[インデックス 15936] ファイルの概要
このコミットは、Go 1.1 リリースにおける net/http
パッケージの追加機能に関する要約を公式ドキュメント doc/go1.1.html
に追加するものです。これにより、Go 1.1 で導入されたネットワーク関連の重要な改善点がユーザーに明確に伝えられます。
コミット
- コミットハッシュ:
35c85321cc20690862700a5d84f1588e18008fdf
- 作者: Brad Fitzpatrick bradfitz@golang.org
- コミット日時: Mon Mar 25 15:17:44 2013 -0700
- コミットメッセージ:
doc: add summary of net/http additions to Go 1.1 R=golang-dev, r CC=golang-dev https://golang.org/cl/7812050
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/35c85321cc20690862700a5d84f1588e18008fdf
元コミット内容
doc: add summary of net/http additions to Go 1.1
R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7812050
変更の背景
Go言語は、そのシンプルさと並行処理の強力なサポートにより、ネットワークプログラミング、特にWebサービスの構築において広く利用されています。net/http
パッケージは、GoにおけるHTTPクライアントおよびサーバーの実装の基盤を提供します。
このコミットの背景には、Go 1.1 リリースで net/http
パッケージに複数の重要な機能が追加されたことがあります。これらの新機能は、HTTP通信のより高度な制御、堅牢性の向上、および開発者の利便性向上を目的としていました。しかし、これらの機能がリリースノートや公式ドキュメントに適切に反映されていなければ、ユーザーは新機能の存在やその利用方法を把握できません。
このコミットは、Go 1.1 の公式ドキュメント (doc/go1.1.html
) に net/http
パッケージの主要な変更点を要約として追加することで、ユーザーが Go 1.1 の新機能を効率的に学習し、活用できるようにすることを目的としています。特に、以前は TODO
コメントとして残されていた部分を具体的な説明に置き換えることで、ドキュメントの完全性を高めています。
前提知識の解説
このコミットの変更内容を理解するためには、以下の前提知識が役立ちます。
- Go言語: Googleによって開発されたオープンソースのプログラミング言語。シンプルさ、効率性、信頼性に重点を置いており、特にネットワークサービスや分散システムの構築に適しています。
- HTTP (Hypertext Transfer Protocol): Web上でデータを交換するためのプロトコル。クライアント(Webブラウザなど)とサーバー(Webサーバーなど)の間でリクエストとレスポンスの形式で通信が行われます。
- Goの
net/http
パッケージ: Go標準ライブラリの一部で、HTTPクライアントとサーバーの機能を提供します。http.Request
: クライアントからサーバーへのHTTPリクエストを表す構造体。URL、メソッド(GET, POSTなど)、ヘッダー、ボディなどの情報を含みます。http.Response
: サーバーからクライアントへのHTTPレスポンスを表す構造体。ステータスコード、ヘッダー、ボディなどの情報を含みます。http.Handler
: HTTPリクエストを処理するためのインターフェース。ServeHTTP(ResponseWriter, *Request)
メソッドを実装することで、カスタムのHTTPハンドラを作成できます。http.ServeMux
: HTTPリクエストのパスに基づいて適切なハンドラにルーティングするHTTPリクエストマルチプレクサ(ルーター)。http.Transport
: HTTPリクエストの送信とレスポンスの受信を担当する構造体。TCP接続の管理、プロキシ設定、TLS設定など、低レベルのネットワーク詳細を扱います。
- Go 1.1: 2013年5月にリリースされたGo言語のバージョン。パフォーマンスの向上、標準ライブラリの拡張、ツールチェインの改善など、多くの新機能と改善が含まれていました。
技術的詳細
このコミットで doc/go1.1.html
に追加された net/http
パッケージの主な新機能は以下の通りです。
-
http.ParseTime
:- 機能: HTTPのタイムスタンプ文字列(例:
Last-Modified
ヘッダーの値)を解析し、time.Time
型に変換するための関数です。HTTPプロトコルでは、日付と時刻のフォーマットに特定のルール(RFC 1123, RFC 850, ANSI C's asctime() など)が定められており、この関数はそれらの一般的なフォーマットを自動的に試行して解析します。 - 重要性: HTTPヘッダーに含まれる日付情報を正確に処理するために不可欠です。手動で複数のフォーマットを試す手間を省き、堅牢な日付解析を可能にします。
- 機能: HTTPのタイムスタンプ文字列(例:
-
http.Request.PostFormValue
:- 機能:
http.Request
のメソッドで、HTTP POSTリクエストのボディ(application/x-www-form-urlencoded
またはmultipart/form-data
形式)から指定されたキーの値を取得します。FormValue
メソッドと似ていますが、PostFormValue
はURLクエリパラメータを無視し、POSTボディのみを対象とします。 - 重要性: POSTリクエストのデータを安全かつ意図通りに処理するために役立ちます。URLパラメータとPOSTボディの間に同じキーが存在する場合でも、POSTボディの値を優先して取得できます。
- 機能:
-
http.CloseNotifier
インターフェース:- 機能:
http.ResponseWriter
が実装する可能性のあるインターフェースです。このインターフェースを実装しているResponseWriter
は、クライアントが接続を閉じたときに通知を受け取るためのチャネル (CloseNotify() <-chan bool
) を提供します。 - 重要性: サーバーサイドのハンドラが、クライアントの切断を検知し、それに応じてリソースの解放や処理の中止などのクリーンアップ操作を行うことを可能にします。例えば、長時間実行されるストリーミング処理中にクライアントが切断した場合に、無駄な処理を停止するために利用できます。
- 機能:
-
http.ServeMux.Handler
メソッド:- 機能:
http.ServeMux
のメソッドで、特定のパスに登録されているhttp.Handler
を、実際にそのハンドラを実行することなく取得できます。 - 重要性: ルーティングロジックのデバッグや、特定のパスに登録されているハンドラの情報を取得する際に有用です。例えば、ミドルウェアがリクエストを処理する前に、対象となるハンドラを検査するようなシナリオで利用できます。
- 機能:
-
http.Transport.CancelRequest
:- 機能:
http.Transport
のメソッドで、進行中のHTTPリクエストをキャンセルする機能を提供します。これは、クライアント側でタイムアウトが発生したり、ユーザーが操作をキャンセルしたりした場合に、不要になったネットワーク通信を中断するために使用されます。 - 重要性: クライアントアプリケーションの応答性を向上させ、不要なネットワークリソースの消費を防ぎます。特に、モバイル環境や不安定なネットワーク環境でのユーザーエクスペリエンスを改善するのに役立ちます。
- 機能:
-
http.Transport
の TCP 接続クローズの積極化:- 機能:
http.Response.Body
が完全に読み込まれる前にクローズされた場合、http.Transport
が関連するTCP接続をより積極的にクローズするようになりました。 - 重要性: リソースリークを防ぎ、TCP接続の再利用(Keep-Alive)が意図しない形で継続されることを避けます。これにより、サーバー側のリソース消費を抑え、接続プールの健全性を維持します。
- 機能:
-
net/http/cookiejar
パッケージ:- 機能: 新しく追加されたパッケージで、HTTPクッキーの管理機能を提供します。Webブラウザのように、HTTPリクエストとレスポンス間でクッキーを保存、取得、更新するメカニズムを提供します。
- 重要性: クライアント側でセッション管理や認証情報を扱う際に不可欠です。これにより、GoのHTTPクライアントがより複雑なWebアプリケーションと対話できるようになります。
これらの機能は、Go 1.1 がリリースされた2013年当時、Goのネットワークスタックをより成熟させ、より多様なHTTPベースのアプリケーション開発をサポートするための重要なステップでした。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットは、doc/go1.1.html
ファイルに対して行われました。
--- a/doc/go1.1.html
+++ b/doc/go1.1.html
@@ -582,7 +582,7 @@ and a new function
</li>
<li>
-The <a href="/pkg/database/sql/"><code>database/sql/</code></a> package
+The <a href="/pkg/database/sql/"><code>database/sql</code></a> package
has a new
<a href="/pkg/database/sql/#DB.Ping"><code>Ping</code></a>
method for its
@@ -721,11 +721,26 @@ The new functions
</li>
<li>
-The new <a href="/pkg/net/http/cookiejar/">net/http/cookiejar</a> package provides the basics for managing HTTP cookies.
+The <a href="/pkg/net/http/"><code>net/http</code></a> package includes several new additions.
+<a href="/pkg/net/http/#ParseTime"><code>ParseTime</code></a> parses a time string, trying
+several common HTTP time formats.
+The <a href="/pkg/net/http/#Request.PostFormValue">PostFormValue</a> method of
+<a href="/pkg/net/http/#Request"><code>Request</code></a> is like
+<a href="/pkg/net/http/#Request.FormValue"><code>FormValue</code></a> but ignores URL parameters.
+The <a href="/pkg/net/http/#CloseNotifier"><code>CloseNotifier</code></a> interface provides a mechanism
+for a server handler to discover when a client has disconnected.
+The <code>ServeMux</code> type now has a
+<a href="/pkg/net/http/#ServeMux.Handler"><code>Handler</code></a> method to access a path\'s
+<code>Handler</code> without executing it.
+The <code>Transport</code> can now cancel an in-flight request with
+<a href="/pkg/net/http/#Transport.CancelRequest"><code>CancelRequest</code></a>.
+Finally, the Transport is now more aggresive at closing TCP connections when
+a <a href="/pkg/net/http/#Response"><code>Response.Body</code></a> is closed before
+being fully consumed.
</li>
-<li> TODO:
-<code>net/http</code>: ParseTime, CloseNotifier, Request.PostFormValue, ServeMux.Handler, Transport.CancelRequest
+<li>
+The new <a href="/pkg/net/http/cookiejar/">net/http/cookiejar</a> package provides the basics for managing HTTP cookies.
</li>
<li> TODO:
主な変更点は、doc/go1.1.html
の net/http
パッケージに関する記述を更新し、Go 1.1 で追加された具体的な機能について詳細な説明を追加したことです。
database/sql/
のパスがdatabase/sql
に修正されています。これは軽微な修正です。- 最も重要な変更は、
net/http
の新機能に関するTODO
コメントが、具体的な説明と関連するパッケージドキュメントへのリンクに置き換えられた点です。ParseTime
Request.PostFormValue
CloseNotifier
インターフェースServeMux.Handler
メソッドTransport.CancelRequest
Transport
による TCP 接続の積極的なクローズ
net/http/cookiejar
パッケージに関する記述も、TODO
コメントから独立した項目として明確に記載されています。
コアとなるコードの解説
このコミットの「コード」は、Go言語のソースコードではなく、Go 1.1 のリリースノートを構成するHTMLドキュメント (doc/go1.1.html
) です。このドキュメントは、Go言語の各バージョンの新機能や変更点をユーザーに伝えるための公式な情報源です。
変更の意図は以下の通りです。
- 情報の正確性と完全性の向上: 以前のバージョンでは、
net/http
の新機能に関する記述がTODO
コメントとして残されており、情報が不完全でした。このコミットにより、Go 1.1 で導入された重要なnet/http
の機能が正式にドキュメント化され、ユーザーがリリースノートを読むだけで新機能の概要を把握できるようになりました。 - ユーザーエクスペリエンスの改善: 各新機能について、その目的と簡単な説明が提供され、さらに詳細な情報が記載されている
pkg.go.dev
(当時はgolang.org/pkg
) のパッケージドキュメントへの直接リンクが埋め込まれています。これにより、ユーザーは興味のある機能についてすぐに詳細を調べることができます。 - ドキュメントのメンテナンス:
TODO
コメントを解消し、実際のコンテンツに置き換えることで、ドキュメントの品質とメンテナンス性を向上させています。
具体的には、以下のHTMLスニペットが追加されました。
<li>
The <a href="/pkg/net/http/"><code>net/http</code></a> package includes several new additions.
<a href="/pkg/net/http/#ParseTime"><code>ParseTime</code></a> parses a time string, trying
several common HTTP time formats.
The <a href="/pkg/net/http/#Request.PostFormValue">PostFormValue</a> method of
<a href="/pkg/net/http/#Request"><code>Request</code></a> is like
<a href="/pkg/net/http/#Request.FormValue"><code>FormValue</code></a> but ignores URL parameters.
The <a href="/pkg/net/http/#CloseNotifier"><code>CloseNotifier</code></a> interface provides a mechanism
for a server handler to discover when a client has disconnected.
The <code>ServeMux</code> type now has a
<a href="/pkg/net/http/#ServeMux.Handler"><code>Handler</code></a> method to access a path\'s
<code>Handler</code> without executing it.
The <code>Transport</code> can now cancel an in-flight request with
<a href="/pkg/net/http/#Transport.CancelRequest"><code>CancelRequest</code></a>.
Finally, the Transport is now more aggresive at closing TCP connections when
a <a href="/pkg/net/http/#Response"><code>Response.Body</code></a> is closed before
being fully consumed.
</li>
<li>
The new <a href="/pkg/net/http/cookiejar/">net/http/cookiejar</a> package provides the basics for managing HTTP cookies.
</li>
これらの変更は、Go 1.1 のリリースにおける net/http
パッケージの進化を正確に反映し、Goコミュニティが新しい機能を効果的に利用するための重要な情報を提供しています。
関連リンク
- Gerrit Change-ID:
https://golang.org/cl/7812050
(GoプロジェクトのコードレビューシステムであるGerritの変更リンク)
参考にした情報源リンク
- Go 1.1 Release Notes: https://go.dev/doc/go1.1
- Go
net/http
package documentation: https://pkg.go.dev/net/http - Go
net/http/cookiejar
package documentation: https://pkg.go.dev/net/http/cookiejar - Go
database/sql
package documentation: https://pkg.go.dev/database/sql - HTTP/1.1: Message Syntax and Routing (RFC 7230): https://datatracker.ietf.org/doc/html/rfc7230 (HTTPの基本的な仕様)
- HTTP Semantics (RFC 7231): https://datatracker.ietf.org/doc/html/rfc7231 (HTTPメソッド、ヘッダーなどのセマンティクス)
- HTTP State Management Mechanism (RFC 6265): https://datatracker.ietf.org/doc/html/rfc6265 (HTTPクッキーの仕様)