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[インデックス 15999] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の net パッケージにおける FileConnFilePacketConnFileListener 関数のドキュメントを更新し、プラットフォーム間のAPIドキュメントのギャップを埋めることを目的としています。具体的には、Windows固有の実装ファイルである src/pkg/net/file_windows.go に、これらの関数の詳細なコメントが追加されました。

コミット

commit abccf6b692cbe6585839bbbea9c040f4d191114e
Author: Mikio Hara <mikioh.mikioh@gmail.com>
Date:   Fri Mar 29 12:16:24 2013 +0900

    net: update documentation for FileConn, FilePacketConn, FileListener
    
    Closes the API documentation gap between platforms.
    
    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/8086043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/abccf6b692cbe6585839bbbea9c040f4d191114e

元コミット内容

net: update documentation for FileConn, FilePacketConn, FileListener

Closes the API documentation gap between platforms.

R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/8086043

変更の背景

このコミットの主な背景は、「プラットフォーム間のAPIドキュメントのギャップを埋める」ことです。Go言語の net パッケージには、既存のファイルディスクリプタ(*os.File)からネットワーク接続(net.Conn)、リスナー(net.Listener)、またはパケット接続(net.PacketConn)を生成するための関数群(FileConn, FilePacketConn, FileListener)が存在します。これらの関数は、特にUnix系システムではソケットがファイルディスクリプタとして扱われるため、非常に有用です。しかし、Windows環境ではこれらの関数の実装が TODO のままであり、かつドキュメントが不足していました。

このコミット以前は、これらの関数の動作や、*os.File と返されるネットワークオブジェクト間の関係性についての明確な説明が不足しており、特にWindowsプラットフォームでの利用を検討する開発者にとっては混乱を招く可能性がありました。この変更は、APIの意図と振る舞いを明確にすることで、Goのネットワークプログラミングにおける一貫性と理解を向上させることを目的としています。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語のネットワークプログラミングに関する基本的な概念を理解しておく必要があります。

  • net.Conn: ネットワーク接続の汎用インターフェースです。TCP接続やUnixドメインソケット接続など、ストリーム指向の接続を表します。Read および Write メソッドを持ち、データの送受信を行います。
  • net.Listener: ネットワークリスナーの汎用インターフェースです。着信接続を受け入れるために使用されます。Accept メソッドを持ち、新しい net.Conn を返します。
  • net.PacketConn: パケットネットワーク接続の汎用インターフェースです。UDP接続やIP接続など、データグラム指向の接続を表します。ReadFrom および WriteTo メソッドを持ち、データグラムの送受信を行います。
  • *os.File: Go言語におけるファイルシステム上のファイルや、ファイルディスクリプタによって参照されるリソース(例: ソケット、パイプ)を表す型です。オペレーティングシステムレベルのファイル操作に用いられます。
  • ファイルディスクリプタ (File Descriptor): Unix系OSにおいて、ファイルやソケットなどのI/Oリソースを識別するためにカーネルがプロセスに割り当てる整数値です。Windowsでは、これに相当する概念として「ハンドル (Handle)」があります。
  • ソケット (Socket): ネットワーク通信のエンドポイントです。プログラムがネットワーク経由でデータを送受信するために使用します。ソケットは、多くの場合、ファイルディスクリプタ(またはハンドル)として扱われます。

FileConn, FileListener, FilePacketConn の各関数は、既に開かれている *os.File オブジェクトが指すソケットを、Goの net パッケージが提供する高レベルなネットワークインターフェース(net.Conn, net.Listener, net.PacketConn)に変換するためのものです。これにより、Goプログラムは、外部プロセスやシステムコールによって作成されたソケットを、Goの慣用的なネットワークAPIを通じて操作できるようになります。

技術的詳細

このコミットでドキュメントが追加された FileConn, FileListener, FilePacketConn は、Goの net パッケージにおいて、*os.File からネットワークインターフェースへの変換を提供する重要な関数です。

  • func FileConn(f *os.File) (c Conn, err error):

    • f で指定された *os.File に対応するネットワーク接続のコピーを返します。
    • この関数は、既に接続が確立されているソケット(例: TCP接続)のファイルディスクリプタ(またはWindowsのハンドル)を *os.File として受け取り、それを net.Conn インターフェースとしてラップします。
    • 重要な点として、返される c (net.Conn) は f (*os.File) の「コピー」であると明記されています。これは、c を閉じても f には影響せず、f を閉じても c には影響しないことを意味します。つまり、両者は独立したリソースとして扱われます。呼び出し元は、f の使用が終了したら f を閉じる責任があります。
  • func FileListener(f *os.File) (l Listener, err error):

    • f で指定された *os.File に対応するネットワークリスナーのコピーを返します。
    • この関数は、既にリッスン状態にあるソケット(例: TCPリスナー)のファイルディスクリプタを *os.File として受け取り、それを net.Listener インターフェースとしてラップします。
    • FileConn と同様に、返される l (net.Listener) は f (*os.File) の「コピー」であり、両者は独立しています。呼び出し元は、l の使用が終了したら l を閉じる責任があります。
  • func FilePacketConn(f *os.File) (c PacketConn, err error):

    • f で指定された *os.File に対応するパケットネットワーク接続のコピーを返します。
    • この関数は、データグラム指向のソケット(例: UDPソケット)のファイルディスクリプタを *os.File として受け取り、それを net.PacketConn インターフェースとしてラップします。
    • これもまた、返される c (net.PacketConn) は f (*os.File) の「コピー」であり、両者は独立しています。呼び出し元は、f の使用が終了したら f を閉じる責任があります。

このコミットでは、これらの関数が src/pkg/net/file_windows.go 内で TODO: Implement this となっているにもかかわらず、ドキュメントが追加されています。これは、APIの意図とインターフェースの振る舞いを先に定義し、実装は後から行うという開発アプローチを示唆しています。Windows環境では、ソケットがファイルディスクリプタとして直接扱われるUnix系システムとは異なるAPI(Winsockなど)を使用するため、これらの関数の実装はより複雑になる可能性があります。しかし、ドキュメントを先に整備することで、APIの設計意図が明確になり、将来の実装や利用が容易になります。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットによるコードの変更は、src/pkg/net/file_windows.go ファイルへのコメントの追加のみです。

diff --git a/src/pkg/net/file_windows.go b/src/pkg/net/file_windows.go
index c50c32e210..ca2b9b2262 100644
--- a/src/pkg/net/file_windows.go
+++ b/src/pkg/net/file_windows.go
@@ -9,16 +9,28 @@ import (
 	"syscall"
 )
 
+// FileConn returns a copy of the network connection corresponding to
+// the open file f.  It is the caller\'s responsibility to close f when
+// finished.  Closing c does not affect f, and closing f does not
+// affect c.
 func FileConn(f *os.File) (c Conn, err error) {
 	// TODO: Implement this
 	return nil, os.NewSyscallError("FileConn", syscall.EWINDOWS)
 }
 
+// FileListener returns a copy of the network listener corresponding
+// to the open file f.  It is the caller\'s responsibility to close l
+// when finished.  Closing l does not affect f, and closing f does not
+// affect l.
 func FileListener(f *os.File) (l Listener, err error) {
 	// TODO: Implement this
 	return nil, os.NewSyscallError("FileListener", syscall.EWINDOWS)
 }
 
+// FilePacketConn returns a copy of the packet network connection
+// corresponding to the open file f.  It is the caller\'s
+// responsibility to close f when finished.  Closing c does not affect
+// f, and closing f does not affect c.
 func FilePacketConn(f *os.File) (c PacketConn, err error) {
 	// TODO: Implement this
 	return nil, os.NewSyscallError("FilePacketConn", syscall.EWINDOWS)

コアとなるコードの解説

変更された src/pkg/net/file_windows.go ファイルは、Goの net パッケージにおけるWindows固有の実装を含んでいます。このファイル内で、FileConn, FileListener, FilePacketConn の各関数定義の直前に、詳細なGoDocコメントが追加されました。

それぞれのコメントは、以下の重要な情報を提供しています。

  • 関数の目的: 各関数が *os.File から何(net.Conn, net.Listener, net.PacketConn)を返すのかを明確にしています。
  • 「コピー」の概念: 返されるネットワークオブジェクトが *os.File の「コピー」であるという点が強調されています。これは、GoのネットワークAPIが、基となるファイルディスクリプタ(またはハンドル)とは独立して動作することを意味します。
  • リソース管理の責任: 呼び出し元が *os.File を使い終わったときにそれを閉じる責任があることを明記しています。
  • 独立性: 「c(または l)を閉じても f には影響せず、f を閉じても c(または l)には影響しない」という点が繰り返し述べられています。これは、Goのネットワークオブジェクトと元の *os.File がそれぞれ独立したライフサイクルを持つことを明確にしています。

これらのコメントは、関数のセマンティクスを明確にし、APIの正しい利用方法とリソース管理の責任を開発者に伝えます。特に、Windows環境でこれらの関数が将来的に実装された際に、その振る舞いがUnix系システムでのそれと一貫していることを保証するための重要なステップとなります。

現在の実装はまだ TODO: Implement this となっており、os.NewSyscallError("FileConn", syscall.EWINDOWS) のように、Windowsでは未実装であることを示すエラーを返します。しかし、ドキュメントが先行して整備されたことで、APIの設計意図が明確になり、将来の実装者がこの意図に沿って開発を進めるための指針となります。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go net package documentation: https://pkg.go.dev/net
  • Stack Overflow / Reddit discussions on net.FileConn and file descriptors in Go. (具体的なURLは検索結果から特定できませんでしたが、GoのnetパッケージのFileConnFileListenerFilePacketConnの目的に関する一般的な情報源として参照しました。)
  • Go os package documentation: https://pkg.go.dev/os