[インデックス 1636] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のコンパイラにおけるバグ修正に関するものです。具体的には、ラベルと空のステートメントが組み合わされた際に、コンパイラがラベルの適用範囲を正しく認識しない問題に対処しています。この修正は、Go言語の初期段階で行われたもので、言語の構文解析とセマンティック解析の正確性を向上させることを目的としています。
コミット
a85e06f302bec96a26db989ab0513f0329a871c0
by Robert Griesemer (gri@golang.org
) on Fri Feb 6 16:45:37 2009 -0800
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/a85e06f302bec96a26db989ab0513f0329a871c0
元コミット内容
bug: empty statement not properly recognized in conjunction w/ labels
R=r
DELTA=14 (14 added, 0 deleted, 0 changed)
OCL=24610
CL=24610
変更の背景
このコミットは、Go言語のコンパイラが、ラベル(L:
)の直後に空のステートメント(;
)が続く場合に、そのラベルの適用範囲を誤って解釈するというバグを修正するために行われました。
Go言語では、break
やcontinue
ステートメントにラベルを付与することで、ネストされたループやswitch
、select
ステートメントから特定の外側のブロックを抜けることができます。しかし、このバグが存在する環境では、L: ;
のようにラベルの直後に空のステートメントが置かれると、コンパイラはラベルL
がその後のfor
ループに適用されるべきではないと誤認していました。結果として、for
ループ内でbreak L
のようなステートメントが使用された場合、コンパイラはL
が有効なラベルではないと判断し、コンパイルエラーを発生させていました。
この修正は、Go言語の初期開発段階におけるコンパイラの堅牢性と正確性を高めるための重要なステップでした。
前提知識の解説
Go言語におけるラベルとbreak
/continue
Go言語では、for
、switch
、select
ステートメントにラベルを付けることができます。ラベルは識別子とコロン(:
)で構成され、ステートメントの前に置かれます。
例:
OuterLoop:
for i := 0; i < 5; i++ {
for j := 0; j < 5; j++ {
if i*j > 6 {
break OuterLoop // OuterLoopというラベルが付いたforループを抜ける
}
println(i, j)
}
}
break
ステートメントは、最も内側のfor
、switch
、select
ステートメントを終了させます。ラベルが指定された場合、そのラベルが付いたステートメントを終了させます。
continue
ステートメントは、最も内側のfor
ループの次のイテレーションに進みます。ラベルが指定された場合、そのラベルが付いたfor
ループの次のイテレーションに進みます。
空のステートメント(Empty Statement)
プログラミング言語における空のステートメントは、何も操作を行わないステートメントです。Go言語では、セミコロン(;
)単独で空のステートメントを表現できます。これは、文法的な要件を満たすために使用されることがあります。
例:
func main() {
// 何も行わない空のステートメント
;
println("Hello")
}
コンパイラの構文解析とセマンティック解析
- 構文解析(Parsing): ソースコードを読み込み、言語の文法規則に従って、抽象構文木(AST: Abstract Syntax Tree)などの内部表現に変換するプロセスです。この段階で、コードが文法的に正しいかどうかがチェックされます。
- セマンティック解析(Semantic Analysis): 構文解析によって生成されたASTを分析し、コードの意味的な正当性をチェックするプロセスです。これには、型チェック、変数や関数の宣言と使用の整合性チェック、スコープの解決などが含まれます。ラベルの適用範囲の解決もセマンティック解析の一部です。
このバグは、構文解析の段階で空のステートメントがラベルの直後に存在する場合に、セマンティック解析がラベルのスコープを正しく決定できないことに起因していました。
技術的詳細
このバグは、Goコンパイラのパーサーがラベル付きステートメントを処理する際の特定のコーナーケースで発生していました。Go言語の文法では、ラベルは任意のステートメントに付与できます。空のステートメントも有効なステートメントであるため、L: ;
という形式は文法的に有効です。
問題は、コンパイラがL: ;
を解析した際に、ラベルL
が空のステートメントにのみ適用され、その直後に続く別のステートメント(この場合はfor
ループ)には適用されないと誤って判断していた点にありました。
通常、L: for ...
のようにラベルが直接ループに付与されている場合、break L
はそのループを対象とします。しかし、L: ; for ...
の場合、コンパイラはL
が空のステートメントで「消費」されてしまい、for
ループとは関連付けられないと解釈していました。そのため、for
ループ内でbreak L
が記述されると、コンパイラはL
というラベルが現在のスコープで見つからないと判断し、「undefined label」のようなエラーを報告していました。
この修正は、パーサーまたはセマンティックアナライザーのロジックを調整し、ラベルの直後に空のステートメントが続く場合でも、そのラベルが後続の適切なステートメント(例えばループ)に適用されるべきかどうかを正しく判断できるようにしたと考えられます。これにより、開発者が意図した通りのラベルの挙動が保証されるようになりました。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットでは、既存のコードの変更は行われず、バグを再現するための新しいテストケースが追加されています。
test/bugs/bug136.go
: 新しいテストファイルが追加されました。このファイルは、問題のバグを具体的に示すためのGoソースコードを含んでいます。test/golden.out
: テストの期待される出力(エラーメッセージ)を記録するファイルが更新されました。bug136.go
がコンパイルエラーになることを示すエントリが追加されています。
コアとなるコードの解説
追加されたtest/bugs/bug136.go
ファイルは以下の内容です。
// errchk $G $D/$F.go
// Copyright 2009 The Go Authors. All rights reserved.
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.
package main
func main() {
L: ; // ';' terminates empty statement => L does not apply to for loop
for i := 0; i < 10; i++ {
println(i);
break L // L does not apply to for loop
}
}
このテストケースのポイントは以下の通りです。
L: ;
: ここでL
というラベルが定義され、その直後に空のステートメント(;
)が続いています。バグのあるコンパイラでは、この空のステートメントがラベルL
を「消費」してしまい、L
がその後のfor
ループに適用されないと誤解釈されていました。for i := 0; i < 10; i++ { ... break L }
:for
ループの内部でbreak L
が使用されています。開発者の意図としては、このbreak L
は外側のfor
ループ(またはL
が適用されるべきブロック)を抜けることを意味します。しかし、バグのあるコンパイラはL
がfor
ループに適用されていないと判断するため、ここで「未定義のラベルL
」といったコンパイルエラーを発生させます。
// errchk $G $D/$F.go
というコメントは、このファイルがコンパイルエラーになることを期待するテストであることを示しています。つまり、このコミットによる修正が適用される前は、このコードはコンパイルエラーとなり、修正後も(テストの目的上)コンパイルエラーとなるようにgolden.out
が更新されています。これは、この特定の構文が意図的にコンパイルエラーとなるべきケースとして扱われるようになったことを示唆しています。
このテストケースの追加により、コンパイラがラベルと空のステートメントの組み合わせを正しく処理し、意図しない挙動を防ぐようになったことが確認できます。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント: https://go.dev/
- Go言語仕様 (The Go Programming Language Specification): https://go.dev/ref/spec
- 特に「Statements」セクションの「Labeled statements」と「Break statements」が関連します。
参考にした情報源リンク
- Go言語のコミット履歴: https://github.com/golang/go/commits/master
- Go言語仕様 (The Go Programming Language Specification) - Labeled statements: https://go.dev/ref/spec#Labeled_statements
- Go言語仕様 (The Go Programming Language Specification) - Break statements: https://go.dev/ref/spec#Break_statements
- Go言語仕様 (The Go Programming Language Specification) - Empty statements: https://go.dev/ref/spec#Empty_statements# [インデックス 1636] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のコンパイラにおけるバグ修正に関するものです。具体的には、ラベルと空のステートメントが組み合わされた際に、コンパイラがラベルの適用範囲を正しく認識しない問題に対処しています。この修正は、Go言語の初期段階で行われたもので、言語の構文解析とセマンティック解析の正確性を向上させることを目的としています。
コミット
a85e06f302bec96a26db989ab0513f0329a871c0
by Robert Griesemer (gri@golang.org
) on Fri Feb 6 16:45:37 2009 -0800
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/a85e06f302bec96a26db989ab0513f0329a871c0
元コミット内容
bug: empty statement not properly recognized in conjunction w/ labels
R=r
DELTA=14 (14 added, 0 deleted, 0 changed)
OCL=24610
CL=24610
変更の背景
このコミットは、Go言語のコンパイラが、ラベル(L:
)の直後に空のステートメント(;
)が続く場合に、そのラベルの適用範囲を誤って解釈するというバグを修正するために行われました。
Go言語では、break
やcontinue
ステートメントにラベルを付与することで、ネストされたループやswitch
、select
ステートメントから特定の外側のブロックを抜けることができます。しかし、このバグが存在する環境では、L: ;
のようにラベルの直後に空のステートメントが置かれると、コンパイラはラベルL
がその後のfor
ループに適用されるべきではないと誤認していました。結果として、for
ループ内でbreak L
のようなステートメントが使用された場合、コンパイラはL
が有効なラベルではないと判断し、コンパイルエラーを発生させていました。
この修正は、Go言語の初期開発段階におけるコンパイラの堅牢性と正確性を高めるための重要なステップでした。
前提知識の解説
Go言語におけるラベルとbreak
/continue
Go言語では、for
、switch
、select
ステートメントにラベルを付けることができます。ラベルは識別子とコロン(:
)で構成され、ステートメントの前に置かれます。
例:
OuterLoop:
for i := 0; i < 5; i++ {
for j := 0; j < 5; j++ {
if i*j > 6 {
break OuterLoop // OuterLoopというラベルが付いたforループを抜ける
}
println(i, j)
}
}
break
ステートメントは、最も内側のfor
、switch
、select
ステートメントを終了させます。ラベルが指定された場合、そのラベルが付いたステートメントを終了させます。
continue
ステートメントは、最も内側のfor
ループの次のイテレーションに進みます。ラベルが指定された場合、そのラベルが付いたfor
ループの次のイテレーションに進みます。
空のステートメント(Empty Statement)
プログラミング言語における空のステートメントは、何も操作を行わないステートメントです。Go言語では、セミコロン(;
)単独で空のステートメントを表現できます。これは、文法的な要件を満たすために使用されることがあります。
例:
func main() {
// 何も行わない空のステートメント
;
println("Hello")
}
コンパイラの構文解析とセマンティック解析
- 構文解析(Parsing): ソースコードを読み込み、言語の文法規則に従って、抽象構文木(AST: Abstract Syntax Tree)などの内部表現に変換するプロセスです。この段階で、コードが文法的に正しいかどうかがチェックされます。
- セマンティック解析(Semantic Analysis): 構文解析によって生成されたASTを分析し、コードの意味的な正当性をチェックするプロセスです。これには、型チェック、変数や関数の宣言と使用の整合性チェック、スコープの解決などが含まれます。ラベルの適用範囲の解決もセマンティック解析の一部です。
このバグは、構文解析の段階で空のステートメントがラベルの直後に存在する場合に、セマンティック解析がラベルのスコープを正しく決定できないことに起因していました。
技術的詳細
このバグは、Goコンパイラのパーサーがラベル付きステートメントを処理する際の特定のコーナーケースで発生していました。Go言語の文法では、ラベルは任意のステートメントに付与できます。空のステートメントも有効なステートメントであるため、L: ;
という形式は文法的に有効です。
問題は、コンパイラがL: ;
を解析した際に、ラベルL
が空のステートメントにのみ適用され、その直後に続く別のステートメント(この場合はfor
ループ)には適用されないと誤って判断していた点にありました。
通常、L: for ...
のようにラベルが直接ループに付与されている場合、break L
はそのループを対象とします。しかし、L: ; for ...
の場合、コンパイラはL
が空のステートメントで「消費」されてしまい、for
ループとは関連付けられないと解釈していました。そのため、for
ループ内でbreak L
が記述されると、コンパイラはL
というラベルが現在のスコープで見つからないと判断し、「undefined label」のようなエラーを報告していました。
この修正は、パーサーまたはセマンティックアナライザーのロジックを調整し、ラベルの直後に空のステートメントが続く場合でも、そのラベルが後続の適切なステートメント(例えばループ)に適用されるべきかどうかを正しく判断できるようにしたと考えられます。これにより、開発者が意図した通りのラベルの挙動が保証されるようになりました。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットでは、既存のコードの変更は行われず、バグを再現するための新しいテストケースが追加されています。
test/bugs/bug136.go
: 新しいテストファイルが追加されました。このファイルは、問題のバグを具体的に示すためのGoソースコードを含んでいます。test/golden.out
: テストの期待される出力(エラーメッセージ)を記録するファイルが更新されました。bug136.go
がコンパイルエラーになることを示すエントリが追加されています。
コアとなるコードの解説
追加されたtest/bugs/bug136.go
ファイルは以下の内容です。
// errchk $G $D/$F.go
// Copyright 2009 The Go Authors. All rights reserved.
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.
package main
func main() {
L: ; // ';' terminates empty statement => L does not apply to for loop
for i := 0; i < 10; i++ {
println(i);
break L // L does not apply to for loop
}
}
このテストケースのポイントは以下の通りです。
L: ;
: ここでL
というラベルが定義され、その直後に空のステートメント(;
)が続いています。バグのあるコンパイラでは、この空のステートメントがラベルL
を「消費」してしまい、L
がその後のfor
ループに適用されないと誤解釈されていました。for i := 0; i < 10; i++ { ... break L }
:for
ループの内部でbreak L
が使用されています。開発者の意図としては、このbreak L
は外側のfor
ループ(またはL
が適用されるべきブロック)を抜けることを意味します。しかし、バグのあるコンパイラはL
がfor
ループに適用されていないと判断するため、ここで「未定義のラベルL
」といったコンパイルエラーを発生させます。
// errchk $G $D/$F.go
というコメントは、このファイルがコンパイルエラーになることを期待するテストであることを示しています。つまり、このコミットによる修正が適用される前は、このコードはコンパイルエラーとなり、修正後も(テストの目的上)コンパイルエラーとなるようにgolden.out
が更新されています。これは、この特定の構文が意図的にコンパイルエラーとなるべきケースとして扱われるようになったことを示唆しています。
このテストケースの追加により、コンパイラがラベルと空のステートメントの組み合わせを正しく処理し、意図しない挙動を防ぐようになったことが確認できます。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント: https://go.dev/
- Go言語仕様 (The Go Programming Language Specification): https://go.dev/ref/spec
- 特に「Statements」セクションの「Labeled statements」と「Break statements」が関連します。
参考にした情報源リンク
- Go言語のコミット履歴: https://github.com/golang/go/commits/master
- Go言語仕様 (The Go Programming Language Specification) - Labeled statements: https://go.dev/ref/spec#Labeled_statements
- Go言語仕様 (The Go Programming Language Specification) - Break statements: https://go.dev/ref/spec#Break_statements
- Go言語仕様 (The Go Programming Language Specification) - Empty statements: https://go.dev/ref/spec#Empty_statements