[インデックス 15887] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のEmacsメジャーモードであるgo-mode.el
に対する変更です。go-mode.el
は、Emacsエディタ内でGo言語のコードを編集する際に、シンタックスハイライト、インデント、コードフォーマット(gofmt
の実行)、定義へのジャンプなどの機能を提供するLispスクリプトです。
コミット
commit c7ad7a1af4ed8cb832f429eb57da182daf8427dd
Author: Dominik Honnef <dominik.honnef@gmail.com>
Date: Thu Mar 21 20:03:27 2013 -0700
misc/emacs: Kill gofmt error buffer if the buffer was formatted correctly already.
R=adonovan, cw, patrick.allen.higgins, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7844045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/c7ad7a1af4ed8cb832f429eb57da182daf8427dd
元コミット内容
misc/emacs: Kill gofmt error buffer if the buffer was formatted correctly already.
このコミットは、Emacsのgo-mode
において、gofmt
ツールを実行した際に、もしバッファが既に正しくフォーマットされていた場合、gofmt
のエラーバッファを自動的に閉じるようにする変更です。
変更の背景
Emacsのgo-mode
では、Go言語のコードをgofmt
によって自動整形する機能が提供されています。通常、gofmt
を実行すると、その出力(エラーや変更内容など)を表示するための補助的なバッファ(この場合はerrbuf
)が作成されます。
この変更が導入される前は、もし編集中のGoコードが既にgofmt
の規約に従って正しくフォーマットされていた場合でも、gofmt
の実行によって作成された一時的なエラーバッファが閉じられずに残ってしまう可能性がありました。これはユーザーにとって不要なバッファが残り、Emacsのワークスペースが散らかる原因となっていました。
このコミットの目的は、このような場合に不要なエラーバッファを自動的に閉じ、ユーザーに「Buffer is already gofmted」(バッファは既にgofmtによって整形されています)という明確なメッセージを表示することで、ユーザーエクスペリエンスを向上させることにあります。これにより、gofmt
の実行結果が「変更なし」であった場合に、よりクリーンで分かりやすいフィードバックが提供されるようになります。
前提知識の解説
- Emacs: GNU Emacsは、非常に強力で拡張性の高いテキストエディタです。Lisp言語(Emacs Lisp)で記述されており、ユーザーはLispコードを記述することでエディタの機能を自由にカスタマイズ・拡張できます。
- Emacs Lisp (Elisp): Emacsの拡張機能や設定を記述するために使用されるプログラミング言語です。Emacsのほぼ全ての機能はEmacs Lispで実装されており、ユーザーはこれを活用して独自のコマンドやモードを作成できます。
go-mode.el
: EmacsでGo言語のコードを編集するためのメジャーモードです。Go言語特有のシンタックスハイライト、インデント、gofmt
などの外部ツールとの連携機能を提供します。.el
拡張子はEmacs Lispファイルを示します。gofmt
: Go言語の公式なコードフォーマッタです。Goのソースコードを標準的なスタイルに自動的に整形します。gofmt
はGo言語のツールチェインの一部として提供され、Goコミュニティではコードの整形にgofmt
を使用することが強く推奨されています。これにより、Goコードの可読性と一貫性が保たれます。call-process
: Emacs Lispの関数で、外部のプログラムを実行するために使用されます。この関数は、指定されたプログラムを実行し、その標準出力、標準エラー出力、および終了コードを処理することができます。call-process-region
: Emacs Lispの関数で、バッファの特定のリージョン(範囲)の内容を外部プログラムの標準入力として渡し、そのプログラムを実行します。zerop
: Emacs Lispの関数で、引数がゼロである場合に真(t
)を返します。外部コマンドの終了コードがゼロであるか(つまり、正常終了したか)をチェックするためによく使用されます。kill-buffer
: Emacs Lispの関数で、指定されたバッファを閉じます。message
: Emacs Lispの関数で、Emacsのミニバッファ(通常は画面下部に表示されるメッセージ領域)にメッセージを表示します。progn
: Emacs Lispの特殊フォームで、複数のフォーム(式)を順番に評価し、最後のフォームの評価結果を返します。これは、C言語の{}
ブロックのように、複数の式を一つの論理的なブロックとしてまとめるために使用されます。
技術的詳細
このコミットの変更は、go-mode.el
内のgofmt
実行ロジックの一部を修正しています。具体的には、gofmt
が正常に実行され、かつdiff
コマンドを使って元のバッファ内容とgofmt
後の内容を比較した結果、差分がない(つまり、既にフォーマット済みである)と判断された場合の処理フローを変更しています。
元のコードでは、gofmt
が正常終了し、かつ差分がない場合に単に(message "Buffer is already gofmted")
を実行していました。しかし、この時点ではgofmt
の出力(たとえそれが空であっても)を受け取るために作成された一時的なエラーバッファ(errbuf
)がまだ開いたままになっている可能性がありました。
変更後のコードでは、この条件が満たされた場合に、progn
特殊フォームを使用して2つのアクションを連続して実行するようにしています。
(kill-buffer errbuf)
:gofmt
の出力バッファであるerrbuf
を閉じます。これにより、ユーザーのEmacsワークスペースから不要なバッファが削除されます。(message "Buffer is already gofmted")
: ユーザーに、バッファが既に正しくフォーマットされていることを明確に通知します。
この修正により、gofmt
がコードに変更を加える必要がなかった場合に、EmacsのUIがよりクリーンになり、ユーザーへのフィードバックもより適切になります。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/misc/emacs/go-mode.el
+++ b/misc/emacs/go-mode.el
@@ -537,7 +537,9 @@ buffer.\"\
;; output in case of success.
(if (zerop (call-process \"gofmt\" nil errbuf nil \"-w\" tmpfile))\
(if (zerop (call-process-region (point-min) (point-max) \"diff\" nil patchbuf nil \"-n\" \"-\" tmpfile))\
- (message \"Buffer is already gofmted\")
+ (progn
+ (kill-buffer errbuf)\
+ (message \"Buffer is already gofmted\"))
(go--apply-rcs-patch patchbuf)\
(kill-buffer errbuf)\
(message \"Applied gofmt\"))
コアとなるコードの解説
変更されたコードブロックは、gofmt
の実行結果を処理する条件分岐の中にあります。
-
(if (zerop (call-process "gofmt" nil errbuf nil "-w" tmpfile)))
- これは、
gofmt
コマンドを一時ファイル(tmpfile
)に対して実行し、その標準エラー出力をerrbuf
にリダイレクトします。 zerop
はgofmt
の終了コードが0(正常終了)であるかをチェックします。- この
if
文の真のブランチ(gofmt
が正常終了した場合)に進みます。
- これは、
-
(if (zerop (call-process-region (point-min) (point-max) "diff" nil patchbuf nil "-n" "-" tmpfile)))
- この内部の
if
文は、現在のEmacsバッファの内容と、gofmt
によって整形された一時ファイル(tmpfile
)の内容との差分をdiff
コマンドを使って比較します。 call-process-region
は、現在のバッファ全体(point-min
からpoint-max
まで)をdiff
コマンドの標準入力として渡します。diff
コマンドの出力はpatchbuf
にリダイレクトされます。zerop
はdiff
コマンドの終了コードが0であるかをチェックします。diff
コマンドは、差分がない場合に終了コード0を返します。- 変更点はこの内部
if
文の真のブランチにあります。
- この内部の
-
変更前:
(message "Buffer is already gofmted")
gofmt
が正常終了し、かつ差分がない場合、単に「Buffer is already gofmted」というメッセージを表示していました。しかし、errbuf
が閉じられない可能性がありました。 -
変更後:
(progn (kill-buffer errbuf) (message "Buffer is already gofmted"))
gofmt
が正常終了し、かつ差分がない場合、progn
ブロックが実行されます。(kill-buffer errbuf)
:gofmt
の実行によって作成された一時的なエラーバッファerrbuf
を閉じます。これにより、Emacsのバッファリストから不要なエントリが削除され、ワークスペースが整理されます。(message "Buffer is already gofmted")
: ユーザーに、バッファが既にgofmt
によって整形済みであることを明確に通知します。
この変更により、gofmt
がコードに変更を加える必要がなかった場合に、ユーザーはよりクリーンなEmacs環境と、より適切なフィードバックを得られるようになりました。
関連リンク
参考にした情報源リンク
- コミット情報から直接解析
- Emacs Lispの一般的な知識
- Go言語および
gofmt
の一般的な知識