Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 16967] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のメインリポジトリからmisc/dashboard/appおよびmisc/dashboard/builderディレクトリを削除するものです。これらはGoの継続的インテグレーション(CI)システムの一部であり、ダッシュボードアプリケーションとビルダークライアントが含まれていました。この変更は、これらのコンポーネントをgo.toolsリポジトリへ移行する作業の一環として行われました。具体的には、以下のファイル群が削除されました。

  • misc/dashboard/README
  • misc/dashboard/app/app.yaml
  • misc/dashboard/app/build/build.go
  • misc/dashboard/app/build/handler.go
  • misc/dashboard/app/build/init.go
  • misc/dashboard/app/build/key.go
  • misc/dashboard/app/build/notify.go
  • misc/dashboard/app/build/notify.txt
  • misc/dashboard/app/build/test.go
  • misc/dashboard/app/build/ui.go
  • misc/dashboard/app/build/ui.html
  • misc/dashboard/app/cache/cache.go
  • misc/dashboard/app/static/status_alert.gif
  • misc/dashboard/app/static/status_good.gif
  • misc/dashboard/builder/Makefile
  • misc/dashboard/builder/doc.go
  • misc/dashboard/builder/exec.go
  • misc/dashboard/builder/http.go
  • misc/dashboard/builder/main.go
  • misc/dashboard/builder/vcs.go

コミット

commit acd1b6317d5495024a21233384037a965934046b
Author: Chris Manghane <cmang@golang.org>
Date:   Thu Aug 1 13:27:27 2013 +1000

    misc/dashboard/app, misc/dashboard/builder: delete from main repo; part of move to go.tools
    See also https://golang.org/cl/12180043/
    
    R=adg
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/12213043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/acd1b6317d5495024a21233384037a965934046b

元コミット内容

misc/dashboard/app, misc/dashboard/builder: delete from main repo; part of move to go.tools
See also https://golang.org/cl/12180043/

R=adg
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/12213043

変更の背景

このコミットの主な背景は、Goプロジェクトの継続的インテグレーション(CI)およびビルドシステムを、メインのGo言語リポジトリから独立したgo.toolsリポジトリへと移行することにありました。

Goプロジェクトは、その初期から活発な開発が行われており、コードベースの健全性を維持するために堅牢なCIシステムが不可欠でした。このCIシステムは、Goのソースコードの変更がビルドやテストに悪影響を与えないことを継続的に検証する役割を担っていました。

しかし、CIシステム自体がGoのメインリポジトリ(goリポジトリ)のmisc/dashboardディレクトリ内に存在していたため、以下のような課題がありました。

  1. 依存関係の混在: ビルドシステムとGo言語のソースコードが同じリポジトリ内に存在することで、論理的な分離が曖昧になり、依存関係が複雑になる可能性がありました。
  2. 開発の独立性: CIシステムの開発やデプロイが、Go言語本体の開発サイクルに密接に結びついてしまい、独立した改善や迅速なデプロイが困難になることがありました。
  3. リポジトリの肥大化: miscディレクトリは、Go言語本体とは直接関係のない様々なツールやスクリプトを一時的に格納する場所として使われることが多く、リポジトリ全体のサイズや管理の複雑さに影響を与える可能性がありました。

これらの課題を解決し、GoプロジェクトのCIインフラストラクチャをよりモジュール化し、独立して管理・開発できるようにするために、go.toolsリポジトリへの移行が決定されました。これにより、Go言語本体とCIツール群の役割分担が明確になり、それぞれの開発がより効率的に進められるようになりました。

前提知識の解説

Goの継続的ビルドシステム

継続的ビルドシステム(Continuous Build System)は、ソフトウェア開発において、コードの変更がリポジトリにコミットされるたびに自動的にビルドとテストを実行するシステムです。これにより、問題が早期に発見され、開発チームは常に動作するコードベースを維持できます。Goプロジェクトでは、このシステムがGo言語本体とそのサブプロジェクトの品質を保証するために不可欠な役割を担っていました。

Goのビルドシステムは、大きく分けて以下の2つのコンポーネントで構成されていました。

  1. ダッシュボードアプリケーション: ビルド結果やテスト結果をWebインターフェースで表示し、開発者がプロジェクトの健全性を一目で確認できるようにする役割を担っていました。
  2. ビルダークライアント(gobuilder): 実際のビルドとテストを実行し、その結果をダッシュボードアプリケーションに送信する役割を担っていました。様々なOSやアーキテクチャ上で動作し、クロスプラットフォームでの互換性を検証していました。

Google App Engine (GAE)

Google App Engineは、Googleが提供するPlatform as a Service (PaaS) です。開発者はインフラストラクチャの管理を気にすることなく、アプリケーションをデプロイ・実行できます。このコミットで削除されたmisc/dashboard/appディレクトリ内のapp.yamlファイルは、GoダッシュボードアプリケーションがGoogle App Engine上で動作するように構成されていたことを示しています。App Engineは、スケーラビリティ、信頼性、運用コストの低減といったメリットを提供します。

go.toolsリポジトリ

go.toolsリポジトリは、Go言語の公式ツール群を格納するためにGoプロジェクトによって管理されている独立したGitリポジトリです。これには、Go言語のコンパイラやランタイムに直接関連しないが、Go開発者にとって有用な様々なツールが含まれています。例えば、静的解析ツール、コードフォーマッタ、デバッガ、プロファイラなどが含まれます。

go.toolsリポジトリの目的は、Go言語本体のコア開発からツールの開発を分離し、それぞれのプロジェクトが独立したリリースサイクルと開発プロセスを持つことを可能にすることです。これにより、Go言語の安定性を保ちつつ、ツールの進化を加速させることができます。

miscディレクトリ

Go言語のメインリポジトリにおけるmiscディレクトリは、「その他」や「雑多なもの」を意味する"miscellaneous"の略です。このディレクトリは、Go言語のコア部分(コンパイラ、ランタイム、標準ライブラリなど)には直接含まれないが、プロジェクトに関連する様々なスクリプト、設定ファイル、一時的なツール、実験的なコードなどを格納するために使用されていました。

しかし、時間の経過とともに、miscディレクトリは肥大化し、その内容が整理されていないという問題が生じることがありました。今回のダッシュボードとビルダーの移動は、このmiscディレクトリの役割を見直し、より適切な場所へコンポーネントを配置するという、より広範なリポジトリ整理の一環でもありました。

技術的詳細

このコミットは、Goの継続的ビルドシステムの中核をなすダッシュボードアプリケーションとビルダークライアントのコードベースを、メインリポジトリから完全に削除するものです。これは単なるファイル移動ではなく、GoプロジェクトのCIインフラストラクチャのアーキテクチャにおける重要な再編成を意味します。

旧ダッシュボード/ビルダーのアーキテクチャ

削除されたコードから、旧ダッシュボード/ビルダーシステムは以下のような構成であったことが推測されます。

  • ダッシュボードアプリケーション (misc/dashboard/app):
    • Google App Engine (GAE) 上で動作するWebアプリケーションでした。app.yamlファイルがその設定を定義しています。
    • Go言語で書かれており、appengineパッケージを利用してGAEのデータストア(appengine/datastore)やメールサービス(appengine/mail)などの機能を利用していました。
    • build/build.gobuild/handler.gobuild/ui.goなどが主要なコンポーネントで、それぞれビルド結果の管理、HTTPリクエストの処理、ユーザーインターフェースのレンダリングを担当していました。
    • ビルド結果、コミット情報、パッケージ情報などをデータストアに保存し、Web UIを通じて表示していました。
    • ビルド失敗時にはメール通知を行う機能も持っていました(build/notify.go)。
    • 認証メカニズムも実装されていました(build/key.goAuthHandler)。
  • ビルダークライアント (misc/dashboard/builder):
    • gobuilderという名前のGoプログラムで、Goのソースコードをビルドし、テストを実行する役割を担っていました。
    • main.goがエントリポイントであり、exec.goがコマンド実行、vcs.goがバージョン管理システム(VCS)との連携、http.goがダッシュボードアプリケーションとの通信を担当していました。
    • ビルド結果をJSON形式でダッシュボードアプリケーションに送信していました。

移行の技術的含意

この移行は、以下の技術的な含意を持ちます。

  1. 疎結合化: Go言語本体のコードと、そのビルド・テストを行うインフラストラクチャが完全に分離されました。これにより、それぞれのコンポーネントが独立して進化できるようになり、Go言語のリリースサイクルに縛られることなく、ビルドシステムの改善や新機能の追加が可能になります。
  2. 専門化と集中: go.toolsリポジトリは、Go開発者向けのツールに特化することで、その開発とメンテナンスに集中できるようになります。これにより、より高品質で専門的なツールが提供されることが期待されます。
  3. デプロイメントの柔軟性: ダッシュボードとビルダーが独立したリポジトリに移行することで、デプロイメント戦略の柔軟性が増します。例えば、GAE以外のプラットフォームへの移行や、よりモダンなCI/CDパイプラインの導入が容易になります。
  4. コードベースの軽量化: メインリポジトリから約3000行以上のコードが削除され、リポジトリのサイズが削減されました。これにより、クローンやフェッチの時間が短縮され、開発者の作業効率が向上します。
  5. APIベースの連携: ダッシュボードとビルダークライアント間の通信は、HTTPベースのAPIを通じて行われていました。このAPIは、移行後もgo.tools内の新しい実装で維持されるか、あるいは新しいプロトコルに置き換えられることになります。これにより、異なるシステム間での連携が容易になります。

削除された主要ファイルの役割

  • misc/dashboard/app/app.yaml: Google App Engineアプリケーションのデプロイ設定ファイル。ハンドラ、ランタイム、バージョンなどが定義されていました。
  • misc/dashboard/app/build/*.go: ダッシュボードアプリケーションのバックエンドロジック。
    • build.go: Package, Commit, Result, Log, Tagといったデータ構造の定義と、データストアとのやり取りを行うメソッドが含まれていました。Goのビルド結果を管理する中核部分です。
    • handler.go: HTTPリクエストを処理するハンドラ群。コミットの登録、ビルド結果の記録、ビルドタスクの取得など、ビルドシステムの中核的なAPIエンドポイントを提供していました。
    • notify.go: ビルド失敗時のメール通知ロジック。
    • ui.go: Web UIのレンダリングロジックと、データ取得のためのクエリ。
  • misc/dashboard/app/build/ui.html: ダッシュボードのWebインターフェースのHTMLテンプレート。
  • misc/dashboard/builder/main.go: ビルダークライアント(gobuilder)のメインエントリポイント。
  • misc/dashboard/builder/exec.go: 外部コマンドの実行を管理するロジック。
  • misc/dashboard/builder/vcs.go: バージョン管理システム(Mercurialなど)との連携ロジック。

これらのファイルが削除されたことで、GoのメインリポジトリはよりGo言語本体の開発に特化し、CIインフラストラクチャはgo.toolsという専門のリポジトリで管理されることになりました。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットは、既存のコードの削除のみで構成されており、新たなコードの追加や既存コードの変更は含まれていません。具体的には、以下の2つのトップレベルディレクトリとその全てのサブディレクトリ、およびファイルが削除されました。

  1. misc/dashboard/app/
  2. misc/dashboard/builder/

コミットログに示されているように、合計20ファイルが変更され、3106行が削除されています。これは、これらのディレクトリが完全にリポジトリから消去されたことを意味します。

コアとなるコードの解説

削除されたコードは、Goプロジェクトの継続的ビルドシステムを構成する主要なコンポーネントでした。

misc/dashboard/app ディレクトリ内のコード

このディレクトリには、Goのビルドステータスを表示するWebダッシュボードアプリケーションのソースコードが含まれていました。

  • app.yaml: Google App Engine (GAE) の設定ファイルであり、アプリケーションのデプロイ方法、ルーティング、ランタイム(Go 1)などを定義していました。このファイルの削除は、ダッシュボードがGAE上で動作していたことを明確に示しています。
  • build/ サブディレクトリ:
    • build.go: ビルド結果、コミット、パッケージなどのデータモデルを定義し、GAEのデータストアとのやり取りを抽象化していました。PackageCommitResultLogTagといった構造体が定義され、それぞれのエンティティのキー生成やバリデーションロジックが含まれていました。
    • handler.go: HTTPリクエストを処理するハンドラ関数群。commitHandlertagHandlerresultHandlertodoHandlerなどが存在し、それぞれコミット情報の登録、タグの更新、ビルド結果の記録、ビルドタスクの割り当てといったAPIエンドポイントを提供していました。認証(AuthHandler)もここで処理されていました。
    • ui.go: ダッシュボードのWebインターフェースをレンダリングするためのロジック。コミット履歴の取得、ビルダー情報の集約、ページネーションなどが実装されていました。
    • notify.go: ビルド失敗時にメール通知を送信する機能。GAEのメールサービス(appengine/mail)と遅延タスク(appengine/delay)を利用していました。
    • test.go: ダッシュボードアプリケーションのテストコード。GAEの開発サーバー環境でのテスト実行を想定していました。
  • cache/cache.go: アプリケーションレベルのキャッシュメカニズムを提供していました。
  • static/ サブディレクトリ: Web UIで使用される静的ファイル(画像など)。

これらのコードは、Goのビルド結果を収集、保存、表示し、ビルドの健全性を監視するためのWebサービスを提供していました。

misc/dashboard/builder ディレクトリ内のコード

このディレクトリには、Goの継続的ビルドを実行するクライアントプログラム(gobuilder)のソースコードが含まれていました。

  • main.go: gobuilderプログラムのエントリポイント。ビルドとテストの実行、ダッシュボードアプリケーションへの結果送信といった主要な処理フローを制御していました。
  • exec.go: 外部コマンド(Goのビルドコマンドやテストコマンドなど)を実行し、その出力をキャプチャする機能を提供していました。
  • http.go: ダッシュボードアプリケーションのAPIエンドポイントとのHTTP通信を処理していました。
  • vcs.go: バージョン管理システム(Mercurialなど)からGoのソースコードを取得・更新するロジック。
  • Makefile: gobuilderのビルドプロセスを定義していました。

これらのコードは、Goのソースコードを実際にビルドし、テストを実行し、その結果をダッシュボードに報告する自動化されたエージェントとして機能していました。

このコミットによるこれらのコードの削除は、GoプロジェクトがCIインフラストラクチャをメインリポジトリから分離し、より専門化されたgo.toolsリポジトリで管理するという戦略的な決定を実行したことを示しています。これにより、Go言語本体の開発とCIツールの開発が独立して進められるようになり、それぞれの領域での効率と品質の向上が図られました。

関連リンク

  • 関連するGo CL (Code Review):
    • https://golang.org/cl/12180043/
    • https://golang.org/cl/12213043

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメントやリポジトリ構造に関する一般的な知識
  • Google App Engineの基本的な概念
  • 継続的インテグレーションの原則
  • コミットメッセージ内のリンク

[インデックス 16967] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のメインリポジトリからmisc/dashboard/appおよびmisc/dashboard/builderディレクトリを削除するものです。これらはGoの継続的インテグレーション(CI)システムの一部であり、ダッシュボードアプリケーションとビルダークライアントが含まれていました。この変更は、これらのコンポーネントをgo.toolsリポジトリへ移行する作業の一環として行われました。具体的には、以下のファイル群が削除されました。

  • misc/dashboard/README
  • misc/dashboard/app/app.yaml
  • misc/dashboard/app/build/build.go
  • misc/dashboard/app/build/handler.go
  • misc/dashboard/app/build/init.go
  • misc/dashboard/app/build/key.go
  • misc/dashboard/app/build/notify.go
  • misc/dashboard/app/build/notify.txt
  • misc/dashboard/app/build/test.go
  • misc/dashboard/app/build/ui.go
  • misc/dashboard/app/build/ui.html
  • misc/dashboard/app/cache/cache.go
  • misc/dashboard/app/static/status_alert.gif
  • misc/dashboard/app/static/status_good.gif
  • misc/dashboard/builder/Makefile
  • misc/dashboard/builder/doc.go
  • misc/dashboard/builder/exec.go
  • misc/dashboard/builder/http.go
  • misc/dashboard/builder/main.go
  • misc/dashboard/builder/vcs.go

コミット

commit acd1b6317d5495024a21233384037a965934046b
Author: Chris Manghane <cmang@golang.org>
Date:   Thu Aug 1 13:27:27 2013 +1000

    misc/dashboard/app, misc/dashboard/builder: delete from main repo; part of move to go.tools
    See also https://golang.org/cl/12180043/
    
    R=adg
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/12213043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/acd1b6317d5495024a21233384037a965934046b

元コミット内容

misc/dashboard/app, misc/dashboard/builder: delete from main repo; part of move to go.tools
See also https://golang.org/cl/12180043/

R=adg
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/12213043

変更の背景

このコミットの主な背景は、Goプロジェクトの継続的インテグレーション(CI)およびビルドシステムを、メインのGo言語リポジトリから独立したgo.toolsリポジトリへと移行することにありました。

Goプロジェクトは、その初期から活発な開発が行われており、コードベースの健全性を維持するために堅牢なCIシステムが不可欠でした。このCIシステムは、Goのソースコードの変更がビルドやテストに悪影響を与えないことを継続的に検証する役割を担っていました。

しかし、CIシステム自体がGoのメインリポジトリ(goリポジトリ)のmisc/dashboardディレクトリ内に存在していたため、以下のような課題がありました。

  1. 依存関係の混在: ビルドシステムとGo言語のソースコードが同じリポジトリ内に存在することで、論理的な分離が曖昧になり、依存関係が複雑になる可能性がありました。
  2. 開発の独立性: CIシステムの開発やデプロイが、Go言語本体の開発サイクルに密接に結びついてしまい、独立した改善や迅速なデプロイが困難になることがありました。
  3. リポジトリの肥大化: miscディレクトリは、Go言語本体とは直接関係のない様々なツールやスクリプトを一時的に格納する場所として使われることが多く、リポジトリ全体のサイズや管理の複雑さに影響を与える可能性がありました。

これらの課題を解決し、GoプロジェクトのCIインフラストラクチャをよりモジュール化し、独立して管理・開発できるようにするために、go.toolsリポジトリへの移行が決定されました。これにより、Go言語本体とCIツール群の役割分担が明確になり、それぞれの開発がより効率的に進められるようになりました。

前提知識の解説

Goの継続的ビルドシステム

継続的ビルドシステム(Continuous Build System)は、ソフトウェア開発において、コードの変更がリポジトリにコミットされるたびに自動的にビルドとテストを実行するシステムです。これにより、問題が早期に発見され、開発チームは常に動作するコードベースを維持できます。Goプロジェクトでは、このシステムがGo言語本体とそのサブプロジェクトの品質を保証するために不可欠な役割を担っていました。

Goのビルドシステムは、大きく分けて以下の2つのコンポーネントで構成されていました。

  1. ダッシュボードアプリケーション: ビルド結果やテスト結果をWebインターフェースで表示し、開発者がプロジェクトの健全性を一目で確認できるようにする役割を担っていました。
  2. ビルダークライアント(gobuilder): 実際のビルドとテストを実行し、その結果をダッシュボードアプリケーションに送信する役割を担っていました。様々なOSやアーキテクチャ上で動作し、クロスプラットフォームでの互換性を検証していました。

Google App Engine (GAE)

Google App Engineは、Googleが提供するPlatform as a Service (PaaS) です。開発者はインフラストラクチャの管理を気にすることなく、アプリケーションをデプロイ・実行できます。このコミットで削除されたmisc/dashboard/appディレクトリ内のapp.yamlファイルは、GoダッシュボードアプリケーションがGoogle App Engine上で動作するように構成されていたことを示しています。App Engineは、スケーラビリティ、信頼性、運用コストの低減といったメリットを提供します。

go.toolsリポジトリ

go.toolsリポジトリは、Go言語の公式ツール群を格納するためにGoプロジェクトによって管理されている独立したGitリポジトリです。これには、Go言語のコンパイラやランタイムに直接関連しないが、Go開発者にとって有用な様々なツールが含まれています。例えば、静的解析ツール、コードフォーマッタ、デバッガ、プロファイラなどが含まれます。

go.toolsリポジトリの目的は、Go言語本体のコア開発からツールの開発を分離し、それぞれのプロジェクトが独立したリリースサイクルと開発プロセスを持つことを可能にすることです。これにより、Go言語の安定性を保ちつつ、ツールの進化を加速させることができます。

miscディレクトリ

Go言語のメインリポジトリにおけるmiscディレクトリは、「その他」や「雑多なもの」を意味する"miscellaneous"の略です。このディレクトリは、Go言語のコア部分(コンパイラ、ランタイム、標準ライブラリなど)には直接含まれないが、プロジェクトに関連する様々なスクリプト、設定ファイル、一時的なツール、実験的なコードなどを格納するために使用されていました。

しかし、時間の経過とともに、miscディレクトリは肥大化し、その内容が整理されていないという問題が生じることがありました。今回のダッシュボードとビルダーの移動は、このmiscディレクトリの役割を見直し、より適切な場所へコンポーネントを配置するという、より広範なリポジトリ整理の一環でもありました。

技術的詳細

このコミットは、Goの継続的ビルドシステムの中核をなすダッシュボードアプリケーションとビルダークライアントのコードベースを、メインリポジトリから完全に削除するものです。これは単なるファイル移動ではなく、GoプロジェクトのCIインフラストラクチャのアーキテクチャにおける重要な再編成を意味します。

旧ダッシュボード/ビルダーのアーキテクチャ

削除されたコードから、旧ダッシュボード/ビルダーシステムは以下のような構成であったことが推測されます。

  • ダッシュボードアプリケーション (misc/dashboard/app):
    • Google App Engine (GAE) 上で動作するWebアプリケーションでした。app.yamlファイルがその設定を定義しています。
    • Go言語で書かれており、appengineパッケージを利用してGAEのデータストア(appengine/datastore)やメールサービス(appengine/mail)などの機能を利用していました。
    • build/build.gobuild/handler.gobuild/ui.goなどが主要なコンポーネントで、それぞれビルド結果の管理、HTTPリクエストの処理、ユーザーインターフェースのレンダリングを担当していました。
    • ビルド結果、コミット情報、パッケージ情報などをデータストアに保存し、Web UIを通じて表示していました。
    • ビルド失敗時にはメール通知を行う機能も持っていました(build/notify.go)。
    • 認証メカニズムも実装されていました(build/key.goAuthHandler)。
  • ビルダークライアント (misc/dashboard/builder):
    • gobuilderという名前のGoプログラムで、Goのソースコードをビルドし、テストを実行する役割を担っていました。
    • main.goがエントリポイントであり、exec.goがコマンド実行、vcs.goがバージョン管理システム(VCS)との連携、http.goがダッシュボードアプリケーションとの通信を担当していました。
    • ビルド結果をJSON形式でダッシュボードアプリケーションに送信していました。

移行の技術的含意

この移行は、以下の技術的な含意を持ちます。

  1. 疎結合化: Go言語本体のコードと、そのビルド・テストを行うインフラストラクチャが完全に分離されました。これにより、それぞれのコンポーネントが独立して進化できるようになり、Go言語のリリースサイクルに縛られることなく、ビルドシステムの改善や新機能の追加が可能になります。
  2. 専門化と集中: go.toolsリポジトリは、Go開発者向けのツールに特化することで、その開発とメンテナンスに集中できるようになります。これにより、より高品質で専門的なツールが提供されることが期待されます。
  3. デプロイメントの柔軟性: ダッシュボードとビルダーが独立したリポジトリに移行することで、デプロイメント戦略の柔軟性が増します。例えば、GAE以外のプラットフォームへの移行や、よりモダンなCI/CDパイプラインの導入が容易になります。
  4. コードベースの軽量化: メインリポジトリから約3000行以上のコードが削除され、リポジリのサイズが削減されました。これにより、クローンやフェッチの時間が短縮され、開発者の作業効率が向上します。
  5. APIベースの連携: ダッシュボードとビルダークライアント間の通信は、HTTPベースのAPIを通じて行われていました。このAPIは、移行後もgo.tools内の新しい実装で維持されるか、あるいは新しいプロトコルに置き換えられることになります。これにより、異なるシステム間での連携が容易になります。

削除された主要ファイルの役割

  • misc/dashboard/app/app.yaml: Google App Engineアプリケーションのデプロイ設定ファイル。ハンドラ、ランタイム、バージョンなどが定義されていました。
  • misc/dashboard/app/build/*.go: ダッシュボードアプリケーションのバックエンドロジック。
    • build.go: Package, Commit, Result, Log, Tagといったデータ構造の定義と、データストアとのやり取りを行うメソッドが含まれていました。Goのビルド結果を管理する中核部分です。
    • handler.go: HTTPリクエストを処理するハンドラ群。コミットの登録、ビルド結果の記録、ビルドタスクの割り当てなど、ビルドシステムの中核的なAPIエンドポイントを提供していました。
    • notify.go: ビルド失敗時のメール通知ロジック。
    • ui.go: Web UIのレンダリングロジックと、データ取得のためのクエリ。
  • misc/dashboard/app/build/ui.html: ダッシュボードのWebインターフェースのHTMLテンプレート。
  • misc/dashboard/builder/main.go: ビルダークライアント(gobuilder)のメインエントリポイント。
  • misc/dashboard/builder/exec.go: 外部コマンドの実行を管理するロジック。
  • misc/dashboard/builder/vcs.go: バージョン管理システム(Mercurialなど)との連携ロジック。

これらのファイルが削除されたことで、GoのメインリポジトリはよりGo言語本体の開発に特化し、CIインフラストラクチャはgo.toolsという専門のリポジトリで管理されることになりました。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットは、既存のコードの削除のみで構成されており、新たなコードの追加や既存コードの変更は含まれていません。具体的には、以下の2つのトップレベルディレクトリとその全てのサブディレクトリ、およびファイルが削除されました。

  1. misc/dashboard/app/
  2. misc/dashboard/builder/

コミットログに示されているように、合計20ファイルが変更され、3106行が削除されています。これは、これらのディレクトリが完全にリポジトリから消去されたことを意味します。

コアとなるコードの解説

削除されたコードは、Goプロジェクトの継続的ビルドシステムを構成する主要なコンポーネントでした。

misc/dashboard/app ディレクトリ内のコード

このディレクトリには、Goのビルドステータスを表示するWebダッシュボードアプリケーションのソースコードが含まれていました。

  • app.yaml: Google App Engine (GAE) の設定ファイルであり、アプリケーションのデプロイ方法、ルーティング、ランタイム(Go 1)などを定義していました。このファイルの削除は、ダッシュボードがGAE上で動作していたことを明確に示しています。
  • build/ サブディレクトリ:
    • build.go: ビルド結果、コミット、パッケージなどのデータモデルを定義し、GAEのデータストアとのやり取りを抽象化していました。PackageCommitResultLogTagといった構造体が定義され、それぞれのエンティティのキー生成やバリデーションロジックが含まれていました。
    • handler.go: HTTPリクエストを処理するハンドラ関数群。commitHandlertagHandlerresultHandlertodoHandlerなどが存在し、それぞれコミット情報の登録、タグの更新、ビルド結果の記録、ビルドタスクの割り当てといったAPIエンドポイントを提供していました。認証(AuthHandler)もここで処理されていました。
    • ui.go: ダッシュボードのWebインターフェースをレンダリングするためのロジック。コミット履歴の取得、ビルダー情報の集約、ページネーションなどが実装されていました。
    • notify.go: ビルド失敗時にメール通知を送信する機能。GAEのメールサービス(appengine/mail)と遅延タスク(appengine/delay)を利用していました。
    • test.go: ダッシュボードアプリケーションのテストコード。GAEの開発サーバー環境でのテスト実行を想定していました。
  • cache/cache.go: アプリケーションレベルのキャッシュメカニズムを提供していました。
  • static/ サブディレクトリ: Web UIで使用される静的ファイル(画像など)。

これらのコードは、Goのビルド結果を収集、保存、表示し、ビルドの健全性を監視するためのWebサービスを提供していました。

misc/dashboard/builder ディレクトリ内のコード

このディレクトリには、Goの継続的ビルドを実行するクライアントプログラム(gobuilder)のソースコードが含まれていました。

  • main.go: gobuilderプログラムのエントリポイント。ビルドとテストの実行、ダッシュボードアプリケーションへの結果送信といった主要な処理フローを制御していました。
  • exec.go: 外部コマンド(Goのビルドコマンドやテストコマンドなど)を実行し、その出力をキャプチャする機能を提供していました。
  • http.go: ダッシュボードアプリケーションのAPIエンドポイントとのHTTP通信を処理していました。
  • vcs.go: バージョン管理システム(Mercurialなど)からGoのソースコードを取得・更新するロジック。
  • Makefile: gobuilderのビルドプロセスを定義していました。

これらのコードは、Goのソースコードを実際にビルドし、テストを実行し、その結果をダッシュボードに報告する自動化されたエージェントとして機能していました。

このコミットによるこれらのコードの削除は、GoプロジェクトがCIインフラストラクチャをメインリポジトリから分離し、より専門化されたgo.toolsリポジトリで管理するという戦略的な決定を実行したことを示しています。これにより、Go言語本体の開発とCIツールの開発が独立して進められるようになり、それぞれの領域での効率と品質の向上が図られました。

関連リンク

  • 関連するGo CL (Code Review):
    • https://golang.org/cl/12180043/
    • https://golang.org/cl/12213043

参考にした情報源リンク