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[インデックス 1606] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の初期のランタイムにおける2つのC言語ソースファイル、src/runtime/iface.csrc/runtime/string.c に対する変更を含んでいます。

  • src/runtime/iface.c: Go言語のインターフェースに関するランタイム処理を扱うファイルです。具体的には、型がインターフェースに変換可能かどうかをチェックするロジックや、インターフェースのハッシュ計算など、インターフェースの動的な振る舞いをサポートするための低レベルな実装が含まれています。
  • src/runtime/string.c: Go言語のランタイムにおける文字列操作に関する基本的なユーティリティ関数を提供するファイルです。このコミットでは、特にヌル終端文字列の長さを計算する関数に変更が加えられています。

コミット

このコミットは、Go言語のランタイムコードに対する「マイナーな調整」を目的としています。主な変更点は、インターフェース関連のコードにおけるエラーメッセージ出力の改善と、文字列操作関数におけるヌルポインタ安全性の向上です。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/535dcf77c806af34117ce390d19c15695b447e6b

元コミット内容

commit 535dcf77c806af34117ce390d19c15695b447e6b
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Mon Feb 2 18:59:20 2009 -0800

    minor tweaks
    
    R=r
    DELTA=9  (2 added, 5 deleted, 2 changed)
    OCL=24107
    CL=24152

変更の背景

このコミットは、Go言語がまだ開発の初期段階にあった2009年に行われたものです。当時のGoランタイムはC言語で記述されており、そのコードベースの品質、堅牢性、およびデバッグのしやすさを向上させるための継続的な改善の一環として行われました。

  1. src/runtime/iface.c の変更: 以前は複数の prints 関数呼び出しを連ねてエラーメッセージを出力していましたが、これを単一の printf 関数呼び出しに集約することで、コードの可読性を向上させ、フォーマット文字列による柔軟な出力制御を可能にすることが目的と考えられます。これは、C言語における一般的なエラー報告のベストプラクティスに沿った改善です。
  2. src/runtime/string.c の変更: findnull 関数にヌルポインタチェックを追加することは、ランタイムの安定性と安全性を高める上で非常に重要です。ヌルポインタが渡された場合にクラッシュする可能性のあるバグを未然に防ぐための、堅牢性向上のための変更です。

前提知識の解説

Go言語のランタイムとC言語

Go言語は、その初期からランタイムの一部がC言語で実装されていました。これは、OSとのインタラクション、メモリ管理、スケジューリングといった低レベルな処理を効率的に行うためです。Go言語のコンパイラはGoコードを機械語に変換しますが、その実行にはランタイムライブラリのサポートが必要であり、このランタイムがC言語で書かれていた部分が多くありました。このコミットは、そのC言語で書かれたランタイムコードに対する変更です。

インターフェース (Go)

Go言語のインターフェースは、メソッドのシグネチャの集合を定義する型です。Goのインターフェースは「暗黙的」に満たされます。つまり、ある型がインターフェースで定義されたすべてのメソッドを実装していれば、その型はそのインターフェースを満たしていると見なされます。ランタイムは、型がインターフェースにアサートされる際や、インターフェース値がメソッドを呼び出す際に、その型が実際にインターフェースを満たしているか、あるいは適切なメソッドを持っているかを動的にチェックする必要があります。src/runtime/iface.c は、このような動的なインターフェース関連の処理を低レベルでサポートします。

printfprints (C言語の文脈)

  • printf: C標準ライブラリの関数で、フォーマット文字列と可変個の引数を受け取り、標準出力に整形されたテキストを出力します。非常に強力で柔軟な出力機能を提供します。
  • prints: このコミットの文脈では、Goランタイム内部で定義されたカスタムの出力関数である可能性が高いです。printfのようなフォーマット機能を持たず、単一の文字列を出力するシンプルな関数であったと推測されます。複数の文字列を連結して出力する場合、printsを複数回呼び出す必要があり、非効率的で可読性も低下します。

ヌルポインタ (Null Pointer)

ヌルポインタは、有効なメモリ位置を指していないポインタです。C言語では、ポインタがNULL(またはnil)である場合、そのポインタを逆参照(ポインタが指すメモリ位置にアクセス)しようとすると、通常はセグメンテーション違反(Segmentation Fault)などの実行時エラーが発生し、プログラムがクラッシュします。これは、プログラムの安定性を著しく損なうため、ポインタを使用する際には常にヌルポインタチェックを行うことが堅牢なプログラミングの基本とされています。

nil (Go)

Go言語におけるnilは、ポインタ、インターフェース、マップ、スライス、チャネル、関数といった参照型の「ゼロ値」を表します。C言語のNULLポインタに概念的に似ていますが、Goではより広範な型に適用されます。このコミットのC言語コードでは、Goランタイムの内部でGoのnilに対応するC言語のポインタ表現がnilとして扱われていると考えられます。

技術的詳細

src/runtime/iface.c におけるエラーメッセージ出力の改善

変更前は、インターフェース変換に失敗した場合のエラーメッセージを、複数のprints関数を呼び出して構成していました。

// 変更前
prints("cannot convert type ");
prints((int8*)st[0].name);
prints(" to interface ");
prints((int8*)si[0].name);
prints(": missing method ");
prints((int8*)iname);
prints("\n");

これが、単一のprintf呼び出しに置き換えられました。

// 変更後
printf("cannot convert type %s to interface %s: missing method %s\n",
    st[0].name, si[0].name, iname);

この変更により、以下の利点が得られます。

  • 可読性の向上: エラーメッセージの全体像が一目で把握できるようになります。複数のprints呼び出しに分散していた情報が、一つのフォーマット文字列に集約されます。
  • 効率性の向上: 複数の関数呼び出しのオーバーヘッドが削減され、単一のprintf呼び出しで済むため、わずかながら実行効率が向上する可能性があります。
  • 保守性の向上: メッセージの内容やフォーマットを変更する際に、一つの文字列を編集するだけで済むため、保守が容易になります。

src/runtime/string.c におけるヌルポインタ安全性の向上

findnull関数は、与えられたバイト配列(文字列)の長さを計算する関数です。変更前は、入力ポインタsnilである場合のチェックがありませんでした。

// 変更前 (findnull関数の冒頭部分)
findnull(byte *s)
{
    int32 l;

    for(l=0; s[l]!=0; l++)
        ;
    return l;
}

変更後、関数の冒頭にsnilであるかどうかのチェックが追加されました。

// 変更後 (findnull関数の冒頭部分)
findnull(byte *s)
{
    int32 l;

    if(s == nil)
        return 0; // sがnilの場合、長さ0を返す

    for(l=0; s[l]!=0; l++)
        ;
    return l;
}

この変更は、snilである場合にs[l]のようなポインタ逆参照が行われるのを防ぎます。ヌルポインタを逆参照しようとすると、通常はプログラムがクラッシュするため、このチェックはランタイムの堅牢性を大幅に向上させます。nilが渡された場合に長さ0を返すという挙動は、ヌル文字列の長さを0と解釈するという一般的な慣習に沿ったものです。

コアとなるコードの変更箇所

src/runtime/iface.c の変更

--- a/src/runtime/iface.c
+++ b/src/runtime/iface.c
@@ -178,13 +178,8 @@ throw:\n 		tsname = st[nt].name;\n 		if(sname == nil) {\n 			if(!canfail) {\n-\t\t\t\t\tprints("cannot convert type ");
-\t\t\t\t\tprints((int8*)st[0].name);
-\t\t\t\t\tprints(" to interface ");
-\t\t\t\t\tprints((int8*)si[0].name);
-\t\t\t\t\tprints(": missing method ");
-\t\t\t\t\tprints((int8*)iname);
-\t\t\t\t\tprints("\n");
+\t\t\t\t\tprintf("cannot convert type %s to interface %s: missing method %s\n",
+\t\t\t\t\t\tst[0].name, si[0].name, iname);
 					if(iface_debug) {
 						prints("interface");
 						printsigi(si);

src/runtime/string.c の変更

--- a/src/runtime/string.c
+++ b/src/runtime/string.c
@@ -12,6 +12,8 @@ findnull(byte *s)
 {
 	int32 l;
 
+	if(s == nil)
+		return 0;
 	for(l=0; s[l]!=0; l++)
 		;
 	return l;

コアとなるコードの解説

src/runtime/iface.c の変更解説

この変更は、throwラベルの付いたエラー処理ブロック内で行われています。if(!canfail)の条件が真の場合、つまりインターフェース変換が必須であり、かつ失敗した場合にエラーメッセージを出力する部分です。

  • 削除された行: 複数のprints関数呼び出しが削除されています。これらは、エラーメッセージの各部分("cannot convert type ", 型名, " to interface ", インターフェース名, ": missing method ", メソッド名, 改行)を個別に標準出力に出力していました。
  • 追加された行: 単一のprintf関数呼び出しが追加されています。このprintfは、C言語の標準的なフォーマット文字列"cannot convert type %s to interface %s: missing method %s\n"を使用し、st[0].name(元の型名)、si[0].name(ターゲットインターフェース名)、iname(不足しているメソッド名)を引数として渡しています。これにより、より簡潔で効率的なエラーメッセージの出力が実現されています。

src/runtime/string.c の変更解説

findnull関数は、C言語におけるstrlenに相当する機能を提供します。ヌル終端されたバイト配列(文字列)の長さを計算します。

  • 追加された行: if(s == nil)という条件分岐が追加されています。これは、入力ポインタsがヌルポインタであるかどうかをチェックします。
  • return 0;: もしsnilであれば、関数は直ちに0を返します。これは、ヌルポインタが指す文字列の長さを0と解釈するという安全な挙動です。これにより、forループ内でs[l]のようなヌルポインタ逆参照が発生するのを防ぎ、プログラムのクラッシュを防ぎます。
  • 既存のループ: for(l=0; s[l]!=0; l++);というループは、sが有効なポインタである場合に、ヌル終端文字(0)が見つかるまでlをインクリメントし、文字列の長さを計算します。このループ自体は変更されていません。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • C言語のprintf関数のドキュメント
  • ヌルポインタに関する一般的なプログラミングの概念