[インデックス 16122] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリの一部である runtime パッケージ内の map_test.go ファイルに対して gofmt -s コマンドを適用した結果の変更を記録しています。具体的には、range ループ内で使用されていた不要なブランク識別子 (_) を削除し、コードをより簡潔にしています。
コミット
commit 114f20532e5f360a8738bfd7ab58dbd8d9f6ca98
Author: Albert Strasheim <fullung@gmail.com>
Date: Sun Apr 7 18:37:32 2013 +1000
runtime: gofmt -s
R=golang-dev, iant, dave
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/8253045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/114f20532e5f360a8738bfd7ab58dbd8d9f6ca98
元コミット内容
runtime: gofmt -s
このコミットメッセージは、runtime パッケージに対して gofmt -s コマンドを実行したことを示しています。
変更の背景
Go言語では、コードのフォーマットを統一するために gofmt というツールが提供されています。gofmt は、Goのソースコードを標準的なスタイルに自動的に整形します。-s オプションは、gofmt にコードの簡略化(simplification)も行わせる指示です。
このコミットの背景には、Go言語のコードベース全体で一貫したスタイルを維持し、不要な冗長性を排除するという目的があります。特に、range ループでインデックスや値が不要な場合にブランク識別子 (_) を使用する慣習がありますが、gofmt -s は、そのブランク識別子自体が不要なケース(例えば、map の range でキーのみが必要な場合など)を自動的に検出し、削除することでコードをより簡潔にする機能を持っています。これにより、コードの可読性と保守性が向上します。
前提知識の解説
gofmt
gofmt は、Go言語のソースコードを自動的にフォーマットするツールです。Go言語のツールチェインに標準で含まれており、Goコミュニティ全体でコードスタイルの一貫性を保つために広く利用されています。gofmt は、インデント、スペース、改行などの基本的なフォーマットだけでなく、特定のコードパターンをより簡潔な形式に書き換える機能も持っています。
gofmt -s
gofmt の -s オプションは、「簡略化 (simplify)」を意味します。このオプションを付けると、gofmt は単なるフォーマットだけでなく、コードの構造を分析し、より簡潔で慣用的なGoの書き方に自動的に修正します。例えば、以下のような簡略化が行われます。
for k, _ := range mをfor k := range mに変更(今回のコミットの変更点)x[len(x):]をx[len(x):]に変更if x { return true } else { return false }をreturn xに変更
range キーワードとブランク識別子 (_)
Go言語の for ... range ループは、スライス、配列、文字列、マップ、チャネルなどのコレクションをイテレートするために使用されます。
- スライス/配列/文字列:
for index, value := range collectionの形式で、インデックスと値の両方を取得できます。 - マップ:
for key, value := range mapの形式で、キーと値の両方を取得できます。 - チャネル:
for value := range channelの形式で、チャネルから送信される値を取得できます。
Goでは、宣言された変数は必ず使用しなければならないというルールがあります。もし range ループで取得したインデックスや値が不要な場合、Goでは「ブランク識別子」と呼ばれるアンダースコア _ を使用して、その変数を破棄することができます。
例:
// スライスで値のみが必要な場合
for _, value := range mySlice {
// value を使用
}
// マップでキーのみが必要な場合
for key, _ := range myMap {
// key を使用
}
今回のコミットでは、マップの range ループで値が不要な場合に for key, _ := range myMap と記述されていましたが、gofmt -s はこれを for key := range myMap に簡略化します。これは、マップの range ループにおいて、値が不要な場合は value 部分を完全に省略できるためです。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、gofmt -s がどのようにコードを簡略化するかという点に集約されます。特に、マップのイテレーションにおける range ループの挙動と、Go言語のブランク識別子の使用に関する慣用的なスタイルが関係しています。
Go言語仕様では、マップの range ループは以下のように定義されています。
for key := range m { ... }
for key, val := range m { ... }
つまり、マップをイテレートする際に、値 (val) が不要であれば、その部分を完全に省略して for key := range m と書くことが可能です。これは、スライスや配列の range ループでインデックスが不要な場合に for _, val := range slice と書くのとは異なります。スライスや配列の場合、インデックスは常に返されるため、不要な場合はブランク識別子で明示的に破棄する必要があります。しかし、マップの場合は、値が不要であれば構文的に省略できるのです。
gofmt -s はこの言語仕様と慣用的なスタイルを理解しており、for k, _ := range m のような冗長な記述を見つけると、自動的に for k := range m に書き換えます。これにより、コードがより簡潔になり、意図が明確になります。ブランク識別子 _ は「この値は不要である」ということを明示しますが、マップの range の場合は、値のセクション自体を省略することで同じ意図をより簡潔に表現できるため、gofmt -s はその最適化を行います。
この変更は、コードの実行時のパフォーマンスには影響を与えません。純粋にコードのスタイルと可読性の向上を目的としたものです。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/pkg/runtime/map_test.go ファイルの2箇所です。
--- a/src/pkg/runtime/map_test.go
+++ b/src/pkg/runtime/map_test.go
@@ -30,7 +30,7 @@ func TestNegativeZero(t *testing.T) {
\tt.Error(\"length wrong\")
}\n \n-\tfor k, _ := range m {\n+\tfor k := range m {\n \t\tif math.Copysign(1.0, k) > 0 {\n \t\t\tt.Error(\"wrong sign\")\n \t\t}\n@@ -44,7 +44,7 @@ func TestNegativeZero(t *testing.T) {\n \tt.Error(\"length wrong\")
}\n \n-\tfor k, _ := range m {\n+\tfor k := range m {\n \t\tif math.Copysign(1.0, k) < 0 {\n \t\t\tt.Error(\"wrong sign\")\n \t\t}\n```
## コアとなるコードの解説
変更された2つの箇所は、どちらも `for ... range` ループの構文を簡略化しています。
元のコード:
```go
for k, _ := range m {
// ...
}
このコードでは、マップ m をイテレートし、各要素のキーを k に、値をブランク識別子 _ に代入しています。ブランク識別子を使用することで、値がこのループ内で使用されないことを明示しています。
変更後のコード:
for k := range m {
// ...
}
gofmt -s によって、値のブランク識別子 _ が削除され、for k := range m という形式に簡略化されました。マップの range ループでは、値が不要な場合にこのように記述することがGoの慣用的なスタイルであり、より簡潔です。この変更は、コードの動作に影響を与えることなく、可読性とGoの慣習への準拠を向上させます。
この map_test.go ファイルは、Goランタイムのマップ実装に関するテストコードであり、この変更はテストのロジック自体には影響を与えず、単にコードスタイルを改善するものです。
関連リンク
- Go CL 8253045:
https://golang.org/cl/8253045(このコミットに対応するGoのコードレビューシステム上のチェンジリスト)
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント:
gofmtおよびfor ... rangeループに関する情報gofmtのドキュメント:https://pkg.go.dev/cmd/gofmt- Go言語仕様:
forステートメント (特にrange句):https://go.dev/ref/spec#For_statements
- Go言語の慣用的なスタイルに関する記事やガイドライン (例: Effective Go)
- Effective Go:
https://go.dev/doc/effective_go(特に「Blank identifier」のセクション)
- Effective Go: