[インデックス 16403] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリであるpath/filepath
パッケージのテストファイルであるsrc/pkg/path/filepath/path_test.go
に対する変更です。path/filepath
パッケージは、ファイルパスの操作(結合、クリーンアップ、評価など)に関するユーティリティを提供します。このテストファイルは、そのパッケージの機能が正しく動作することを確認するための様々なテストケースを含んでいます。
コミット
このコミットは、path/filepath
パッケージ内のTestEvalSymlinks
というシンボリックリンクの評価に関するテストを、Plan 9オペレーティングシステム上ではスキップするように変更します。これは、Plan 9がシンボリックリンクの概念をサポートしていないため、このテストがPlan 9上で常に失敗する問題を解決するためです。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/ee78a707c07123cd50e0c56880e04ae8a5069319
元コミット内容
commit ee78a707c07123cd50e0c56880e04ae8a5069319
Author: Christopher Nielsen <m4dh4tt3r@gmail.com>
Date: Fri May 24 11:01:04 2013 -0700
path/filepath: Skip TestEvalSymlinks. Plan 9 doesn't have symlinks.
R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/9713044
---
src/pkg/path/filepath/path_test.go | 4 ++++\
1 file changed, 4 insertions(+)
diff --git a/src/pkg/path/filepath/path_test.go b/src/pkg/path/filepath/path_test.go
index c4d73602ff..b1cdcee4ce 100644
--- a/src/pkg/path/filepath/path_test.go
+++ b/src/pkg/path/filepath/path_test.go
@@ -630,6 +630,10 @@ func simpleJoin(dir, path string) string {\n }\n \n func TestEvalSymlinks(t *testing.T) {\n+\tif runtime.GOOS == "plan9" {\n+\t\tt.Skip("Skipping test: symlinks don't exist under Plan 9")\n+\t}\n+\n \ttmpDir, err := ioutil.TempDir("", "evalsymlink")\n \tif err != nil {\n \t\tt.Fatal("creating temp dir:", err)\n```
## 変更の背景
この変更の背景には、Go言語のクロスプラットフォーム対応と、特定のオペレーティングシステムの特性があります。`path/filepath`パッケージには、シンボリックリンクを解決する`EvalSymlinks`という関数があり、それに対応するテスト`TestEvalSymlinks`が存在します。
しかし、Plan 9というオペレーティングシステムは、Unix系OSで一般的に使用されるシンボリックリンクの概念をファイルシステムレベルで持っていません。Plan 9のファイルシステムは、より透過的なマウントと名前空間の概念に基づいており、シンボリックリンクのような間接参照のメカニズムは異なります。
このため、Plan 9上で`TestEvalSymlinks`を実行すると、シンボリックリンクの作成や評価に関するシステムコールが失敗し、テストが常にエラーとなっていました。これは、GoのテストスイートがPlan 9上でクリーンに実行されるのを妨げる問題でした。このコミットは、Plan 9の特性を考慮し、その環境では関連するテストをスキップすることで、テストスイートの健全性を保つことを目的としています。
## 前提知識の解説
### `path/filepath`パッケージの役割
Go言語の標準ライブラリである`path/filepath`パッケージは、オペレーティングシステムに依存しないパス操作機能を提供します。これには、パスの結合、クリーンアップ、絶対パスへの変換、ファイル名やディレクトリ名の抽出、そしてシンボリックリンクの評価などが含まれます。このパッケージは、異なるOS間でのパス表現の違いを吸収し、ポータブルなファイル操作を可能にします。
### シンボリックリンク (Symlinks) とは
シンボリックリンク(またはソフトリンク、シンボリックファイル)は、ファイルシステム内の別のファイルやディレクトリへの参照(ポインタ)として機能する特殊な種類のファイルです。Unix系OS(Linux, macOSなど)で広く使われています。シンボリックリンクをたどると、それが指し示す元のファイルやディレクトリにアクセスできます。これにより、ファイルの配置を柔軟にしたり、同じファイルを複数の場所から参照したりすることが可能になります。
### Go言語のテストにおける`t.Skip()`
Go言語の標準テストフレームワーク(`testing`パッケージ)では、`*testing.T`型のメソッドとして`Skip()`が提供されています。`t.Skip()`を呼び出すと、そのテスト関数はそれ以上実行されずにスキップされます。これは、特定の環境でのみ実行すべきテストや、まだ実装されていない機能のテストなど、特定の条件でテストを実行したくない場合に非常に便利です。`t.Skip()`は、テストの失敗として扱われるのではなく、テストが実行されなかったことを示します。
### `runtime.GOOS`
`runtime`パッケージは、Goプログラムが実行されているシステムに関する情報を提供します。`runtime.GOOS`は、プログラムがコンパイルまたは実行されているオペレーティングシステムを示す文字列定数です。例えば、Linuxでは`"linux"`、macOSでは`"darwin"`、Windowsでは`"windows"`、そしてPlan 9では`"plan9"`となります。この定数を利用することで、特定のOSに依存する処理を条件分岐させることができます。
### Plan 9オペレーティングシステムについて
Plan 9 from Bell Labsは、ベル研究所で開発された分散オペレーティングシステムです。Unixの後継として設計され、すべてのリソース(ファイル、デバイス、ネットワーク接続など)をファイルとして表現するという強力な原則に基づいています。Plan 9のファイルシステムは、Unixのそれとは異なり、シンボリックリンクのような概念を直接サポートしていません。代わりに、`mount`プロトコルと名前空間の概念を多用し、リソースへのアクセスを抽象化します。この設計思想の違いが、Goの`TestEvalSymlinks`がPlan 9で問題となる根本原因です。
## 技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、Goのテストフレームワークと`runtime`パッケージを組み合わせて、特定のOS環境でのテストの挙動を制御している点にあります。
`TestEvalSymlinks`関数は、シンボリックリンクの作成と解決を試みるテストです。このテストは、内部で`os.Symlink`や`filepath.EvalSymlinks`といった関数を使用します。これらの関数は、基盤となるOSがシンボリックリンクをサポートしていることを前提としています。
変更前は、このテストは無条件に実行されていました。しかし、Plan 9ではシンボリックリンクの概念が存在しないため、`os.Symlink`などの呼び出しがエラーを返し、テストが失敗していました。
コミットによって追加されたコードは以下の通りです。
```go
if runtime.GOOS == "plan9" {
t.Skip("Skipping test: symlinks don't exist under Plan 9")
}
このコードは、テスト関数の冒頭に追加されています。
runtime.GOOS == "plan9"
: 現在の実行環境のOSがPlan 9であるかどうかをチェックします。t.Skip(...)
: もしOSがPlan 9であれば、t.Skip()
を呼び出してテストをスキップします。引数には、テストがスキップされた理由を示すメッセージが渡されます。
これにより、Plan 9環境でGoのテストスイートを実行する際に、TestEvalSymlinks
が不必要なエラーを発生させることなく、適切にスキップされるようになります。これは、クロスプラットフォーム開発において、特定のプラットフォームの制約を考慮し、テストの信頼性と効率性を向上させるための一般的なプラクティスです。
コアとなるコードの変更箇所
diff --git a/src/pkg/path/filepath/path_test.go b/src/pkg/path/filepath/path_test.go
index c4d73602ff..b1cdcee4ce 100644
--- a/src/pkg/path/filepath/path_test.go
+++ b/src/pkg/path/filepath/path_test.go
@@ -630,6 +630,10 @@ func simpleJoin(dir, path string) string {\n }\n \n func TestEvalSymlinks(t *testing.T) {\n+\tif runtime.GOOS == "plan9" {\n+\t\tt.Skip("Skipping test: symlinks don't exist under Plan 9")\n+\t}\n+\n \ttmpDir, err := ioutil.TempDir("", "evalsymlink")\n \tif err != nil {\n \t\tt.Fatal("creating temp dir:", err)\n```
## コアとなるコードの解説
変更は、`src/pkg/path/filepath/path_test.go`ファイルの`TestEvalSymlinks`関数内で行われています。
```go
func TestEvalSymlinks(t *testing.T) {
// ここから追加されたコード
if runtime.GOOS == "plan9" { // 現在のオペレーティングシステムが"plan9"であるかをチェック
t.Skip("Skipping test: symlinks don't exist under Plan 9") // もし"plan9"であれば、テストをスキップし、理由メッセージを出力
}
// ここまで追加されたコード
tmpDir, err := ioutil.TempDir("", "evalsymlink")
if err != nil {
t.Fatal("creating temp dir:", err)
}
// ... 続くテストロジック ...
}
このコードブロックは、TestEvalSymlinks
関数の実行開始直後に挿入されています。
if runtime.GOOS == "plan9"
: これはGoのruntime
パッケージが提供するGOOS
定数を利用しています。GOOS
は、Goプログラムが実行されているオペレーティングシステムの名前(例: "linux", "windows", "darwin", "plan9")を文字列で返します。この条件文は、現在の実行環境がPlan 9であるかどうかを判定します。t.Skip("Skipping test: symlinks don't exist under Plan 9")
: もし条件が真(つまり、Plan 9上で実行されている)であれば、*testing.T
型のSkip
メソッドが呼び出されます。Skip
メソッドは、現在のテスト関数をそれ以上実行せずに終了させ、テスト結果として「スキップされた」とマークします。引数として渡された文字列は、テストがスキップされた理由としてテストレポートに表示されます。このメッセージは、「シンボリックリンクはPlan 9には存在しないため、テストをスキップします」という意味です。
この変更により、Plan 9環境でのビルドやテスト実行時に、シンボリックリンクの非サポートに起因するテスト失敗が回避され、テストスイート全体の健全性が保たれます。
関連リンク
- Go言語
path/filepath
パッケージドキュメント: https://pkg.go.dev/path/filepath - Go言語
testing
パッケージドキュメント: https://pkg.go.dev/testing - Go言語
runtime
パッケージドキュメント: https://pkg.go.dev/runtime - Go言語
os
パッケージドキュメント (os.Symlinkなど): https://pkg.go.dev/os
参考にした情報源リンク
- Plan 9 from Bell Labs (Wikipedia): https://ja.wikipedia.org/wiki/Plan_9_from_Bell_Labs
- シンボリックリンク (Wikipedia): https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%AF
- Go CL 9713044 (元の変更リスト): https://golang.org/cl/9713044 (これはコミットメッセージに記載されているリンクであり、Goのコードレビューシステムへのリンクです。)
- Goのテストにおける
t.Skip
の利用例に関する一般的な情報源 (例: Goの公式ブログやチュートリアルなど) - Goのクロスコンパイルと
GOOS
/GOARCH
に関する情報源 (例: Goの公式ドキュメントやブログ記事など)