慣れな読者に対して、より正確な理解を促す効果があります。

関連リンク

参考にした情報源リンク