Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 16881] ファイルの概要

このコミットは、Goコンパイラ(gc)におけるWindows環境でのラインディレクティブ処理のバグ修正に関するものです。具体的には、ソースファイル内の行番号情報(ラインディレクティブ)が正しく処理されない問題に対処しています。

コミット

commit 32a3ce67993fab5d0a46dd697d0fbd5b2c4e306e
Author: Alex Brainman <alex.brainman@gmail.com>
Date:   Fri Jul 26 13:38:24 2013 +1000

    gc: fix line directive processing on windows
    
    This change should have been part of 5671737303a0.
    
    Fixes #5904
    
    R=golang-dev, rsc
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/11894043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/32a3ce67993fab5d0a46dd697d0fbd5b2c4e306e

元コミット内容

このコミットは、Goコンパイラ(gc)のsrc/cmd/gc/obj.cファイルにおいて、Windows環境でのラインディレクティブ処理に関するバグを修正するものです。コミットメッセージによると、この変更は以前のコミット 5671737303a0 の一部として含まれるべきだったとされています。また、Fixes #5904 と記載されていますが、これはGoの公式Issueトラッカーにおける特定のIssueを参照している可能性があります。

変更の背景

Goコンパイラは、ソースコードをコンパイルする際に、デバッグ情報やエラーメッセージのために元のソースファイルの行番号情報を保持する必要があります。この情報は「ラインディレクティブ」として知られています。Windows環境では、パスの表現(ドライブレターなど)がUnix系システムとは異なるため、ラインディレクティブの処理に特有の問題が発生することがあります。

このコミットの背景には、GoコンパイラがWindows上で生成するオブジェクトファイルやデバッグ情報において、ソースファイルのパスや行番号が正しく解決されない問題があったと考えられます。特に、相対パスと絶対パスの扱い、およびドライブレターを含むパスの処理が複雑さを増していました。コミットメッセージにある This change should have been part of 5671737303a0. という記述から、この修正が、以前のコミットで導入された、または修正された機能に関連していることが示唆されます。おそらく、そのコミットで導入された変更が、特定の条件下(特にWindows環境での相対パスの扱い)でラインディレクティブの誤った処理を引き起こしたか、あるいはそのコミットで意図された修正が不完全であったため、この追加修正が必要になったと推測されます。

前提知識の解説

  • Goコンパイラ (gc): Go言語の公式コンパイラです。ソースコードを機械語に変換する役割を担います。src/cmd/gc ディレクトリにそのソースコードが存在します。
  • ラインディレクティブ (Line Directive): コンパイラがソースコードを処理する際に、元のソースファイルのファイル名と行番号を追跡するための指示です。これは主にデバッグ情報やコンパイルエラーメッセージの生成に使用されます。例えば、C言語のプリプロセッサにおける #line ディレクティブのようなものです。Goコンパイラも内部的に同様のメカニズムを持っています。
  • obj.c: Goコンパイラのバックエンドの一部であり、オブジェクトファイル(アセンブリコードやデバッグ情報など)の生成に関連する処理を行うC言語のソースファイルです。
  • Hist 構造体: Goコンパイラの内部で、ソースファイルの履歴(ファイル名、行番号、オフセットなど)を管理するために使用される構造体です。h->offset は、ソースファイル内の特定の行の開始位置からのオフセット(バイト数)を示す可能性があります。
  • Windowsのパス表現: Windowsでは、ドライブレター(例: C:)から始まる絶対パスや、相対パス、UNCパスなど、Unix系システムとは異なるパス表現が用いられます。特に、ドライブレターの存在は、パスの解析において特別な考慮を必要とします。
  • pathname[1] == ':': これは、パス文字列の2文字目がコロン(:)であるかどうかをチェックする条件です。Windowsの絶対パス(例: C:/path/to/file.go)では、ドライブレターの直後にコロンが来ます。
  • tolowerrune: 文字を小文字に変換する関数です。パスの比較において大文字・小文字を区別しないようにするために使用されます。

技術的詳細

このコミットは、src/cmd/gc/obj.c 内の outwinname 関数における条件式を修正しています。outwinname 関数は、Windows環境においてファイル名をオブジェクトファイルに出力する際に使用されると考えられます。

元のコードでは、以下の条件式がありました。

if(h->offset == 0 && pathname && pathname[1] == ':') {

この条件は、「h->offset0 であり、かつ pathname が存在し、かつ pathname がドライブレターを含む絶対パスである場合」に真となります。h->offset == 0 は、ファイルの先頭(または特定のセクションの先頭)からのオフセットが0であることを意味します。

しかし、この条件では、h->offset0 ではない場合(つまり、ファイルの先頭以外の行を参照している場合)に、ドライブレターを含む絶対パスの処理が正しく行われない可能性がありました。ラインディレクティブは、ファイルの任意の行を参照するため、h->offset0 以外である場合も考慮する必要があります。

修正後のコードは以下の通りです。

if(h->offset >= 0 && pathname && pathname[1] == ':') {

この変更により、条件式は「h->offset0 以上であり(つまり、有効なオフセットであり)、かつ pathname が存在し、かつ pathname がドライブレターを含む絶対パスである場合」に真となります。これにより、ファイルのどの位置の行であっても、Windowsの絶対パスが正しく処理されるようになります。

この修正は、Goコンパイラが生成するデバッグ情報やエラーメッセージにおいて、Windows環境でのソースファイルのパスと行番号の正確性を保証するために重要です。特に、#line ディレクティブなどによってソースファイルの行番号が変更された場合や、インクルードされたファイル内の行を参照する場合に、この修正が影響を与える可能性があります。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/cmd/gc/obj.c ファイルの1箇所のみです。

--- a/src/cmd/gc/obj.c
+++ b/src/cmd/gc/obj.c
@@ -124,7 +124,7 @@ outwinname(Biobuf *b, Hist *h, char *ds, char *p)\n  outzfile(b, p+1);\n  } else {\n  // relative name\n- if(h->offset == 0 && pathname && pathname[1] == ':') {\n+ if(h->offset >= 0 && pathname && pathname[1] == ':') {\n  if(tolowerrune(ds[0]) == tolowerrune(pathname[0])) {\n  // using current drive\n  zfile(b, pathname, 3);\t// leading "c:/"\n```

## コアとなるコードの解説

変更された行は、`outwinname` 関数内の条件分岐の一部です。この関数は、Windows環境でファイル名を出力する際に、パスが相対パスであるか絶対パスであるかを判断し、適切に処理するためのロジックを含んでいます。

元のコードの `h->offset == 0` という条件は、`Hist` 構造体が保持するオフセットが0、つまりファイルの先頭からのオフセットが0である場合にのみ、ドライブレター付きの絶対パスの処理を許可していました。これは、例えば、ソースファイルの最初の行を参照する場合などには問題ありませんが、それ以外の行を参照する場合には、この条件が偽となり、ドライブレター付きの絶対パスが正しく処理されない可能性がありました。

修正後の `h->offset >= 0` という条件は、`h->offset` が有効なオフセット(負の値ではない)であれば、ドライブレター付きの絶対パスの処理を許可します。これにより、ソースファイルのどの行を参照している場合でも、Windowsの絶対パスが正しく認識され、処理されるようになります。

この修正は、Goコンパイラが生成するデバッグ情報やエラーメッセージにおいて、Windows環境でのソースファイルのパスと行番号の正確性を保証するために不可欠です。特に、スタックトレースやデバッガがソースコードの正確な位置を指し示すために、このラインディレクティブの正確な処理が求められます。

## 関連リンク

*   Go CL 11894043: [https://golang.org/cl/11894043](https://golang.org/cl/11894043)

## 参考にした情報源リンク

*   Go言語の公式ドキュメント (Goコンパイラに関する詳細な情報は、Goのソースコードリポジトリ内のドキュメントや、Goの設計に関する論文などで確認できます。)
*   C言語のプリプロセッサにおける `#line` ディレクティブに関する一般的な情報。
*   Windowsのファイルパスに関する一般的な情報。