[インデックス 16154] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のリンカである cmd/ld
のドキュメントファイル src/cmd/ld/doc.go
における引数表記の修正に関するものです。具体的には、リンカオプション -H
の後に続くオペレーティングシステム名(例: darwin
, linux
, windows
など)の間に不要なスペースが含まれていた記述を修正し、正しい引数形式に合わせる変更が行われました。
コミット
cmd/ld
の doc.go
ファイルにおける引数表記の誤りを修正。-H
オプションの引数とオプション名の間のスペースを削除し、ドキュメントの正確性を向上させました。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/f0fc16abd7bf346515d45ba2885bde45bafb8321
元コミット内容
commit f0fc16abd7bf346515d45ba2885bde45bafb8321
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date: Thu Apr 11 04:04:02 2013 +0800
cmd/ld: fix argument passing in doc.go
R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/8622043
変更の背景
この変更の背景には、Go言語のツールチェイン、特にリンカ (cmd/ld
) のドキュメントの正確性を保つという目的があります。doc.go
ファイルは、Goのコマンドラインツールのドキュメントを生成するために使用される特別なファイルです。このファイル内の記述が実際のコマンドライン引数の挙動と異なっていると、ユーザーが誤った情報を基にコマンドを実行してしまう可能性があります。
具体的には、リンカの -H
オプションは、出力バイナリのターゲットOSを指定するために使用されます。例えば、-Hwindows
はWindows向けのバイナリを生成します。しかし、doc.go
内では -H windows
のように -H
とOS名の間にスペースがある形で記述されており、これは実際のコマンドライン引数のパース方法とは異なります。この不一致を解消し、ドキュメントが正確な情報を提供するようにするために、この修正がコミットされました。
前提知識の解説
Go言語のツールチェイン
Go言語は、ソースコードのコンパイル、リンク、実行、テストなどを行うための統合されたツールチェインを提供します。主要なツールには go build
(ビルド), go run
(実行), go test
(テスト) などがあります。これらのコマンドの背後では、コンパイラ (cmd/compile
), アセンブラ (cmd/asm
), リンカ (cmd/ld
) などの低レベルツールが連携して動作しています。
リンカ (cmd/ld
)
リンカは、コンパイラによって生成されたオブジェクトファイル(機械語コード)を結合し、実行可能なバイナリファイルを作成するツールです。Go言語のリンカ (cmd/ld
) は、Goプログラムのビルドプロセスにおいて重要な役割を担っています。これには、標準ライブラリのコードの組み込み、外部ライブラリのリンク、そして最終的な実行ファイルの生成が含まれます。
-H
フラグ
cmd/ld
の -H
フラグは、生成される実行ファイルのヘッダ形式を指定するために使用されます。これは、特定のオペレーティングシステム向けのバイナリを生成する際に不可欠です。例えば、-Hwindows
はWindowsのPE32+形式の実行ファイルを、-Hlinux
はLinuxのELF形式の実行ファイルを生成します。このフラグは、クロスコンパイル(異なるOS向けのバイナリを生成すること)を行う際にも頻繁に利用されます。
doc.go
ファイル
Go言語のパッケージやコマンドには、doc.go
という名前のファイルが慣習的に存在することがあります。このファイルは、そのパッケージやコマンド全体のドキュメントを記述するために使用されます。go doc
コマンドやGoの公式ドキュメントサイト(pkg.go.devなど)は、これらの doc.go
ファイルから情報を抽出し、ユーザー向けのドキュメントを生成します。したがって、doc.go
の内容は正確であることが非常に重要です。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、Go言語のコマンドライン引数処理とドキュメント生成のメカニズムに深く関連しています。
Goのコマンドラインツールは、通常、flag
パッケージなどを使用して引数をパースします。リンカの -H
オプションの場合、-H
の直後にターゲットOS名が続く形式(例: -Hwindows
)が期待されます。これは、-H
が単一の引数を受け取るオプションとして設計されているためです。
しかし、src/cmd/ld/doc.go
内では、以下のように記述されていました。
-H darwin
-H linux
-H freebsd
-H netbsd
-H openbsd
-H windows
-H windowsgui
この記述は、あたかも -H
とOS名が別々の引数であるかのように見えます。実際のリンカの挙動では、-H
とOS名の間にスペースがあると、OS名が別の引数として解釈されるか、あるいはエラーとなる可能性があります(Goの flag
パッケージの挙動に依存)。
このコミットでは、このドキュメント上の不正確さを修正するために、すべての -H
オプションの記述から不要なスペースを削除しました。これにより、doc.go
の内容が実際のリンカの引数パースの挙動と一致するようになり、ユーザーがドキュメントを読んだ際に正しいコマンドライン引数の形式を理解できるようになりました。
この修正は、コードの機能的な変更ではなく、ドキュメントの品質向上を目的としたものです。しかし、正確なドキュメントは、ツールの使いやすさとユーザーエクスペリエンスにとって極めて重要です。
コアとなるコードの変更箇所
diff --git a/src/cmd/ld/doc.go b/src/cmd/ld/doc.go
index 874db41c9c..3493f41d8a 100644
--- a/src/cmd/ld/doc.go
+++ b/src/cmd/ld/doc.go
@@ -31,19 +31,19 @@ Options new in this version:
is statically linked and does not refer to a dynamic linker. Without this option
(the default), the binary's contents are identical but it is loaded with a dynamic
linker. This flag cannot be used when $GOOS is windows.
- -Hdarwin (only in 6l/8l)
+ -Hdarwin (only in 6l/8l)
Write Apple Mach-O binaries (default when $GOOS is darwin)
- -Hlinux
+ -Hlinux
Write Linux ELF binaries (default when $GOOS is linux)
- -Hfreebsd
+ -Hfreebsd
Write FreeBSD ELF binaries (default when $GOOS is freebsd)
- -Hnetbsd (only in 6l/8l)
+ -Hnetbsd (only in 6l/8l)
Write NetBSD ELF binaries (default when $GOOS is netbsd)
- -Hopenbsd (only in 6l/8l)
+ -Hopenbsd (only in 6l/8l)
Write OpenBSD ELF binaries (default when $GOOS is openbsd)
- -Hwindows (only in 6l/8l)
+ -Hwindows (only in 6l/8l)
Write Windows PE32+ Console binaries (default when $GOOS is windows)
- -Hwindowsgui (only in 6l/8l)
+ -Hwindowsgui (only in 6l/8l)
Write Windows PE32+ GUI binaries
-I interpreter
Set the ELF dynamic linker to use.
コアとなるコードの解説
上記の diff
は、src/cmd/ld/doc.go
ファイルに対する変更を示しています。
変更の核心は、-H
オプションとその引数(ターゲットOS名)の間のスペースの削除です。
- 変更前:
-H darwin
,-H linux
,-H freebsd
,-H netbsd
,-H openbsd
,-H windows
,-H windowsgui
- 変更後:
-Hdarwin
,-Hlinux
,-Hfreebsd
,-Hnetbsd
,-Hopenbsd
,-Hwindows
,-Hwindowsgui
各行で、-H
の後に続くOS名の前にあったスペースが削除されています。例えば、-H darwin
は -Hdarwin
に変更されています。
この修正は、Goのリンカ (cmd/ld
) がコマンドライン引数をどのように解釈するかという、より深い理解に基づいています。Goのコマンドラインツールでは、オプションとその値が密接に結合している場合が多く、間にスペースを挟むと異なる引数として扱われる可能性があります。このドキュメントの修正により、ユーザーはリンカの -H
オプションを正しく使用する方法を学ぶことができます。
この変更は、コードの実行ロジックには影響を与えませんが、Goツールチェインのドキュメントの正確性と一貫性を向上させる上で重要な役割を果たします。
関連リンク
- Go CL 8622043: https://golang.org/cl/8622043
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (Go Toolchain, cmd/ld, flag packageに関する一般的な知識)
- Gitのdiff形式に関する一般的な知識
- Go言語のソースコード慣習 (doc.goの役割など)