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[インデックス 16780] ファイルの概要

このコミットは、Goランタイムのハッシュマップ(hashmap.c)コードにおける軽微なクリーンアップを目的としています。具体的には、ハッシュマップの挿入処理における初期化ロジックが改善され、0による初期化からnilによる初期化へと変更されています。これにより、コードの意図がより明確になり、Goのポインタとゼロ値の概念に沿った形に修正されています。

コミット

commit 1d55685e261a6c53403996aa31b1d147ee0090fb
Author: Dmitriy Vyukov <dvyukov@google.com>
Date:   Tue Jul 16 19:51:18 2013 +0400

    runtime: minor cleanup of hashmap code
    
    R=golang-dev, iant
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/11357043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/1d55685e261a6c53403996aa31b1d147ee0090fb

元コミット内容

runtime: minor cleanup of hashmap code

R=golang-dev, iant
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/11357043

変更の背景

このコミットは、Goランタイムのハッシュマップ実装におけるコードの可読性と正確性を向上させるためのものです。Go言語では、ポインタやインターフェースなどの参照型は、初期値としてnilを持ちます。一方、数値型は0を初期値とします。以前のコードでは、ポインタ型の変数であるinserti0で初期化されていました。これはC言語の文脈では有効な表現ですが、Goのセマンティクスにおいてはnilを使用する方がより適切であり、コードの意図を明確に伝えます。

この変更は、機能的なバグ修正というよりも、コードの慣用的な表現と整合性を高めるための「クリーンアップ」として位置づけられます。Goのランタイムコードは、Go言語自体のセマンティクスを厳密に反映しているべきであり、このような細かな修正が全体の品質向上に寄与します。

前提知識の解説

Goランタイム

Goランタイムは、Goプログラムの実行を管理する低レベルのコンポーネント群です。これには、ガベージコレクタ、スケジューラ、メモリ管理、プリミティブ型の実装(マップ、スライスなど)が含まれます。Goランタイムは、Go言語で書かれたコードと、C言語やアセンブリ言語で書かれた低レベルのコードが混在しており、パフォーマンスと効率を最大化するように設計されています。

ハッシュマップ(map型)

Go言語のmap型は、キーと値のペアを格納するための組み込みのデータ構造です。内部的にはハッシュテーブルとして実装されており、キーのハッシュ値に基づいて値を効率的に検索、挿入、削除できます。Goランタイムのhashmap.c(現在はhashmap.goなどに移行)は、このmap型の基盤となるロジックを提供していました。

nil0

Go言語において、nilは参照型のゼロ値(デフォルト値)を表します。これには、ポインタ、スライス、マップ、チャネル、関数、インターフェースなどが含まれます。nilは「何も指していない」状態や「初期化されていない」状態を示します。一方、0は数値型のゼロ値であり、整数型や浮動小数点型に適用されます。C言語ではポインタを0で初期化することが一般的ですが、Goではnilを使用することが推奨されます。

uintptr

uintptrは、ポインタを保持するのに十分な大きさの符号なし整数型です。これは、ポインタ演算や、ポインタを整数として扱う必要がある低レベルのコードで主に使用されます。sizeof(uintptr)*8は、uintptr型のビット数を表します。

技術的詳細

このコミットの主要な変更点は、src/pkg/runtime/hashmap.cファイル内のhash_insert関数におけるinserti変数の初期化です。

変更前:

inserti = 0;

変更後:

inserti = nil;

insertiは、ハッシュマップへの要素挿入時に使用されるインデックスまたはポインタを保持する変数であると推測されます。GoのランタイムコードはC言語で書かれていますが、Goのセマンティクスに沿った設計が求められます。C言語ではNULL(または0)がヌルポインタを表しますが、Goの文脈ではnilが参照型のゼロ値を表すため、ポインタとして使用される可能性のある変数にはnilを明示的に使用する方が適切です。

また、reflect·mapiterkey関数においても、不要なkey = 0;の行が削除されています。これは、res == nilのチェック後にkey0に設定されるロジックがありましたが、res != nilの場合にのみkeyが設定されるように変更されたため、冗長な初期化が削除されたものです。これにより、コードの簡潔性が向上しています。

この変更は、Goランタイムのコードベース全体でGoの慣用的な表現を統一し、将来的なメンテナンス性を向上させるための継続的な取り組みの一環と考えられます。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/pkg/runtime/hashmap.c
+++ b/src/pkg/runtime/hashmap.c
@@ -610,7 +610,7 @@ hash_insert(MapType *t, Hmap *h, void *key, void *value)
 	top = hash >> (sizeof(uintptr)*8 - 8);
 	if(top == 0)
 		top = 1;
-	inserti = 0;
+	inserti = nil;
 	insertk = nil;
 	insertv = nil;
 	while(true) {
@@ -1485,12 +1485,8 @@ reflect·mapiterkey(struct hash_iter *it, uintptr key, bool ok)
 	key = 0;
 	ok = false;
 	res = it->key;
-	if(res == nil) {
-		key = 0;
-		ok = false;
-	} else {
+	if(res != nil) {
 		tkey = it->t->key;
-		key = 0;
 		if(tkey->size <= sizeof(key))
 			tkey->alg->copy(tkey->size, (byte*)&key, res);
 		else

コアとなるコードの解説

hash_insert関数内の変更

  • inserti = 0; から inserti = nil; への変更:
    • insertiは、ハッシュマップへの新しい要素の挿入位置を示す変数です。GoのランタイムはC言語で書かれていますが、Goのセマンティクスに沿って設計されています。Goでは、ポインタや参照型のゼロ値はnilです。C言語の文脈では0がヌルポインタとして機能しますが、Goのコードベースではnilを使用することで、変数がポインタまたは参照型であることをより明確に示し、コードの意図を正確に伝えます。これは機能的な変更ではなく、コードの慣用的な表現と整合性を高めるためのクリーンアップです。

reflect·mapiterkey関数内の変更

  • 削除された行:
    if(res == nil) {
        key = 0;
        ok = false;
    } else {
        tkey = it->t->key;
        key = 0; // この行が削除された
    
    • reflect·mapiterkey関数は、リフレクションを通じてマップのキーをイテレートする際に使用される関数です。
    • 変更前は、resnilでない場合(つまり、有効なキーが存在する場合)でも、key = 0;という行が実行されていました。これは冗長であり、tkey->alg->copyによって正しいキーの値がkeyにコピーされるため、この初期化は不要でした。
    • この行を削除することで、コードがより簡潔になり、意図しない初期化を防ぎます。

これらの変更は、Goランタイムのコードベース全体でGoの慣用的な表現を統一し、将来的なメンテナンス性を向上させるための継続的な取り組みの一環と考えられます。

関連リンク

参考にした情報源リンク