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[インデックス 16699] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の抽象構文木(AST)を定義する go/ast パッケージ内の FuncDecl 構造体の Type フィールドに関するドキュメンテーションを改善するものです。具体的には、FuncDeclType フィールドが何を表すのかについて、より明確な説明が追加されています。

コミット

commit 1f954e5c45497a1c3f03ce4a87208ed9da1d29d6
Author: David Symonds <dsymonds@golang.org>
Date:   Wed Jul 3 08:16:08 2013 +1000

    go/ast: improve doc for FuncDecl's Type field.
    
    R=gri, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/10679047

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/1f954e5c45497a1c3f03ce4a87208ed9da1d29d6

元コミット内容

go/ast: improve doc for FuncDecl's Type field.

変更の背景

この変更の背景には、Go言語のコンパイラやツールが内部的に使用する抽象構文木(AST)の構造に関するドキュメンテーションの明確化があります。go/ast パッケージは、Goのソースコードを解析してその構造を表現するためのデータ構造を提供します。FuncDecl は関数宣言(またはメソッド宣言)を表すASTノードであり、その Type フィールドは関数の型情報(引数、戻り値、func キーワードの位置など)を保持します。

元のドキュメンテーションでは、Type フィールドが「position of Func keyword, parameters and results」と記述されていましたが、これは FuncType が単に func キーワードの位置だけでなく、関数シグネチャ全体(パラメータと結果)を表現するものであることを十分に伝えていませんでした。この曖昧さを解消し、go/ast パッケージを利用する開発者が FuncDecl.Type の役割をより正確に理解できるようにするために、ドキュメンテーションの改善が行われました。

このようなドキュメンテーションの改善は、Go言語のツールチェイン開発者や、Goのコードを静的解析するツール(リンター、フォーマッター、コード生成ツールなど)を開発する人々にとって非常に重要です。正確なドキュメンテーションは、APIの誤用を防ぎ、開発効率を向上させます。

前提知識の解説

抽象構文木 (Abstract Syntax Tree, AST)

抽象構文木(AST)は、プログラミング言語のソースコードの抽象的な構文構造を木構造で表現したものです。コンパイラやインタプリタは、ソースコードを直接処理するのではなく、まず字句解析(トークン化)と構文解析(パース)を行い、その結果としてASTを生成します。ASTは、ソースコードの意味的な構造を保持しつつ、具体的な構文の詳細(例えば、括弧やセミコロンなど)を抽象化します。これにより、コンパイラの最適化、コード生成、静的解析、リファクタリングツールなど、様々なプログラミングツールがソースコードを効率的に操作できるようになります。

Go言語では、標準ライブラリの go/ast パッケージがGoプログラムのASTを表現するためのデータ構造を提供しています。

go/ast パッケージ

go/ast パッケージは、Go言語のソースコードを解析して得られるASTのノード型を定義しています。このパッケージは、Goのコンパイラ、go fmtgo vet などの公式ツールだけでなく、サードパーティ製の静的解析ツールやコード生成ツールでも広く利用されています。

go/ast パッケージの主要な構造体には以下のようなものがあります。

  • File: 単一のGoソースファイル全体を表すASTのルートノード。
  • Decl: 宣言(トップレベルの宣言、関数宣言、型宣言、変数宣言など)を表すインターフェース。
  • FuncDecl: 関数宣言(またはメソッド宣言)を表す構造体。関数名、レシーバ(メソッドの場合)、関数型(シグネチャ)、関数本体などの情報を含みます。
  • FuncType: 関数型(ファンクションシグネチャ)を表す構造体。関数のパラメータリストと結果リスト、そして func キーワードの位置情報を含みます。
  • Ident: 識別子(変数名、関数名など)を表す構造体。
  • Expr: 式を表すインターフェース。
  • Stmt: ステートメント(文)を表すインターフェース。

FuncDecl 構造体

go/ast パッケージにおける FuncDecl 構造体は、Goのソースコードにおける関数宣言(例: func foo() {})やメソッド宣言(例: func (r Receiver) bar() {})を表現します。その定義は以下のようになっています(関連部分のみ抜粋)。

type (
	// A FuncDecl represents a function or method declaration.
	FuncDecl struct {
		Doc  *CommentGroup // associated documentation; or nil
		Recv *FieldList    // receiver (methods); or nil (functions)
		Name *Ident        // function/method name
		Type *FuncType     // function signature: parameters, results, and position of "func" keyword
		Body *BlockStmt    // function body; or nil (forward declaration)
	}
)
  • Doc: 関数に関連付けられたコメント(ドキュメンテーションコメント)を保持します。
  • Recv: メソッドの場合、レシーバの情報を保持します。関数の場合は nil です。
  • Name: 関数またはメソッドの名前を表す識別子(*ast.Ident)です。
  • Type: 関数の型(シグネチャ)を表す *ast.FuncType です。このコミットでドキュメンテーションが変更されたフィールドです。
  • Body: 関数の本体を表す *ast.BlockStmt です。前方宣言(forward declaration)の場合は nil になります。

FuncType 構造体

FuncType 構造体は、関数のシグネチャ、つまりパラメータと結果のリスト、そして func キーワードの位置情報をカプセル化します。

type (
	// A FuncType node represents a function type.
	FuncType struct {
		Func    token.Pos  // position of "func" keyword (token.NoPos if there is no "func" keyword)
		Params  *FieldList // parameters
		Results *FieldList // results
	}
)
  • Func: func キーワードの開始位置(token.Pos型)を保持します。
  • Params: 関数のパラメータリスト(*ast.FieldList)を保持します。
  • Results: 関数の結果リスト(*ast.FieldList)を保持します。

このコミットの変更は、FuncDeclType フィールドのコメントが、この FuncType が単なる func キーワードの位置だけでなく、パラメータと結果を含む完全な関数シグネチャを表現していることをより明確に伝えるように修正されたものです。

技術的詳細

このコミットは、Go言語の go/ast パッケージにおける FuncDecl 構造体の Type フィールドのコメントを修正するものです。技術的な変更はコードの振る舞いには影響せず、ドキュメンテーションのみの変更です。しかし、このドキュメンテーションの改善は、go/ast パッケージのAPIを理解し、正しく利用するために非常に重要です。

元のコメント: Type *FuncType // position of Func keyword, parameters and results

修正後のコメント: Type *FuncType // function signature: parameters, results, and position of "func" keyword

この変更のポイントは以下の通りです。

  1. 「function signature」という用語の導入: FuncType が単なる要素の集合ではなく、「関数シグネチャ」という概念全体を表現していることを明確にしています。関数シグネチャは、関数の型を定義する上で不可欠な要素(パラメータと戻り値)の組み合わせです。
  2. 要素の順序の変更: 元のコメントでは「position of Func keyword, parameters and results」と、func キーワードの位置が最初に挙げられていました。しかし、FuncType の主要な役割はパラメータと結果によって定義される関数シグネチャそのものを表現することです。修正後は「parameters, results, and position of "func" keyword」となり、より本質的な要素が先に記述され、func キーワードの位置は補足情報として扱われるようになりました。これは FuncType の構造(ParamsResults が主要なフィールドであること)と役割により合致しています。
  3. 明確性の向上: この修正により、FuncDecl.TypeFuncType 型であり、それが関数のパラメータ、結果、そして func キーワードの位置を含む完全な関数シグネチャを表すことが、より直感的に理解できるようになりました。これにより、go/ast を利用する開発者が FuncDecl ノードから関数の型情報を抽出する際に、このフィールドが提供する情報の範囲を正確に把握できるようになります。

このようなドキュメンテーションの正確性は、特にGoのような静的型付け言語において、型システムを扱うツールを開発する上で不可欠です。ASTを操作する際には、各ノードやフィールドがどのような意味を持ち、どのような情報を含んでいるかを正確に理解している必要があります。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/pkg/go/ast/ast.go ファイルの1箇所のみです。

--- a/src/pkg/go/ast/ast.go
+++ b/src/pkg/go/ast/ast.go
@@ -920,7 +920,7 @@ type (
 		Doc  *CommentGroup // associated documentation; or nil
 		Recv *FieldList    // receiver (methods); or nil (functions)
 		Name *Ident        // function/method name
-		Type *FuncType     // position of Func keyword, parameters and results
+		Type *FuncType     // function signature: parameters, results, and position of "func" keyword
 		Body *BlockStmt    // function body; or nil (forward declaration)
 	}
 )

コアとなるコードの解説

この変更は、FuncDecl 構造体の Type フィールドに付随するコメントを修正しています。

元のコードでは、Type フィールドのコメントは以下のようになっていました。 Type *FuncType // position of Func keyword, parameters and results

これは、Type フィールドが FuncType 型であり、それが func キーワードの位置、パラメータ、そして結果を含むことを示していました。しかし、この表現は FuncType が「関数シグネチャ」という包括的な概念を表現していることを十分に強調していませんでした。

修正後のコードでは、コメントが以下のように変更されました。 Type *FuncType // function signature: parameters, results, and position of "func" keyword

この変更により、Type フィールドが単なる要素の羅列ではなく、「関数シグネチャ」という明確な概念を表すことが強調されました。また、FuncType の主要な構成要素である「parameters, results」が最初に挙げられ、その後に「position of "func" keyword」が続くことで、情報の重要度と構造がより適切に表現されています。

この修正は、コードの動作には一切影響を与えませんが、go/ast パッケージのAPIドキュメンテーションの品質を向上させ、パッケージを利用する開発者にとっての理解を深めることに貢献します。

関連リンク

参考にした情報源リンク