[インデックス 16500] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のツールチェインにおけるCgo関連のフラグ(CFLAGS
, CPPFLAGS
など)の順序を統一し、関連するドキュメントや内部データ構造における表記の整合性を向上させることを目的としています。また、タイプミスも修正されています。
コミット
commit f032eefdb0fb63555b4b7c83aaad5ae74550559c
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Wed Jun 5 07:14:05 2013 -0400
cmd/cgo, cmd/go, go/build: sort flag lists
CFLAGS comes before CPPFLAGS.
Also fix one typo CPPCFLAGS.
Cleanup for CL 8248043.
R=golang-dev, iant, alberto.garcia.hierro
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/9965045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/f032eefdb0fb63555b4b7c83aaad5ae74550559c
元コミット内容
cmd/cgo, cmd/go, go/build: sort flag lists
CFLAGS comes before CPPFLAGS.
Also fix one typo CPPCFLAGS.
Cleanup for CL 8248043.
変更の背景
このコミットの主な背景は、Go言語のビルドシステム、特にCgo(GoからCコードを呼び出すためのツール)に関連するフラグのリストにおける一貫性の欠如を解消することにあります。具体的には、CFLAGS
とCPPFLAGS
の順序がドキュメントや内部コードで統一されていなかったため、これをCFLAGS
がCPPFLAGS
の前に来るように整理しています。
また、src/pkg/go/build/build.go
内のコメントに存在したCPPCFLAGS
というタイプミスも修正されています。これはおそらくCPPFLAGS
の誤記であり、正確な表記に修正することでコードの可読性と正確性を向上させています。
これらの変更は、機能的な影響はほとんどなく、主にコードベースの保守性、可読性、および内部的な整合性を高めるための「クリーンアップ」作業の一環として行われました。コミットメッセージにあるCleanup for CL 8248043
は、以前の変更(CL 8248043)に関連する整理作業であることを示唆しています。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下の概念について知っておく必要があります。
- Cgo: Go言語のプログラムからC言語のコードを呼び出すためのGoの機能です。Cgoを使用することで、既存のCライブラリをGoプロジェクトに統合したり、パフォーマンスが重要な部分をCで記述したりすることが可能になります。Cgoは、Goのソースファイル内に特別な
import "C"
ブロックと#cgo
ディレクティブを使用します。 #cgo
ディレクティブ: Goのソースコード内のコメントとして記述される特別なディレクティブで、CgoがCコンパイラやリンカに渡すフラグを指定するために使用されます。例えば、#cgo CFLAGS: -I/path/to/include
のように記述します。- コンパイラ/リンカフラグ:
CFLAGS
: Cコンパイラ(通常はGCCやClang)に渡されるフラグです。Cソースファイルのコンパイル時に使用され、最適化レベル、警告設定、特定の標準の有効化などを指定します。CPPFLAGS
: Cプリプロセッサに渡されるフラグです。主にインクルードパス(-I
)やマクロ定義(-D
)を指定するために使用されます。Cコンパイラがソースファイルを処理する前にプリプロセッサが実行されます。CXXFLAGS
: C++コンパイラに渡されるフラグです。CFLAGS
のC++版です。LDFLAGS
: リンカに渡されるフラグです。ライブラリの検索パス(-L
)やリンクするライブラリ名(-l
)などを指定します。
go/build
パッケージ: Goの標準ライブラリの一部で、GoのビルドシステムがGoパッケージの情報を解析し、ビルドに必要なファイルや依存関係を特定するために使用されます。このパッケージは、Goソースファイルの解析、#cgo
ディレクティブの処理、ビルドタグの解釈などを行います。cmd/go
: Goコマンド(go build
,go run
,go test
など)の実装が含まれるディレクトリです。Go言語のビルド、テスト、実行など、主要な開発ワークフローを管理します。cmd/cgo
: Cgoツール自体の実装が含まれるディレクトリです。GoとCの間のバインディングコードを生成する役割を担います。.syso
ファイル: システムオブジェクトファイル(System Object files)の略です。これらは、Goのビルドプロセスに含めることができる、プラットフォーム固有のコンパイル済みオブジェクトファイルです。通常、Cgoを使用せずにC/C++コードをGoプログラムにリンクする場合や、特定のシステムライブラリを静的にリンクする場合に利用されます。
技術的詳細
このコミットは、Goツールチェインの複数のコンポーネントにわたる、Cgo関連のフラグのリストの順序と表記の整合性を改善しています。
-
フラグの順序の統一:
src/cmd/cgo/doc.go
: Cgoのドキュメントにおいて、#cgo
ディレクティブで定義できるフラグのリスト(CPPFLAGS, CFLAGS, CXXFLAGS, LDFLAGS
)がCFLAGS, CPPFLAGS, CXXFLAGS, LDFLAGS
に修正されています。同様に、環境変数リストもCGO_CPPFLAGS, CGO_CFLAGS
からCGO_CFLAGS, CGO_CPPFLAGS
に修正されています。src/cmd/go/doc.go
,src/cmd/go/list.go
,src/cmd/go/pkg.go
:cmd/go
ツールが内部的に使用するPackage
構造体(Goパッケージのメタデータを保持)において、CgoCPPFLAGS
とCgoCFLAGS
のフィールドの宣言順序が入れ替えられ、CgoCFLAGS
がCgoCPPFLAGS
の前に来るように変更されています。これは、go/build
パッケージのPackage
構造体における順序と一致させるためです。src/pkg/go/build/build.go
:go/build
パッケージのPackage
構造体でも、CgoCPPFLAGS
とCgoCFLAGS
のフィールドの宣言順序が入れ替えられています。また、saveCgo
関数のコメント内のフラグリストもCPPCFLAGS, CFLAGS
からCFLAGS, CPPFLAGS
に修正されています。
-
タイプミスの修正:
src/pkg/go/build/build.go
のsaveCgo
関数のコメント内で、CPPCFLAGS
というタイプミスがCPPFLAGS
に修正されています。これは、Cプリプロセッサフラグの正しい表記です。
-
.syso
ファイルの順序変更:src/cmd/go/doc.go
,src/cmd/go/list.go
,src/cmd/go/pkg.go
,src/pkg/go/build/build.go
:Package
構造体内のSysoFiles
フィールドの宣言位置が、SwigCXXFiles
の後に移動されています。これは、Cgo関連のフラグの順序変更と同様に、構造体フィールドのリストにおける一貫性と整理を目的とした変更と考えられます。
これらの変更は、Goツールチェインの内部的な整合性を高め、開発者がCgo関連のフラグやファイルタイプを扱う際の混乱を減らすことに貢献します。機能的な動作に直接的な影響を与えるものではなく、主にコードベースの品質向上と保守性の改善を目的としています。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットでは、以下の5つのファイルが変更されています。
src/cmd/cgo/doc.go
src/cmd/go/doc.go
src/cmd/go/list.go
src/cmd/go/pkg.go
src/pkg/go/build/build.go
これらのファイルにおける主な変更は、Cgo関連のフラグ(CFLAGS
, CPPFLAGS
など)のリストの順序の入れ替えと、CPPCFLAGS
というタイプミスの修正です。また、SysoFiles
フィールドの順序も変更されています。
具体的な変更箇所は以下の通りです。
src/cmd/cgo/doc.go
:CPPFLAGS, CFLAGS, CXXFLAGS and LDFLAGS
->CFLAGS, CPPFLAGS, CXXFLAGS and LDFLAGS
CGO_CPPFLAGS, CGO_CFLAGS, CGO_CXXFLAGS and CGO_LDFLAGS
->CGO_CFLAGS, CGO_CPPFLAGS, CGO_CXXFLAGS and CGO_LDFLAGS
src/cmd/go/doc.go
:SysoFiles
フィールドの宣言位置がSwigCXXFiles
の後ろに移動。CgoCPPFLAGS
とCgoCFLAGS
の宣言順序が入れ替えられ、CgoCFLAGS
が先に。
src/cmd/go/list.go
:SysoFiles
フィールドの宣言位置がSwigCXXFiles
の後ろに移動。CgoCPPFLAGS
とCgoCFLAGS
の宣言順序が入れ替えられ、CgoCFLAGS
が先に。
src/cmd/go/pkg.go
:Package
構造体内のSysoFiles
フィールドの宣言位置がSwigCXXFiles
の後ろに移動。Package
構造体内のCgoCPPFLAGS
とCgoCFLAGS
の宣言順序が入れ替えられ、CgoCFLAGS
が先に。copyBuild
メソッド内でのSysoFiles
、CgoCPPFLAGS
、CgoCFLAGS
のコピー順序も、新しい宣言順序に合わせて変更。
src/pkg/go/build/build.go
:Package
構造体内のSysoFiles
フィールドの宣言位置がSwigCXXFiles
の後ろに移動。Package
構造体内のCgoCPPFLAGS
とCgoCFLAGS
の宣言順序が入れ替えられ、CgoCFLAGS
が先に。saveCgo
関数のコメント内のCPPCFLAGS, CFLAGS
がCFLAGS, CPPFLAGS
に修正(タイプミス修正)。
コアとなるコードの解説
このコミットのコアとなる変更は、Goツールチェインの様々な部分でCgo関連のフラグのリストの順序を標準化し、タイプミスを修正することです。
例えば、src/cmd/cgo/doc.go
では、Cgoディレクティブで設定できるフラグのリストが以下のように変更されています。
--- a/src/cmd/cgo/doc.go
+++ b/src/cmd/cgo/doc.go
@@ -24,7 +24,7 @@ the C parts of the package. For example:
// #include <errno.h>
import "C"
-CPPFLAGS, CFLAGS, CXXFLAGS and LDFLAGS may be defined with pseudo #cgo directives
+CFLAGS, CPPFLAGS, CXXFLAGS and LDFLAGS may be defined with pseudo #cgo directives
within these comments to tweak the behavior of gcc. Values defined
in multiple directives are concatenated together. Options prefixed
by $GOOS, $GOARCH, or $GOOS/$GOARCH are only defined in matching
@@ -44,7 +44,7 @@ For example:
// #include <png.h>
import "C"
-The CGO_CPPFLAGS, CGO_CFLAGS, CGO_CXXFLAGS and CGO_LDFLAGS environment variables are added
+The CGO_CFLAGS, CGO_CPPFLAGS, CGO_CXXFLAGS and CGO_LDFLAGS environment variables are added
to the flags derived from these directives. Package-specific flags should
be set using the directives, not the environment variables, so that builds
work in unmodified environments.
この変更は、ドキュメントにおけるフラグの提示順序をCFLAGS
がCPPFLAGS
の前に来るように統一しています。これは、Goの内部的な慣習や、コンパイラフラグの一般的な順序(CプリプロセッサフラグがCコンパイラフラグよりも先に処理されることが多いが、リストアップの際にはCFLAGS
がより一般的であるため先に記述される)に合わせたものと考えられます。
また、src/cmd/go/pkg.go
やsrc/pkg/go/build/build.go
などのファイルでは、Goパッケージのメタデータを表すPackage
構造体内のフィールドの順序が変更されています。
--- a/src/cmd/go/pkg.go
+++ b/src/cmd/go/pkg.go
@@ -43,13 +43,13 @@ type Package struct {
CXXFiles []string `json:",omitempty"` // .cc, .cpp and .cxx source files
HFiles []string `json:",omitempty"` // .h, .hh, .hpp and .hxx source files
SFiles []string `json:",omitempty"` // .s source files
- SysoFiles []string `json:",omitempty"` // .syso system object files added to package
SwigFiles []string `json:",omitempty"` // .swig files
SwigCXXFiles []string `json:",omitempty"` // .swigcxx files
+ SysoFiles []string `json:",omitempty"` // .syso system object files added to package
// Cgo directives
- CgoCPPFLAGS []string `json:",omitempty"` // cgo: flags for C preprocessor
CgoCFLAGS []string `json:",omitempty"` // cgo: flags for C compiler
+ CgoCPPFLAGS []string `json:",omitempty"` // cgo: flags for C preprocessor
CgoCXXFLAGS []string `json:",omitempty"` // cgo: flags for C++ compiler
CgoLDFLAGS []string `json:",omitempty"` // cgo: flags for linker
CgoPkgConfig []string `json:",omitempty"` // cgo: pkg-config names
この変更は、SysoFiles
フィールドとCgoCPPFLAGS
/CgoCFLAGS
フィールドの順序を調整しています。これは、構造体の定義における一貫性を保ち、関連するフィールドが論理的な順序で並ぶようにするためのものです。機能的な影響はなく、コードの保守性と可読性を向上させるためのリファクタリングと見なせます。
最後に、src/pkg/go/build/build.go
のコメント修正は、単なるタイプミス(CPPCFLAGS
をCPPFLAGS
に)の修正であり、コードの正確性を高めるものです。
これらの変更は全体として、Goツールチェインの内部的な整合性を高め、開発者がCgo関連の情報をより明確に理解できるようにするための「クリーンアップ」作業の一環です。
関連リンク
- Go言語公式ドキュメント: https://go.dev/
- Cgoのドキュメント:
go doc cmd/cgo
または https://pkg.go.dev/cmd/cgo - Goのビルドパッケージのドキュメント:
go doc go/build
または https://pkg.go.dev/go/build
参考にした情報源リンク
- Go言語のソースコード (GitHub): https://github.com/golang/go
- Go Code Review Comments (CL 9965045): https://golang.org/cl/9965045 (コミットメッセージに記載されているChangeListへのリンク)
- Go Code Review Comments (CL 8248043): https://golang.org/cl/8248043 (コミットメッセージに記載されている関連するChangeListへのリンク)
- Cgoの基本と使い方に関する一般的な情報源 (例: 各種ブログ記事、チュートリアルなど)
- コンパイラ/リンカフラグに関する一般的な情報源 (例: GCC/Clangのドキュメントなど)