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[インデックス 15919] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のコンパイラツールチェーンの一部である cmd/cc における、配列のインデックスアクセスに関するバグ修正です。具体的には、funct.c ファイル内で発生していた「インデックスが範囲外になる」可能性のあるタイポ(誤記)を修正し、プログラムの安定性と正確性を向上させています。この問題はGCCの静的解析ツールによって検出されました。

コミット

commit a909e4ba1e2044d33429d732f879a0c27bf977c2
Author: Rémy Oudompheng <oudomphe@phare.normalesup.org>
Date:   Sun Mar 24 11:38:57 2013 +0100

    cmd/cc: fix typo leading to index out of range.
    
    Detected by GCC static analysis.
    
    Fixes #5117.
    
    R=golang-dev, ality, minux.ma
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/7665047

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/a909e4ba1e2044d33429d732f879a0c27bf977c2

元コミット内容

cmd/cc: fix typo leading to index out of range.

Detected by GCC static analysis.

Fixes #5117.

変更の背景

この変更は、Go言語のコンパイラツールチェーンの一部である cmd/cc において、配列の初期化ループで発生する可能性のある「インデックスが範囲外になる」バグを修正するために行われました。この問題は、GCC(GNU Compiler Collection)の静的解析機能によって検出されました。静的解析は、プログラムを実行せずにコードを分析し、潜在的なバグや脆弱性を特定する手法です。

具体的には、src/cmd/cc/funct.c ファイル内の dclfunct 関数において、f->sym という配列を初期化するループの条件式に誤りがありました。本来、配列の要素数を取得すべき箇所で、配列全体のバイトサイズを取得してしまっていたため、配列の境界を越えてアクセスしてしまう「インデックスが範囲外」のエラーを引き起こす可能性がありました。

このバグは、Go言語のIssueトラッカーで #5117 として報告されており、このコミットによってその問題が解決されました。

前提知識の解説

cmd/cc

cmd/cc は、Go言語のツールチェーンの一部であり、GoのコンパイラがC言語のコードを扱う際に使用されるコンポーネントです。Go言語自体はGoで書かれていますが、その開発初期や特定の低レベルな処理においては、C言語のコードが利用されることがあります。cmd/cc は、これらのC言語のソースファイルをコンパイルする役割を担っています。

index out of range (インデックスが範囲外)

プログラミングにおいて、配列やリストなどのデータ構造にアクセスする際、その要素の場所を示す数値(インデックス)を使用します。例えば、要素が10個ある配列の場合、インデックスは通常0から9までです。もし、インデックスとして10や-1のような範囲外の数値を指定すると、プログラムは予期せぬ動作をしたり、クラッシュしたりすることがあります。これを「インデックスが範囲外」のエラーと呼びます。C言語では、このようなアクセスは未定義動作となり、セキュリティ上の脆弱性やプログラムの不安定性を引き起こす可能性があります。

GCC static analysis (GCC静的解析)

GCC(GNU Compiler Collection)は、C、C++、Goなど様々なプログラミング言語をコンパイルできるコンパイラ群です。GCCには、コンパイル時にコードの潜在的な問題を検出するための静的解析機能が組み込まれています。静的解析は、プログラムを実行せずにソースコードを分析し、バグ(例: 未初期化変数、NULLポインタ参照、インデックス範囲外アクセスなど)やコーディング規約違反、セキュリティ上の脆弱性などを特定します。これにより、開発者は実行時エラーが発生する前に問題を修正でき、ソフトウェアの品質と信頼性を向上させることができます。

sizeof 演算子 (C言語)

C言語の sizeof 演算子は、変数や型のバイト単位のサイズを返します。例えば、sizeof(int)int 型のサイズを返し、sizeof(myArray)myArray という配列全体のバイトサイズを返します。ポインタに対して sizeof を適用すると、ポインタ変数のサイズ(通常は4バイトまたは8バイト)が返され、ポインタが指す先のデータのサイズは返されません。

nelem マクロ (C言語)

nelem は、C言語で配列の要素数を計算するためによく使われるマクロです。標準Cライブラリには含まれていませんが、多くのプロジェクトで独自に定義されています。典型的な定義は以下のようになります。

#define nelem(x) (sizeof(x) / sizeof((x)[0]))

このマクロは、配列 x の全体のバイトサイズを、配列の最初の要素 (x)[0] のバイトサイズで割ることで、配列の要素数を正確に計算します。これにより、配列のサイズが変更されても、コードを修正することなく常に正しい要素数を取得できます。

alloc 関数 (C言語)

alloc は、C言語でメモリを動的に割り当てるための関数です。標準Cライブラリの malloccalloc と同様の目的で使用されますが、プロジェクト固有のメモリ管理ラッパーとして定義されていることが多いです。このコミットの文脈では、f という構造体(funct 型のポインタ)のためのメモリを確保するために使用されています。

技術的詳細

このコミットの核心は、C言語における配列のサイズ計算の誤りを修正することにあります。

元のコードでは、for(o=0; o<sizeof(f->sym); o++) というループが使用されていました。ここで f->sym は、おそらく Sym 型の配列またはポインタです。

  1. sizeof(f->sym) の問題点:

    • もし f->sym が配列として宣言されている場合(例: Sym sym[N];)、sizeof(f->sym) は配列 sym 全体のバイトサイズを返します。
    • しかし、もし f->sym がポインタとして宣言されている場合(例: Sym *sym;)、sizeof(f->sym) はポインタ変数 sym 自体のバイトサイズ(通常4バイトまたは8バイト)を返します。これは、ポインタが指す先の配列の要素数とは全く関係ありません。

    このコードの文脈では、f->sym は構造体 f のメンバーであり、おそらく固定サイズの配列として宣言されているか、あるいはポインタとして宣言されているが、そのポインタが指す先は固定サイズの配列であると想定されています。しかし、sizeof(f->sym) を使用すると、ポインタの場合に誤ったサイズ(ポインタ自体のサイズ)が返され、ループが意図した回数よりもはるかに少ない回数しか実行されないか、あるいは配列の境界を越えてアクセスしてしまう可能性がありました。

  2. nelem(f->sym) による修正: 修正後のコードでは、for(o=0; o<nelem(f->sym); o++) となっています。 前述の通り、nelem マクロは (sizeof(x) / sizeof((x)[0])) として定義されることが多く、これにより配列 f->sym の要素数を正確に計算できます。

    • sizeof(f->sym): 配列 f->sym 全体のバイトサイズ。
    • sizeof((f->sym)[0]): 配列 f->sym の最初の要素(Sym 型)のバイトサイズ。

    この修正により、ループは f->sym 配列の実際の要素数だけ正確に繰り返されるようになり、インデックスが範囲外になる問題を根本的に解決しました。GCCの静的解析は、このような sizeof の誤用や、それによって引き起こされる潜在的な配列境界外アクセスを検出するのに非常に有効です。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/cc/funct.c
+++ b/src/cmd/cc/funct.c
@@ -269,7 +269,7 @@ dclfunct(Type *t, Sym *s)
 	tgoto bad;

 	f = alloc(sizeof(*f));
-	for(o=0; o<sizeof(f->sym); o++)
+	for(o=0; o<nelem(f->sym); o++)
 		f->sym[o] = S;

 	t->funct = f;

コアとなるコードの解説

変更は src/cmd/cc/funct.c ファイルの dclfunct 関数内で行われています。

元のコード:

for(o=0; o<sizeof(f->sym); o++)

この行では、f->sym という配列(または配列へのポインタ)の要素を初期化するためにループが回されています。しかし、ループの終了条件に sizeof(f->sym) が使われています。もし f->sym がポインタである場合、sizeof(f->sym) はポインタ自体のサイズ(例: 8バイト)を返し、配列の実際の要素数とは異なります。これにより、ループが配列の実際の要素数よりも少ない回数しか実行されず、配列の一部が初期化されないか、あるいはポインタが指すメモリ領域が想定よりも小さい場合に、インデックスが範囲外になる可能性がありました。

修正後のコード:

for(o=0; o<nelem(f->sym); o++)

この行では、sizeof(f->sym)nelem(f->sym) に変更されています。nelem マクロは、C言語で配列の要素数を安全かつ正確に計算するための一般的な慣用句です。nelem(f->sym) は、f->sym が指す配列の実際の要素数を返します。これにより、ループは配列のすべての要素を正確にカバーするようになり、インデックスが範囲外になる問題が解消されました。この修正は、GCCの静的解析によって指摘されたタイポ(誤記)を修正し、コードの堅牢性を高めています。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • 特になし。提供されたコミット情報と一般的なC言語の知識に基づいて解説を生成しました。