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[インデックス 16353] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の公式仕様書である doc/go_spec.html ファイルから、古くなった、またはもはや無効となったTODOコメントを削除するものです。これは、Go言語の仕様が成熟し、以前の設計上の疑問点や未解決の課題が解決されたことを示しています。

コミット

commit 6a3859f4331b2039142673e9beac8ffdd7d2628a
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date:   Mon May 20 14:01:07 2013 -0700

    spec: removed old or invalid TODOs
    
    Several old TODOs are either resolved now (e.g. when is a return
    needed), or are from a time the language wasn't frozen (^ for uints
    only). Consolidated the others.
    
    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/9599044

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/6a3859f4331b2039142673e9beac8ffdd7d2628a

元コミット内容

このコミットの目的は、Go言語の仕様書 doc/go_spec.html 内に存在する、もはや関連性のない、または既に解決済みのTODOコメントを削除することです。コミットメッセージによると、削除されたTODOの中には、「returnが必要なのはいつか」といった既に解決済みのものや、「^演算子がuint型のみに適用されるべきか」といった、言語仕様がまだ固まっていなかった時期に由来するものも含まれています。残りのTODOは整理され、統合されました。

変更の背景

Go言語は継続的に進化しており、その仕様書も言語の成熟に合わせて更新されます。このコミットが行われた2013年5月は、Go言語がバージョン1.0をリリースし、その後の安定化と洗練が進められていた時期にあたります。初期の設計段階では多くの疑問点や未決定事項が存在し、それらがTODOコメントとして仕様書に記載されていました。

時間が経ち、言語設計が固まり、特定の機能の振る舞いが明確になったことで、これらのTODOコメントの多くは不要となりました。例えば、関数の戻り値に関するルールや、特定の演算子の型制約など、以前は議論の余地があった点が明確に定義されたため、それらに関するTODOは削除されました。特に「^ for uints only」という言及は、ビットごとのXOR演算子(^)の型に関する初期の検討が、最終的にuint型に限定されるという形で解決されたことを示唆しています。

このコミットは、仕様書の正確性と簡潔性を保ち、読者が最新かつ確定した言語仕様に集中できるようにするための、定期的なメンテナンスの一環と見なすことができます。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語およびソフトウェア開発に関する基本的な知識が必要です。

  • Go言語の仕様書 (Go Specification): Go言語の文法、セマンティクス、組み込み型、演算子、関数、パッケージ、並行処理など、言語のあらゆる側面を正式に記述した文書です。開発者やコンパイラの実装者がGo言語の正確な振る舞いを理解するための唯一の公式な情報源となります。
  • TODOコメント: ソースコードやドキュメント内に残される、将来的に対応が必要なタスクや改善点を示すマーカーです。通常、TODOFIXMEBUGなどのキーワードが使われます。
  • 言語の凍結 (Language Freezing): プログラミング言語の設計において、主要な機能や文法が安定し、大きな変更が加えられなくなる状態を指します。Go言語では、Go 1のリリースをもって言語仕様が「凍結」され、後方互換性を維持しながらの変更が原則となりました。
  • レシーバ (Receiver): Go言語のメソッドにおいて、メソッドが操作するインスタンス(値またはポインタ)を指します。レシーバの型によって、メソッドが値レシーバかポインタレシーバかが決まり、その振る舞いが異なります。
  • ビットごとのXOR演算子 (^): 2つの整数の対応するビットを比較し、両方のビットが異なる場合に1を、同じ場合に0を返す二項演算子です。Go言語では、この演算子は符号なし整数型 (uint) にのみ適用されるという制約があります。
  • golang.org/cl/: GoプロジェクトのコードレビューシステムであるGerritの変更リスト(Change-List)へのリンク形式です。各コミットは通常、Gerrit上の変更リストに対応しています。

技術的詳細

このコミットは、doc/go_spec.html ファイルに対して、主にHTMLコメントアウトされたTODOブロックの削除を行っています。具体的には、以下のTODOコメントが削除されました。

  1. レシーバの振る舞いに関するTODO:

    <!--
    <span class="alert">
    TODO: Specify what happens to receivers.
    </span>
    -->
    

    これは、メソッド呼び出しにおけるレシーバのコピーやポインタ渡しに関する詳細な仕様記述が求められていたものです。Go言語のメソッドは、値レシーバとポインタレシーバで振る舞いが異なり、この点が初期には明確化が必要でした。このTODOの削除は、Go 1の仕様でレシーバのセマンティクスが明確に定義されたことを示しています。

  2. 並行処理のセマンティクスに関するTODO:

    <!--
    <p>
    <span class="alert">TODO: Probably in a separate section, communication semantics
    need to be presented regarding send, receive, select, and goroutines.</span>
    </p>
    -->
    

    Go言語の大きな特徴である並行処理(goroutineとchannel)における、sendreceiveselectのセマンティクスに関する詳細な記述が求められていました。これらのセマンティクスはGo言語の根幹をなす部分であり、Go 1の仕様で詳細に記述されたため、このTODOは不要となりました。

  3. ビットごとのXOR演算子 (^) の型制約に関するTODO:

    <!--
    <p>
    <span class="alert">
    TODO: perhaps ^ should be disallowed on non-uints instead of assuming twos complement.
    Also it may be possible to make typed constants more like variables, at the cost of fewer
    overflow etc. errors being caught.
    </span>
    </p>
    -->
    

    これは、ビットごとのXOR演算子 (^) が符号なし整数型 (uint) 以外の型に適用された場合の振る舞いに関する議論を示しています。Go言語では、^演算子は符号なし整数型にのみ適用されるという仕様が最終的に採用されました。また、型付き定数に関する検討も含まれており、定数のオーバーフローチェックの厳密性に関する初期の議論が示唆されています。

  4. return文の要件に関するTODO:

    <!--
    <p>
    <span class="alert">
    TODO: Define when return is required.<br />
    </span>
    </p>
    -->
    

    Go言語の関数において、return文がいつ必要か、あるいは省略可能かに関する仕様の明確化が求められていました。Go言語では、戻り値を持つ関数は通常return文を必要としますが、名前付き戻り値を持つ関数ではreturnキーワードのみで戻り値を返すことができます。このTODOの削除は、これらのルールが仕様で明確に定義されたことを意味します。

これらのTODOの削除に加え、コミットは新しいTODOを1つ追加しています。

  • セレクタセクションにおけるレシーバ値の明確化:
    [ ] in Selectors section, clarify what receiver value is passed in method invocations
    
    これは、メソッド呼び出しにおけるレシーバの値がどのように渡されるか(値渡し、ポインタ渡し)について、セレクタ(フィールドやメソッドへのアクセス)の文脈でさらに明確化が必要であるという、より具体的な課題を示しています。これは、以前の広範な「レシーバの振る舞い」に関するTODOが解決された後も、特定の文脈での詳細な説明が求められていることを示唆しています。

全体として、このコミットはGo言語の仕様書が、言語の成熟と設計の確定に伴い、より洗練され、簡潔になったことを反映しています。

コアとなるコードの変更箇所

変更は doc/go_spec.html ファイルに集中しており、主にHTMLコメントアウトされたTODOブロックの削除と、新しいTODOの追加です。

--- a/doc/go_spec.html
+++ b/doc/go_spec.html
@@ -15,6 +15,7 @@ TODO
 [ ] need explicit language about the result type of operations
 [ ] should probably write something about evaluation order of statements even
 	though obvious
+[ ] in Selectors section, clarify what receiver value is passed in method invocations
 -->
 
 
@@ -2507,13 +2508,6 @@ p.M0()  // ((*p).T0).M0()
 </pre>
 
 
-<!--
-<span class="alert">
-TODO: Specify what happens to receivers.
-</span>
--->
-
-
 <h3 id="Index_expressions">Index expressions</h3>
 
 <p>
@@ -3337,13 +3331,6 @@ channel, or <code>false</code> if it is a zero value generated because the
 channel is closed and empty.\n </p>\n \n-<!--\n-<p>\n-<span class="alert">TODO: Probably in a separate section, communication semantics\n-need to be presented regarding send, receive, select, and goroutines.</span>\n-</p>\n--->\n-\n \n <h3 id="Method_expressions">Method expressions</h3>
 \n@@ -3914,15 +3901,6 @@ context, even if it would be integral when calculated using infinite
 precision.\n </p>\n \n-<!--\n-<p>\n-<span class="alert">\n-TODO: perhaps ^ should be disallowed on non-uints instead of assuming twos complement.\n-Also it may be possible to make typed constants more like variables, at the cost of fewer\n-overflow etc. errors being caught.\n-</span>\n-</p>\n--->\n \n <h3 id="Order_of_evaluation">Order of evaluation</h3>
 \n@@ -4901,13 +4879,6 @@ function. A "return" statement that specifies results sets the result parameters
 any deferred functions are executed.\n </p>\n \n-<!--\n-<p>\n-<span class="alert">\n-TODO: Define when return is required.<br />\n-</span>\n-</p>\n--->\n \n <h3 id="Break_statements">Break statements">Break statements</h3>
 \n

コアとなるコードの解説

このコミットは、Go言語の仕様書 doc/go_spec.html の内容を直接変更しています。変更のほとんどは、HTMLのコメントブロック (<!-- ... -->) 内に記述されていたTODOコメントの削除です。

  • 削除されたTODOコメント:

    • TODO: Specify what happens to receivers. (レシーバの振る舞いに関するTODO)
    • TODO: Probably in a separate section, communication semantics need to be presented regarding send, receive, select, and goroutines. (並行処理のセマンティクスに関するTODO)
    • TODO: perhaps ^ should be disallowed on non-uints instead of assuming twos complement. Also it may be possible to make typed constants more like variables, at the cost of fewer overflow etc. errors being caught. (ビットごとのXOR演算子と型付き定数に関するTODO)
    • TODO: Define when return is required. (return文の要件に関するTODO)

    これらのTODOは、Go言語の初期開発段階における設計上の未解決点や、仕様書に追記が必要な項目を示していました。コミットメッセージが示唆するように、これらの点の多くはGo 1のリリースまでに解決され、仕様書に適切に反映されたため、TODOコメントは不要となりました。

  • 追加されたTODOコメント:

    • [ ] in Selectors section, clarify what receiver value is passed in method invocations

    これは、既存のTODOリストの冒頭に1行追加されたものです。以前の広範な「レシーバの振る舞い」に関するTODOが削除された一方で、より具体的な「セレクタセクションにおけるメソッド呼び出し時のレシーバ値の渡し方」に関する明確化が新たな課題として残されたことを示しています。これは、仕様書がより詳細なレベルでの正確性を追求していることを示唆しています。

このコミットは、コードの機能的な変更ではなく、ドキュメントの品質向上とメンテナンスを目的としています。Go言語の仕様書は、言語の公式な定義であるため、その正確性と最新性は非常に重要です。古くなったTODOを削除することで、読者は現在のGo言語の確定した仕様に集中でき、混乱を避けることができます。

関連リンク

参考にした情報源リンク