Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 16671] ファイルの概要

このコミットは、Goランタイムのソースコード、具体的には src/pkg/runtime/proc.c ファイルに対する変更です。このファイルは、Goランタイムのプロセッサ管理(P)、スケジューラ、およびゴルーチン(goroutine)のライフサイクルに関連する低レベルな処理を扱うC言語のソースファイルです。

コミット

commit ab1270bcfc2410c8b4637a2e3b530a8f51494de1
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date:   Thu Jun 27 22:43:30 2013 -0700

    runtime: remove declaration of function that does not exist
    
    R=golang-dev, dsymonds
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/10730045

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/ab1270bcfc2410c8b4637a2e3b530a8f51494de1

元コミット内容

このコミットは、Goランタイムの src/pkg/runtime/proc.c ファイルから、存在しない関数の宣言を削除するものです。具体的には、static void goidle(void); という行が削除されています。

変更の背景

この変更の背景は、コードの正確性と保守性の向上にあります。src/pkg/runtime/proc.c 内に goidle という関数の前方宣言(declaration)が存在していましたが、実際にはその関数がどこにも定義(definition)されていませんでした。

C言語では、関数を使用する前にその存在をコンパイラに知らせるために前方宣言を行うのが一般的です。しかし、宣言だけが存在し、実際の定義がない場合、コンパイル時に警告(warning)が発生したり、リンケージエラー(linkage error)の原因となったりする可能性があります。たとえ警告で済む場合でも、それはコードベースのノイズとなり、本当に重要な警告を見落とす原因にもなりかねません。

このコミットは、このような不必要な、かつ誤解を招く可能性のある宣言を削除することで、コードベースをクリーンに保ち、コンパイラの警告を減らし、将来的な開発者がコードを理解しやすくすることを目的としています。これは、Goプロジェクトがコード品質と保守性を重視していることの表れと言えます。

前提知識の解説

Goランタイム (Go Runtime)

Goランタイムは、Goプログラムの実行を管理する非常に重要な部分です。これには、ガベージコレクション(GC)、ゴルーチン(goroutine)のスケジューリング、メモリ管理、チャネル(channel)操作、システムコール(syscall)の抽象化など、Go言語の並行処理モデルと効率的な実行を支える多くの低レベルな機能が含まれます。Goランタイムの多くはC言語とGo言語(以前はC言語とアセンブリ言語が主でした)で書かれており、オペレーティングシステムと直接対話してリソースを管理します。

src/pkg/runtime/proc.c

このファイルは、Goランタイムの中でも特にプロセッサ(P)とゴルーチン(G)のスケジューリングに関連するC言語のコードを含んでいます。Goのスケジューラは、M(Machine、OSスレッド)、P(Processor、論理プロセッサ)、G(Goroutine)という3つのエンティティで構成されるM:P:Gモデルを採用しています。proc.c は、これらのエンティティ間の連携、ゴルーチンの生成、実行、停止、そしてOSスレッドへのマッピングといった、Goの並行処理の根幹をなすロジックを実装しています。

C言語における関数の宣言と定義

  • 宣言 (Declaration): 関数が存在することをコンパイラに知らせるものです。関数の名前、戻り値の型、引数の型と数(シグネチャ)を指定します。これにより、コンパイラはその関数が後で定義されることを期待し、その関数が呼び出されたときに型チェックを行うことができます。例: static void goidle(void);
  • 定義 (Definition): 関数の実際の処理内容(実装)を提供するものです。宣言で指定されたシグネチャに加えて、関数の本体(ブロック)が含まれます。 このコミットでは、宣言はあったものの、対応する定義が存在しなかった goidle 関数が問題となっていました。

goidle について

コミットメッセージや変更内容から、goidle という関数がGoランタイムの内部で「アイドル状態」に関連する何らかの処理を意図していた可能性が示唆されます。しかし、このコミットの時点では、その関数は実装されていませんでした。Goランタイムにおける「アイドル」の概念は、ゴルーチンが実行されていない状態、スケジューラが新しい作業を探している状態、またはガベージコレクタがアイドル状態であることなど、様々な文脈で使われます。Web検索の結果からも、_Gidle というゴルーチン状態や、runtime.WaitIdle() のような提案が過去にあったことが示されており、ランタイムのアイドル状態を管理する概念自体は存在しますが、goidle という特定の関数が実装されたことはなかったようです。このコミットは、その未実装の関数の宣言が残っていたことに対するクリーンアップです。

技術的詳細

C言語のコンパイルプロセスにおいて、関数が宣言されているにもかかわらず定義されていない場合、通常はリンカがエラーを報告します。これは「未解決の外部シンボル(unresolved external symbol)」エラーとして知られています。しかし、このケースでは static キーワードが使用されています。

static キーワードの重要性

C言語において、関数の宣言に static キーワードが付いている場合、その関数は宣言されたファイル(または翻訳単位)内でのみ可視となります。つまり、他のファイルからはその関数を呼び出すことができません。この「内部リンケージ(internal linkage)」の特性により、static な関数が定義されていない場合でも、その関数がファイル内で一度も呼び出されていなければ、リンカはエラーを報告しないことがあります。コンパイラは警告を出すかもしれませんが、ビルド自体は成功する可能性があります。

このコミットの状況はまさにこれに該当すると考えられます。static void goidle(void); と宣言されていましたが、proc.c の中で goidle が呼び出される箇所がなかったため、ビルドエラーにはならず、単に不必要な宣言として残っていたのでしょう。

このような宣言が残っていることの技術的な影響は以下の通りです。

  1. コンパイラの警告: 多くのCコンパイラは、宣言されているが定義されていない static 関数に対して警告を発します。これはビルドログを煩雑にし、開発者が本当に重要な警告を見落とす原因となります。
  2. コードの誤解: 将来の開発者がコードを読んだ際に、goidle という関数が宣言されているのを見て、その機能を探したり、なぜ使われていないのか疑問に思ったりする可能性があります。これは時間の無駄であり、コードベースの理解を妨げます。
  3. 保守性の低下: 不要なコードは、コードベースのサイズをわずかに増やし、全体的な保守性を低下させます。定期的なクリーンアップは、健全なプロジェクトを維持するために不可欠です。

このコミットは、これらの問題を解決し、Goランタイムのコードベースの品質と可読性を向上させるための、小さくとも重要な改善です。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/pkg/runtime/proc.c
+++ b/src/pkg/runtime/proc.c
@@ -87,7 +87,6 @@ static void procresize(int32);
 static void acquirep(P*);
 static P* releasep(void);
 static void newm(void(*)(void), P*);
-static void goidle(void);
 static void stopm(void);
 static void startm(P*, bool);
 static void handoffp(P*);

コアとなるコードの解説

このコミットのコアとなる変更は、src/pkg/runtime/proc.c ファイルの89行目(変更前)にあった以下の1行を削除することです。

-static void goidle(void);

これは、goidle という名前の関数が、引数を取らず、何も返さない(void)、そしてそのファイル内でのみ使用される(static)ことを宣言する行でした。この行が削除されたことで、proc.c は存在しない関数の宣言を持たなくなり、より正確でクリーンな状態になりました。

この変更は非常にシンプルですが、コードの品質と保守性に対するGo開発チームの細やかな配慮を示しています。

関連リンク

参考にした情報源リンク