[インデックス 16714] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の配布ツール(misc/dist
)において、Goツアー(gotour
)のビルド後にGOPATHディレクトリ内に生成される一時ファイルをクリーンアップする機能を追加するものです。これにより、ビルドプロセスによってGOPATHが不要なファイルで汚染されるのを防ぎ、Issue #5503で報告された問題を解決します。
コミット
- コミットハッシュ:
47a89693e98dfe1e81be10fce769f992483746b3
- Author: Andrew Gerrand adg@golang.org
- Date: Mon Jul 8 11:45:33 2013 +1000
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/47a89693e98dfe1e81be10fce769f992483746b3
元コミット内容
misc/dist: clean files from GOPATH after building tour
Fixes #5503.
R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/10989043
変更の背景
この変更の背景には、GoツアーのビルドプロセスがGOPATH環境変数で指定されたディレクトリ内に一時的なファイルやディレクトリ(bin
, pkg
, src
など)を作成し、それらがビルド完了後も残ってしまうという問題がありました。これは、特に自動化されたビルドシステムやクリーンな環境を維持したい開発者にとって望ましくない挙動でした。
コミットメッセージにある「Fixes #5503」は、この問題がGoのIssueトラッカーで報告されていたことを示しています。具体的なIssue #5503の内容は、現在のGoのIssueトラッカーからは直接確認できませんが、コミット内容から推測するに、GoツアーのビルドがGOPATHを汚染するという報告であったと考えられます。このコミットは、そのGOPATHのクリーンアップを自動的に行うことで、この問題を解決することを目的としています。
前提知識の解説
GOPATH
GOPATH
は、Go言語のワークスペースのルートディレクトリを指定する環境変数です。Go 1.11以前では、Goのソースコード、コンパイルされたパッケージ、実行可能バイナリがこのGOPATHディレクトリ構造内に配置されるのが一般的でした。具体的には、以下のサブディレクトリが含まれます。
src
: ソースコードが配置されます(例:github.com/user/repo
)。pkg
: コンパイルされたパッケージファイル(.a
ファイルなど)が配置されます。bin
: コンパイルされた実行可能バイナリが配置されます。
Goモジュールが導入されたGo 1.11以降では、GOPATHの役割は以前ほど中心的ではなくなりましたが、一部のツールやレガシーなビルドプロセスでは依然としてGOPATHが利用されることがあります。
Go Tour (gotour)
Go Tourは、Go言語の基本的な概念と構文をインタラクティブに学ぶことができるウェブベースのチュートリアルです。Goの配布物の一部として提供されており、go get golang.org/x/tour/gotour
コマンドなどで取得・ビルドしてローカルで実行できます。
go get
コマンド
go get
コマンドは、指定されたパッケージとその依存関係をダウンロードし、コンパイルしてインストールするために使用されます。通常、ソースコードはGOPATHのsrc
ディレクトリに、コンパイルされたバイナリはGOPATHのbin
ディレクトリに配置されます。
defer
ステートメント
Go言語のdefer
ステートメントは、関数がリターンする直前に実行される関数呼び出しをスケジュールするために使用されます。defer
された関数は、その関数がパニックを起こした場合でも実行されるため、リソースのクリーンアップ(ファイルのクローズ、ロックの解放など)に非常に役立ちます。複数のdefer
ステートメントがある場合、それらはLIFO(後入れ先出し)の順序で実行されます。
os.RemoveAll
関数
os
パッケージは、オペレーティングシステムとのインタフェースを提供します。os.RemoveAll(path string)
関数は、指定されたパスにあるファイルまたはディレクトリ(およびその中のすべてのコンテンツ)を再帰的に削除します。エラーが発生した場合でも、可能な限り多くのファイルを削除しようとします。
filepath.Join
関数
filepath
パッケージは、ファイルパスを操作するための関数を提供します。filepath.Join(elem ...string)
関数は、指定された要素をプラットフォーム固有のパス区切り文字を使用して結合し、クリーンなパスを返します。これにより、OSに依存しないパスの構築が可能になります。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、defer
ステートメントを利用して、tour()
関数が終了する際にGOPATH内の不要なファイルを確実に削除することです。
tour()
関数はGoツアーをビルドするプロセスをカプセル化しています。この関数内でgo get
コマンドが実行され、Goツアーのソースコードがダウンロードされ、バイナリがビルドされます。この過程で、GOPATH配下のbin
, pkg
, src
ディレクトリが使用され、一時的なファイルが生成されます。
追加されたdefer
ブロックは、tour()
関数が正常に完了したか、あるいはエラーで中断されたかに関わらず、常に実行されます。defer
ブロック内では、[]string{"bin", "pkg", "src"}
というスライスをイテレートし、それぞれのディレクトリ名に対して以下の処理を行います。
filepath.Join(b.gopath, d)
: ビルド構造体b
が持つGOPATHのパスと、現在のディレクトリ名(bin
,pkg
,src
のいずれか)を結合し、完全なパスを生成します。os.RemoveAll(...)
: 生成されたパスにあるディレクトリとその内容をすべて削除します。
これにより、Goツアーのビルドが完了した後、GOPATHがビルドプロセスによって生成された一時ファイルで汚染されることなく、クリーンな状態に保たれるようになります。これは、特にCI/CD環境や、複数のGoプロジェクトを扱う開発者にとって、GOPATHの管理を簡素化し、ディスクスペースの無駄をなくす上で重要な改善です。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/misc/dist/bindist.go
+++ b/misc/dist/bindist.go
@@ -409,6 +409,13 @@ func (b *Build) Do() error {
}
func (b *Build) tour() error {
+ defer func() {
+ // Clean work files from GOPATH directory.
+ for _, d := range []string{"bin", "pkg", "src"} {
+ os.RemoveAll(filepath.Join(b.gopath, d))
+ }
+ }()
+
// go get the gotour package.
_, err := b.run(b.gopath, filepath.Join(b.root, "bin", "go"), "get", *tourPath+"/gotour")
if err != nil {
コアとなるコードの解説
追加されたコードは、bindist.go
ファイルのtour()
関数内にあります。
func (b *Build) tour() error {
defer func() {
// Clean work files from GOPATH directory.
for _, d := range []string{"bin", "pkg", "src"} {
os.RemoveAll(filepath.Join(b.gopath, d))
}
}()
// go get the gotour package.
_, err := b.run(b.gopath, filepath.Join(b.root, "bin", "go"), "get", *tourPath+"/gotour")
if err != nil {
return err
}
// ... (rest of the function)
}
-
defer func() { ... }()
:- これは無名関数を
defer
キーワードを使って遅延実行するようにスケジュールしています。この無名関数は、tour()
関数がリターンする直前に実行されます。 - これにより、
tour()
関数が正常に完了した場合でも、エラーで途中で終了した場合でも、必ずクリーンアップ処理が実行されることが保証されます。
- これは無名関数を
-
// Clean work files from GOPATH directory.
- 追加されたコードの目的を説明するコメントです。
-
for _, d := range []string{"bin", "pkg", "src"} { ... }
:"bin"
,"pkg"
,"src"
という文字列のスライスをループ処理します。これらはGOPATH内に作成される可能性のある主要なディレクトリです。
-
os.RemoveAll(filepath.Join(b.gopath, d))
:- ループの各イテレーションで、以下の処理が行われます。
b.gopath
:Build
構造体のフィールドで、Goツアーのビルドに使用されるGOPATHのルートパスを保持しています。d
: 現在のループ変数で、"bin"
,"pkg"
,"src"
のいずれかです。filepath.Join(b.gopath, d)
:b.gopath
とd
を結合して、例えば/path/to/gopath/bin
のような完全なディレクトリパスを生成します。os.RemoveAll(...)
: 生成されたパスにあるディレクトリとその内容をすべて削除します。これにより、GoツアーのビルドによってGOPATH内に生成された一時ファイルやディレクトリがクリーンアップされます。
- ループの各イテレーションで、以下の処理が行われます。
この変更により、Goツアーのビルドプロセスがよりクリーンになり、GOPATH環境の管理が容易になりました。
関連リンク
- Go CL (Code Review) リンク: https://golang.org/cl/10989043
参考にした情報源リンク
この解説は、提供されたコミット情報とGo言語に関する一般的な知識に基づいて作成されました。特定の外部情報源への直接的な参照はありません。