[インデックス 16983] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリである strconv
パッケージ内の atoi.go
ファイルに対する変更です。strconv
パッケージは、文字列と基本的なデータ型(整数、浮動小数点数、真偽値など)との間の変換機能を提供します。atoi.go
は、特に文字列から整数への変換(ASCII to Integer)に関連する機能を含んでいます。
コミット
このコミットは、strconv
パッケージ内の IntSize
定数に関するドキュメントコメントの修正を目的としています。以前のコメントは、IntSize
が int
および uint
のビット数を示すことを説明していましたが、より簡潔で正確な表現に更新されました。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/c24e60eebb822c39523a894e7a46a70eccc270d4
元コミット内容
commit c24e60eebb822c39523a894e7a46a70eccc270d4
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Thu Aug 1 11:34:25 2013 -0400
strconv: fix doc comment for IntSize
R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/12258043
--
src/pkg/strconv/atoi.go | 3 ++-
1 file changed, 2 insertions(+), 1 deletion(-)
diff --git a/src/pkg/strconv/atoi.go b/src/pkg/strconv/atoi.go
index b06979b0c0..2d0db7155f 100644
--- a/src/pkg/strconv/atoi.go
+++ b/src/pkg/strconv/atoi.go
@@ -33,7 +33,8 @@ func rangeError(fn, str string) *NumError {\n
const intSize = 32 << uint(^uint(0)>>63)\n
-const IntSize = intSize // number of bits in int, uint (32 or 64)\n
+// IntSize is the size in bits of an int or uint value.\n
+const IntSize = intSize\n
// Return the first number n such that n*base >= 1<<64.\n
func cutoff64(base int) uint64 {\n
変更の背景
Go言語の標準ライブラリは、その安定性と信頼性が非常に重視されています。そのため、コードだけでなく、ドキュメンテーションも正確かつ明確であることが求められます。IntSize
のような定数は、Goプログラムが実行されるアーキテクチャ(32ビットまたは64ビット)に応じて int
および uint
型のサイズが動的に決定されるというGoの特性を反映しています。
この定数のドキュメントコメントは、その目的を正確に伝える必要があります。以前のコメント「number of bits in int, uint (32 or 64)
」は、情報としては正しいものの、やや冗長であり、Goのドキュメンテーションスタイルとしてはより簡潔な表現が好まれます。このコミットは、このコメントをより簡潔で直接的な表現に修正し、コードの可読性と保守性を向上させることを目的としています。
前提知識の解説
strconv
パッケージ
strconv
パッケージは、Go言語の標準ライブラリの一部であり、文字列と数値型(整数、浮動小数点数)、真偽値との間の変換機能を提供します。例えば、strconv.Atoi
は文字列を int
に変換し、strconv.Itoa
は int
を文字列に変換します。
int
および uint
型のサイズ
Go言語の int
および uint
型は、プラットフォームに依存するサイズを持ちます。これは、Goがクロスプラットフォームで動作することを考慮した設計です。
- 32ビットシステムでは、
int
とuint
は32ビット(4バイト)です。 - 64ビットシステムでは、
int
とuint
は64ビット(8バイト)です。
この特性により、Goプログラムは異なるアーキテクチャでコンパイルされた場合でも、int
や uint
のサイズを意識することなく、効率的に動作することができます。
Goにおけるビット演算子
Go言語には、以下のビット演算子があります。
<<
(左シフト): ビットを左にシフトします。x << n
はx
をn
ビット左にシフトします。これはx * 2^n
と同等です。>>
(右シフト): ビットを右にシフトします。x >> n
はx
をn
ビット右にシフトします。これはx / 2^n
と同等です。^
(XOR): ビットごとの排他的論理和(XOR)を計算します。
uint(^uint(0)>>63)
の意味
この式は、Goの int
および uint
型のビットサイズを決定するための巧妙なイディオムです。
uint(0)
:uint
型のゼロ値です。^uint(0)
:uint
型のゼロ値のビットごとのNOT(補数)を取ります。これにより、すべてのビットが1になります。つまり、uint
型の最大値が得られます。- 32ビットシステムでは
0xFFFFFFFF
- 64ビットシステムでは
0xFFFFFFFFFFFFFFFF
- 32ビットシステムでは
>>63
: 上記の結果を63ビット右にシフトします。- 32ビットシステムの場合:
0xFFFFFFFF
(32ビット) を63ビット右にシフトすると、すべてのビットが失われ、結果は0
になります。 - 64ビットシステムの場合:
0xFFFFFFFFFFFFFFFF
(64ビット) を63ビット右にシフトすると、最上位ビット(MSB)のみが残り、結果は1
になります。
- 32ビットシステムの場合:
uint(...)
: シフト結果をuint
型にキャストします。
したがって、この式全体は以下の値を返します。
- 32ビットシステムでは
0
- 64ビットシステムでは
1
この結果は、次の intSize
の計算で利用されます。
技術的詳細
intSize
定数は、Goの int
および uint
型のビットサイズを決定するために使用されます。その定義は以下の通りです。
const intSize = 32 << uint(^uint(0)>>63)
この式の動作は以下のようになります。
-
32ビットシステムの場合:
uint(^uint(0)>>63)
は0
を返します。intSize
は32 << 0
となり、これは32 * 2^0 = 32 * 1 = 32
と計算されます。- したがって、32ビットシステムでは
IntSize
は32
となります。
-
64ビットシステムの場合:
uint(^uint(0)>>63)
は1
を返します。intSize
は32 << 1
となり、これは32 * 2^1 = 32 * 2 = 64
と計算されます。- したがって、64ビットシステムでは
IntSize
は64
となります。
このように、intSize
定数はコンパイル時に実行環境のアーキテクチャに応じて 32
または 64
のいずれかの値に解決されます。
このコミットでは、この intSize
を利用して定義されている IntSize
定数のドキュメントコメントが変更されました。
変更前:
const IntSize = intSize // number of bits in int, uint (32 or 64)
変更後:
// IntSize is the size in bits of an int or uint value.
const IntSize = intSize
新しいコメントは、IntSize
の目的をより簡潔かつ直接的に説明しています。「number of bits in int, uint (32 or 64)
」という具体的な値の例示を削除し、より一般的な説明にすることで、コメントの意図が明確になっています。Goのドキュメンテーションでは、冗長な説明を避け、APIの目的を簡潔に述べるスタイルが好まれます。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/strconv/atoi.go
+++ b/src/pkg/strconv/atoi.go
@@ -33,7 +33,8 @@ func rangeError(fn, str string) *NumError {\n
const intSize = 32 << uint(^uint(0)>>63)\n
-const IntSize = intSize // number of bits in int, uint (32 or 64)\n
+// IntSize is the size in bits of an int or uint value.\n
+const IntSize = intSize\n
// Return the first number n such that n*base >= 1<<64.\n
func cutoff64(base int) uint64 {\n
コアとなるコードの解説
変更されたのは、src/pkg/strconv/atoi.go
ファイル内の IntSize
定数に付随するドキュメントコメントです。
-
変更前:
const IntSize = intSize // number of bits in int, uint (32 or 64)
- このコメントは、
IntSize
がint
およびuint
のビット数であり、それが32または64であることを示していました。情報としては正しいですが、コメントのスタイルとしてはやや説明的すぎると判断された可能性があります。
- このコメントは、
-
変更後:
// IntSize is the size in bits of an int or uint value. const IntSize = intSize
- 新しいコメントは、
IntSize
の目的を「int
またはuint
型の値のビット単位のサイズ」と簡潔に定義しています。具体的な値の例示を削除することで、より普遍的で直接的な説明になっています。Goのドキュメンテーションの慣習に沿った、より洗練された表現と言えます。
- 新しいコメントは、
この変更は機能的なものではなく、純粋にドキュメンテーションの品質向上を目的としたものです。しかし、標準ライブラリのドキュメンテーションの正確性と明瞭性は、開発者がライブラリを正しく理解し、利用するために非常に重要です。
関連リンク
- Go言語
strconv
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/strconv - Go言語の数値型に関するドキュメント: https://go.dev/ref/spec#Numeric_types
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント
- Go言語のソースコード
- ビット演算に関する一般的な知識
- Go言語のコミット履歴