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[インデックス 16535] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のリンカである cmd/ld のドキュメントに -s フラグに関する説明を追加するものです。具体的には、リンカのオプションに関するドキュメントファイル src/cmd/ld/doc.go に、-s フラグがシンボルテーブルとデバッグ情報を省略する機能を持つことを明記しています。

コミット

commit 71051953e008b5e272ea2e83d2b84bdc13924628
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date:   Tue Jun 11 04:58:02 2013 +0800

    cmd/ld: document -s flag.
    
    R=golang-dev, iant
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/10159043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/71051953e008b5e272ea2e83d2b84bdc13924628

元コミット内容

cmd/ld: document -s flag.

R=golang-dev, iant
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/10159043

変更の背景

このコミットの背景には、Go言語のツールチェイン、特にリンカ cmd/ld のドキュメントの整備があります。-s フラグはGoのリンカが提供する重要なオプションの一つであり、生成されるバイナリのサイズや特性に影響を与えます。しかし、このコミットが作成された時点では、その機能が公式ドキュメントに明示的に記載されていなかったと考えられます。

開発者がGoプログラムをビルドする際、特にデプロイメント環境や組み込みシステムなど、バイナリサイズが重要な制約となる場面では、不要な情報をバイナリから取り除くことが求められます。シンボルテーブルやデバッグ情報は、デバッグ時には非常に有用ですが、本番環境で実行されるバイナリには通常必要ありません。これらが含まれていると、バイナリサイズが増加し、ロード時間やメモリ使用量に影響を与える可能性があります。

このコミットは、このような背景から、開発者が-s フラグの存在とその効果を容易に理解できるように、ドキュメントを改善することを目的としています。これにより、開発者はより効率的に最適化されたGoバイナリを生成できるようになります。

前提知識の解説

Go言語のビルドプロセス

Go言語のプログラムは、ソースコードから直接実行可能なバイナリにコンパイルされます。このプロセスには、主に以下のステップが含まれます。

  1. コンパイル: Goコンパイラ(cmd/compile)がGoのソースコードをアセンブリコードに変換します。
  2. アセンブル: アセンブラがアセンブリコードをオブジェクトファイル(.o ファイル)に変換します。
  3. リンク: リンカ(cmd/ld)が複数のオブジェクトファイル、Goランタイムライブラリ、およびその他の必要なライブラリを結合し、単一の実行可能なバイナリを生成します。

リンカ (cmd/ld)

cmd/ld はGo言語の標準リンカです。C/C++などの他の言語におけるリンカと同様に、複数のコンパイル済みオブジェクトファイルを結合し、外部ライブラリへの参照を解決し、最終的な実行可能ファイルを生成する役割を担います。リンカは、プログラムが実行時に必要とするすべてのコードとデータを一つのファイルにまとめることで、独立して実行可能なバイナリを作成します。

シンボルテーブル (Symbol Table)

シンボルテーブルは、コンパイルされたプログラム内のシンボル(変数名、関数名、型名など)とそのアドレスや型などの情報をマッピングしたデータ構造です。デバッグ時には、シンボルテーブルがデバッガに対して、実行中のプログラムのどの部分がソースコードのどの部分に対応するかを教える役割を果たします。これにより、開発者は変数の中身を検査したり、特定の関数にブレークポイントを設定したりすることができます。

デバッグ情報 (Debug Information)

デバッグ情報は、プログラムのデバッグを容易にするためにバイナリファイルに埋め込まれる追加のメタデータです。これには、ソースコードの行番号と実行可能コードのアドレスのマッピング、変数名とメモリ位置のマッピング、型定義などが含まれます。デバッグ情報は、通常、DWARF (Debugging With Attributed Record Formats) などの標準フォーマットで格納されます。デバッグ情報が存在することで、デバッガはソースレベルでのデバッグ(ステップ実行、変数検査など)を可能にします。

バイナリサイズと最適化

シンボルテーブルやデバッグ情報は、デバッグプロセスには不可欠ですが、最終的な本番環境用のバイナリには通常必要ありません。これらの情報が含まれていると、バイナリファイルのサイズが不必要に大きくなります。特に、リソースが限られた環境(例: IoTデバイス、サーバーレス関数)や、ネットワーク経由で配布されるアプリケーションの場合、バイナリサイズは重要な考慮事項となります。-s フラグを使用することで、これらの情報をバイナリから取り除き、ファイルサイズを削減し、場合によってはロード時間を短縮することができます。

技術的詳細

このコミットは、Goリンカ cmd/ld のドキュメントファイル src/cmd/ld/doc.go に、-s フラグの機能に関する説明を追加するものです。

src/cmd/ld/doc.go は、Goのリンカがサポートするコマンドラインオプションとその説明を記述するためのドキュメントファイルです。このファイルは、Goのツールチェインの一部として提供され、go doc cmd/ld コマンドなどで参照されることがあります。

コミットによって追加された行は以下の通りです。

--- a/src/cmd/ld/doc.go
+++ b/src/cmd/ld/doc.go
@@ -52,6 +52,8 @@ Options new in this version:
  		The default is the single location $GOROOT/pkg/$GOOS_$GOARCH.
  	-r dir1:dir2:...\n \t\tSet the dynamic linker search path when using ELF.
 +\t-s
 +\t\tOmit the symbol table and debug information.
  	-V
  	\tPrint the linker version.
  	-X symbol value

この変更により、-s フラグが「シンボルテーブルとデバッグ情報を省略する」という明確な説明が追加されました。これは、Goのビルドプロセスにおいて、バイナリの最適化(特にサイズ削減)を行う上で非常に重要な情報です。

Goのビルドコマンド go buildgo install-ldflags="-s" を指定することで、このリンカオプションが適用され、生成される実行可能ファイルからシンボルテーブルとデバッグ情報が削除されます。これにより、バイナリサイズが大幅に削減され、本番環境でのデプロイに適した軽量なバイナリを作成できます。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/cmd/ld/doc.go ファイルにのみ行われています。

diff --git a/src/cmd/ld/doc.go b/src/cmd/ld/doc.go
index 3493f41d8a..5f7c2565ef 100644
--- a/src/cmd/ld/doc.go
+++ b/src/cmd/ld/doc.go
@@ -52,6 +52,8 @@ Options new in this version:
 		The default is the single location $GOROOT/pkg/$GOOS_$GOARCH.
 	-r dir1:dir2:...\n \t\tSet the dynamic linker search path when using ELF.
+\t-s
+\t\tOmit the symbol table and debug information.
 	-V
 	\tPrint the linker version.
 	-X symbol value

コアとなるコードの解説

このコミットは、Goのリンカ cmd/ld のドキュメントに、-s フラグに関する説明を追加するものです。

具体的には、src/cmd/ld/doc.go ファイルの Options new in this version: セクションに、以下の2行が追加されました。

+	-s
+	\t\tOmit the symbol table and debug information.
  • -s: これはリンカオプションのフラグ名です。
  • \t\tOmit the symbol table and debug information.: これは -s フラグの機能説明です。\t\t はタブ文字によるインデントを表しており、ドキュメントの整形のために使用されています。

この変更は、リンカの実際の動作を変更するものではなく、リンカの既存の機能に関するドキュメントを改善するものです。これにより、Goの開発者は go build -ldflags="-s" のようなコマンドを使用する際に、-s フラグが具体的に何を行うのかを公式ドキュメントで確認できるようになります。

-s フラグは、Goのビルドにおいて非常に一般的に使用される最適化オプションの一つであり、特にリリースビルドやコンテナイメージのサイズ削減において重要な役割を果たします。このドキュメントの追加は、Goツールチェインのユーザビリティと透明性を向上させるものです。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • Goのソースコードリポジトリ (GitHub)
  • Goのリンカに関する一般的な情報源 (例: DWARFデバッグフォーマット、シンボルテーブルの概念)
  • Goのビルドオプションに関するコミュニティの議論やブログ記事 (例: Goバイナリのサイズ削減に関する記事)
  • Go CL (Change List) 10159043: https://golang.org/cl/10159043 (これはコミットメッセージに記載されているリンクであり、このコミットの元となった変更リクエストです。)