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[インデックス 17012] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のビルドシステムの一部である cmd/dist において、Windows環境でのビルド問題を修正するものです。具体的には、cmd/cgo/zdefaultcc.go ファイルを生成する際に、パスの区切り文字(スラッシュ / とバックスラッシュ \)の扱いをプラットフォームに応じて適切に切り替えることで、Windows上でのビルドが正しく行われるようにします。

コミット

commit a039bf20be6f5a90f0a29dd7530ea589fd7438b8
Author: Alex Brainman <alex.brainman@gmail.com>
Date:   Sat Aug 3 18:32:14 2013 +1000

    cmd/dist: generate cmd/cgo/zdefaultcc.go on windows (fixes windows build)
    
    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/12404043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/a039bf20be6f5a90f0a29dd7530ea589fd7438b8

元コミット内容

cmd/dist: generate cmd/cgo/zdefaultcc.go on windows (fixes windows build)

このコミットは、cmd/dist ツールがWindows環境で cmd/cgo/zdefaultcc.go ファイルを生成する際の不具合を修正し、Windows上でのGoのビルドを可能にするものです。

変更の背景

Go言語のビルドシステムは、様々なプラットフォームに対応するために複雑なロジックを持っています。cmd/dist はGoのソースコードからGoツールチェイン自体をビルドするためのツールであり、その過程で多くの補助ファイルを生成します。

cmd/cgo/zdefaultcc.go は、Cgo(GoとC言語の相互運用機能)がデフォルトで使用するCコンパイラに関する情報を含むGoソースファイルです。このファイルはビルド時に動的に生成されます。

問題は、Windows環境でこのファイルを生成する際に、パスの区切り文字の扱いがUnix系のパス(スラッシュ /)に固定されていたことにありました。Windowsではパスの区切り文字としてバックスラッシュ \ を使用するのが一般的です。この不一致が原因で、cmd/distzdefaultcc.go ファイル内のパスを正しく置換できず、結果としてWindows上でのGoのビルドが失敗していました。

このコミットは、cmd/dist が実行されている環境のパス区切り文字を考慮し、Windows環境ではバックスラッシュを使用したパス置換を行うように修正することで、このビルド問題を解決することを目的としています。

前提知識の解説

  • cmd/dist: Go言語のソースコードからGoツールチェイン全体をビルドするためのブートストラップツールです。Goのコンパイラ、リンカ、標準ライブラリなどを構築する際に使用されます。Goのビルドプロセスにおいて非常に重要な役割を担っています。
  • cmd/cgo: Go言語とC言語のコードを相互に呼び出すためのGoツールです。Cgoを使用すると、Goプログラム内で既存のCライブラリを利用したり、Cの関数を呼び出したりすることができます。
  • zdefaultcc.go: cmd/cgo が使用するデフォルトのCコンパイラに関する情報(例えば、コンパイラのパスやフラグなど)を定義するGoソースファイルです。このファイルはGoのビルドプロセス中に cmd/dist によって動的に生成されます。環境によって使用されるCコンパイラが異なるため、ハードコードするのではなく、ビルド時に生成する仕組みになっています。
  • パスの区切り文字: オペレーティングシステムによってファイルパスの区切り文字が異なります。
    • Unix系システム(Linux, macOSなど): スラッシュ (/)
    • Windows: バックスラッシュ (\) Goのビルドシステムはクロスプラットフォーム対応のため、これらの違いを適切に処理する必要があります。
  • bsubst 関数: このコミットで変更されている buildgo.c ファイル内で使用されている関数で、おそらく文字列内の部分文字列を置換するユーティリティ関数です。GoのビルドシステムはC言語で書かれた部分も多く、このような低レベルの文字列操作が頻繁に行われます。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、src/cmd/dist/buildgo.c ファイル内の mkzdefaultcc 関数におけるパス置換ロジックの改善にあります。

mkzdefaultcc 関数は、zdefaultcc.go ファイルの内容を生成する役割を担っています。この関数内で、bsubst という文字列置換関数が呼び出され、特定のパス文字列を別のパス文字列に置換しています。

元のコードでは、常にUnix系のパス区切り文字であるスラッシュ / を使用してパス置換を行っていました。

bsubst(&b, "/go/zdefaultcc.go", "/cgo/zdefaultcc.go");

これはUnix系システムでは問題ありませんが、Windows環境ではパスがバックスラッシュ \ を含む形式で扱われるため、この置換が正しく機能しませんでした。

修正後のコードでは、slash[0] という変数の値を確認することで、現在の環境がUnix系パスを使用しているか、Windows系パスを使用しているかを判断しています。slash はおそらく、Goのビルドシステムが内部的に保持している、現在のOSにおけるパス区切り文字を示す変数です。

  • もし slash[0] がスラッシュ / であれば、Unix系環境と判断し、従来通りスラッシュを使用したパス置換を行います。
  • もし slash[0] がスラッシュ / でなければ(つまりWindows環境でバックスラッシュ \ が使われている場合)、バックスラッシュ \ を使用したパス置換を行います。具体的には、"\\go\\zdefaultcc.go""\\cgo\\zdefaultcc.go" に置換します。ここで、C言語の文字列リテラルではバックスラッシュ自体を表現するために \\ とエスケープする必要がある点に注意が必要です。

この条件分岐により、mkzdefaultcc 関数は実行されているオペレーティングシステムに応じて適切なパス形式で zdefaultcc.go ファイルを生成できるようになり、Windows上でのビルド問題が解決されました。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/dist/buildgo.c
+++ b/src/cmd/dist/buildgo.c
@@ -36,7 +36,10 @@ mkzdefaultcc(char *dir, char *file)
 	// Convert file name to replace.
 	binit(&b);	
 	bwritestr(&b, file);
-	bsubst(&b, "/go/zdefaultcc.go", "/cgo/zdefaultcc.go");
+	if(slash[0] == '/')
+		bsubst(&b, "/go/zdefaultcc.go", "/cgo/zdefaultcc.go");
+	else
+		bsubst(&b, "\\\\go\\\\zdefaultcc.go", "\\\\cgo\\\\zdefaultcc.go");
 	writefile(&out, bstr(&b), 0);
 
 	bfree(&b);

コアとなるコードの解説

変更の中心は mkzdefaultcc 関数内の bsubst の呼び出し部分です。

  1. bsubst(&b, "/go/zdefaultcc.go", "/cgo/zdefaultcc.go"); (削除行): これは元のコードで、常にUnix系のパス区切り文字であるスラッシュ / を使用して、"/go/zdefaultcc.go" という文字列を "/cgo/zdefaultcc.go" に置換していました。この置換は、zdefaultcc.go ファイルの内容を生成する際に、ファイルパスの一部を調整するために行われます。Windows環境では、ファイルパスがバックスラッシュ \ を含む形式で扱われるため、この固定されたスラッシュパスの置換が機能せず、ビルドエラーの原因となっていました。

  2. if(slash[0] == '/'): この行は、現在の環境のパス区切り文字がスラッシュ / であるかどうかをチェックしています。slash はGoのビルドシステムが内部的に保持している、現在のOSにおけるパス区切り文字を示すグローバル変数またはマクロであると推測されます。これにより、実行環境がUnix系(Linux, macOSなど)であるか、Windows系であるかを判別します。

  3. bsubst(&b, "/go/zdefaultcc.go", "/cgo/zdefaultcc.go"); (追加行): if 文の条件が真(つまりUnix系環境)の場合に実行される行です。これは削除された行と全く同じで、Unix系環境では従来通りのスラッシュを使用したパス置換が引き続き行われます。

  4. else: if 文の条件が偽(つまりWindows系環境)の場合に実行されるブロックです。

  5. bsubst(&b, "\\\\go\\\\zdefaultcc.go", "\\\\cgo\\\\zdefaultcc.go");: else ブロック内で実行される行です。Windows環境では、パス区切り文字としてバックスラッシュ \ が使用されるため、置換対象と置換後の文字列もバックスラッシュを含む形式に変更されています。C言語の文字列リテラルでは、バックスラッシュ自体を表現するために \\ とエスケープする必要があるため、コード上では \\\\ と記述されています。これにより、Windows環境でも zdefaultcc.go ファイル内のパスが正しく置換され、ビルドが成功するようになります。

この変更により、cmd/dist は実行環境のパス区切り文字を動的に判断し、適切なパス形式で zdefaultcc.go を生成できるようになり、Windows上でのGoのビルドの安定性が向上しました。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語のコミット履歴
  • Go言語のビルドシステムに関する一般的な知識
  • C言語における文字列とエスケープシーケンスの知識