[インデックス 16610] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリのテストコードにおいて、ファイルディスクリプタ(file descriptor, fd)のリークを防ぐための修正を導入しています。具体的には、テスト中に開かれたファイルやネットワーク接続などのリソースが適切に閉じられるように、defer
ステートメントを追加しています。
コミット
commit a00958aac6b4e39248b2604bb1224cc0dec015ae
Author: Dave Cheney <dave@cheney.net>
Date: Fri Jun 21 11:13:14 2013 +1000
all: avoid leaking fds during tests
trivial: it is not a serious problem to leak a fd in a short lived process, but it was obscuring my investigation of issue 5593.
R=golang-dev, iant, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/10391043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/a00958aac6b4e39248b2604bb1224cc0dec015ae
元コミット内容
all: avoid leaking fds during tests
trivial: it is not a serious problem to leak a fd in a short lived process, but it was obscuring my investigation of issue 5593.
変更の背景
このコミットの主な背景は、Go言語の標準ライブラリのテスト実行中に発生していたファイルディスクリプタのリークを防ぐことです。コミットメッセージには「短命なプロセスでファイルディスクリプタがリークすることは深刻な問題ではないが、issue 5593の調査を妨げていた」と明記されています。
テストは通常、多くの小さな操作を繰り返し実行するため、各テストケースでリソースが適切に解放されないと、ファイルディスクリプタの枯渇などの問題が発生し、テストの信頼性やデバッグの妨げになる可能性があります。特に、特定のバグ(この場合は issue 5593
)を調査している際に、リソースリークが原因で発生するノイズは、本来の問題の特定を困難にします。
Web検索では golang/go
リポジトリにおける issue 5593
の直接的な情報は見つかりませんでしたが、これは内部的な追跡番号であるか、あるいは非常に古い問題であるため公開されていない可能性があります。しかし、その具体的な内容が何であれ、このコミットはテスト環境のクリーンさを保ち、デバッグ作業を効率化することを目的としています。
前提知識の解説
ファイルディスクリプタ (File Descriptor, FD)
ファイルディスクリプタは、Unix系オペレーティングシステムにおいて、プロセスが開いているファイルやソケット、パイプなどのI/Oリソースを識別するために使用される整数値です。プログラムがファイルを開いたり、ネットワーク接続を確立したりすると、カーネルは対応するファイルディスクリプタをプロセスに割り当てます。これらのリソースは使用後に明示的に閉じる(解放する)必要があります。閉じ忘れると、ファイルディスクリプタがリークし、システム全体のリソースが枯渇する可能性があります。
リソース管理とリーク
プログラムがファイルやネットワーク接続などのシステムリソースを使用する場合、それらを使い終わった後に適切に解放することが重要です。解放を怠ると、リソースが「リーク」し、利用可能なリソースが徐々に減少し、最終的には新しいリソースを確保できなくなる可能性があります。これは、アプリケーションのパフォーマンス低下やクラッシュにつながります。
Go言語の defer
ステートメント
Go言語の defer
ステートメントは、関数がリターンする直前に実行される関数呼び出しをスケジュールするために使用されます。これは、リソースの解放(ファイルのクローズ、ロックの解除など)を確実に行うための非常に強力なメカニズムです。defer
は、エラーが発生して関数が途中で終了した場合でも、指定された処理が実行されることを保証します。
func readFile(filename string) ([]byte, error) {
f, err := os.Open(filename)
if err != nil {
return nil, err
}
// 関数がリターンする直前に f.Close() が実行されることを保証
defer f.Close()
data, err := ioutil.ReadAll(f)
if err != nil {
return nil, err
}
return data, nil
}
上記の例では、os.Open
でファイルを開いた後、すぐに defer f.Close()
を呼び出しています。これにより、readFile
関数が正常に終了しても、エラーで終了しても、f.Close()
が確実に実行され、ファイルディスクリプタが解放されます。
技術的詳細
このコミットは、Go言語のテストコードにおけるファイルディスクリプタのリークを体系的に修正しています。具体的な修正方法は、ファイルやネットワーク接続などのリソースを開いた直後に defer
ステートメントを用いて Close()
メソッドを呼び出すことです。
Go言語では、os.File
や net.Conn
、io.ReadCloser
などの多くのI/O関連の型が Close()
メソッドを実装しており、これにより関連するシステムリソース(ファイルディスクリプタなど)が解放されます。テストコードでは、通常、短期間で多くのリソースを開閉するため、defer
を使用しないと、テストケースが終了してもリソースが閉じられず、リークが発生する可能性が高まります。
例えば、archive/tar/reader_test.go
の TestReader
関数では、os.Open
でファイルを開いた後、以前は関数の最後に f.Close()
が明示的に呼び出されていました。しかし、ループ内でエラーが発生して continue
した場合、f.Close()
がスキップされ、ファイルディスクリプタがリークする可能性がありました。このコミットでは、f, err := os.Open(...)
の直後に defer f.Close()
を追加することで、この問題を解決しています。これにより、f
がスコープを抜ける際に必ず Close()
が呼び出されるようになります。
同様に、net/net_test.go
の TestShutdownUnix
関数では、net.ListenUnix
でリスナーを開いた後、defer os.Remove(tmpname)
が使用されていましたが、リスナー自体のクローズが defer
されていませんでした。このコミットでは、ln.Close()
も defer
ブロック内に追加され、リスナーが確実に閉じられるように修正されています。
これらの変更は、テストの実行環境をより安定させ、リソースリークによる誤ったエラーやデバッグの困難さを排除することを目的としています。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットは以下のファイルに影響を与えています。
src/pkg/archive/tar/reader_test.go
src/pkg/archive/zip/reader_test.go
src/pkg/debug/elf/file_test.go
src/pkg/log/syslog/syslog_test.go
src/pkg/net/net_test.go
src/pkg/net/parse_test.go
src/pkg/os/os_test.go
これらのファイルでは、主にファイルやネットワーク接続を開く処理の直後に defer <resource>.Close()
の形式でリソース解放のコードが追加されています。
コアとなるコードの解説
以下に、各ファイルでの主要な変更パターンをいくつか示します。
src/pkg/archive/tar/reader_test.go
--- a/src/pkg/archive/tar/reader_test.go
+++ b/src/pkg/archive/tar/reader_test.go
@@ -171,6 +171,7 @@ testLoop:
t.Errorf("test %d: Unexpected error: %v", i, err)
continue
}
+ defer f.Close() // ここで defer が追加された
tr := NewReader(f)
for j, header := range test.headers {
hdr, err := tr.Next()
@@ -191,7 +192,6 @@ testLoop:
if hdr != nil || err != nil {
t.Errorf("test %d: Unexpected entry or error: hdr=%v err=%v", i, hdr, err)
}
- f.Close() // 以前はここで明示的にクローズしていたが、削除された
}
}
os.Open
で開いたファイル f
に対して、すぐに defer f.Close()
が追加されました。これにより、testLoop
内の各イテレーションでファイルが確実に閉じられるようになります。以前の f.Close()
は、ループの途中で continue
された場合に実行されない可能性があったため削除されました。
src/pkg/net/net_test.go
--- a/src/pkg/net/net_test.go
+++ b/src/pkg/net/net_test.go
@@ -75,7 +76,10 @@ func TestShutdownUnix(t *testing.T) {
if err != nil {
t.Fatalf("ListenUnix on %s: %s", tmpname, err)
}
- defer os.Remove(tmpname) // 以前はこれだけだった
+ defer func() { // 匿名関数で複数の defer 処理をまとめる
+ ln.Close() // リスナーのクローズが追加された
+ os.Remove(tmpname)
+ }()
go func() {
c, err := ln.Accept()
net.ListenUnix
で作成されたリスナー ln
に対して、ln.Close()
が defer
されるようになりました。また、一時ファイルの削除 (os.Remove(tmpname)
) とリスナーのクローズを一つの defer
匿名関数でまとめることで、両方の処理が関数終了時に確実に実行されるようにしています。
src/pkg/os/os_test.go
--- a/src/pkg/os/os_test.go
+++ b/src/pkg/os/os_test.go
@@ -526,6 +527,7 @@ func exec(t *testing.T, dir, cmd string, args []string, expect string) {
if err != nil {
t.Fatalf("Pipe: %v", err)
}
+ defer r.Close() // パイプの読み込み側をクローズ
attr := &ProcAttr{Dir: dir, Files: []*File{nil, w, Stderr}}
p, err := StartProcess(cmd, args, attr)
if err != nil {
Pipe()
で作成されたパイプの読み込み側 r
に対して defer r.Close()
が追加されています。これにより、プロセス間通信に使用されるパイプのリソースも適切に解放されます。
これらの変更は、Go言語の defer
ステートメントの慣用的な使用法を示しており、リソース管理のベストプラクティスに従っています。テストコードの堅牢性を高め、リソースリークによる潜在的な問題を排除する上で非常に重要です。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント: https://golang.org/
- Go言語の
defer
ステートメントに関するブログ記事やドキュメント(一般的な情報源)
参考にした情報源リンク
- コミット情報:
/home/orange/Project/comemo/commit_data/16610.txt
- GitHubコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/a00958aac6b4e39248b2604bb1224cc0dec015ae
- Go言語のコードレビューツールへのリンク:
https://golang.org/cl/10391043
(コミットメッセージに記載) - Go言語の
defer
ステートメントに関する一般的な知識 - ファイルディスクリプタに関する一般的なオペレーティングシステムの知識
- Web検索: "Go issue 5593" (直接的な関連情報は見つからず)