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[インデックス 16575] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のドキュメンテーションツールであるgodocの挙動に関する修正です。具体的には、godocが生成するHTMLドキュメントにおいて、エクスポートされていない(unexported)識別子へのリンクが誤って生成される問題を修正しています。これにより、生成されるドキュメントの正確性とユーザビリティが向上します。

コミット

commit 8f6341d9eead70b2fa010a49f92e170682980d01
Author: Jonathan Rudenberg <jonathan@titanous.com>
Date:   Fri Jun 14 12:37:23 2013 -0700

    cmd/godoc: don't link unexported identifiers
    
    R=golang-dev, gri, gri
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/9722045

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/8f6341d9eead70b2fa010a49f92e170682980d01

元コミット内容

cmd/godoc: don't link unexported identifiers

R=golang-dev, gri, gri
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/9722045

変更の背景

Go言語では、識別子(変数、関数、型など)の先頭が大文字で始まる場合、その識別子はパッケージ外にエクスポートされ、小文字で始まる場合はエクスポートされず、パッケージ内でのみ利用可能となります。godocはGoのソースコードからドキュメントを生成するツールであり、通常はエクスポートされた識別子に関する情報を提供します。

このコミット以前のgodoclinkify.goのロジックには、エクスポートされていない識別子に対しても誤ってHTMLリンクを生成してしまうバグが存在していました。これにより、生成されたドキュメントには存在しない、またはアクセスできない内部的な識別子へのリンクが含まれてしまい、ユーザーがドキュメントを閲覧する際に混乱を招く可能性がありました。この変更は、このような不正確なリンクの生成を防ぎ、godocがより正確で有用なドキュメントを提供するようにするために行われました。

前提知識の解説

  • Go言語のエクスポートルール: Go言語では、識別子(変数、関数、型、メソッドなど)の可視性は、その名前の最初の文字が大文字か小文字かによって決まります。
    • 大文字で始まる識別子: パッケージ外にエクスポートされ、他のパッケージからアクセス可能です。これらは「エクスポートされた識別子 (exported identifiers)」と呼ばれます。
    • 小文字で始まる識別子: パッケージ内でのみアクセス可能で、パッケージ外からはアクセスできません。これらは「エクスポートされていない識別子 (unexported identifiers)」と呼ばれます。
  • godoc: Go言語のソースコードからドキュメンテーションを生成するツールです。Goの標準ライブラリのドキュメント(pkg.go.devなど)はgodocによって生成されています。ソースコード内のコメントや識別子の構造を解析し、HTML形式などで整形されたドキュメントを出力します。
  • astパッケージ: Go言語のgo/astパッケージは、Goのソースコードの抽象構文木(Abstract Syntax Tree, AST)を表現するための型と関数を提供します。コンパイラやリンター、コード分析ツールなどがGoのコードを解析する際に利用されます。このコミットで登場するast.IsExported関数は、与えられた識別子名がエクスポートされているかどうかを判定するために使用されます。
  • HTMLリンク (<a>タグ): ウェブページ上で他のリソース(別のページ、同じページ内の特定の位置など)へのハイパーリンクを作成するために使用されるHTML要素です。href属性にリンク先のURLを指定します。
  • HTML <span>タグ: 特定のテキスト部分にスタイルを適用したり、JavaScriptで操作したりするための汎用的なインライン要素です。<a>タグとは異なり、それ自体にはリンク機能はありません。

技術的詳細

このコミットの核心は、src/cmd/godoc/linkify.goファイル内のLinkifyText関数における条件分岐の変更です。LinkifyText関数は、godocがドキュメントを生成する際に、テキスト内の識別子を解析し、適切なHTML要素(リンクまたは単なるテキスト)に変換する役割を担っています。

変更前のコードでは、識別子がidentValモード(値として扱われる識別子)でない場合に、無条件に<a>タグ(リンク)を生成していました。しかし、このロジックでは、エクスポートされていない識別子もidentValモードでない限りリンクの対象となってしまう問題がありました。

変更後のコードでは、else if ast.IsExported(info.name)という条件が追加されています。これは、識別子がidentValモードでない場合に加えて、その識別子がast.IsExported関数によってエクスポートされていると判定された場合にのみ<a>タグ(リンク)を生成するように修正されています。

ast.IsExported(name string) bool関数は、Go言語のgo/astパッケージに定義されており、与えられた文字列(識別子名)の最初の文字が大文字であるかどうかをチェックすることで、その識別子がエクスポートされているかどうかを判定します。この関数の導入により、godocはエクスポートされた識別子のみをリンクの対象とし、エクスポートされていない内部的な識別子への不要なリンク生成を防ぐことができるようになりました。

この修正は、godocが生成するドキュメントの品質と正確性を向上させる上で重要です。ユーザーは、公開されたAPIや要素にのみリンクが張られていることを期待するため、この変更はドキュメントのユーザビリティを大幅に改善します。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/godoc/linkify.go
+++ b/src/cmd/godoc/linkify.go
@@ -56,7 +56,7 @@ func LinkifyText(w io.Writer, text []byte, n ast.Node) {
 			if info.mode == identVal {
 				fmt.Fprintf(w, `<span id="%s">`, info.name)
 				prev = "span"
-			} else {
+			} else if ast.IsExported(info.name) {
 				fmt.Fprintf(w, `<a href="#%s">`, info.name)
 				prev = "a"
 			}

コアとなるコードの解説

変更された行はsrc/cmd/godoc/linkify.goファイルの57行目です。

  • 変更前 (-で始まる行):

    } else {
    

    この行は、info.mode == identVal(識別子が値として扱われる場合)という条件が偽であった場合に実行されるブロックの開始を示していました。このロジックでは、identValでない識別子はすべてリンクの対象となっていました。

  • 変更後 (+で始まる行):

    } else if ast.IsExported(info.name) {
    

    この行は、元のelse条件に加えて、ast.IsExported(info.name)という新しい条件を追加しています。

    • ast.IsExported(info.name): これは、現在の識別子名(info.name)がGoのエクスポートルールに従ってエクスポートされているかどうかをチェックする関数呼び出しです。Goでは、識別子の最初の文字が大文字であればエクスポートされています。
    • この変更により、識別子がidentValモードではないかつエクスポートされている場合にのみ、fmt.Fprintf(w, , info.name)が実行され、HTMLの<a>タグ(リンク)が生成されるようになりました。

この修正によって、godocはエクスポートされていない内部的な識別子に対してはリンクを生成せず、代わりに単なるテキストとして表示するか、あるいは別の処理(この場合は<span>タグで囲むなど)を行うようになります。これにより、生成されるドキュメントはより正確で、ユーザーにとって混乱の少ないものとなります。

関連リンク

参考にした情報源リンク