Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 16505] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリ io/ioutil パッケージ内の WriteFile 関数における重要なバグ修正に関するものです。具体的には、WriteFile 関数がファイルへの書き込み操作を完了した後、ファイルを閉じる際に発生する可能性のあるエラー(Close() メソッドが返すエラー)を適切に処理していなかった問題を修正しています。これにより、ファイルへの書き込み自体は成功したように見えても、実際にはデータが完全にディスクにフラッシュされていなかったり、リソースが適切に解放されていなかったりする状況で、関数が成功を返してしまうという不整合が解消されました。

コミット

  • コミットハッシュ: 961411900730bd8dd14781ce8e965701eefe5577
  • Author: Robert Obryk robryk@gmail.com
  • Date: Wed Jun 5 21:16:44 2013 -0700
  • コミットメッセージ:
    io/ioutil: make WriteFile notice errors from Close()
    
    WriteFile should not successfully return if the file's
    Close call failed.
    
    Fixes #5644.
    
    R=golang-dev, kr, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/10067043
    

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/961411900730bd8dd14781ce8e965701eefe5577

元コミット内容

io/ioutil: make WriteFile notice errors from Close()

WriteFile は、ファイルの Close 呼び出しが失敗した場合に、成功を返すべきではありません。

Fixes #5644.

変更の背景

この変更の背景には、ファイルI/Oにおけるエラーハンドリングの厳密性に関する重要な考慮事項があります。Go言語の io/ioutil.WriteFile 関数は、指定されたファイル名、データ、パーミッションを用いてファイルにデータを書き込むための便利なユーティリティ関数です。内部的には、ファイルを開き、データを書き込み、そしてファイルを閉じるという一連の操作を行います。

問題は、以前の実装では、ファイルへのデータ書き込み自体が成功した場合、たとえその後の f.Close() メソッドの呼び出しがエラーを返したとしても、WriteFile 関数全体としてはエラーを返さずに成功として処理を終えてしまっていた点にありました。

Close() メソッドがエラーを返す主な理由は、以下のような状況が考えられます。

  1. ディスクへのフラッシュ失敗: オペレーティングシステムは、パフォーマンスのために書き込み操作をバッファリングすることがよくあります。Close() が呼び出されたときに、これらのバッファリングされたデータが実際にディスクに書き込まれる(フラッシュされる)際にエラーが発生する可能性があります。例えば、ディスク容量不足、ハードウェア障害、ネットワークファイルシステムの問題などが挙げられます。
  2. リソースの解放失敗: ファイルディスクリプタや関連するシステムリソースの解放に失敗した場合。

このような Close() エラーが無視されると、アプリケーションはファイルへの書き込みが成功したと誤解し、その後の処理を進めてしまう可能性があります。しかし実際には、データが完全に永続化されていなかったり、ファイルが破損していたり、システムリソースがリークしていたりする危険性があります。これはデータの整合性やシステムの安定性にとって非常に深刻な問題となり得ます。

このコミットは、GitHub Issue #5644 で報告された問題を解決するために行われました。このIssueは、WriteFileClose() エラーを無視することによって引き起こされる潜在的なデータ損失や不整合の可能性を指摘していました。したがって、この変更は、WriteFile 関数の堅牢性を高め、より信頼性の高いファイルI/O操作を保証することを目的としています。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語の概念とファイルI/Oの基本について知っておく必要があります。

  1. io/ioutil パッケージ: Go言語の標準ライブラリの一部で、I/O操作に関する便利なユーティリティ関数を提供します。WriteFile はその中でも特に頻繁に使用される関数の一つです。

    • func WriteFile(filename string, data []byte, perm os.FileMode) error この関数は、filename で指定されたファイルに data を書き込みます。ファイルが存在しない場合は作成され、存在する場合は切り詰められます(既存の内容は破棄されます)。perm は、新しく作成されるファイルのパーミッション(例: 0644)を指定します。成功した場合は nil を返し、エラーが発生した場合は非nilのエラーを返します。
  2. os.FileMode: ファイルのパーミッション(読み取り、書き込み、実行権限など)を表す型です。Unix系のシステムにおけるファイルモードビットに対応します。例えば、0644 は所有者に読み書き権限、グループとその他のユーザーに読み取り権限を与えることを意味します。

  3. io.ErrShortWrite: io パッケージで定義されているエラーの一つです。書き込み操作において、要求されたバイト数よりも少ないバイト数しか書き込めなかった場合に返されることがあります。WriteFile 関数は、内部で f.Write(data) の結果をチェックし、書き込まれたバイト数 nlen(data) よりも小さい場合にこのエラーを設定していました。

  4. File.Close() メソッド: Go言語でファイルを開いた後、そのファイルに対する操作が完了したら、必ず Close() メソッドを呼び出してファイルを閉じる必要があります。これは、ファイルディスクリプタなどのシステムリソースを解放し、バッファリングされたデータをディスクにフラッシュするために不可欠です。

    • Close() メソッドは error 型の戻り値を持ちます。これは、ファイルを閉じる操作自体が失敗する可能性があることを示しています。このエラーは、前述の通り、ディスクへのフラッシュ失敗やリソース解放の失敗など、様々な理由で発生し得ます。
  5. エラーハンドリングの重要性: Go言語では、エラーは関数の戻り値として明示的に扱われます。慣習として、関数がエラーを返す可能性がある場合、呼び出し元はそのエラーをチェックし、適切に処理する必要があります。エラーを無視することは、予期せぬ動作、データ破損、リソースリークなどの原因となるため、非常に危険です。このコミットは、まさにこの「エラーを無視する」という問題に対処しています。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、io/ioutil.WriteFile 関数が os.FileClose() メソッドから返されるエラーを適切に伝播させるように修正された点にあります。

修正前の WriteFile 関数の関連部分は以下のようになっていました。

// ...
n, err := f.Write(data)
f.Close() // ここでClose()がエラーを返しても、そのエラーは無視される
if err == nil && n < len(data) {
    err = io.ErrShortWrite
}
return err // Write()のエラーかErrShortWriteのみが返される

このコードでは、f.Write(data) の結果として err が設定されます。その後、f.Close() が呼び出されますが、Close() が返す可能性のあるエラーは変数に代入されず、そのまま破棄されていました。したがって、Write() が成功し、かつ io.ErrShortWrite も発生しなかった場合、WriteFilenil を返していましたが、その裏で Close() がエラーを発生させていたとしても、呼び出し元はその事実を知ることができませんでした。

修正後のコードは以下のようになります。

// ...
n, err := f.Write(data)
// f.Close() は削除され、新しいエラーハンドリングロジックが追加
if err == nil && n < len(data) {
    err = io.ErrShortWrite
}
if err1 := f.Close(); err == nil { // Close()のエラーをerr1に格納
    err = err1 // Write()やErrShortWriteでエラーがなければ、Close()のエラーを優先
}
return err // Write()のエラー、ErrShortWrite、またはClose()のエラーが返される

この変更のポイントは以下の通りです。

  1. Close() エラーの取得: if err1 := f.Close(); という行で、f.Close() の戻り値が新しい変数 err1 に代入されます。これにより、Close() がエラーを返した場合でも、そのエラーが捕捉されるようになります。
  2. エラーの優先順位: err == nil という条件が重要です。これは、f.Write(data) の呼び出し、または io.ErrShortWrite のチェックによって既に err が非nilのエラーになっている場合、そのエラーが優先されることを意味します。つまり、書き込み自体でエラーが発生した場合は、その書き込みエラーが WriteFile の最終的な戻り値となります。
  3. Close() エラーの伝播: errnil の場合(つまり、書き込み自体は成功し、io.ErrShortWrite も発生しなかった場合)、errerr1Close() からのエラー)が代入されます。これにより、Close() がエラーを返した場合に、WriteFile 関数全体がそのエラーを呼び出し元に伝播するようになります。

この修正により、WriteFile 関数は、ファイルへの書き込み操作のすべての段階(書き込み、そして閉じるときのフラッシュ)で発生する可能性のあるエラーを正確に報告するようになります。これにより、アプリケーションはファイルI/O操作の真の成功状態を判断できるようになり、データの整合性と信頼性が大幅に向上します。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/pkg/io/ioutil/ioutil.go
+++ b/src/pkg/io/ioutil/ioutil.go
@@ -78,10 +78,12 @@ func WriteFile(filename string, data []byte, perm os.FileMode) error {
 		return err
 	}
 	n, err := f.Write(data)
-	f.Close()
 	if err == nil && n < len(data) {
 		err = io.ErrShortWrite
 	}
+	if err1 := f.Close(); err == nil {
+		err = err1
+	}
 	return err
 }

コアとなるコードの解説

上記の diff は、io/ioutil/ioutil.go ファイル内の WriteFile 関数の変更を示しています。

  • - f.Close(): 元のコードでは、f.Write(data) の直後に f.Close() が呼び出されていました。この行は、Close() が返すエラーを無視していました。このコミットでは、この行が削除されました。

  • + if err1 := f.Close(); err == nil {: この行は、新しいエラーハンドリングロジックの開始です。

    • err1 := f.Close(): f.Close() を呼び出し、その戻り値(エラーまたは nil)を新しい変数 err1 に代入しています。これにより、Close() が返すエラーが捕捉されます。
    • err == nil: この条件は、f.Write(data) の呼び出し、またはその後の io.ErrShortWrite のチェックによって、既に err 変数にエラーが設定されていないかどうかを確認しています。つまり、ファイルへの書き込み自体が成功し、かつ部分書き込みエラーも発生しなかった場合にのみ、このブロック内の処理が実行されます。
  • + err = err1: 上記の if 条件が真である場合(つまり、書き込み自体は成功し、errnil の場合)、err 変数に err1 の値が代入されます。これにより、f.Close() がエラーを返した場合、そのエラーが WriteFile 関数の最終的な戻り値として設定され、呼び出し元に伝播されるようになります。もし f.Close() が成功して err1nil であれば、err は引き続き nil のままであり、WriteFile は成功を返します。

この変更により、WriteFile 関数は、ファイルへの書き込み操作のすべての段階(データの書き込みとファイルのクローズ)で発生する可能性のあるエラーを適切に報告するようになり、関数の堅牢性と信頼性が向上しました。

関連リンク

参考にした情報源リンク