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[インデックス 16479] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のリンカ (cmd/ld) とランタイム (runtime) におけるコードのクリーンアップとエラーメッセージの改善を目的としています。具体的には、以前の変更 (CL 9666047) に関連するコードスタイルの修正と、ランタイムのエラー出力にプレフィックスを追加する変更が含まれています。

コミット

commit fa4a9ff76491f00189e41488e7552ae9aea8c73c
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Mon Jun 3 16:44:35 2013 -0400

    cmd/ld, runtime: clean up CL 9666047
    
    Remove unnecessary ( ) around == in && clause.
    Add { } around multiline if body, even though it's one statement.
    
    Add runtime: prefix to printed errors.
    
    R=cshapiro, iant
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/9685047

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/fa4a9ff76491f00189e41488e7552ae9aea8c73c

元コミット内容

このコミットは、主に以下の3つの変更を含んでいます。

  1. && 句内の == 演算子の周りの不要な括弧の削除。
  2. 複数行にわたる if 文の本体に波括弧 {} を追加(たとえそれが単一のステートメントであっても)。これはコードの一貫性と可読性を向上させるためのスタイル変更です。
  3. ランタイムが出力するエラーメッセージに runtime: プレフィックスを追加。これにより、エラーの発生源が明確になります。

変更の背景

このコミットは、コミットメッセージに明記されている通り、「CL 9666047 のクリーンアップ」として行われました。CL 9666047 は、Goランタイムにおけるスタックフレームのポインタマップに関する変更であり、特に NOSPLIT 関数(スタックを分割しない関数)の扱いに関連していました。

元のCL (Change List) は、Goのガベージコレクションが正確にポインタを識別できるように、スタック上のポインタの位置を記述するポインタマップの生成ロジックを改善することを目的としていました。このコミットは、その変更が導入された後に、コードのスタイルとエラー報告の一貫性を向上させるためのフォローアップとして実施されました。

具体的には、src/cmd/ld/lib.c の変更は、NOSPLIT 関数に関する条件分岐の可読性を高めるためのものであり、src/pkg/runtime/symtab.c の変更は、ランタイムのエラーメッセージがより分かりやすくなるようにするためのものです。これは、Goプロジェクト全体でコード品質とデバッグのしやすさを維持するための継続的な取り組みの一環です。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語の内部構造と概念に関する知識が必要です。

1. Goリンカ (cmd/ld)

cmd/ld はGo言語のリンカであり、コンパイルされたGoのオブジェクトファイル(.o ファイル)とライブラリを結合して実行可能ファイルを生成する役割を担っています。リンカは、プログラム内のシンボル(関数、変数など)を解決し、それらがメモリ上のどこに配置されるかを決定します。

このコミットで変更された src/cmd/ld/lib.c は、リンカのコア部分の一つであり、特にシンボルテーブルの処理や、関数のスタックフレームに関する情報を生成する部分に関わっています。

2. Goランタイム (runtime)

runtime パッケージは、Goプログラムの実行を管理するGo言語のランタイムシステムです。これには、ガベージコレクタ、スケジューラ、メモリ管理、ゴルーチンの管理、システムコールインターフェースなどが含まれます。Goプログラムは、このランタイムと密接に連携して動作します。

src/pkg/runtime/symtab.c は、ランタイムが実行時にシンボルテーブルをどのように扱うかに関連するコードを含んでいます。シンボルテーブルは、プログラム内の関数や変数の名前とアドレスのマッピングを提供し、デバッグやプロファイリング、そしてガベージコレクションの正確な動作に不可欠です。

3. NOSPLIT 関数

Go言語の関数は、通常、実行時にスタックの拡張が必要になった場合に、新しいスタックセグメントに切り替えることができます(スタックの分割)。しかし、特定の関数は、このスタック分割を行わないようにマークすることができます。これが NOSPLIT 関数です。

NOSPLIT 関数は、通常、ランタイムの非常に低レベルな部分や、スタックの切り替えが許されない、あるいはオーバーヘッドが大きいクリティカルなパスで使用されます。例えば、ガベージコレクタのマーキングフェーズや、特定のシステムコールをラップする関数などがこれに該当します。

NOSPLIT 関数はスタックを分割しないため、そのスタックフレームは固定サイズであるか、非常に小さいことが期待されます。また、これらの関数は、スタックのオーバーフローを防ぐために、呼び出し元が十分なスタック空間を確保していることを前提とすることがあります。

4. シンボルテーブルとポインタマップ

Goのガベージコレクタは、正確なGC(Precise GC)です。これは、スタックやヒープ上のどの値がポインタであるかを正確に識別できることを意味します。この識別を可能にするために、Goは「ポインタマップ」というメカニズムを使用します。

ポインタマップは、特定のスタックフレームやデータ構造内のどのオフセットにポインタが存在するかを示すビットマップのようなものです。リンカは、コンパイル時にこのポインタマップ情報を生成し、ランタイムはこれを利用して、GCの際に到達可能なオブジェクトを正確に追跡します。

symtab.c は、ランタイムがこのシンボルテーブルやポインタマップの情報を読み込み、検証する部分に関わっています。エラーメッセージの改善は、この検証プロセスで問題が発生した場合に、より有用な情報を提供することを目的としています。

5. CL (Change List)

Goプロジェクトでは、コードの変更はGerritというコードレビューシステムを通じて管理されます。各変更の提案は「Change List (CL)」と呼ばれ、一意の番号が割り当てられます。コミットメッセージに CL 9666047https://golang.org/cl/9685047 とあるのは、この変更が特定のCLに関連していることを示しています。

技術的詳細

このコミットは、主にコードの可読性、一貫性、およびデバッグのしやすさを向上させるためのものです。

src/cmd/ld/lib.c の変更

このファイルでは、genasmsym 関数内の if 文の条件式と本体が変更されています。

元のコード:

	if((s->text->textflag & NOSPLIT) && (s->args == 0) && (s->nptrs < 0))
		// This might be a vararg function and have no
		// predetermined argument size.  This check is
		// approximate and will also match 0 argument
		// nosplit functions compiled by 6c.
		put(nil, ".args", 'm', ArgsSizeUnknown, 0, 0, 0);
	else
		put(nil, ".args", 'm', s->args, 0, 0, 0);

変更後のコード:

	if((s->text->textflag & NOSPLIT) && s->args == 0 && s->nptrs < 0) {
		// This might be a vararg function and have no
		// predetermined argument size.  This check is
		// approximate and will also match 0 argument
		// nosplit functions compiled by 6c.
		put(nil, ".args", 'm', ArgsSizeUnknown, 0, 0, 0);
	} else
		put(nil, ".args", 'm', s->args, 0, 0, 0);

変更点:

  1. s->args == 0 の周りの不要な括弧 () が削除されました。これは、== 演算子の優先順位が && よりも高いため、括弧がなくても意味が変わらないためです。これにより、コードがわずかに簡潔になります。
  2. if 文の本体が複数行のコメントと単一の put 関数呼び出しで構成されているにもかかわらず、波括弧 {} がありませんでした。Goのコーディングスタイルガイドラインでは、たとえ単一のステートメントであっても、複数行にわたる if 文の本体には波括弧を使用することが推奨されます。これにより、コードの構造が視覚的に明確になり、将来的にステートメントを追加する際のバグのリスクが減少します。

この if 文は、NOSPLIT 関数が可変引数関数である可能性があり、引数のサイズが事前に決定できない場合に、引数サイズを ArgsSizeUnknown としてマークするためのロジックです。

src/pkg/runtime/symtab.c の変更

このファイルでは、dofunc 関数内で runtime·printf を使用して出力されるエラーメッセージに runtime: プレフィックスが追加されています。

例: 元のコード:

runtime·printf("symbols out of order: %p before %p\\n", lastvalue, sym->value);

変更後のコード:

runtime·printf("runtime: symbols out of order: %p before %p\\n", lastvalue, sym->value);

同様の変更が、以下のエラーメッセージにも適用されています。

  • pointer map size and argument size disagree
  • more pointer map entries read than argument words
  • invalid '%c' symbol named '%s'

この変更の目的は、ランタイムが出力するエラーメッセージを一貫性のあるものにし、ユーザーや開発者がエラーログを見たときに、そのエラーがGoランタイムの内部で発生したものであることを即座に識別できるようにすることです。これは、特に複雑なデバッグシナリオにおいて、エラーの発生源を特定するのに役立ちます。

コアとなるコードの変更箇所

src/cmd/ld/lib.c

--- a/src/cmd/ld/lib.c
+++ b/src/cmd/ld/lib.c
@@ -1914,13 +1914,13 @@ genasmsym(void (*put)(Sym*, char*, int, vlong, vlong, int, Sym*))\
 	\t/* frame, locals, args, auto, param and pointers after */\
 	\tput(nil, ".frame", 'm', (uint32)s->text->to.offset+PtrSize, 0, 0, 0);\
 	\tput(nil, ".locals", 'm', s->locals, 0, 0, 0);\
-\t\tif((s->text->textflag & NOSPLIT) && (s->args == 0) && (s->nptrs < 0))\
+\t\tif((s->text->textflag & NOSPLIT) && s->args == 0 && s->nptrs < 0) {\
 	\t\t// This might be a vararg function and have no\
 	\t\t// predetermined argument size.  This check is\
 	\t\t// approximate and will also match 0 argument\
 	\t\t// nosplit functions compiled by 6c.\
 	\t\tput(nil, ".args", 'm', ArgsSizeUnknown, 0, 0, 0);\
-\t\telse\
+\t\t} else\
 	\t\tput(nil, ".args", 'm', s->args, 0, 0, 0);\
 	\tif(s->nptrs >= 0) {\
 	\t\tput(nil, ".nptrs", 'm', s->nptrs, 0, 0, 0);\

src/pkg/runtime/symtab.c

--- a/src/pkg/runtime/symtab.c
+++ b/src/pkg/runtime/symtab.c
@@ -204,7 +204,7 @@ dofunc(Sym *sym)\
 	\tif(runtime·strcmp(sym->name, (byte*)"etext") == 0)\
 	\t\tbreak;\
 	\tif(sym->value < lastvalue) {\
-\t\t\truntime·printf("symbols out of order: %p before %p\\n", lastvalue, sym->value);\
+\t\t\truntime·printf("runtime: symbols out of order: %p before %p\\n", lastvalue, sym->value);\
 	\t\truntime·throw("malformed symbol table");\
 	\t}\
 	\tlastvalue = sym->value;\
@@ -230,7 +230,7 @@ dofunc(Sym *sym)\
 	\telse if(runtime·strcmp(sym->name, (byte*)".nptrs") == 0) {\
 	\t\t// TODO(cshapiro): use a dense representation for gc information\
 	\t\tif(sym->value != func[nfunc-1].args/sizeof(uintptr)) {\
-\t\t\t\truntime·printf("pointer map size and argument size disagree\\n");\
+\t\t\t\truntime·printf("runtime: pointer map size and argument size disagree\\n");\
 	\t\t\truntime·throw("mangled symbol table");\
 	\t\t}\
 	\t\tcap = ROUND(sym->value, 32) / 32;\
@@ -239,12 +239,12 @@ dofunc(Sym *sym)\
 	\telse if(runtime·strcmp(sym->name, (byte*)".ptrs") == 0) {\
 	\t\tif(func[nfunc-1].ptrs.len >= func[nfunc-1].ptrs.cap) {\
-\t\t\t\truntime·printf("more pointer map entries read than argument words\\n");
+\t\t\t\truntime·printf("runtime: more pointer map entries read than argument words\\n");\
 	\t\t\truntime·throw("mangled symbol table");\
 	\t\t}\
 	\t\t((uint32*)func[nfunc-1].ptrs.array)[func[nfunc-1].ptrs.len++] = sym->value;\
 	\t} else {\
-\t\t\truntime·printf("invalid '%c' symbol named '%s'\\n", (int8)sym->symtype, sym->name);\
+\t\t\truntime·printf("runtime: invalid '%c' symbol named '%s'\\n", (int8)sym->symtype, sym->name);\
 	\t\truntime·throw("mangled symbol table");\
 	\t}\
 	\tbreak;\

コアとなるコードの解説

src/cmd/ld/lib.cgenasmsym 関数

genasmsym 関数は、アセンブリシンボルを生成し、リンカの内部データ構造に格納するために使用されます。この関数は、Goの関数に関するメタデータ(スタックフレームのサイズ、ローカル変数、引数、ポインタ情報など)を処理します。

変更された if 文は、特定の条件下で関数の引数サイズを ArgsSizeUnknown としてマークするロジックです。この条件は以下の3つの部分から構成されます。

  • s->text->textflag & NOSPLIT: 関数が NOSPLIT フラグを持っているかどうかをチェックします。
  • s->args == 0: 関数の引数サイズが0であるかどうかをチェックします。
  • s->nptrs < 0: ポインタの数が負であるかどうかをチェックします。これは、可変引数関数など、ポインタの数が事前に決定できない場合に発生する可能性があります。

このコミットでは、s->args == 0 の周りの冗長な括弧が削除され、if ブロック全体が波括弧で囲まれました。これにより、コードの意図がより明確になり、将来のメンテナンスが容易になります。

src/pkg/runtime/symtab.cdofunc 関数

dofunc 関数は、ランタイムがシンボルテーブルを走査し、各シンボルに関する情報を処理するために使用されます。この関数は、シンボルが正しい順序であるか、ポインタマップの情報が整合しているかなどを検証します。

この関数内で runtime·printf を使用して出力されるエラーメッセージに runtime: プレフィックスが追加されました。これは、ランタイムの内部で発生したエラーであることを明確にするための標準化されたアプローチです。例えば、シンボルが順序通りでない場合、ポインタマップのサイズと引数サイズが一致しない場合、または無効なシンボルが検出された場合に、このプレフィックス付きのエラーメッセージが出力されます。

これらのエラーは、通常、Goコンパイラやリンカのバグ、またはGoバイナリの破損を示唆するものであり、デバッグの際にこのプレフィックスがあることで、問題の発生源を迅速に特定できます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go Gerrit Code Review (CL 9685047): https://golang.org/cl/9685047
  • Go Gerrit Code Review (CL 9666047): https://golang.org/cl/9666047 (このコミットの背景となったCL)
  • Goのコーディングスタイルガイドライン (Go Wiki): https://github.com/golang/go/wiki/CodeReviewComments (特に "If statements" や "Error messages" のセクションが関連)
  • Goのガベージコレクションに関する一般的な情報: https://go.dev/doc/gc-guide
  • Goのスタック管理に関する情報 (より詳細な技術記事): Go runtime source code analysis on stack management (例: "Go's Execution Tracer" や "Go's runtime scheduler" などの記事でスタックに関する言及がある場合)
    • (具体的なURLは提供できませんが、Goのランタイムに関するブログ記事や論文が参考になります。)
I have generated the detailed explanation in Markdown format, including all the required sections and technical details. I have also used the information from the commit message and the diff, and performed a web search for "CL 9666047" to understand the background. I have also included relevant links and references.

I will now output the generated content to standard output.# [インデックス 16479] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のリンカ (`cmd/ld`) とランタイム (`runtime`) におけるコードのクリーンアップとエラーメッセージの改善を目的としています。具体的には、以前の変更 (CL 9666047) に関連するコードスタイルの修正と、ランタイムのエラー出力にプレフィックスを追加する変更が含まれています。

## コミット

commit fa4a9ff76491f00189e41488e7552ae9aea8c73c Author: Russ Cox rsc@golang.org Date: Mon Jun 3 16:44:35 2013 -0400

cmd/ld, runtime: clean up CL 9666047

Remove unnecessary ( ) around == in && clause.
Add { } around multiline if body, even though it's one statement.

Add runtime: prefix to printed errors.

R=cshapiro, iant
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/9685047

## GitHub上でのコミットページへのリンク

[https://github.com/golang/go/commit/fa4a9ff76491f00189e41488e7552ae9aea8c73c](https://github.com/golang/go/commit/fa4a9ff76491f00189e41488e7552ae9aea8c73c)

## 元コミット内容

このコミットは、主に以下の3つの変更を含んでいます。

1.  `&&` 句内の `==` 演算子の周りの不要な括弧の削除。
2.  複数行にわたる `if` 文の本体に波括弧 `{}` を追加(たとえそれが単一のステートメントであっても)。これはコードの一貫性と可読性を向上させるためのスタイル変更です。
3.  ランタイムが出力するエラーメッセージに `runtime: ` プレフィックスを追加。これにより、エラーの発生源が明確になります。

## 変更の背景

このコミットは、コミットメッセージに明記されている通り、「CL 9666047 のクリーンアップ」として行われました。CL 9666047 は、Goランタイムにおけるスタックフレームのポインタマップに関する変更であり、特に `NOSPLIT` 関数(スタックを分割しない関数)の扱いに関連していました。

元のCL (Change List) は、Goのガベージコレクションが正確にポインタを識別できるように、スタック上のポインタの位置を記述するポインタマップの生成ロジックを改善することを目的としていました。このコミットは、その変更が導入された後に、コードのスタイルとエラー報告の一貫性を向上させるためのフォローアップとして実施されました。

具体的には、`src/cmd/ld/lib.c` の変更は、`NOSPLIT` 関数に関する条件分岐の可読性を高めるためのものであり、`src/pkg/runtime/symtab.c` の変更は、ランタイムのエラーメッセージがより分かりやすくなるようにするためのものです。これは、Goプロジェクト全体でコード品質とデバッグのしやすさを維持するための継続的な取り組みの一環です。

## 前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語の内部構造と概念に関する知識が必要です。

### 1. Goリンカ (`cmd/ld`)

`cmd/ld` はGo言語のリンカであり、コンパイルされたGoのオブジェクトファイル(`.o` ファイル)とライブラリを結合して実行可能ファイルを生成する役割を担っています。リンカは、プログラム内のシンボル(関数、変数など)を解決し、それらがメモリ上のどこに配置されるかを決定します。

このコミットで変更された `src/cmd/ld/lib.c` は、リンカのコア部分の一つであり、特にシンボルテーブルの処理や、関数のスタックフレームに関する情報を生成する部分に関わっています。

### 2. Goランタイム (`runtime`)

`runtime` パッケージは、Goプログラムの実行を管理するGo言語のランタイムシステムです。これには、ガベージコレクタ、スケジューラ、メモリ管理、ゴルーチンの管理、システムコールインターフェースなどが含まれます。Goプログラムは、このランタイムと密接に連携して動作します。

`src/pkg/runtime/symtab.c` は、ランタイムが実行時にシンボルテーブルをどのように扱うかに関連するコードを含んでいます。シンボルテーブルは、プログラム内の関数や変数の名前とアドレスのマッピングを提供し、デバッグやプロファイリング、そしてガベージコレクションの正確な動作に不可欠です。

### 3. `NOSPLIT` 関数

Go言語の関数は、通常、実行時にスタックの拡張が必要になった場合に、新しいスタックセグメントに切り替えることができます(スタックの分割)。しかし、特定の関数は、このスタック分割を行わないようにマークすることができます。これが `NOSPLIT` 関数です。

`NOSPLIT` 関数は、通常、ランタイムの非常に低レベルな部分や、スタックの切り替えが許されない、あるいはオーバーヘッドが大きいクリティカルなパスで使用されます。例えば、ガベージコレクタのマーキングフェーズや、特定のシステムコールをラップする関数などがこれに該当します。

`NOSPLIT` 関数はスタックを分割しないため、そのスタックフレームは固定サイズであるか、非常に小さいことが期待されます。また、これらの関数は、スタックのオーバーフローを防ぐために、呼び出し元が十分なスタック空間を確保していることを前提とすることがあります。

### 4. シンボルテーブルとポインタマップ

Goのガベージコレクタは、正確なGC(Precise GC)です。これは、スタックやヒープ上のどの値がポインタであるかを正確に識別できることを意味します。この識別を可能にするために、Goは「ポインタマップ」というメカニズムを使用します。

ポインタマップは、特定のスタックフレームやデータ構造内のどのオフセットにポインタが存在するかを示すビットマップのようなものです。リンカは、コンパイル時にこのポインタマップ情報を生成し、ランタイムはこれを利用して、GCの際に到達可能なオブジェクトを正確に追跡します。

`symtab.c` は、ランタイムがこのシンボルテーブルやポインタマップの情報を読み込み、検証する部分に関わっています。エラーメッセージの改善は、この検証プロセスで問題が発生した場合に、より有用な情報を提供することを目的としています。

### 5. CL (Change List)

Goプロジェクトでは、コードの変更はGerritというコードレビューシステムを通じて管理されます。各変更の提案は「Change List (CL)」と呼ばれ、一意の番号が割り当てられます。コミットメッセージに `CL 9666047` や `https://golang.org/cl/9685047` とあるのは、この変更が特定のCLに関連していることを示しています。

## 技術的詳細

このコミットは、主にコードの可読性、一貫性、およびデバッグのしやすさを向上させるためのものです。

### `src/cmd/ld/lib.c` の変更

このファイルでは、`genasmsym` 関数内の `if` 文の条件式と本体が変更されています。

元のコード:
```c
	if((s->text->textflag & NOSPLIT) && (s->args == 0) && (s->nptrs < 0))
		// This might be a vararg function and have no
		// predetermined argument size.  This check is
		// approximate and will also match 0 argument
		// nosplit functions compiled by 6c.
		put(nil, ".args", 'm', ArgsSizeUnknown, 0, 0, 0);
	else
		put(nil, ".args", 'm', s->args, 0, 0, 0);

変更後のコード:

	if((s->text->textflag & NOSPLIT) && s->args == 0 && s->nptrs < 0) {
		// This might be a vararg function and have no
		// predetermined argument size.  This check is
		// approximate and will also match 0 argument
		// nosplit functions compiled by 6c.
		put(nil, ".args", 'm', ArgsSizeUnknown, 0, 0, 0);
	} else
		put(nil, ".args", 'm', s->args, 0, 0, 0);

変更点:

  1. s->args == 0 の周りの不要な括弧 () が削除されました。これは、== 演算子の優先順位が && よりも高いため、括弧がなくても意味が変わらないためです。これにより、コードがわずかに簡潔になります。
  2. if 文の本体が複数行のコメントと単一の put 関数呼び出しで構成されているにもかかわらず、波括弧 {} がありませんでした。Goのコーディングスタイルガイドラインでは、たとえ単一のステートメントであっても、複数行にわたる if 文の本体には波括弧を使用することが推奨されます。これにより、コードの構造が視覚的に明確になり、将来的にステートメントを追加する際のバグのリスクが減少します。

この if 文は、NOSPLIT 関数が可変引数関数である可能性があり、引数のサイズが事前に決定できない場合に、引数サイズを ArgsSizeUnknown としてマークするためのロジックです。

src/pkg/runtime/symtab.c の変更

このファイルでは、dofunc 関数内で runtime·printf を使用して出力されるエラーメッセージに runtime: プレフィックスが追加されています。

例: 元のコード:

runtime·printf("symbols out of order: %p before %p\\n", lastvalue, sym->value);

変更後のコード:

runtime·printf("runtime: symbols out of order: %p before %p\\n", lastvalue, sym->value);

同様の変更が、以下のエラーメッセージにも適用されています。

  • pointer map size and argument size disagree
  • more pointer map entries read than argument words
  • invalid '%c' symbol named '%s'

この変更の目的は、ランタイムが出力するエラーメッセージを一貫性のあるものにし、ユーザーや開発者がエラーログを見たときに、そのエラーがGoランタイムの内部で発生したものであることを即座に識別できるようにすることです。これは、特に複雑なデバッグシナリオにおいて、エラーの発生源を特定するのに役立ちます。

コアとなるコードの変更箇所

src/cmd/ld/lib.c

--- a/src/cmd/ld/lib.c
+++ b/src/cmd/ld/lib.c
@@ -1914,13 +1914,13 @@ genasmsym(void (*put)(Sym*, char*, int, vlong, vlong, int, Sym*))\
 	\t/* frame, locals, args, auto, param and pointers after */\
 	\tput(nil, ".frame", 'm', (uint32)s->text->to.offset+PtrSize, 0, 0, 0);\
 	\tput(nil, ".locals", 'm', s->locals, 0, 0, 0);\
-\t\tif((s->text->textflag & NOSPLIT) && (s->args == 0) && (s->nptrs < 0))\
+\t\tif((s->text->textflag & NOSPLIT) && s->args == 0 && s->nptrs < 0) {\
 	\t\t// This might be a vararg function and have no\
 	\t\t// predetermined argument size.  This check is\
 	\t\t// approximate and will also match 0 argument\
 	\t\t// nosplit functions compiled by 6c.\
 	\t\tput(nil, ".args", 'm', ArgsSizeUnknown, 0, 0, 0);\
-\t\telse\
+\t\t} else\
 	\t\tput(nil, ".args", 'm', s->args, 0, 0, 0);\
 	\tif(s->nptrs >= 0) {\
 	\t\tput(nil, ".nptrs", 'm', s->nptrs, 0, 0, 0);\

src/pkg/runtime/symtab.c

--- a/src/pkg/runtime/symtab.c
+++ b/src/pkg/runtime/symtab.c
@@ -204,7 +204,7 @@ dofunc(Sym *sym)\
 	\tif(runtime·strcmp(sym->name, (byte*)"etext") == 0)\
 	\t\tbreak;\
 	\tif(sym->value < lastvalue) {\
-\t\t\truntime·printf("symbols out of order: %p before %p\\n", lastvalue, sym->value);\
+\t\t\truntime·printf("runtime: symbols out of order: %p before %p\\n", lastvalue, sym->value);\
 	\t\truntime·throw("malformed symbol table");\
 	\t}\
 	\tlastvalue = sym->value;\
@@ -230,7 +230,7 @@ dofunc(Sym *sym)\
 	\telse if(runtime·strcmp(sym->name, (byte*)".nptrs") == 0) {\
 	\t\t// TODO(cshapiro): use a dense representation for gc information\
 	\t\tif(sym->value != func[nfunc-1].args/sizeof(uintptr)) {\
-\t\t\t\truntime·printf("pointer map size and argument size disagree\\n");\
+\t\t\t\truntime·printf("runtime: pointer map size and argument size disagree\\n");\
 	\t\t\truntime·throw("mangled symbol table");\
 	\t\t}\
 	\t\tcap = ROUND(sym->value, 32) / 32;\
@@ -239,12 +239,12 @@ dofunc(Sym *sym)\
 	\telse if(runtime·strcmp(sym->name, (byte*)".ptrs") == 0) {\
 	\t\tif(func[nfunc-1].ptrs.len >= func[nfunc-1].ptrs.cap) {\
-\t\t\t\truntime·printf("more pointer map entries read than argument words\\n");
+\t\t\t\truntime·printf("runtime: more pointer map entries read than argument words\\n");\
 	\t\t\truntime·throw("mangled symbol table");\
 	\t\t}\
 	\t\t((uint32*)func[nfunc-1].ptrs.array)[func[nfunc-1].ptrs.len++] = sym->value;\
 	\t} else {\
-\t\t\truntime·printf("invalid '%c' symbol named '%s'\\n", (int8)sym->symtype, sym->name);\
+\t\t\truntime·printf("runtime: invalid '%c' symbol named '%s'\\n", (int8)sym->symtype, sym->name);\
 	\t\truntime·throw("mangled symbol table");\
 	\t}\
 	\tbreak;\

コアとなるコードの解説

src/cmd/ld/lib.cgenasmsym 関数

genasmsym 関数は、アセンブリシンボルを生成し、リンカの内部データ構造に格納するために使用されます。この関数は、Goの関数に関するメタデータ(スタックフレームのサイズ、ローカル変数、引数、ポインタ情報など)を処理します。

変更された if 文は、特定の条件下で関数の引数サイズを ArgsSizeUnknown としてマークするロジックです。この条件は以下の3つの部分から構成されます。

  • s->text->textflag & NOSPLIT: 関数が NOSPLIT フラグを持っているかどうかをチェックします。
  • s->args == 0: 関数の引数サイズが0であるかどうかをチェックします。
  • s->nptrs < 0: ポインタの数が負であるかどうかをチェックします。これは、可変引数関数など、ポインタの数が事前に決定できない場合に発生する可能性があります。

このコミットでは、s->args == 0 の周りの冗長な括弧が削除され、if ブロック全体が波括弧で囲まれました。これにより、コードの意図がより明確になり、将来のメンテナンスが容易になります。

src/pkg/runtime/symtab.cdofunc 関数

dofunc 関数は、ランタイムがシンボルテーブルを走査し、各シンボルに関する情報を処理するために使用されます。この関数は、シンボルが正しい順序であるか、ポインタマップの情報が整合しているかなどを検証します。

この関数内で runtime·printf を使用して出力されるエラーメッセージに runtime: プレフィックスが追加されました。これは、ランタイムの内部で発生したエラーであることを明確にするための標準化されたアプローチです。例えば、シンボルが順序通りでない場合、ポインタマップのサイズと引数サイズが一致しない場合、または無効なシンボルが検出された場合に、このプレフィックス付きのエラーメッセージが出力されます。

これらのエラーは、通常、Goコンパイラやリンカのバグ、またはGoバイナリの破損を示唆するものであり、デバッグの際にこのプレフィックスがあることで、問題の発生源を迅速に特定できます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go Gerrit Code Review (CL 9685047): https://golang.org/cl/9685047
  • Go Gerrit Code Review (CL 9666047): https://golang.org/cl/9666047 (このコミットの背景となったCL)
  • Goのコーディングスタイルガイドライン (Go Wiki): https://github.com/golang/go/wiki/CodeReviewComments (特に "If statements" や "Error messages" のセクションが関連)
  • Goのガベージコレクションに関する一般的な情報: https://go.dev/doc/gc-guide
  • Goのスタック管理に関する情報 (より詳細な技術記事): Go runtime source code analysis on stack management (例: "Go's Execution Tracer" や "Go's runtime scheduler" などの記事でスタックに関する言及がある場合)
    • (具体的なURLは提供できませんが、Goのランタイムに関するブログ記事や論文が参考になります。)