[インデックス 16491] ファイルの概要
このコミットは、Goコンパイラのバックエンドであるcmd/5g
(ARM), cmd/6g
(x86-64), cmd/8g
(x86) の各ヘッダーファイル (gg.h
) から、定義が存在しないproglist
関数のプロトタイプ宣言を削除するものです。これは、未使用のデッドコードを削除し、コードベースのクリーンアップを行うことを目的としています。
コミット
commit acd887ba57aa179824c3f5b37851f52de61206a4
Author: Carl Shapiro <cshapiro@google.com>
Date: Tue Jun 4 16:22:59 2013 -0700
cmd/5g, cmd/6g, cmd/8g: remove prototypes for proglist
Each of the backends has two prototypes for this function but
no corresponding definition.
R=golang-dev, bradfitz, khr
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/9930045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/acd887ba57aa179824c3f5b37851f52de61206a4
元コミット内容
cmd/5g, cmd/6g, cmd/8g: remove prototypes for proglist
Each of the backends has two prototypes for this function but
no corresponding definition.
変更の背景
Goコンパイラの各バックエンド (5g
, 6g
, 8g
) のヘッダーファイル (gg.h
) には、proglist
という関数のプロトタイプ宣言が2箇所ずつ存在していました。しかし、これらの宣言に対応する関数の実際の定義(実装)は、コードベースのどこにも見当たりませんでした。
このような「宣言はあるが定義がない」状態のコードは、以下のような問題を引き起こす可能性があります。
- デッドコード: 実際に使用されることのないコードであり、コードベースを不必要に複雑にします。
- 混乱: 開発者がコードを読んだ際に、
proglist
関数がどこかで実装されていると誤解し、その定義を探す無駄な時間を費やす可能性があります。 - 潜在的なコンパイルエラー: 将来的にコンパイラのバージョンアップやビルド環境の変更があった際に、定義のない関数プロトタイプが原因で警告やエラーが発生する可能性もゼロではありません。
このコミットは、これらの問題を解消し、コードベースをよりクリーンで保守しやすい状態に保つための、典型的なクリーンアップ作業の一環として行われました。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下の概念について知っておく必要があります。
-
Goコンパイラとバックエンド (5g, 6g, 8g): Go言語のコンパイラは、ソースコードを機械語に変換する役割を担います。Goの初期のコンパイラは、特定のCPUアーキテクチャ向けに異なるバックエンドを持っていました。
5g
: ARMアーキテクチャ (例: Raspberry Pi, スマートフォン) 向けのコンパイラバックエンド。6g
: x86-64 (AMD64) アーキテクチャ (例: ほとんどの現代のデスクトップPCやサーバー) 向けのコンパイラバックエンド。8g
: x86 (IA-32) アーキテクチャ (例: 古いデスクトップPC) 向けのコンパイラバックエンド。 これらのバックエンドは、それぞれがターゲットとするアーキテクチャに特化したコード生成を担当していました。現在では、これらのコンパイラはgo tool compile
コマンドに統合されており、ユーザーが直接5g
などを呼び出すことは稀ですが、内部的にはこれらのバックエンドの概念が残っています。
-
プロトタイプ宣言 (Function Prototype): C言語やC++などの言語において、関数を呼び出す前にその関数の「形」をコンパイラに伝えるための宣言です。これには、関数の名前、引数の型と数、そして戻り値の型が含まれます。プロトタイプ宣言は通常、ヘッダーファイル (
.h
や.hpp
) に記述され、複数のソースファイルから同じ関数を呼び出す際に、コンパイラがその関数のシグネチャを認識できるようにするために使用されます。プロトタイプ宣言はあくまで「宣言」であり、関数の具体的な処理内容(「定義」)は別のソースファイルに記述されます。 -
デッドコード (Dead Code): プログラムの実行フローにおいて、決して実行されることのないコードブロックのことです。これは、条件分岐の誤り、古い機能の残骸、あるいは開発中の試行錯誤の痕跡など、様々な理由で発生します。デッドコードはプログラムのサイズを不必要に大きくし、可読性を低下させ、将来的なメンテナンスの妨げとなるため、定期的に削除されるべきです。
技術的詳細
このコミットは、Goコンパイラのソースコード内の以下の3つのヘッダーファイルに焦点を当てています。
src/cmd/5g/gg.h
src/cmd/6g/gg.h
src/cmd/8g/gg.h
これらのgg.h
ファイルは、各アーキテクチャ向けコンパイラのバックエンドにおける、コード生成やユーティリティ関数などの内部的な宣言をまとめたものです。
コミットの変更内容は、これらの各ファイルからvoid proglist(void);
という行を2箇所ずつ、合計6箇所削除するという非常にシンプルなものです。このproglist
関数は、引数を取らず、何も返さない関数として宣言されていましたが、その実体(定義)は存在しませんでした。
具体的には、各gg.h
ファイル内で、gen.c
に関連する関数宣言のセクションと、gsubr.c
に関連する関数宣言のセクションの両方にproglist
のプロトタイプが存在していました。この重複した、かつ定義のない宣言を削除することで、コンパイラのコードベースが整理され、より正確な状態になります。
コアとなるコードの変更箇所
diff --git a/src/cmd/5g/gg.h b/src/cmd/5g/gg.h
index 45a9a887e5..5d78915926 100644
--- a/src/cmd/5g/gg.h
+++ b/src/cmd/5g/gg.h
@@ -73,7 +73,6 @@ EXTERN
int maxstksize;
* gen.c
*/
void compile(Node*);
-void proglist(void);
void gen(Node*);
Node* lookdot(Node*, Node*, int);
void cgen_as(Node*, Node*);
@@ -120,7 +119,6 @@ void cgen64(Node*, Node*);
* gsubr.c
*/
void clearp(Prog*);
-void proglist(void);
Prog* gbranch(int, Type*, int);
Prog* prog(int);
void gconv(int, int);
diff --git a/src/cmd/6g/gg.h b/src/cmd/6g/gg.h
index ceb6a2caaa..d5b6728376 100644
--- a/src/cmd/6g/gg.h
+++ b/src/cmd/6g/gg.h
@@ -64,7 +64,6 @@ extern vlong unmappedzero;
* ggen.c
*/
void compile(Node*);
-void proglist(void);
void gen(Node*);
Node* lookdot(Node*, Node*, int);
void cgen_as(Node*, Node*);
@@ -107,7 +106,6 @@ int componentgen(Node*, Node*);
* gsubr.c
*/
void clearp(Prog*);
-void proglist(void);
Prog* gbranch(int, Type*, int);
Prog* prog(int);
void gconv(int, int);
diff --git a/src/cmd/8g/gg.h b/src/cmd/8g/gg.h
index 03c206aa98..5e31159773 100644
--- a/src/cmd/8g/gg.h
+++ b/src/cmd/8g/gg.h
@@ -75,7 +75,6 @@ extern uint32 unmappedzero;
* ggen.c
*/
void compile(Node*);
-void proglist(void);
void gen(Node*);
Node* lookdot(Node*, Node*, int);
void cgen_as(Node*, Node*);
@@ -123,7 +122,6 @@ void cgen64(Node*, Node*);
* gsubr.c
*/
void clearp(Prog*);
-void proglist(void);
Prog* gbranch(int, Type*, int);
Prog* prog(int);
void gconv(int, int);
コアとなるコードの解説
上記のdiff
出力が示すように、変更は非常に単純です。各gg.h
ファイルから、以下の行が削除されています。
void proglist(void);
この行は、proglist
という名前の関数が、引数を取らず (void
)、何も値を返さない (void
) ことをコンパイラに伝えるプロトタイプ宣言です。
各ファイルでこの行が2回削除されているのは、gg.h
ファイル内でgen.c
(コード生成関連)とgsubr.c
(サブルーチン関連)という異なるセクションに、それぞれproglist
のプロトタイプ宣言が記述されていたためです。このコミットは、これらの冗長で未使用の宣言を完全に削除することで、コードベースの整合性を高め、将来的な誤解や問題を回避しています。
関連リンク
- Go CL (Code Review) ページ: https://golang.org/cl/9930045 このリンクは、Goプロジェクトのコードレビューシステムにおける、このコミットに対応する変更リスト(Change List)を示しています。通常、コミットメッセージに記載されるCLリンクは、その変更がどのように提案され、レビューされ、最終的に承認されたかの詳細な議論や履歴を確認するために非常に有用です。
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント: Go言語のコンパイラや内部構造に関する一般的な情報源として。
- Go言語のソースコードリポジトリ: 実際のコードベースを直接参照し、
gg.h
ファイルや関連するgen.c
,gsubr.c
ファイルの内容を確認しました。 - C言語の関数プロトタイプに関する一般的な情報: 関数プロトタイプの概念と役割を再確認するために参照しました。
- デッドコードに関するソフトウェア工学の概念: デッドコードがなぜ問題であり、削除されるべきかという背景を補強するために参照しました。