[インデックス 16963] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のドキュメントの一部であるdoc/codewalk/run
スクリプトにおけるgo build
コマンドの呼び出し方法を修正するものです。具体的には、テスト実行中にgo build -o /dev/null
を使用しないように変更し、代わりに通常のビルド後に生成された実行ファイルを明示的に削除するように改められています。
コミット
commit 64cb2cf5ccff1f7f86a481992d6085eddb2db5ad
Author: Robert Daniel Kortschak <dan.kortschak@adelaide.edu.au>
Date: Thu Aug 1 11:03:13 2013 +1000
doc: don't invoke go build with -o /dev/null during test
Fixes #5998.
R=golang-dev, khr
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/12149043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/64cb2cf5ccff1f7f86a481992d6085eddb2db5ad
元コミット内容
doc: don't invoke go build with -o /dev/null during test
このコミットメッセージは、「テスト中にgo build
を-o /dev/null
オプション付きで呼び出さない」という変更の意図を明確に示しています。これは、特定のテスト環境やGoのビルドシステムの挙動において、/dev/null
への出力が問題を引き起こす可能性があったことを示唆しています。
変更の背景
この変更の背景には、Go言語のドキュメントに含まれるコード例(特にurlpoll.go
)をテストまたは検証するスクリプトdoc/codewalk/run
の挙動に関する問題があったと考えられます。
元のコードでは、go build -o /dev/null urlpoll.go
というコマンドが使用されていました。このコマンドは、urlpoll.go
をコンパイルし、その結果生成される実行ファイルを/dev/null
(Unix系システムにおける特殊なデバイスファイルで、書き込まれたデータをすべて破棄する)にリダイレクトすることで、ディスク上に実行ファイルを作成しないように意図されていました。これは、一時的なビルド結果を破棄し、クリーンな状態を保つための一般的な手法です。
しかし、この-o /dev/null
の利用が、特定の環境やGoのビルドツールの内部的な挙動において、予期せぬ問題(例えば、ビルドエラー、スクリプトのハング、またはプラットフォーム間の互換性の問題)を引き起こしていた可能性があります。特に、テストスクリプトのような自動化された環境では、このような予期せぬ挙動はテストの失敗やCI/CDパイプラインの停止につながるため、修正が必要とされました。
コミットメッセージにあるFixes #5998
は、この変更が特定のバグ報告(Issue 5998)を解決するものであることを示しています。残念ながら、Goの古いIssueトラッカーのIssue 5998の詳細は現在の公開情報からは直接確認できませんが、このコミットの内容から、/dev/null
への出力が問題の根本原因であったと推測できます。
前提知識の解説
go build
コマンド
go build
はGo言語のソースコードをコンパイルして実行可能ファイルを生成するためのコマンドです。
- 基本的な使い方:
go build [パッケージ名またはファイル名]
。例えば、go build main.go
とすると、main.go
をコンパイルして、カレントディレクトリにmain
(Windowsではmain.exe
)という名前の実行ファイルを生成します。 -o
オプション:-o
オプションは、生成される実行ファイルの名前とパスを指定するために使用されます。例えば、go build -o myapp main.go
とすると、myapp
という名前の実行ファイルが生成されます。/dev/null
: Unix系オペレーティングシステムにおける特殊なファイルで、「ヌルデバイス」または「ビットバケツ」とも呼ばれます。このファイルに書き込まれたデータはすべて破棄され、読み込もうとすると即座にEOF(End Of File)が返されます。プログラムの出力を無視したい場合によく利用されます。
GoのCodewalks
GoのCodewalksは、Go言語の特定の機能やライブラリの使い方をステップバイステップで解説するインタラクティブなチュートリアルです。これらは通常、Goの公式ドキュメントの一部として提供され、コード例とその説明が含まれています。doc/codewalk/run
のようなスクリプトは、これらのコード例が正しく動作するかを検証するために使用されます。
テストスクリプトとクリーンアップ
ソフトウェア開発において、テストスクリプトはコードの正確性を検証するために不可欠です。テストが実行される際には、一時ファイルや生成物が作成されることがよくあります。これらのテストが完了した後、システムをクリーンな状態に保つために、生成された一時ファイルを削除する「クリーンアップ」処理が重要になります。これにより、次のテスト実行や他の開発作業に影響を与えないようにします。
技術的詳細
このコミットの技術的な変更は、doc/codewalk/run
スクリプト内のgo build
コマンドの呼び出し方に関するものです。
変更前:
go build -o /dev/null urlpoll.go || fail urlpoll
この行は、urlpoll.go
をコンパイルし、その出力(実行ファイル)を/dev/null
にリダイレクトしていました。|| fail urlpoll
は、go build
コマンドが失敗した場合にfail urlpoll
関数を呼び出すことを意味します。
変更後:
go build urlpoll.go || fail urlpoll
rm -f urlpoll
変更後では、まずgo build urlpoll.go
とだけ呼び出しています。これにより、urlpoll.go
がコンパイルされ、カレントディレクトリにurlpoll
という名前の実行ファイルが生成されます(Windows環境ではurlpoll.exe
)。
その直後にrm -f urlpoll
コマンドが追加されています。rm
はファイルを削除するコマンドで、-f
オプションは存在しないファイルに対してエラーを出さずに、また確認なしに削除を実行します。これにより、ビルドによって生成された一時的な実行ファイルが明示的に削除され、クリーンアップが行われます。
この変更の技術的な意味合いは以下の通りです。
/dev/null
の挙動の回避: 特定の環境やGoのビルドツールのバージョンにおいて、-o /dev/null
が期待通りに動作しない、あるいは問題を引き起こすケースがあったため、この特殊なリダイレクト方法を回避しています。例えば、一部のファイルシステムやOSのバージョンでは、/dev/null
への書き込みが通常のファイル作成とは異なる挙動を示し、go build
がそれを適切に扱えない可能性が考えられます。- 明示的なクリーンアップ: 実行ファイルを生成し、その後明示的に削除するという手順は、より堅牢で予測可能な挙動を提供します。ビルドプロセスが正常に完了し、実行ファイルが実際に生成されたことを確認した上で、そのファイルを削除するため、エラーハンドリングが容易になります。また、
/dev/null
へのリダイレクトに依存するよりも、標準的なファイル操作を用いることで、異なるプラットフォーム間での互換性が向上する可能性があります。 - テスト環境の安定性: テストスクリプトにおいて、予期せぬファイル生成やリダイレクトの失敗は、テストの不安定性や誤った結果につながります。この変更により、ビルドとクリーンアップのプロセスがより明確になり、テスト環境の安定性が向上します。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/doc/codewalk/run
+++ b/doc/codewalk/run
@@ -17,5 +17,5 @@ echo foo | go run markov.go | grep foo > /dev/null || fail markov
go run pig.go | grep 'Wins, losses staying at k = 100: 210/990 (21.2%), 780/990 (78.8%)' > /dev/null || fail pig
# sharemem.xml: only build the example, as it uses the network
-go build -o /dev/null urlpoll.go || fail urlpoll
-
+go build urlpoll.go || fail urlpoll
+rm -f urlpoll
コアとなるコードの解説
変更されたのはdoc/codewalk/run
ファイル内の以下の部分です。
-
変更前:
go build -o /dev/null urlpoll.go || fail urlpoll
この行は、urlpoll.go
というGoプログラムをコンパイルし、その結果生成される実行ファイルを/dev/null
に書き込むことを試みていました。これは、実行ファイルをディスク上に残さずにビルドの成功だけを確認したい場合に用いられる手法です。しかし、この方法が何らかの理由で問題を引き起こしていたため、変更されました。 -
変更後:
go build urlpoll.go || fail urlpoll
rm -f urlpoll
まず、go build urlpoll.go
を実行します。これにより、urlpoll.go
がコンパイルされ、カレントディレクトリにurlpoll
という名前の実行ファイルが生成されます。このコマンドが成功した場合(|| fail urlpoll
によってエラーが捕捉されない場合)、次の行のrm -f urlpoll
が実行されます。rm -f urlpoll
は、生成されたurlpoll
実行ファイルを強制的に削除します。-f
オプションは、ファイルが存在しない場合でもエラーを出さず、また削除の確認プロンプトも表示しないため、スクリプトでの自動実行に適しています。
この変更により、ビルドプロセスはより標準的な方法で行われ、その後、生成された一時ファイルが明示的にクリーンアップされるようになりました。これにより、/dev/null
への特殊な出力が引き起こしていた可能性のある問題を回避し、スクリプトの堅牢性と移植性を向上させています。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント: https://go.dev/doc/
go build
コマンドのドキュメント (Go Command Documentation): https://go.dev/cmd/go/- GoのCodewalks (例): https://go.dev/doc/codewalk/
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント
- Unix/Linuxの
rm
コマンドと/dev/null
に関する一般的な知識 - GitHubのコミット履歴とGoプロジェクトの慣習