[インデックス 15968] ファイルの概要
このコミットで変更されたファイルは src/pkg/runtime/race/testdata/mop_test.go
です。このファイルはGo言語のランタイムパッケージ内のデータ競合検出器(Race Detector)のテストデータの一部であり、特にメモリ操作(Memory Operation, MOP)に関連するテストケースを含んでいます。GoのRace Detectorが正しくデータ競合を検出できるか、または誤検出しないかを検証するためのテストが記述されています。
コミット
- コミットハッシュ:
23482db9f1d6cc4ad7a74c9f6f807954c39ab701
- Author: Rémy Oudompheng oudomphe@phare.normalesup.org
- Date: Wed Mar 27 21:15:05 2013 +0100
- コミットメッセージ:
runtime/race: mark failing test as such. Fixes race builder. R=golang-dev, bradfitz CC=golang-dev https://golang.org/cl/8055045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/23482db9f1d6cc4ad7a74c9f6f807954c39ab701
元コミット内容
runtime/race: mark failing test as such.
Fixes race builder.
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/8055045
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語のRace Detectorのテストスイートにおける特定のテストが、意図せずビルドプロセスを失敗させていたという問題があります。コミットメッセージの「Fixes race builder」という記述から、race builder
(おそらくRace Detectorに関連するビルドまたはテスト実行システム)が、このテストの失敗によって中断されていたことが示唆されます。
開発プロセスにおいて、特定のテストが一時的に失敗することが許容される場合や、特定の条件下でのみ失敗することが既知である場合があります。このような場合、そのテストがビルドシステム全体を停止させないように、明示的に「失敗するテスト」としてマークすることが一般的なプラクティスです。これにより、ビルドの健全性を保ちつつ、問題のあるテストケースの存在を認識し続けることができます。
このコミットは、TestRaceAppendSliceStruct
というテストが、当時のRace Detectorの挙動や期待される結果との間に不一致があり、それが原因でビルドが失敗していたため、そのテストを「失敗するテスト」として再分類することで、ビルドの安定化を図ったものと考えられます。
前提知識の解説
Go Race Detector (データ競合検出器)
Go言語には、並行処理におけるデータ競合(data race)を検出するための組み込みツールである「Race Detector」があります。データ競合とは、複数のゴルーチンが同時に同じメモリ位置にアクセスし、少なくとも1つのアクセスが書き込みであり、かつそれらのアクセスが同期メカニズムによって順序付けされていない場合に発生するバグです。データ競合はプログラムの予測不能な動作やクラッシュを引き起こす可能性があり、デバッグが非常に困難です。
Go Race Detectorは、go run -race
、go build -race
、go test -race
などのコマンドで有効にできます。有効にすると、プログラムの実行中にメモリアクセスを監視し、データ競合のパターンを検出すると警告を出力します。
Go言語のテスト
Go言語のテストは、testing
パッケージと go test
コマンドを使用して行われます。
- テストファイルの命名規則: テストファイルは通常、テスト対象のソースファイルと同じディレクトリに配置され、ファイル名の末尾に
_test.go
を付けます(例:my_package_test.go
)。 - テスト関数の命名規則: テスト関数は
Test
で始まり、その後に続く名前の最初の文字は大文字である必要があります(例:func TestMyFunction(t *testing.T)
)。 - テストの実行:
go test
コマンドを実行すると、現在のディレクトリまたは指定されたパッケージ内のすべてのテストが実行されます。
失敗するテストの扱いと命名規則
Goのテストフレームワークには、特定のテストが意図的に失敗することを期待するような明示的なメカニズムは標準では提供されていません。しかし、慣習的に、テスト関数名に Failing
や Broken
といった接頭辞や接尾辞を付けることで、そのテストが現在失敗している、または特定の条件下で失敗することが既知であることを示すことがあります。
このような命名規則は、主に以下の目的で使用されます。
- ビルドの安定化: 開発中の機能やバグ修正が未完了で、関連するテストが一時的に失敗する場合、そのテストを通常のテストスイートから除外したり、ビルドシステムがその失敗を無視するように設定したりすることがあります。しかし、テストコード自体を削除するのではなく、その存在を明示的に示すために名前を変更します。
- 問題の追跡:
Failing
とマークされたテストは、将来的に修正されるべき問題として認識され、テストスイート内に残されます。これにより、その問題が忘れ去られることを防ぎます。 - ドキュメンテーション: テスト関数名自体が、そのテストの現在の状態(失敗していること)を開発者に伝えます。
このコミットでは、まさにこの慣習的な方法が採用され、TestRaceAppendSliceStruct
が TestRaceFailingAppendSliceStruct
にリネームされています。これにより、このテストが「失敗するテスト」として扱われるようになり、race builder
がこのテストの失敗によって中断されるのを防ぐ効果があります。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、Go言語のテストフレームワークにおけるテスト関数の命名規則の利用に集約されます。
Goの go test
コマンドは、Test
で始まる関数をテスト関数として認識し実行します。しかし、特定のテストが常に失敗する場合、そのテストがCI/CDパイプラインやビルドシステムを中断させる可能性があります。このような状況に対処するための一つの方法は、テスト関数の名前を変更して、go test
がデフォルトでそれを実行しないようにすることです。
このコミットでは、TestRaceAppendSliceStruct
という関数名を TestRaceFailingAppendSliceStruct
に変更しています。Goの go test
コマンドは、Test
の後に続く文字列が小文字で始まるテスト関数は実行しません。したがって、TestRaceFailingAppendSliceStruct
の Failing
の F
が大文字であるため、このテストは引き続き go test
によって実行されます。
しかし、この命名変更の意図は、おそらくテストランナーやビルドスクリプトが、Failing
というプレフィックスを持つテストを特別に扱い、その失敗を許容するか、あるいは特定の条件下でのみ実行するように設定されていることを示唆しています。例えば、CIシステムが TestRaceFailing
で始まるテストの失敗を無視するように設定されているか、またはこれらのテストを別のコマンド(例: go test -run Failing
)で明示的に実行する場合のみ失敗を報告するように設定されている可能性があります。
この変更は、Race Detectorのテストスイートの健全性を維持しつつ、特定の既知の失敗テストがビルドプロセスを妨げないようにするための、実用的なアプローチです。これにより、開発者は他のテストの成功に集中でき、同時に問題のあるテストケースの存在も認識し続けることができます。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/runtime/race/testdata/mop_test.go
+++ b/src/pkg/runtime/race/testdata/mop_test.go
@@ -1477,7 +1477,7 @@ func TestRaceFailingSliceStruct(t *testing.T) {
<-c
}
-func TestRaceAppendSliceStruct(t *testing.T) {
+func TestRaceFailingAppendSliceStruct(t *testing.T) {
type X struct {
x, y int
}
コアとなるコードの解説
このコミットのコアとなる変更は、src/pkg/runtime/race/testdata/mop_test.go
ファイル内の単一の関数名の変更です。
変更前:
func TestRaceAppendSliceStruct(t *testing.T)
変更後:
func TestRaceFailingAppendSliceStruct(t *testing.T)
この変更は、TestRaceAppendSliceStruct
という名前のテスト関数を TestRaceFailingAppendSliceStruct
にリネームしたものです。
前述の「技術的詳細」で説明したように、このリネームは、このテストが現在失敗している、または特定の条件下で失敗することが既知であることを示すための慣習的な方法です。Goの go test
コマンドは、Test
で始まる関数をテスト関数として実行しますが、Failing
というプレフィックスを付けることで、ビルドシステムや開発者がこのテストの失敗を特別に扱うことを意図しています。
この特定のテスト TestRaceAppendSliceStruct
は、スライスと構造体の操作におけるデータ競合の検出を検証するためのものでした。このテストが失敗していたということは、当時のRace Detectorがこの特定のシナリオで期待通りに動作していなかったか、またはテストケース自体に問題があった可能性があります。関数名を TestRaceFailingAppendSliceStruct
に変更することで、このテストの失敗が race builder
を中断させるのを防ぎ、同時にこの問題が将来的に解決されるべき課題として残されることになります。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント: https://go.dev/
- Go Race Detectorに関する公式ブログ記事: https://go.dev/blog/race-detector
- Go言語のテストに関する公式ドキュメント: https://go.dev/pkg/testing/
参考にした情報源リンク
- https://github.com/golang/go/commit/23482db9f1d6cc4ad7a74c9f6f807954c39ab701
- Go言語のテストに関する一般的な知識と慣習
- Go Race Detectorの動作原理に関する一般的な知識
- コミットメッセージの分析と、それに含まれる情報(CL番号など)からの推測。
- Go言語のテストにおける「failing test」の慣習に関する一般的な開発プラクティス。
- Go言語のテスト関数命名規則に関する情報。# [インデックス 15968] ファイルの概要
このコミットで変更されたファイルは src/pkg/runtime/race/testdata/mop_test.go
です。このファイルはGo言語のランタイムパッケージ内のデータ競合検出器(Race Detector)のテストデータの一部であり、特にメモリ操作(Memory Operation, MOP)に関連するテストケースを含んでいます。GoのRace Detectorが正しくデータ競合を検出できるか、または誤検出しないかを検証するためのテストが記述されています。
コミット
- コミットハッシュ:
23482db9f1d6cc4ad7a74c9f6f807954c39ab701
- Author: Rémy Oudompheng oudomphe@phare.normalesup.org
- Date: Wed Mar 27 21:15:05 2013 +0100
- コミットメッセージ:
runtime/race: mark failing test as such. Fixes race builder. R=golang-dev, bradfitz CC=golang-dev https://golang.org/cl/8055045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/23482db9f1d6cc4ad7a74c9f6f807954c39ab701
元コミット内容
runtime/race: mark failing test as such.
Fixes race builder.
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/8055045
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語のRace Detectorのテストスイートにおける特定のテストが、意図せずビルドプロセスを失敗させていたという問題があります。コミットメッセージの「Fixes race builder」という記述から、race builder
(おそらくRace Detectorに関連するビルドまたはテスト実行システム)が、このテストの失敗によって中断されていたことが示唆されます。
開発プロセスにおいて、特定のテストが一時的に失敗することが許容される場合や、特定の条件下でのみ失敗することが既知である場合があります。このような場合、そのテストがビルドシステム全体を停止させないように、明示的に「失敗するテスト」としてマークすることが一般的なプラクティスです。これにより、ビルドの健全性を保ちつつ、問題のあるテストケースの存在を認識し続けることができます。
このコミットは、TestRaceAppendSliceStruct
というテストが、当時のRace Detectorの挙動や期待される結果との間に不一致があり、それが原因でビルドが失敗していたため、そのテストを「失敗するテスト」として再分類することで、ビルドの安定化を図ったものと考えられます。
前提知識の解説
Go Race Detector (データ競合検出器)
Go言語には、並行処理におけるデータ競合(data race)を検出するための組み込みツールである「Race Detector」があります。データ競合とは、複数のゴルーチンが同時に同じメモリ位置にアクセスし、少なくとも1つのアクセスが書き込みであり、かつそれらのアクセスが同期メカニズムによって順序付けされていない場合に発生するバグです。データ競合はプログラムの予測不能な動作やクラッシュを引き起こす可能性があり、デバッグが非常に困難です。
Go Race Detectorは、go run -race
、go build -race
、go test -race
などのコマンドで有効にできます。有効にすると、プログラムの実行中にメモリアクセスを監視し、データ競合のパターンを検出すると警告を出力します。
Go言語のテスト
Go言語のテストは、testing
パッケージと go test
コマンドを使用して行われます。
- テストファイルの命名規則: テストファイルは通常、テスト対象のソースファイルと同じディレクトリに配置され、ファイル名の末尾に
_test.go
を付けます(例:my_package_test.go
)。 - テスト関数の命名規則: テスト関数は
Test
で始まり、その後に続く名前の最初の文字は大文字である必要があります(例:func TestMyFunction(t *testing.T)
)。 - テストの実行:
go test
コマンドを実行すると、現在のディレクトリまたは指定されたパッケージ内のすべてのテストが実行されます。
失敗するテストの扱いと命名規則
Goのテストフレームワークには、特定のテストが意図的に失敗することを期待するような明示的なメカニズムは標準では提供されていません。しかし、慣習的に、テスト関数名に Failing
や Broken
といった接頭辞や接尾辞を付けることで、そのテストが現在失敗している、または特定の条件下で失敗することが既知であることを示すことがあります。
このような命名規則は、主に以下の目的で使用されます。
- ビルドの安定化: 開発中の機能やバグ修正が未完了で、関連するテストが一時的に失敗する場合、そのテストを通常のテストスイートから除外したり、ビルドシステムがその失敗を無視するように設定したりすることがあります。しかし、テストコード自体を削除するのではなく、その存在を明示的に示すために名前を変更します。
- 問題の追跡:
Failing
とマークされたテストは、将来的に修正されるべき問題として認識され、テストスイート内に残されます。これにより、その問題が忘れ去られることを防ぎます。 - ドキュメンテーション: テスト関数名自体が、そのテストの現在の状態(失敗していること)を開発者に伝えます。
このコミットでは、まさにこの慣習的な方法が採用され、TestRaceAppendSliceStruct
が TestRaceFailingAppendSliceStruct
にリネームされています。これにより、このテストが「失敗するテスト」として扱われるようになり、race builder
がこのテストの失敗によって中断されるのを防ぐ効果があります。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、Go言語のテストフレームワークにおけるテスト関数の命名規則の利用に集約されます。
Goの go test
コマンドは、Test
で始まる関数をテスト関数として認識し実行します。しかし、特定のテストが常に失敗する場合、そのテストがCI/CDパイプラインやビルドシステムを中断させる可能性があります。このような状況に対処するための一つの方法は、テスト関数の名前を変更して、go test
がデフォルトでそれを実行しないようにすることです。
このコミットでは、TestRaceAppendSliceStruct
という関数名を TestRaceFailingAppendSliceStruct
に変更しています。Goの go test
コマンドは、Test
の後に続く文字列が小文字で始まるテスト関数は実行しません。したがって、TestRaceFailingAppendSliceStruct
の Failing
の F
が大文字であるため、このテストは引き続き go test
によって実行されます。
しかし、この命名変更の意図は、おそらくテストランナーやビルドスクリプトが、Failing
というプレフィックスを持つテストを特別に扱い、その失敗を許容するか、あるいは特定の条件下でのみ実行するように設定されていることを示唆しています。例えば、CIシステムが TestRaceFailing
で始まるテストの失敗を無視するように設定されているか、またはこれらのテストを別のコマンド(例: go test -run Failing
)で明示的に実行する場合のみ失敗を報告するように設定されている可能性があります。
この変更は、Race Detectorのテストスイートの健全性を維持しつつ、特定の既知の失敗テストがビルドプロセスを妨げないようにするための、実用的なアプローチです。これにより、開発者は他のテストの成功に集中でき、同時に問題のあるテストケースの存在も認識し続けることができます。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/runtime/race/testdata/mop_test.go
+++ b/src/pkg/runtime/race/testdata/mop_test.go
@@ -1477,7 +1477,7 @@ func TestRaceFailingSliceStruct(t *testing.T) {
<-c
}
-func TestRaceAppendSliceStruct(t *testing.T) {
+func TestRaceFailingAppendSliceStruct(t *testing.T) {
type X struct {
x, y int
}
コアとなるコードの解説
このコミットのコアとなる変更は、src/pkg/runtime/race/testdata/mop_test.go
ファイル内の単一の関数名の変更です。
変更前:
func TestRaceAppendSliceStruct(t *testing.T)
変更後:
func TestRaceFailingAppendSliceStruct(t *testing.T)
この変更は、TestRaceAppendSliceStruct
という名前のテスト関数を TestRaceFailingAppendSliceStruct
にリネームしたものです。
前述の「技術的詳細」で説明したように、このリネームは、このテストが現在失敗している、または特定の条件下で失敗することが既知であることを示すための慣習的な方法です。Goの go test
コマンドは、Test
で始まる関数をテスト関数として実行しますが、Failing
というプレフィックスを付けることで、ビルドシステムや開発者がこのテストの失敗を特別に扱うことを意図しています。
この特定のテスト TestRaceAppendSliceStruct
は、スライスと構造体の操作におけるデータ競合の検出を検証するためのものでした。このテストが失敗していたということは、当時のRace Detectorがこの特定のシナリオで期待通りに動作していなかったか、またはテストケース自体に問題があった可能性があります。関数名を TestRaceFailingAppendSliceStruct
に変更することで、このテストの失敗が race builder
を中断させるのを防ぎ、同時にこの問題が将来的に解決されるべき課題として残されることになります。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント: https://go.dev/
- Go Race Detectorに関する公式ブログ記事: https://go.dev/blog/race-detector
- Go言語のテストに関する公式ドキュメント: https://go.dev/pkg/testing/
参考にした情報源リンク
- https://github.com/golang/go/commit/23482db9f1d6cc4ad7a74c9f6f807954c39ab701
- Go言語のテストに関する一般的な知識と慣習
- Go Race Detectorの動作原理に関する一般的な知識
- コミットメッセージの分析と、それに含まれる情報(CL番号など)からの推測。
- Go言語のテストにおける「failing test」の慣習に関する一般的な開発プラクティス。
- Go言語のテスト関数命名規則に関する情報。